なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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主役を磨くっきゃない

「銀さん死ぬかと思ったんだけど。幾らギャグ補正となりきり郷内部の補正が有るとは言え、あんなん食らってたらその内死ぬと思うんだけど?」

「え?死ぬのは慈悲、とか言った方がいい?」

「やめてくんねー!!?どこかのオーバーロードみたいなこと言うのやめてくんねー!!!?」*1

 

 

 天罰降臨!*2

 ……とばかりにボコボコにされた銀ちゃんであるが、取り立てて怪我などはしていなかった。ギャグ漫画出身者特有の、黒く煤けてぷすぷす言ってる状態にはなってるけど。

 いやそもそもの話、今回のボコスカウォーズ*3に劉備さんが混じってるのも、よくよく考えずとも意味わかんないんだけどね!

 

 

「あ、別に呼び名は桃香で構いませんよ?」

「軽~、真名(まな)の扱い軽~」

 

 

 とかなんとか言ってたら、いつの間にやら隣に立っていた劉備さんから、呼びにくいなら桃香(真名)の方で呼んで貰って構いませんよ?とのお言葉が。

 ……いや軽いな。『恋姫』本編では許可の無い相手が勝手に真名を呼んだら殺されても文句は言えない、ってくらいに重いモノだった気がするんだけど軽いな?*4

 

 ……というような疑問が顔に出ていたのか、劉備さん──もとい桃香(とうか)さんが、こちらを見ながら小さく苦笑を浮かべる。

 

 

「──私は純粋な劉備ではありませんので。その辺りも踏まえてお話をしたいのですが、構いませんか?」

「いやまぁ、願ってもない話だけど」

「その前に、一つ聞かせて貰えるかしら?」

 

 

 やっぱり原作の彼女とはずれるなぁ、なんて思いながら話をしていると、横からゆかりんが割り込んでくる。

 その内容は、『最近郷に増えたのは貴方なのか?』というもの。

 

 ……んー、あのマントと同一人物ということなら、あり得ない話なのでは?……と私は思っていたのだけれども。

 

 

「えっと、半分正解……ですかね?」

「……はい?半分?」

 

 

 彼女から返ってきたのは、思わず首を捻ってしまうような答えなのだった。

 

 

 

 

 

 

 前兆、というものがある。

 『前以て知らされる兆し』の名の通り、それはなにかしらの事象に対し、それが起こる前の先触れ……とでも言うべきものである。

 とはいえ、予兆と呼ぶべきそれらは小さく見逃しがちで、後になって『あれはあの出来事が起きる前触れだったのでは?』みたいに気付くことも多い。

 世の予言・予知系能力者が甘く見られがちなのは、大きな物事の予兆ほど、実際は小さく細かく見え辛いものだから、みたいな話もあったりするのだが……まぁ、それは割愛。

 

 ここで重要なのは、なにかを()()()前の下準備というものは、意外とそこら中に溢れている……ということである。

 

 

「準備だけして使わないまま死蔵する──俗に伏線なんて呼ばれるものは()()()()()()()()()のモノ、なんて捉え方もあるみたいだけど。……まぁ、私もそれに近いのかな?」

「……えーと、ちょっと整理させて頂戴……」

 

 

 ゆかりんが頭を抱え、つい先ほど桃香さんから伝えられたとある事実について、どうにか理解……というか納得というかをしようとしている。

 元の席に戻った私も、様子としては似たようなもの。

 ゆかりんほどうんうん唸ってはいないけど、同時に顎に手を置いてむむむ、と眉を寄せているのは確かだ。

 

 彼女から伝えられたのは、あのマント達は先駆けである……ということだった。もっとも、数ある先駆けの形の内の一つでしかない、とも言葉を添えられたわけだが。

 

 以前、『郷の中に突然出現するなりきり組』について、軽く触れたことがあったと思う。

 ……空間拡張やら転移禁止やら、()()()なく現れるには些か無理があるこの環境内において、本当に突然現れるとされていた彼等だが。

 目の前の彼女が言うには、それらも全てなにかしらの前兆を発生させている、らしい。

 

 ……まぁ、言われてみれば確かに、というか。

 見ることがある種の繋がりであることは何度か述べているが、予言や予知もその枷から逃れられないのであれば、郷内部の予知能力者がなにかしらの()()を見ているのは確かなわけで。

 ──なんの取っ掛かりもなく、いきなり『ここに◯◯が現れます』なんてことを知るのは不可能だろう。

 ならば、指先に触れる微かな感触から、根本の存在を手繰り寄せている……と見るのは、そう不思議な話でもない。

 実際、マーリンも『余所から綻びを通じて(まろ)び出たモノ』みたいなことを言っていたし、預言者達が見ているのがその綻び(前兆)だというのなら、筋も通る。

 

 じゃあなにが問題なのか、と言うと……。

 

 

「【顕象】も予兆の一種?」

「正確には、()()()()()()()()()を信仰や畏敬で埋めたもの、ということになりますが」

 

 

 こちらの質問に、にこやかな返答をしてくる桃香さんに、ちょっと顔を引き攣らせつつ。

 改めて、今回新たに知りえた情報について、思考を巡らせる。

 

 場の異常さなどにより、畏敬や信仰が集まって生まれるのが、【顕象】と呼ばれるモノ達である……とされていた。

 ()()()()、その場にある様々な念が場の特殊さゆえに形を持った(集まった)モノ……だと思っていたけれども。

 実際はその逆、()()()()のではなく前兆となるものが()()()()()という方が正解。

 ……要するに、その場に集まった念に合わせて形を作っているのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()のである。……作為的な空気が高まってきたんですがそれは。

 

 でもまぁ、ある意味ではその話について納得ができるようになった……というのが、『【顕象】も予兆の一つである』という話なわけで。

 

 要するに、MMOなどで『戦士募集、盾技能持ち優遇』みたいな募集を掛けた時に、『ちゃんとプレイヤーを呼べた』のが普通のなりきり組で、『呼べなかったのでお助けNPCをパーティに加えた』のが【顕象】、ということ。

 但し、初期に現れたノッブを見ればわかるが、中身が人ではない【顕象】は、どうにも暴走しやすいところがあるらしく。

 例えこっちに現れて形を持ったとしても、基本的には討伐対象にしかなりえない。……はず、なのだけれども。

 

 

「詳しい理屈はあのグランドロクデナシ(マーリン)に聞かないとわからないけど……居るねぇ、暴走しない【顕象】」

「おのれマーリンんんんん!!今度あったらスキマに放り込んで逃げられないようにしてやるぅぅぅぅ!!」

 

 

 はぁ、とため息を吐けば、ゆかりんがヒステリックな叫びをあげる。

 まぁ、さもありなん。

 必然的に、アルトリアの重要度と厄物度が爆上がりしたわけなのだから。暴走しない初号機みたいなものである。*5

 ……色々扱いが難しいから、結局上には報告してないとかゆかりんが言ってたけど……結果的にはナイス判断と言わざるをえまい。

 それとは別にもう一つ、こっちは結果的に愚かな判断をしてしまった、という烙印を押されてしまった感じのモノがあって……。

 

 

「なりきり郷自体が特殊な場扱いされてるのはまぁ、わかってたけども。だからこそ『予兆が生まれる』ってのは盲点だったなぁ」

「ああああもおおおおおっ!!!」

 

 

 ゆかりんが怒りのあまり、頭を掻き毟っている。

 

 まぁ、気持ちはわかる。

 特殊な場に人々の願いが集まって、その結果として(なにがし)かの姿を取るものだと思っていた【顕象】だが。

 発生のプロセスとしては()()()()()()()()()予兆が生まれ、そこに何かしらのキャラクターの鏡像とでも言うべきモノが降りることで雛形となる。

 その雛形に、キャラをキャラ足らしめる要素を持つもの……楔の代わりとして放り込まれる生きた人々が居れば、それは【逆憑依】となり。

 その楔が無く、代わりに放り込まれるのが人々の念──取り分け、そのキャラを満たし得る念であれば【顕象】となる。

 

 ……そのなり立ち方を雑に見て、互いが双子のような間柄だったと結論付けるのであれば。

 結果だけ見ればこの場所そのものが諸悪の根元、とも言えてしまうわけなのだから。

 ……意味がわからない?では順番に説明を。

 

 まず第一に【逆憑依】と【顕象】は、互いにその中を埋める主要要素(人か祈りか)が違うというだけで、構成要素としてはほぼ同じである。

 そして、どちらも『予兆』を介してこちらに現れる、というのも同じ。

 

 次に、二つともが自然発生するものであるが、その発生する場所(特殊な場)自体は限定されている……というのも同じ。

 外のなりきり組に関しては例外に見えるかもしれないが、実際は()()()()()が特殊な場であると考えれば、そこまでおかしな話でもなくなる。

 

 何故って?基本的に()達の記憶からは、当該の掲示板を利用していた記憶が、かなりあやふやになっているからだ。……要するに、どのタイミングで()()なったのか、正確に思い出せないのである。

 つまり、掲示板でなりきりをしている最中に変化させられていたのだとしても、それを俺達は記憶していないのだ。

 

 俺の認識上では、朝起きたら突然()()なっていたことになってるわけだが。それが真実であるかどうかは、実際には確かめられないのである。──()()()()()()こうなっていた、ということしかわからないせいで。

 なので、掲示板そのものが異界と化し、そこに繋いでいた者達を()()()()変化させているのだとしても、ほとんどのなりきり組には真偽を確かめられないのだ。

 

 数少ない確かめられそうな側のココアちゃんも、実際には病室から忽然と姿を消したあとはこっち(なりきり郷)にいつの間にか居たタイプらしいので、外の組が陥っているであろう『クイック憑依(その場で召喚&憑依)』に関しては、実際に変化する場面に偶々居合わせる以外の方法では確認できない……という寸法なわけだ。

 

 ……予知とか予言とかを上手く使えば行けそうな気がする?

 無茶を言いなさんな、彼等も毎回未来が見えるわけじゃないし、都合よく郷に近い場所で、外の逆憑依が起きるわけでもない。

 五条さんがタイミングよく私達の元に現れたのも、実際には彼が()()()()()()というのが正解らしいのだし。

 

 話を戻して、最後。

 特殊な場が無ければ、【逆憑依】も【顕象】も起こり得ない。

 ……逆に言うと、()()()()()()特殊な場を作ってやれれば、それらの()は生まれ得るということ。

 

 ……要するに、なりきり組の保護のために建設されたなりきり郷は、その実なりきり組達を集めれば集めるだけ、場の特殊さを補強してしまうせいで、結果的に火薬庫みたいなものになっている……ということである。

 騒動の解決どころか、騒動を更に大きくする火薬源となっていたというのだから、ゆかりんの憤りも仕方なし、というか。

 

 

「ええと、つまり?」

「海外で逆憑依の報告例がないのは、単純に向こうに特殊な場が無いから。……霊地なんてモノは海外にも普通に存在するのにも関わらず、それらが特殊な場として扱われていないのであれば……」

「単なる霊地ではそもそもに対象外。であれば、日本がこの現象の震源地かつ感染源であるのは自明の理。そして感染源が外に持ち出される前に保護を行ったことで、いわゆるガラパゴス化を起こした……」

「大雑把に言ってしまえば自家中毒。外に出せぬと保護したからこそ、寧ろ場の強度を含めてこの世界に確立する余地を与えてしまった、と見ることもできる……というわけですね?」

「ぬぐぐぐ……」

 

 

 疑問を呈したマシュに、ゆかりん以外の皆で説明を積んでいく。

 纏めると『保護した生物が実は毒持ちだった』『一つ一つは小さい毒だったが、纏めて保護したために生物濃縮みたいなことになった』『結果として国内に毒物は納められているが、同時に毒が毒を生む悪循環に陥っている』、みたいな感じか。……言い方は悪いけれども。*6

 

 なので、ここの創設者の一人でもあるゆかりんが、不貞腐れてしまうのも無理はない……ということなのだった。

 ……よって、暫く話が滞るのもまた、既定路線なのでしたとさ。うーむなんともはや。

 

 

*1
『オーバーロード』におけるある種の真理。『それ以上苦しむ必要がない』ために、単純な死は慈悲となる……という意味なのだが。ある意味ではどこまでも、ゲーム感覚の台詞だとも言える(死は本来不可逆であり、『真の死』の果てに単なる暴虐よりもおぞましいものが待っている可能性は否定できないため。蘇生が叶う内は真の死ではないとも言える)

*2
『勇者王ガオガイガー』シリーズの主題歌の()()の中で、『ゴルディオン・クラッシャー』を示す言葉として使われるもの。正確には『天罰光臨』だが、咄嗟に変換できないせいか『降臨』になっている歌詞サイトがある

*3
1983年にアスキーから発売されたシミュレーションゲームと同名だが、特に関係はない。割りと近年(2016年)に続編が出ていたりはするが

*4
『恋姫シリーズ』内に存在する文化の一つ。劉備や孔明のような偉人としての名前の他の、その人だけの固有名。なお、読み方が違う(真名(しんめい))と『fateシリーズ』で使われる単語になる。史実の姓・名・(あざな)の中では、本来『名』に相当するもの。逆に言うと、現実でも中華系の人の『名』を悪戯に呼び掛けるのは、失礼にあたるので覚えておくとよい。現実で『関羽』と呼び掛けるのは失礼にあたる(姓と字を合わせて『関雲長』と呼ぶべき。なお、より礼儀を重んじるのであれば、『姓+役職』の『関将軍』の方がよい)が、恋姫世界ではそういうことはない。気にするのは真名についてのみ、である

*5
『エヴァンゲリオン』シリーズより、『汎用ヒト型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオン初号機』のこと。主人公が乗り込む主役機

*6
ついでに言うと、外に広がる前に一ヶ所に集めたために、場の特殊さの比重とでも言うべきものが、郷の付近に固まってしまっている。具体的には日本国内から外れた位置に特殊な場が生まれても、場として重い日本の方に転がり落ちてくる、という状況になっている


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