なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「来るな来るナ来ルナ化物ぉぉぉぉぉぉっ!!?死にたくない死にたくナイ死ニタクナイシニタクナイィィィィィィィッ!!!?」
「ダメだこりゃ、話をするとかって次元じゃねぇ!」
「これはどうしようもないよ、一旦落ち着かせないと!」
おっかしいなー怖がられないように武器も置いてきたのになー?
……なーんでこっちの顔を見ただけで恐慌し始めるんですかね……酷くない?
いやまぁ、なんとなーく理由は思い付かなくもないんですけどね?ヒントはさっきの話。
「まぁ、その辺は止めてから考えるとして……対地下生活者、戦闘開始だぁ!」
デッデッデデデデ、イクゾー。
……隣で琥珀さんがずっこけた?そんなの気にしちゃダメよ()
はてさて、なし崩し的に始まってしまった対地下生活者の戦闘。
……相手が相手なので直接戦闘なら余裕かと思われそうだが、その実ちょっと様子が違っていたり。
「んー、【複合憑依】?それとも【継ぎ接ぎ】かな?……どっちかはちょっとわからんけど、少なくとも地下ちゃん本人だけの能力じゃなさそうだねこれ」
「それは見てればわかるわよ!こんな直接的に攻撃してくるタイプじゃないでしょこいつ!」
現在の彼は頭を抱えて踞り、こちらに視線をよこす素振りすらない。
それなら攻撃とかできないのでは?……と思われそうだが、その辺は彼の周囲を漂う謎の光体が担当していた。
この光体、どういう素材なのかはまったくもって不明だが、どうにもドローンのように自由に飛行することができるようで。
その機動力を活かしてこちらの死角に回り込むように飛び、そこからビームを発射してくるという戦法を取っている。
……分かりやすく言うと光の形?をしたファンネルみたいなもの、というか。
「いつからニュータイプになったんですかこの人ぉ!!」
「いや、わかりやすくファンネルって言っただけで、別に超能力の介在とかは無さげだよ?」
「はぃぃ?!」
かといって科学技術によるものか、と言われるとそっちも微妙。
光源を飛翔させるのまでは可能だろうけど、そっからビームを撃ってくるのが意味不明にもほどがある。
恐らく、なにかしらオカルトめいた技術で成立させているものなのだろう……おおっと危ねぇ。
「このレベルの射撃技能ってなると、寧ろ自立型の砲台って考えた方がいいかな?射撃補正あってもあの精神状態でまともに撃てる気がしないし」
「呑気に分析してる場合かー!!ってか武器寄越しなさいよせめて!私は基本的には単なる一般人なんだが!?」
「おおっとごめんごめん、この状況下で自衛能力がないってのは確かに怖いよね。でもすまんな、そのまましばらく回避しててちょうだい」
「はぁ!?」
うーむ、普通に殺傷力ありそう。
本来なりきり郷内においてはあらゆる殺傷能力を持つ攻撃は火力に制限を受けるものだけど、これあれだな?
この地下世界の所在がいまいちあやふやなもんだから、その辺の制限もちゃんと機能してないと見た。
……うん、下手すると死ぬねマジで()
その辺のことは見てればわかるということか、無防備にこの攻撃に晒されている形となっているクリスから抗議の言葉が飛んでくる。
……とは言っても、生徒化が機能しているので避けるのに苦労する、なんてことはなさそうだが。
その辺は他の面々も同じで、唯一事情の違うUちゃんも持ち前の高スペックで避け続けているので特に問題は無さげ。
とはいえ、ずっと避け続けるのは精神的負担が大きすぎるため、攻めに転じるために武器を欲しがるのも無理のない話。
それを理解した上で、私はノーの言葉を返したのだった。なんでかって?
「こっちも非殺傷設定上手くいかない可能性大だよ?」
「あ゛っ」
「ついでに言うと、仮に非殺傷効いててもこんなところでみんなの武器なんて振り回したら普通に崩落するわい」
「うっ」
「というか、攻撃してきてるあの光源だけど、実体がないっぽいから攻撃しても打ち落とせないよ?寧ろすり抜けて後ろの壁にぶち当たる可能性大」
「ぬぐぐぐ……」
そう、現状攻撃を選んでも事態が好転しない可能性が大……どころか、寧ろ追い詰められる可能性の方が遥かに高いのである。
まずあの光体ファンネルもどき、改めて確認し直したところ実体らしきものが掴めない。
……オカルトめいたと述べたが真実オカルトの産物と言った方が早そうだ。
扱いとしては幽霊がビーム撃ってるようなものなので、対処したくば専用の装備が必要だろう。
ついでに言うと、あくまで例えとして『幽霊のよう』と述べただけなので、実際に対処したい場合装備を整えるのは中々に難しい話になるだろうと思われる。
ついで問題となるのが、相手だけが非殺傷設定を無視しているわけでは無さそうだ、という点。
あくまでフィールド効果によるものなので、同じ空間にいる私達にも相手と同じ懸念が浮かんでくるわけだ。
……いやまぁ、正確には本来存在しているフィールド効果の恩恵を受けられていない、ってことになるんだけども。
ともかく、こっちもその辺の恩恵に預かれないのなら、迂闊に攻撃できないとなるのは必然。
だって相手は【鏡像】じゃなくて『逆憑依』だからね、【鏡像】相手でも時々嫌な気持ちになる人もいるのに、それが『逆憑依』相手ならなおのことだろう。
……え?その辺気にせず殴りそうな人もいる?いやその、今この場にはそういう人はいないから……。
と、とにかく。
相手が生きた人間である以上、下手に攻撃してダメージを与えるのは宜しくない。
いやまぁ非殺傷だったら殴りに行っていいのかって話になりそうだからその辺はぼかすけど……ともあれ、こっちの攻撃について考える必要があることは事実である。
そこから考えると、正直な話
なんでかって?さっきから言ってるじゃん、今の私ら基本
「あ、あー。そっか、頑丈になるだけじゃなくてパワーも上がるんだっけ……」
「筋肉まったく付いてないのに重たいもの持ち上げられるようになったりするわけだからね、そりゃこのパワーで一般人殴ったらミンチになるよ」
「うわぁ」
なので、自動的に武器も無しである。
……まぁ、オーバーキルがオーバーキルの二乗になるだけで、オーバーキルであることに変わりはないから別にいいんじゃないか、とも言えなくはないかもしれんけど。
でも手加減すれば死なないのと手加減しても死ぬのでは明確に違うのも事実なので、その辺を考慮して丸腰の方がいいですという話になるわけだ。
んで最後、これはさっきの話にも関係があるが……。
「周囲を見りゃわかるけど……うん、壁に穴空きまくってるよね」
「なるほど、私達も同じように穴ぼこにしちゃうってことだね」
「その結果、ここが崩落するかもしれないと。……ええと、一ついいです?」
「はいなんでしょう琥珀さん」
「……これ、私達が攻撃に参加しなくてもそのうち崩落する可能性大ですよね?」
「そだね、地下ちゃんの攻撃を止めないと普通にそうなるね」
「……悠長にしてる場合ですかー!!?」
はっはっはっ、怒られちゃったんだゼ☆
……ふざけてる場合じゃない?それはそう。
「……ダメだわ!反射くらいはできるけど、それだと結局壁に攻撃が飛ぶのは止められない!」
「個人的にはあっさり弾いてることに恐怖を覚えないでもないんだけど……まだ私あれがどういう攻撃か解析できてないんだけど?」
「えっ」
私の言葉に困惑したように声をあげるUちゃん。
いやね、さっきまで地下ちゃんのことちゃんと認識できなかった、みたいな話してたけども。
それに近いことが今現在この光体に対しても起こってるのよ。
具体的にはエネルギーの主成分が判別できない、的な?
仮にもビームなんだからそりゃ波の類いなんだろうけど、観測しようとすると逆に散ってしまうというか。
波動関数は観測で収束するけど、こいつは観測しようとすると霧散しているというか。
なので、私の方もさっきのUちゃんみたいにビームを弾く、なんて真似は真似したくてもできないのだ。
だからこそ、それをあっさりとやって見せた彼女に驚いたんだけど……。
「いやおかしいでしょ、貴方達こそちゃんと認識できて然るべきじゃないの」
「……んん?その言い方だとまさか……」
……なるほど?
今の言葉で見えてきたぞ、この状況の攻略方が。
「え?!そんなあっさり?!」
「いやー、やっていいのかちょっと迷う方式だったから、一端考慮の内からは外してたんだけど……Uちゃんの言葉が私の思う通りなら、寧ろこれ以外ないというかね?」
そうと決まれば善は急げ、である。
いまだに踞ってこちらを見ようともしない地下ちゃんに届くか、という問題はあるが……その辺をなんとかしてみせてこその私である。
「ってなわけで、ごめんけどみんな耳を塞いでてね」
「は?いきなりなにを」
「いいから!巻き込まれたくなかったらさっさとする!」
「ええい、ちゃんと後で説明しなさいよ!」
レポートの提出とかあるんだからね、と文句を言いながら耳を塞ぐクリス。
……あーうん、ゆかりんとかお偉いさん向けに今回の騒動の説明をする必要がある、ってことだよね?
そう言われるとそりゃそうか、って感じに納得しつつ、他のみんなにも目配せをする私。
他の面々はクリスほど疑問を呈することはせず、素直に耳を塞いでいる。
琥珀さんだけ、なにやら言いたいことがあるような顔をしていたが……やがて諦めたようにため息をついて、そっと自身の両耳に手を添えた。
これで、今現在周囲の音を聞こえるのは──実際にそうであるという意味ではなく、
そのことを改めて確認したのち、私は今回の騒動の終わりを告げる一言を口にしたのだった。
「──『天網恢恢』」