なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……悔しいけど美味しい……」
「基本的には火に掛けただけ、なんだけどねー。いやーインスタントの進歩具合ってすごいよね」
「お手軽でも満足できるというのは、とても素晴らしいことだと思います!」
こたつの上に敷き板を人数分敷いて、そのまた上にアルミの器を置いていく。……中身はさっきまでコンロの上でグツグツ煮たっていたインスタントの鍋焼うどんである。
一応追加で卵を一つ落としてあるけれど……味付けとかに関してはそっくりそのまま、一切手を加えていない正しく出来合いものだ。
……個人的には、アルトリアにこれをそのまま出して怒られたりしないかちょっとだけ心配だったのだけれど。……物珍しさの方が勝るのか、特にそんな様子はなさげである。
いやまぁね?そもそも青王のその辺の話──料理の出来とかに怒ったりするのはギャグ風味の強い時くらいのもの、だったりはするのだけれども。……それでもこうしてあれこれ言われるのは、印象優先で語られることが多いからというか。
ともあれ、こうしてこたつに入りながら出来立て熱々のうどんを食べる……というのは中々に乙なものだと思う。
そうして箸を進めつつ、ご機嫌斜めなゆかりんに話を促す私である。……ご機嫌斜めを真っ直ぐに、とか言われても最近の人はわかんないんだろうなぁ……なんて余計なことを考えつつ。*1
「……火急の用事ではないんだけれども、話していいのかしら?」
「うわぁ拗ねゆかりんだ……ごめんて謝るから。卵も一ついる?」
「モノで釣ろうとするんじゃないわよ……まぁ、貰うけど」
……うーむ、見事なまでの拗ねゆかりん。
端から見てる分にはちっちゃい子が『つーん』としている感じで、単に微笑ましいだけなのだけれども。
その実態は会社の社長が部下に無視されてキレてる……みたいな感じになるもんだから、部下ポジションであるこちらとしてはなんとも対処に困る気分である。
……その割には、対応が軽いって?部下である前に友達なんだからさもありなん。……公私を分けられていない辺り、ハマちゃんより酷い奴だなこれ?*2
「……もう続きを話していいかしら?」
「おおっと、どぞどぞ」
そうやってむぅ、と唸っていたら、いつの間にやらゆかりんからジト目で見詰められていた。
よせやい照れるだろう?……あ、はいすいません、真面目に聞きます……。
……一瞬、人を殺せそうな目で睨まれたでござる。
自業自得とはいえ、こっわと言わざるを得まい。くわばらくわばら……。
一端箸を置いて、居住まいを正す。
こちらが真面目に聞く気になったことを察したゆかりんは、一つ咳払いをして、今回の訪問の理由を語り始めた。それによると……。
「……サンタクロース?」*3
「そう。時期的に、そろそろクリスマスでしょ?」
湯呑みの茶をずずずと啜っていたゆかりんが、それを机に置きながら頷く。
彼女が持ってきた話題は、クリスマスシーズンにおけるサンタクロース役として手伝いをしないか……というものだった。
現在は十二月の初頭。……実際にサンタとして活動するのはもう少し後の話になるらしいが、前日とか一週間前とかに募集を始めるのは流石に遅いため、こうして日時にして三週間以上前となる今の時期ぐらいから手伝いを探し始めるのが毎年のお決まり……なのだという。
……毎年?と思ったそこの君、なりきり郷の設立年に関してはサザエさん時空*4的な異世界概念うんたらかんたらにより、
ともあれ、少なくとも昨年より前から続いている行事……というのは確かなので、そこら辺の正しいノウハウみたいなものはまだまだ構築中……ということになるのだそうだ。
そんなわけなので、とりあえず声を掛けられる人員の中で戦闘力が一定数有る者に関しては、ほぼ全員に同じような通達が行っているらしい。
……サンタの募集なのに必要条件として『必須技能:戦闘系』なんてものが入ってる理由?んなの勿論、サンタの行動範囲が
要するに、この間話題に出てきたばかりの熔地庵・深層領域だとか、隔離区画内に存在する各種施設だとか、はたまた厄災級・接触禁忌種・禁忌のモンスター・原作者も知らないドラゴンみたいなのが跋扈する自然区域とか。
そういう、生身では確実に無理だし生半可な戦力でも無理があるような場所にも回る必要性があるから……だよ!!
いやまぁ?ゆかりんの説明を聞くに聖夜の当日に限ってはサンタにほぼ無敵に近い
それでも、それぞれの原作において『
…………うん。すまない、また胡乱げなイベントなんだ。
仏の顔もなんとやらって言うしね、謝って許して貰おうとは思っていないから安心して欲しい。
でも実際、季節の行事とかをそのままこなすと、いわゆる日常系の話にしかならないというのはわかって貰えると思う。
無論、それが良いと言う人が居るのもわかっているけれど、申し訳ないけどここはなりきり郷。……ハチャメチャが押し寄せてくる、混迷極まるカオスワールドなんだ。
そういうわけなんで、とりあえず注文を聞こうか。……いやなんの注文?*7
脳内で謎の店がオープンしてしまったけど、私は正気です(SAN値0)。
……えーと、とにかく。
今回のお仕事は、サンタクロース達を無事に聖夜の街へ飛び立たせなさい……みたいな感じのものになるらしい。
この説明だとお前はサンタじゃないのか?って聞かれそうだけども、実のところその通り。
私の元に来たのはあくまでも『サンタの助手』についてのお願いであり、いわゆる『サンタの募集』とはまたちょっと違うものになるのでありました。
具体的になんでそんなことになったのか説明すると『
前者はソシャゲにおけるクリスマス限定キャラとか、アニメや漫画でクリスマス関連の仕事やバイトをしていた描写があるか?……と言ったようなことを問うもので。
後者の方は実の子供や孫が居るとか、孤児院で孤児達にプレゼントを送ったことがあるとか──そういう『
……キーアの実際の年齢的にも、義理の子供が居たという話的にも、私はサンタ側でいいんじゃないのか……とか言われそうなところだが。
今回のクリスマスイベント、基本的にはサンタと
要するに『
──仮にクリスマスを邪魔してくる者が居たとしても【サンタ特攻】持ちで無ければ聖夜のサンタに敵う者は居らず。
まかり間違って【サンタ特攻】持ちが居たとしても、サンタ本人ほど『サンタ特性』を持っていない
……実に目が滑るような話だが、もう少し付き合って貰いたい。
この二人一組での行動制限、サンタを邪魔する者……もとい『聖夜を邪魔する者』が存在しなければ、別に無視してもいいような縛りに思えるかもしれないが。
忘れちゃいないだろうか、聖夜が万人にとって祝うべきモノではないということを。
忘れちゃいないだろうか、聖夜とはなにも子供達だけのモノ……というわけではないということを。
……要するに、居るのである。『聖夜を邪魔する者』は、確実に。そう、それは即ち!
「しっと団、実在していたのか……」*9
「カップル相手に突撃していくだけだったのなら、まぁサンタには関係なかったのだけれど。……なんか途中で変なものが混じったみたいで、『クリスマスに対するカウンター』みたいな感じになっちゃってるのよね……」
「もしかしてブラックサンタでも混じったのでしょうか……?」
「いや、あれは悪い子を懲らしめるためのモノであって、サンタの敵対者ではないというか、寧ろ
ゆかりんの口から語られたのは、クリスマスやらバレンタインやらにイチャイチャするカップル達を制裁する、モテない者達の味方(?)──しっと団について。
……なのだけれど、このなりきり郷における彼等はなんだかよくわからない変異を遂げてしまったらしく。本来は襲う対象ではない子供達や、プレゼントを配るサンタクロースまでもが攻撃対象に含まれてしまっている、らしい。
仮にパルスィが混じったとしてもこうはならないだろう……という感じの変異な辺り、なにか良くないものにでも魅入られたみたいな話なのだろうが。*10
ともあれ、暴れまわるのは元のしっと団と同じく、クリスマスやバレンタインなどの限定された時期のみ。
なので、要対処度としてはたいして高くもなく、今みたいな対処療法が罷り通ることとなったのだそうな。
……それでもまぁ、なんとも傍迷惑な話ではあるが。
「くりすます?というものが、どういうものなのかは良くわかりませんが。──民のための行事を台無しにする者が居るというのであれば、それを正すことは吝かではありません。是非協力させて下さい、八雲さん!」
「え?え、ええ。ありがとうねアルトリアちゃん」
そうして唸る私の横で、うどんを食べ終えたアルトリアが箸をおいて静かに告げたのち、ゆかりんの隣に詰め寄ってその手を覆うように握る。
なんだかいきなり騎士めいた口調とノリになっているけど……これはあれじゃな?リリィの厄介事センサーが反応した、みたいな展開じゃな?
なおそれを受けたゆかりんはというと、いきなりの協力宣言に目をぱちくりさせていた。……当初の予定ではアルトリアを巻き込むつもりはなかったのだけれど、みたいな感じだろうか?
まぁ予定が予定通りに進むことなんて早々ないのだし、ここは高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に事を進めようじゃないかゆかりん?*11
「それって要するに行き当たりばったりってことでしょうが!?」
「おおっと、じゃあプランBBだっ」
「それも違っ……BB?」*12
『はぁい、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!皆さんの頼れる後輩型AI、BBちゃんが華麗に参上──です☆』
「うわびっくりしたっ!?」
「なんでキーアちゃんがびっくりしてるの!?」
ゆかりんからの呆れ交じりのツッコミに、頭を掻きながら答えを返す。
曰く『実のところBBちゃんは朝から用事が入ってますので、暫くせんぱいのお手伝いはできませーん!悔しさに咽び泣いて下さいね、せ・ん・ぱ・い?』なるメッセージがスマホに残っていたので、呼んでも来るとは思っていなかったとかなんとか。
「……BBさん?ちょっとお話しが」
『うわぁ、マシュさんこわーい☆余裕がない人は、嫌われちゃうゾ☆』
「……黒より黒く、闇より暗き漆黒にわが真紅の
『ちょっ、冗談ですってば!本気にしないでくださーい!!?』
「いやちょっ、そもそもそれは私らも巻き込まれるっ!?」
「お、落ち着いてマシュ!深呼吸、深呼吸です!」
「離してください~!、私は、私はぁ~~っ!!!」
なお、突然後輩達の仁義なき戦いが始まりそうになってしまったため、急遽みんなでマシュを落ち着かせるために奔走することになったのであった。