なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
例の歌を「楽しかった」と勘違いしてる人は結構多い、はず
「いやー、なんか十一月は予定やら行事やらが詰め詰めだった気がするけど、なんやかんやでもう十二月だねぇ」
毎度お馴染みゆかりんルーム……だと思った君。残念不正解だ。
……という、誰に向けたものかよく分からない思考を無駄に飛ばしつつ、机の上のかごに入っているみかんを一つ取って、皮を剥き剥き。
私はみかんのスジはそのまま取らずに食べるタイプだけど、マシュは真剣な目付きで、ちまちまと細かいところまで取り除いている。……集中力がすごい。
そういえば、みかんのスジって正式名称が『アルベド』なんだってね。*1
今『
もし仮に、例の上司の方がここに来るようなことがあったら、みかんを箱詰めで贈る……というのも御近づきの印には良いのかもしれない。
……まぁ、そんな感じにぐだぐだしながらこたつに入っているわけです、はい。
私の正面にはマシュが、向かって左側にはアルトリアがいて、マシュはさっき言ったようにみかんのスジ取りに夢中になっていて、アルトリアは普段の様子が嘘のように、こたつにやられて溶けている。
……うん。実に冬だなー、という感じだ。
そんな風に、房からみかんを一粒取って口に運びつつ、年寄り臭いことを言っていると。
真剣そのものだったマシュが顔をあげ、こちらの言葉に同意を返してきた。
「はいせんぱい、今年もお疲れ様でした。……ところで、師走を『師匠が走る』と言う意味だとするのは誤用だそうですが、それでも年末に向けて忙しくなる……というのは間違いではないのではないでしょうか?」
「……え、師走って『師匠が走り回るくらい忙しい』って意味じゃないの?」
そうして返ってきたついでのような蘊蓄に、思わず手の内からみかんを取り零す私。……え、すっごい有名な由来だと思ってたんだけど、違うの?
そんなこちらの疑問に気付いたマシュが、小さく咳払いしたのち、補足を話し始める。
「はい。一応諸説ある、ということなのですが……元々、日本では平安時代よりも前の時代から、十二月を
「へぇー……」
いやなんというか、本当に「へー」としか言えない。八十へぇくらい?*3
師匠……もとい先生が走り回るから師走、だと思っていたけれど、違うかもしれない。……そういう風に、当たり前だと思っていたことも、一つ世界が進んでしまえば間違いだった、なんてことになりうるのが、私達の世界なのだ。
……などと、少なくともこたつでみかん片手に悟るようなものでもない結論を、口に入った果実を噛み締めながら咀嚼していると。
「そもそもの話、年末なら
「誰だお前は!?」
「正義の味方、カイバーマン!……って、やらせるんじゃないわよ。見りゃわかるでしょうがっ」*4
「スキマ女か……」*5
「間違ってないけど間違ってるわよっ!!それだと私タンスと壁の間とかにいないといけなくなるでしょうがっ!!」*6
「ボクトナカヨクナレソウダネ!」
「なにその裏声ってぎゃあっ!!?」
「モチロンジョークグッズダヨー」
「ばばばばば、脅かさないでちょうだいっ!!?」
さっき確認しなかったこたつの右側、空いていたはずのその場所にいつの間にか座るのは、みんなご存じ清く正しい黒幕少女、ゆかりんである。
……黒幕には遠慮はいらないな、とばかりにパーティグッズの握り拳大Gくんで裏声を使いながら話し掛けたら、こっちが引くほどに驚いてこたつから飛び出すゆかりん。
いやまぁ、
ともあれ、人の家に無断侵入するスキマに潜むもの……という意味では、Gとゆかりんはやってること大差ないぞ、という静かな抗議も終わったので、Gくんには退場お願い仕るで候。
ことりとこたつの上に置いたGくんが、そのまま天板に空いた穴に
「……いや、能力の無駄遣いにも程があるでしょ」
「使わないと錆びるとも言うでしょ。アルコール耐性すら飲まなきゃ下がるんだから、外付けの能力なんて普段遣いするくらいで丁度いいのよ」
「筋が通っているだけに、反論するのが躊躇われてしまいますね……」
マシュの言葉に、ゆかりんが小さくため息を吐く。
変わらず溶けているアルトリアを横目に、微妙な空気を味わう私達なのだった。
「──んで?今回は一体なんの用なのさゆかりん?」
まぁ、開始の挨拶はこれくらいにして。
ゆかりんが突然現れるだとか、なにかしらの頼み事がある時くらいのものである。
なので今回もそうなのだろうと、話題修正ついでに聞いてあげる優しいキーアさんなのである。まさに野菜生活。……ん?*7
「あ、そうだったそうだった。キーアちゃんが余計な話を挟むから、すっかり忘れてたわ」
「おっとぉ?お望みなら幾らでも余計な話を挟むぞぅ?」
「余計なお世話よ!……って、今度はなにっ!?」
「セアカゴケクンダヨーヨロシクネー」*8
「毒グモぉっ!!ってかデカっ!!?」
「ええと、確か本来は一センチほどの大きさのはずですから……単純に三十倍くらいの大きさでしょうか?」
「冷静に計算しないでちょうだいマシュちゃんっ!?」
ともあれ、遠回しの苦情をそのまま黙殺しおったゆかりんに対抗すべく、虚空より取り出したるは
……とまぁ、一人脳内相撲を取る間にもゆかりんに見せ付けたのは、大きなクモのぬいぐるみ、である。……無論、デフォルメはされているが。
クモって案外かわいいよね、というキーア渾身のプロデュースである。どや!……まぁ、大抵嫌がられるのだけどね。足が多いと不快害虫扱いされるからね、仕方ないね。
よく可愛いと言われるハエトリくんも、人によってはダメって言う時もあるし、虫を人に薦めるのは……難しいねんな……。
……え?そもそもぬいぐるみの元になってるのが毒グモだから、好きだ嫌いだ以前の話だって?……いやでもほら、アシダカとかアシナガみたいなタイプのクモよりも、丸っこい感じのこっちのクモの方が、デフォルメには向いてるじゃん?
同じ日本に居る毒グモでも、カバキコマチの方を選ばなかったのだから褒めてほしいくら……あっちもメスは丸っこいって?……いやほら、向こうは牙が大きくて怖いし……。
と、とにかくだ。
つぶらな瞳で相手を見つめるその様は、「いぢめる?」と問い掛けてくるかのよう*10……じゃない、そもそも毒グモをいじめようとするなって話だ、噛まれてからでは遅いのだぞ!
……いかんな、クモの話になるとどうにも暴走しがち、というか。虫系の中でクモが好きな弊害が、こんなところにあるとは……。
なんて、そんなことを思いながら、ゆかりんにぬいぐるみを押し付ける。
受け取った彼女は、正に『どういう顔をすればいいのかわからない』と言った感じだったので、「喜べばいいと思うよ」と返しておいた。
……なんかやけくそに喜んでいるけど、喜んでるなら大成功だな!()
「はい、いい加減話を戻してもいいわよね!?よしわかったわ本題に入るわよもう誰にも邪魔させないんだからね!?」
「へーい、キーアん素直に話を聞きまーす」
「え、あ、ま、マシューも素直に話を聞きまーす……」
「……はいっ!?え、なんですか敵襲!?……違う?来客?あ、
どうもお久しぶりです八雲さん」
ぬいぐるみを
……一瞬品性云々言いそうになったけど自重。毎度壺の仕業にするわけにも行くまいよ、なんて。
まぁともかく、いつものノリならまーたとんでも事件が舞い込んだに違いないので、いい加減ふざけるのは止めて、真面目に聞こうとするのは間違いではあるまい。
なので宣言してマシュにパス、パスされたマシュも賛同してそのままアルトリアにパス……もとい、机に垂れている彼女の肩を揺する。
どろどろに溶けていた(※あくまで比喩表現です)彼女が正気を取り戻し、いつの間にか自身の正面に座っていたゆかりんを視界に入れ、目蓋をぱちぱちしているのを横目に、どうせ長くなるだろうと飲み物を用意しようとして。
「緊張感が欠片もないっ!!いや確かに今回はそんなに火急の用事ではないけどもっ!!」
「なぁんだ火急の用事ではないのかー。じゃあ解散解散、マシュお昼の準備しよー」
「えっ……ちょっ、ちょっと待ってくださいせんぱい、せんぱーいっ!!?」
「……………」
「え、えと。……もうお昼ですので、昼食を終えてから改めて、とキーアさんは仰っているのだと思いますよ……?」
「……わかってるわよ、私がタイミング悪いだけなのはわかってるわよ……」
まさかのいつもと違って急ぎではない、というゆかりんの台詞に、立ち上がって台所に向かっていた私は、予定を変更する旨を宣言。
そろそろお昼にしようとは思っていたし、鍋焼うどんでも作ろうかとマシュに声を掛けて、そのままリビングを後にするのであった。
……えっ、ゆかりんの話?
食べながらでいいでしょ、急ぎじゃないんだし。というかどうせゆかりんもお昼まだなんだろうし、『たらふくゆかりんに食わせたいの会』の会員としてはそっちの職務を優先する次第、というだけの話なのである。
カードの精霊の一人。性格の元ネタが明らかに『海馬瀬人』であるため、凄まじく濃ゆいキャラをしている