なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

123 / 996
幕間・ゆかりんはどこへ行く、の巻

「はぁ、休日を……ねぇ?」

「ゆかりちゃんはお疲れなのね?私がいいこいいこしてさしあげましょうか?」

「いやだこの人、隙あらば可愛がろうとしてくる……」

「バブみとか越えて郷愁すら呼び起こすエウロペ様だ、いいだろう?」*1

『……よくよく考えてみれば、せんぱいやっぱりちょっとおかしいですね?エウロペさんに対しての扱いが、もはや崇敬の域に至っているような……?』

「癒しは時として毒のようなものだよ、BB」

『……いや、似てないですよアムロさんのモノマネ』*2

「なん……だと……!?」

 

 

 あのなんとも言えない、黒歴史以外の何物でもない一連の事態から少しして。

 場所をヘスティア様の屋台に移した私達は、最近増やしたという飲食用のテーブルに集まって、あれこれと駄弁っていた。

 

 その中で、二神(ふたり)がゆかりんのあれこれを聞いて、彼女に世話を焼こうとじりじり近付く姿が見られたりしたけど……。

 まぁ、お二神とも構いたがりな気があるので、さもありなん。

 あとちょっと今日の私がダメなのは、できればスルーしてください……。

 

 それと、某カボチャが有名になりすぎた感のある、あの映画で出てきたアムロをイメージしながら喋ってみたら、全然似てないとダメ出しをされたわけなのだが。*3

 ……そんなバカな。数少ない私のモノマネレパートリーの中でも、普通に似ていると有名[要出典]*4なアムロのモノマネが、滑っただと……?

 

 

「じ、じゃあ太子のモノマネはっ!?」*5

『いや、似てませんよ流石に』

「……これでは道化だよ」*6

「端から聞いてて思ったのだけれど、そもそもそのモノマネって()()()()()レパートリーでしょ?……そりゃ、似るわけがないんじゃないの?声の質とか、そもそもの男声と女声の違いとかあるわけなんだし」

「…………っ!!?」

『え、なんですかその『今初めて気付いた』みたいな顔。……もしかして、本気で今気付いたんですかせんぱい?うわ、それは流石のBBちゃんも、憐れみを覚えるほかありません……』

「……憐れみを下さい」

「小鳥ってガラでもないでしょうに」

「なんだとっ、貴様私が鶏ガラだとでも言いたいのかっ、謝れ、マザリーニさんに謝れっ!!」

「いやそれはそれで()()()()でしょうに……」

「つまりガラが悪いと。日本語ってムズカシネー」*7

 

 

 オチが付いたような付いてないような。

 そんなくだらない話を続けていると、いつの間にか居なくなっていたヘスティア様が、人数分の皿をお盆に乗っけて戻ってきた。

 ……ふむ?なにかを頼んだような覚えはないのだけれど……?

 そんなこちらの疑問に気付いたのか、彼女は朗らかに笑みを浮かべながら、私達の前にその皿を並べていく。

 上に乗っているのは、普通に美味しそうなケーキの数々だった。

 

 

「エウロペがさ、新商品を開発したいって言うもんだから。こっちを助けると思って、試食をお願いしたいんだけどいいかな?」

「お安いご用でございますヘスティア様。このキーア、卑小非才の身なれど、与えられた任務には全力を以って当たりましょう!」

『ちょっとぉっ、せんぱいその台詞は宜しくないのではないかとっ!!』*8

 

 

 おっと、BBちゃんに怒られてしまったんだぜ☆……わりと本気で「ウザッ」と言われてしまったので自重する。むぅ、強みを潰され続けている感……。

 

 ……気を取り直して。

 目の前に並べられたケーキ達は、店で出す持ち帰り用のケーキの試作品……という体の、言ってしまえば間食用のものだろう。

 なんというか、さっきから気を使わせてばかりなのが申し訳ない感じだが、こちらから返せるものというのもすぐには思い浮かばない。

 なので、ここは相手の提案に乗って、しっかりと味の評価とかをさせてもらうことにしよう。……今日はなんか食べ物関係の話多いな?

 

 というか当初の目的である、ゆかりんの疲労回復はどうなっているのだろうか?午後には温泉に放り込むことが決定しているが、ここまでで余計な疲労を覚えさせたりはしていないだろうか?

 ……そこを今更心配するのか?……いやその、違くてだね?

 

 

「……貴方、時々百面相してるけど、その時なに考えてるの?」

「やだ、ゆかりんのえっち」

「……まったくわかんないってことが、今のでよーく分かったわ」

『えっ?』

「えっ」

 

 

 ……脳内で言い訳を積み重ねていたら、なんだか変なお見合いが発生してた件について。

 個人的には、『なにかんがえてるの』でなにを考えたのか、しっかり察したっぽいBBちゃんに、ネタのカバー範囲の広さを感心しつつ、『あれBBちゃんそもそも世代じゃなくね?』とちょっと恐ろしさを感じたりもする私です。*9

 いやまぁ、根本的にネタ発言しかしない人間なので、察しやすいところがあるってのも間違いではないと思うけどさ。……それとは別ベクトルから察して来たんじゃないか、という悪寒がね?

 マシュも時々変な察し方することがあるし、うちの後輩たち空恐ろしすぎではなかろうか?隠し事とかできる気がしないんですけど。

 

 

(……キーア、聞こえますかキーア。私です、キャタピーです。今、貴方の心に直接語りかけています。時間がないので手短に。察せていない物事も数多いので、別にそこまで彼女達を恐れる必要はありません。くれぐれも、彼女達の扱いを間違えないように。いいですね?)

「うっ、こいつ頭に直接……っ!?」

「なにをいきなり言い出してるんだキミは?中二病はよくないぞ、向き合わなきゃ現実と」

「やだ、非現実の塊みたいな神様から諭されてる……」

 

 

 脳内会議が駄々漏れているのか、はまたまCP君を装ったロクデナシだったりするのか。

 ……語り口的に後者の可能性が高いような気がしないでもない、脳内に唐突に響いた声に呻いていたら、なにか勘違いしたヘスティア様に(頭の)心配をされてしまった。

 ……いやその、純粋に心配しないで貰えないです?

 中二云々は、ここにいる人みんなに刺さりかねない話題なんですから。

 

 なお、そんな苦言めいた言葉は、微妙に伝わらなかったらしく。……不思議そうに首を捻るヘスティア様に、小さくため息をつきながら、私は目の前のチーズケーキにフォークを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

「料理の味にまで郷愁が漂うとは思わなかったわねぇ」

「さすが自称おばあちゃま、というか。……実際ヨーロッパのグランドマザーみたいなもんだもんねぇ」

 

 

 湯船で一息吐きながら、キーアちゃんと一日を振り返る私。

 

 あれから豊富な種類を取り揃えたケーキ達の、それぞれの寸評を好き勝手に語りながら、あれこれと会話を続けて。

 気付けばもう五時になっていたため、名残惜しみつつも解散した私達が向かったのは、郷の一画・炎熱系の異形型のなりきり達が集まっているせいで、ただの水まで熱湯と化す魔境・他称『熔地庵(ようじあん)』。

 ……ここにいる人達はふざけて幼稚園(ようちえん)なんて呼んでいたりするらしい。

 

 まぁ、なんというか頭に血が上りやすいというか、瞬間湯沸し器みたいなものというか。

 ……そういう、些細な事柄で噴火してしまう人が数多いから、戒めの意味もあるとかないとか聞いたけど……どうなのかしら?

 

 なお、ここはその『熔地庵』の中でも一般層も訪れることができる観光区、いわゆる温泉街である。

 ……番頭に湯婆婆(ゆばーば)様ならぬ銭婆(ぜにーば)様が立っていらっしゃったのだけれど、ここは『油屋』の暖簾分け、みたいなものなのかしら?*10

 まぁ、当の銭婆様からは「ごゆっくり」という言葉しか掛けられなかったので、詳しいことは分からないのだけれど。

 

 ───閑話休題。

 最近は能力で体を身綺麗にして終える……みたいな、ずぼらを通り越したケアしかしていなかったけれども。

 改めて、こうして湯船に浸かっていると。……随分と自分が無理をしていたのだな、と今更になって理解してしまう。

 いやもう、体から力が抜けて言うことを聞かないのよ、真面目に。……体の方からもっと休め、と言われているみたいで、なんというか我ながら反省頻り、というか。

 

 

「……うん。もう少しちゃんとお休みは取るようにするわ……」

「そりゃ良かった。精神が占める割合が多い妖怪とはいえ、体を軽視するのはよくないからねー」

 

 

 頭の上のタオルがずり落ちそうになるのを戻しながら、ふぅと息を吐く。……となりのキーアちゃんがケラケラ笑っているのに、ふっと笑みを返せば、彼女はうんうんと小さく頷いていた。

 ……なお、二人共子供サイズなので、周囲からは微笑ましげな視線が注がれていたりする。……私、ここの代表者みたいなもの、なのだけれどねぇ。

 まぁ、銭婆様とかがもっと真面目にやっていらっしゃれば、そちらが代表者になっていてもおかしくはないんじゃないか、とは自分でも思うので、あまり強くは言えないのだけれども。

 

 

「お、ゆかりんの弱気発言とな?こっちでは珍しいね」

「……酒飲みの時の愚痴と混同するのはやめなさいな。……私だって、一つや二つくらい不安を抱えてたりするわよ」

「そりゃそうでしょ、神でもないんだから不安なんて抱えてなんぼよ。……あ、いや。神様にも不安とか感じてるのも居るみたいだけどさ」

 

 

 からからと笑いながら、キーアちゃんは頬を掻いている。

 ……まぁ、なんというか。気安い相手として()()()()()()()()のだろう彼女には、ちょっと苦笑を浮かべなくもないというか。

 そこまでするのなら、変わってくれればいいのに、……ってのは、甘えすぎなのでしょうねぇ。

 

 

「……そこで意味深に微笑まれると困るんだけど?」

「お互い様でしょうに。──さて、上がったらコーヒー牛乳でも飲む?」

「私フルーツ牛乳がいい」

「……相変わらず好きねぇ、それ」

 

 

 まぁ、互いにあれこれ考えているのは事実。

 それが不利益に繋がらないのなら、放置するのも友情……みたいなものでしょうと嘯いて。

 そろそろ迫ってきている就寝の時に、ちょっと思いを馳せる私なのでした。

 

 

 

 

 

 

「八雲紫、完全復活~!」

「おお、そりゃよかった」

 

 

 数日後。

 すっかり元気になったゆかりんの快方祝い、とでも言わんばかりにゆかりんルームに突撃したところ。

 思わず「ハッピーバースデー!」とか言い出しそうなテンション*11のゆかりんを前にして、よかったよかったと頷くジェレミアさん達に混じり、私もほっと胸を撫で下ろしていた訳なのですが。

 

 

「そーいうわけで、早速キーアちゃんにお仕事の依頼よ!返事は『はい』か『イエス』でお願いするわ!」*12

「おい待てコラぁ!!」

 

 

 元気になりすぎた結果、私の仕事が増えたのだった。……なしてや!

 

 

*1
特定の対象(主に女性)に対して母性を感じたり、甘えたいと思うような時に相手に『母親のような柔らかいものを感じる』というような意味で使う言葉。なお、実際にこの言葉を使っている人間がその言葉に含める意味が、これ以外の意味を含んでいる可能性については否定しない。赤ちゃんの発する言葉の擬音『ばぶー』と、『あたたか()』のように形容詞の語尾に付けて『~のような感じ(がする)』という意味にする『~み』が合わさったもの

*2
『機動戦士ガンダム』の主人公、アムロ・レイこと。背中に目があるように動けて()()()()、みたいなことを言い出すヤバい奴(ニュータイプ)。彼相手に奇襲とかできる者がいれば金一封送っても惜しくない……とか言われるレベルの人でもある

*3
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より、ハサウェイの脳内でアムロが言った台詞『身構えている時には、死神は来ないものだ』のこと

*4
『Wikipedia』で使われるタグ。読者などの第三者が、記事の編集者に対して確たる情報源を求めていることを示すもの。似たようなモノに『誰が?』などが存在する。……なんとなく察せられるかもしれないが、いわゆるいちゃもん等にも使える他、文中に[要出典]が頻発すると、非常に見映えが悪くなるため嫌われていたりもする

*5
ここでは『ギャグマンガ日和』の聖徳太子のこと。ドンキーコングの(特定条件下での)ローリングアタックを『飛鳥文化アタック』と呼ぶようになった元ネタとしても有名

*6
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』においてシャア・アズナブル……もといキャスバル・レム・ダイクンが言った台詞。高いカリスマ性を持つ彼だが、それを殊更にアピールするのは嫌っていた

*7
上からAimer氏の楽曲であり『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] Ⅱ.lost butterfly』の主題歌でもある『I beg you』の歌詞である『あわれみを下さい』および『墜ちた小鳥に』と、『身分や地位・能力や性格などに相応しくない』という意味の『柄でもない』という言葉と、『鶏ガラ』などの言葉として成立している『骨』という意味を持つ『ガラ』、それから『鳥の骨』という蔑称を持つ『ゼロの使い魔』の登場人物『マザリーニ』、そして最後に『場所や態度から感じる空気が悪い』という意味の『ガラが悪い』。『違い』を『悪い』と言い換えてもいる。……日本語は同じ発音で意味が違うものが多い、というお話

*8
『fate/grand_order』の星4(SR)ランサー、秦良玉(しんりょうぎょく)の宝具発動時の台詞。BBちゃんとは中の人(声優)が同じ

*9
スーパーファミコン用ソフト『スーパーマリオRPG』のキャラクター、マロのスペシャルわざの一つ『なにかんがえてるの』のこと。基本的にはHP確認用の技だが、アクションコマンドに成功すると『その時相手が考えていること』という形式で、おまけのメッセージを読むことができる。……のだが。古い作品のスタッフ達は、見えないところではっちゃけていることがままあり、この作品もその例に漏れず……。任天堂作品なのにも関わらず、パロディーやらヤバいネタやらが散らばっているという危険地帯になっている。『マメクリボー』に使った時に表示されるメッセージは、正直『スタッフなにかんがえてるの!?』とか言われても仕方ないレベルの下ネタである。……いやまぁ、子供が見てもなんのこっちゃ、としかならないだろうが……。こういうネタを仕込む任天堂のことを、俗に『黒い任天堂』と呼んだりする

*10
『千と千尋の神隠し』から、双子の姉妹である湯婆婆と銭婆、および物語の舞台である湯屋・『油屋』。八百万の神々が日頃の疲れを取りにやってくる秘境

*11
『仮面ライダーオーズ』の登場人物、鴻上ファウンデーションの会長、鴻上光生(こうがみこうせい)がなにかしらの『誕生』を祝う時の様子。テンション高く『ハッピーバースデー!』と祝ってくれるぞ!()

*12
TRPG『ナイトウィザード』シリーズや『セブン=フォートレス』シリーズなどに登場するキャラクター、女神アンゼロットがお願い事()をする時に述べる『これからする私のお願いに『はい』か『イエス』で答えてください』という台詞から。要するに、拒否権がない!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。