なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
一般的に想定されるものの反対を取ることで、周囲の意表を突く……。
高貴な身分の者が下々に混ざるのは相当な苦痛を伴うもの、ゆえに彼女にできるはずがない……という予測を読んだ上での逆定石、とでも言うべきか。
……これ、かぐや姫の話も解決しないとややこしいことになるやつじゃね?……と思わず頭を抱えたくなる私でございますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
私は現在、抱えているアライさんがぜんっぜんアライさんらしくないことをスルーしようと頑張ってる最中です。
「へぇー、流石になれてきたかも。……なのだ」
「ふぅん、地上ってこんな感じなのねー。……なのだ」
……スルーしきれねーんだけどなんなのこの人(真顔)
いやもうちょっと繕えやぁ!?語尾と見た目さえあってれば同一人物って流石に今だと無理があるんだけどぉ!?
……とは口に出さない私である。
想定が間違ってないならこの人お姫様だからね、無礼なことすると酷い目に遭うから仕方ないね。
「……?どうしたの?……だ?」
「ああいいえなんでもないですよあははは」
「そ、そう……なのだ」
そこでそっちから不審な目を向けられる謂れはねーんだけど(真顔)
ってかホントにごまかす気があるのか貴様。
……ダメだな、このままだとそのうち叫び出したくなるぞ私。
それは流石にあれなので、話を切り上げ家に帰ることを優先する私なのであった。
「到着ー、着いたよアライさん」
「……?…………あっ、ななななななるほどここがみんなの家なのだ!……家なのだ?」
「首を傾げるんじゃないよ」
失礼でしょうが普通に。
……いやまぁ、月のお姫様からしたら地球の民の家なんて最早ほったて小屋*1みたいなもんかもしれんけど。
というか仮にもアライさんの姿してるんだから、呼ばれたら反応くらいちゃんとしろやぁ!
本当にプリテンダーとして活動する気あるのかテメー。
……え?この子をプリテンダーとして認識してるのは、あくまでも解析した本人とそれを聞いたマシュだけだって?それはまぁ……はい。
「おほんおほん。とりあえずマシュ達がまだ帰って来てないみたいだし、しばらく待ってよっか」
「なるほど、あの子達はまだ……あれ?あの子達私達より先に走ってたはずよね?」
「近道したので」
「なる、ほど?」
いやまぁ、マシュ達側が遠回りをしているというのもあるんだろうけど。
念話で『夕食の食材が足りていないとのことですので、それを町へと確保しに行きたいとのことです』って送られて来てたし。
……まぁ、この子がどんくらい食うのかはわからんけど、一人分食事が増えるってのは中々に大変だからね。
寧ろうちはそういう突発的な自体に対応できるだけマシな方というか。
「……そうなの?」
「月の暮らしに慣れてる人にはわからないかもだけど、基本地上の人達はその日を無事に生活するのもそれなりに苦労するものなのよ」
「へー。……いやまぁアライさんはその辺詳しくないんだけどなのだ」
「……アライさんって月から来たんだから寧ろ知ってなきゃおかしいでしょ」
「…………あれ?」
「首を傾げるな傾げるな」
いやもうちょっと装えるようになってから入れ換われや(真顔)
こんな状況でなにか起きたらどうすんねん……って、ん?
「……賊か?」
「ひっ?!賊!?」
話をしていたので気付くのに遅れたが、周囲に幾つか散らばっている気配を察知。
……わざわざ暗闇に紛れている辺り、賊かなにかかと思ったのだけど……それにしては、なんかこうやけに手慣れた隠行というか。
こちらがそう思っていることを察知したのか、藪から飛んでくるのは寸鉄などの投擲武器。
それらが全てアライさん()を狙ったものであることに気付いた私は、素早く彼女を庇える位置に移動し、腰の刀を一閃。
甲高い音を立てて地面に叩き落とされていく飛来物を視界の端に納めつつ、隠れている相手に聞こえるように大声をあげる。
「我がこの地一番の武芸者と知っての狼藉か!己の行動に理があると思うのであれば姿を現せ、卑怯者共!」
……まぁ、こんな挑発で出てくるとは思えないけど一応、というやつだ。
なんて風に思ってたのだけれど、どうも相手はそう思っていなかったようで。
藪から現れたのは、ある意味予想通りの見た目の存在──すなわち、闇に紛れる黒い装束を纏った忍者達であった。
まさか出てくるとは、と思ってなかった私が困惑する前で、彼らの一群から進み出て来た一人の忍者が、自身の目の前で両手を合わせ、緩く腰を折った。
……要するに礼の姿勢を取ったわけなのだが、その次に飛び出した言葉に私は泡を食う羽目になったのでありました。
「ドーモ、モモタローサン。カグヤスレイヤーデス」
「……アイエエエエエエッ!!?スレイヤー、スレイヤーナンデッ!!?」
……ニンスレやんけ!?*2
いやなんで唐突に忍殺語が飛び出してくるねんおかしいやろがい!?
……い、いや違うそうじゃない。この状況でやるべきことは困惑して焦ることではない。
「……ドーモ、カグヤスレイヤーサン。モモタローデス」
挨拶は大事、古事記にもそう書かれてる()。
ってなわけで先の彼の様子を倣うように礼を返したところ、目の前の人物は感心したようにほぅ、と息を漏らしたのであった。
……うん、冷静に考えるとニンジャスレイヤーサンに似た姿をしただけの、単なる刺客と言うことになるのだろう。
その上で、ニンスレのそれと同じくアイサツ前のアンブッシュをしただけなのだろう、とも。
……うん、そりゃ卑怯者呼ばわりされたら出てくるわ、ニンジャ的にはアンブッシュは正当な権利だもの。*3
いやまぁ、ニンジャじゃない相手にニンジャの掟を持ってくんな、って話なのだが。
「……?我らはカグヤスレイヤーなのだが」
「あ、ニンジャとは別物だと……?」
「然り」
……屁理屈じゃねーかなそれ。
いやまぁ、月にはニンジャはいなくて、それに近い役割を担っているのがスレイヤーだという可能性もなくはないけど。
ともかく、互いに認識の差異があれど、こうして見えたのであればやることは一つ。
「我が食客を害するというのであれば相手になろう。──この刀の錆になりたい者から掛かってくるといい」
「あいや待たれよ」
「……む?」
「互いに認識の差異があるようだ、話をさせてはくれまいか」
「いや差異って……カグヤスレイヤーなんでしょ、貴方達」
「うむ、カグヤスレイヤーだ」
「…………?」
「…………?」
……なんだよこの空白の時間。
いやさっきそこのアライさん()に向けて武器投げてたやん、思いっきりスレイヤーしようとしてたやん?
そんな感じで視線を向けるも、相手のスレイヤーさんは困ったような雰囲気を醸し出すばかり。
ゆえに、再び謎の沈黙が辺りを覆う。
誰かこの無意味な空白をなんとかしてくれ、などと他力本願なことを私が考え始めた頃、そこに救いの手が差しのべられることとなったのであった。それは、
「……あれ?どうされましたかせんぱい?……ええと、そちらの方は……?」
「む、ドウモアラテノヒト。カグヤスレイヤーデス」
「あ、これはどうもご丁寧に。……スレイヤー???」
「なるほど、じゃあさっきアライちゃんが言ってたことは本当だったんだねぇ」
「そこは疑わないで欲しいのだ……」
「いや待て待て勝手に納得しないでマジで」
そう、後ろから追い付いてきたマシュ。
この場の膠着を不思議に思った彼女が口を開き、それに対してスレイヤーさんがアイサツを返す。
無論、ニンスレモチーフと思われる相手がいる上に
あれか、この変な状況の謎を解く鍵はさっき私とマシュが聞いてなかった爺さま達の会話にある、ってことか?
そんな感じに視線が自身に集まるのを感じたらしい婆さまは、なにを困っているのかと言わんばかりに小首を傾げながらこう答えたのだった。
「すれいやーってのは月の言葉なんだろう?確か、その前に述べた相手の敵になる相手を倒す者、みたいな」
「……はい?」
「かぐやの敵となるモノをスレイヤーする存在、ということですか?」
「まぁそういうことになるんだろうねぇ」
……紛らわしいんだけど?!
ってか、それじゃあさっきアライさん()に向けて武器を投げたのはどういうこったい!?
などと思いながらスレイヤーさんの方に顔を向ければ、彼は不思議そうに首を傾げながらこう答えたのであった。
「姫様はあの程度では死なんが?」
「……はい?」
「いやまぁ、地上の民の感性的には守って貰わねば困るわけだが。その辺りを確かめるための攻撃なのだし」
「そうそう。信頼できる相手か確かめたってわけね。……な、なのだ」
「…………はぁー」
思わず深々とため息を吐き出す私。
……ああうん、確かにそうだね。かぐや姫って月の住人で、月の住人って不老不死だもんね。
なるほど命の危機なんて早々あり得ないと。
………………。
「じゃあなんで賊かって怖がってたんだテメェ!!」
「ふがふが、
「ふむ、早速仲良くなられているようで、よきかなよきかな」
その後、しばらくアライさん()を詰る羽目になったのは言うまでもない。
紛らわしいんだよテメー!!