なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「明けましておめでとうございます周央ゴコですー」
「あらゴコちゃん明けましておめでとうございます。……なんかいつもよりテンション低いね?」
正確には肩書きが短い、って感じだが。
……ネコアルク騒動に終始した正月からはや数日、もう正月気分もいい加減抜けきったところに正月の挨拶とともに現れたゴコちゃんに、私は手に取っていたミカンを元の場所に戻しながら返事を返したのでありました。
はい、思いっきりこたつで寛いでることからわかるように、現在地は私の家ですね。
「私としてはお年玉でも集りに来たのかと思ってたんだけど……その様子だと違う感じかな?」
「まぁその……はい。実は少々お悩み相談をですね……?」
「お悩み相談?」
ふむ、珍しい。
確かに私は色々とトラブルを持ち込まれる駆け込み寺みたいな存在だが、ゴコちゃんとは活動範囲が違うこともあってそういう感じに話し掛けられることはほぼなかったわけだし。
というのも、ゴコちゃん自体がわりと特殊な存在だから、というのがとても大きい。
……いやまぁ、特殊と言っても【継ぎ接ぎ】だの【星融体】だのの物理的に特殊な枠ではなく、
「扱いの上では
「すみませんなんで今唐突に私の心臓に杭を叩き込みやがりましたか???」
遠回しに言葉の刃が鋭すぎるって言うの止めない?
……これはなりきりという遊びのある意味では闇……闇?みたいなものということになるのだが。
実のところ、なりきる相手と言うのは非実在のものに限らない。
人によっては実際している人のなりきりを楽しむ者もいるのである。
「具体的に名前を出すとあれだからぼかすけど……例えばなにやってもその人になるで有名な『ちょ待てよ』の人とか、はたまたカンフーの神様とか。……なりきりの根底が『自分以外の誰かを演じるもの』である以上、その辺の制限的なものはあってないようなものだからねぇ」
「それゆえに、方向性的には半実在のような
「あ、マシュちゃんこれはどうもご丁寧に……」
まぁうん、極論言うとコスプレみたいなものであるのだ。
外見なり言動なりを真似ているものの、あくまで真似なので本人ではない的な意味で。
ゆえに、アニメや漫画のキャラクターよりも実在に近い位置にいるデジタル配信者達もまた、なりきる相手として選ばれることもある……と。
無論、この辺の実在度が高いキャラは色々問題点が多いので、仮になりきりをする場合はあれこれと気にする必要が出てくるんだけど……。
「極論、気を付けなければならない話は普通のキャラクターと然程変わらない……とも言えなくはないですね」
「うーんなりきり強者故の暴論……」
「マシュちゃん演技力ヤバイもんねー……」
「えっ」
なんで私、責められるみたいなことになっているのでしょう?
……そんな感じに困惑するマシュを一先ず脇に置いて、改めてゴコちゃんの事情に焦点を合わせ直す。
配信者というのは、完全な実在人物よりは幾らか非実在に寄った存在である。
見た目をアニメキャラクター的なそれに変えていることから、中身の人間を出しきっているとは言いきれず。
されど中身がまったく無関係かと言えばそうでもない──見た目と相反するような内面を見せてくるような時もある。
なるほど、見た目はアニメキャラ的な反応を誘うわりに、中の人もある程度見えるために無体な扱いもほどほどにしなければならない……。
関わる際に色々考えざるを得ない相手である、ということは間違いないだろう。
必然、そういう相手になりきるというのは難易度が高いということになる。
「まぁ、なりきりの際の難易度云々でいうなら、根本的に実在人物はみんな難しいってことになるんだけど。……それこそ、昔の偉人とかでもない限り発言に気を付ける必要性が高くて辛いんじゃないかな」
酷い言い方をすれば、アニメや漫画のキャラと言うのは性格を読みやすい・掴みやすい相手ということになる。
それゆえ、それぞれの出演作品を読めば真似をするのはそこまで難易度の高いものではない。
……いやまぁ、知っていること持っている情報・そこから予測される反応とかを思えば、真面目にやればやるだけ難しくなっていくのはアニメキャラも同じって感じになるんだけど。
ともあれ、実在していると考えていることなどが全て明かされることはないため、人格をトレースした時に違和感が生まれる可能性は低くないだろう。
その違和感がなりきりを阻害する、というのもわからない話ではない。
「ゆえに、ゴコちゃんは『周央サンゴを名乗ることを嫌がった』。……まぁ、この世に周央サンゴ本人は今現在配信をしているその当人以外あり得ない、っていうファン目線も含まれた結果なんだろうけど」
「……その辺は色々と複雑な心境とかが絡むのであんまり深掘りしないで頂けますとー……」
「あっはい」
……まぁ、○○はこんなキャラじゃねぇって感覚は別に実在人物相手だけに感じるもんでもないし、ってことで。
ともあれ、『逆憑依』のシステム的には『周央サンゴ』以外の何者でもない彼女は、しかして本人の譲れない一線により別人を名乗ることになった、というわけである。
で、これのなにが問題かと言うと、だ。
「『逆憑依』のシステムに真っ向から喧嘩売ってるようなもんなんだよねぇ……」
「確かに……私たちはその当人をどれほど再現できているか、という形で動くもの。本人ではないと主張するというのは、自ら再現度を下げに行くようなものということになります」
「まぁ、はい。最初のうちはそのせいで死にかけましたね、マジで」
今の自分を成立させているシステム──『逆憑依』というそれに全力で中指を立てているようなものである、ということ。
それゆえに、下手するとまともに日常を送れないようなデメリットを背負わざるを得ない可能性が高いのだ。
あれだ、いつぞやかも言っていた『逆憑依』の機能不全──問題児レベルを付けられた人達の
「本人の性質と、演じているキャラクターの性質が噛み合っていないパターンですね。単なるなりきりの内はそれでも回りはしますが、『逆憑依』として一纏めにされてしまうと問題を引き起こすきっかけになる……という」
「ある意味では【星融体】になる前の状態とかに近いのかもね。互いの要素が喧嘩して結果どっちも損ないかけているわけだし」
まぁ、『逆憑依』はその言葉通り
それゆえよっぽど噛み合わないとかでもない限り、要素同士が打ち消し合うほどに喧嘩することはないのだが。
なにせ、基本的に中の人の要素はほとんど表に出てこないわけだし?
「だからまぁ、本人達的に絶対許せない要素がある……とかでもないと発生しないのよね。それにしたって、ある程度の妥協ラインが定められたらなんとでもなる範囲だし」
「そういう意味ではゴコさんは折り合いを付けられている、ということでしょうか?」
「ははは。私はサンゴちゃんに憧れてその真似をしているゴコですので、はい」
(めっちゃ目が据わってる……)
これ本当にうまいこと折り合いを付けられてるんですかね……?
ま、まぁいつぞやかのシャナのように、封印しないと暴れまわるようなわけでもないのだから大丈夫なのだろう、多分。
ともかく、配信者と『逆憑依』の相性が最悪と言うほどではないにしろ余りよくない、というのは確かな話。
その前提を逸らすために当人なのに別人を装うゴコちゃんというのが、色んな意味でおかしな存在に当てはめられることはなにもおかしなことではないだろう。
「まぁ、その特殊性と私との関わりが薄いってのは、また別の話なんだけどね。……いやまぁ、厳密に言えばまったく関係ないわけでもないんだけど」
「実在性があるということは現実に則しているということ。……いえ、配信者の方々が色々な肩書きを持っていることを思えば、厳密には現実に則しているとは言えないような気もしますが……」
「まー、私に関して言えばその辺は仰る通りですね。基本的には単なる中学生ですし」
話す内容がちょっと中学生らしからぬこともありますが、それも個性のうちでしょう。……と深ーく頷くゴコちゃん。
そう、配信者というのは突拍子もない設定を持っていることもあるが、基本的には中の人が存在するがゆえに現実に寄った存在。
それゆえ、マシュとかゆかりんみたいなキャラと並べると必然『普通』になるのである。
……え?最近の配信者達はゲームに実装されてなんか凄いことやってることもある?
あーうん、私も影実のアプリに配信者が実装されててビックリしたからその辺はわからんでもない。*1
でもまぁ、基本的には彼等彼女等が普通の人である、ことは間違いないだろう。
時々中の人補正で凄いこと()する人もいるが、原則的には常識の範囲──マシュのようにいきなり
……いや【継ぎ接ぎ】とかが噛み合った結果築城しだす
「まぁ、そこら辺の話を長々とするつもりはないってことで、いい加減こっちの相談聞いてもらっても?」
「おおっと、そうだったそうだった」
そんなわけで、彼女が持ち込んだ相談を聞いた私たちは、思わず困惑から大きく口を開くことになったのでしたとさ。