なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……はぁ。まぁ、その辺りはまたあとで考えるわ」
「そうさねぇ、まだ話は長い訳だし」
数分後、どうにか気を取り直したゆかりんが、苦い顔をしながら話の続きを始めようと声をあげる。
彼女が話を止めてしまったのだから、再開の合図も彼女から……というわけだ。
「……そうよね、これ本題に入れてなかったのよね……」
「半分は正解、の正解部分についての前フリだったからねぇ」
はぁ、とため息をつくゆかりんに、こちらもたははと苦笑いを返す。
……そうなのである。前回はなにやら小難しい話を並べ立てていたが、そもそもあれは『謎のマント=桃香』説の前提部分だったのである。
【顕象】と【逆憑依】が根本的には同じという話から飛躍して、なりきり郷の是非にまで話がトんだというのが、そもそもにおかしな状況でもあったのだ。
……まぁ、気持ちはわかるけども。
事態の収拾のために行っていたことが、もしかしたら余計に事態をややこしくしていたかもしれないだとか。……良心的な人物であれば、気に病むのが普通と言うものである。
ともあれ、今回の集まりは目の前の彼女──劉備玄徳こと桃香さんが
そこにたどり着く前に頓挫していたのでは、なんのために集まったのかわからなくなってしまう。
……と、いうわけで。
さっきからニコニコしている桃香さんに、いい加減真相について話して貰おうではないかっ。……火サス*1みたいな展開ですね?
「えっと、それ私崖から身投げとかした方が良かったり……?」*2
「やらなくていいです、冗談をマジに受け取らないで頂きたい」
「そう?良かった。割りと苛烈な人みたいに
などと呟いていたら、深刻そうな表情でヒソヒソと確認を取られてしまった。
……いやちゃうねん。私確かに魔王やけど、クソザコ最弱魔王様やから余所様に迷惑を掛けるような真似をするつもりはあらへんねん。
確かに横におるゆかりんもあわせて悪の秘密結社感凄いけど、「乗れ、乗らなければ帰れ」みたいなマダオムーブするつもりはあらへんねん。*3
「勝ったわね」
「ああ。……ってやらすなー!」
「貴方が勝手にやったんでしょうが……」*4
……と、弁明をしている私を横目に見ながら、ひっそりと斜め後ろあたりに移動していたゆかりんが述べた言葉に、体が勝手に……!*5
まさに暴走、ネタに生きるものはネタに動かされざるをえない……という、悲しい摂理を思い知った瞬間であった。
いやはや、このサングラスとか思わずスチャッと装着しちゃったけど、用意が良すぎて笑えてくるんだわ。
……ってちゃう!
今シリアスゾーンだった!……だったよね?あれ?
……シリアスとはなんだ?どういう効果だ?一体いつ発動する?つまり、シリアスとは……宇宙とは……?*6
うう、ダメだ思い出せない……っ!具体的には課金スキンが『あぶない水着』よりあぶない子の姿しか思い出せない……っ!!*7
「……はっ!?殺気っ!!?」
「うふふ。くうくうおなかがなりました」
「ひぃっ!!?後輩が別の後輩にスライド進化しとるっ!!?悪霊退散っ、悪霊退散っ!!」*8
「……いや、ちょっとの隙に脱線しすぎじゃない?毎度のことだけど」
なお、思い出したモノのせいでマシュがヤバい後輩に変化してしまったので、そのご機嫌取りに時間を費やすことになったのだった。
……うん、まぁそれも
「ごめんなさいね、うちの子達が……」
「いえいえ♪視てる分には楽しいですし、構いませんよ?」
話を聞く、と言っているのに暴走する身内。
その謝罪をするゆかりんは……特になにも求められていなかった!
うーむ、状況によっては「ん?今なんでもするって」みたいなことになりかねないのに、一切その気配もないとかなんていい人なんだ。
……みたいなことを、彼女を疑っていない普通の人々は思うのだろう。
どっこい
……
最初に出会った時、彼女が小声で話していたもの。
……あれは結局
あと、微妙な発言のずれ。……
この会合の始めに彼女が言っていた『純粋な劉備ではない』という言葉と、その容姿、その言動。
ところどころに仄めかされる
すなわち、彼女は【継ぎ接ぎ】の──。
「では改めまして。とある二次創作の劉備……もといただの少女。私はそれを演じたモノということになりますね」
「あるぇーっ?!」
そっちぃっ!?
まさかのキーアん痛恨の読みミス、変にあれこれと知ってしまったせいで、ゆかりんみたいな
これはダサい!
幸いにして口には出していないけど、ほんのり顔が赤くなってる気がするのでバレるのも時間の問題!なーのーでー!!
「おおっと急に寒中水泳したくなったでござる!!」
「えっ、ちょっ!!?」
「ハーレールーヤーっ!!!」
「へ、部屋の中の大水槽に、せんぱいが飛び込みましたっ!!?」
「なんだこいつ、エラ呼吸もできない人類のくせして、いきなり飛び込んできたんだけど?」
「ええええっ!?水槽の中に居た魚が、突然喋り始めました!!?」
「え、なんで!?……あこれシーマンだわ!?いつの間にっ!!?」
「俺もよー知らん。気付いたらいた」
恥ずかしさとーいたたまれなさとー心の弱さとー。……みたいなあらゆる負の感情を込めて
目標地点は部屋の中の大水槽!
なんか見覚えのある魚がいるな、と自身の冷静な部分が察知するのを無視して、そのまま綺麗に飛び込んで水中に潜る!*9
ってかでっかいなこの水槽!私が小さいってのもあるけど、普通に泳ぎ回れそうなんだけど!
あとで片付けとかがあれだけど、今の私には時間が必要なので無視!
ついでに言うなら、ここまで突飛な行動を起こした時に、桃香さんがどういう反応をするのか見たかったからオールオーケー!(苦しい言い訳)
……目指すはボーボボ、とは言わないけど、それを目標に据える程度には、予想外を積み重ねるように動いた結果。*10
一連のわけのわからないモノを見た桃香さんは、面白いくらいに呆けた表情を周囲に見せていたのだった。……こっちに視線が集まってるせいで、誰も気付いてないけどねっ!
「えーとつまり?さっきまでのワケわかんない奇行は、全部桃香ちゃんの反応を見るために起こした故意のもの、ってこと?」
「そうだよ、だからそんな疑わしいモノを見る目で見るのは止めるんだゆかりん」
「……いやその、ついに狂ったのかと」
「酷いっ!!一応私一人が変な行動をするだけに留めてたのに!こうなったらゆかりんも巻き込んで更なる騒動を……!!」
「やめて!!?」
数分後、そもそも暖かい部屋の中の水槽で泳いでいても、それを寒中水泳とは言わんだろう……という、どこぞの赤い弓兵からの呆れ混じりの忠言を、脳内電波的に受け取った私は。
半ば無言になりつつ、水槽からすごすごと出てきたわけなのだけれども。
……うん、そりゃまぁ怒られるよね、というか。
出来得る限り突飛なことを、みたいな思いから『師匠:ボーボボ』みたいなハジケ行動を目指していたわけなのだけれども。
うむ、往年の彼等なら、そもそも文章にすることすら躊躇われる冒涜的所業を、話の
できたとしても精々が、バラエティの笑えない芸人の一発ネタ……みたいなモノなのだから、早々に切り上げられたのは寧ろ幸運なのでは?くらいの胡乱な思考を、脳内に巡らせるはめになっていたのでありんした。
……自分で言っててなんだけど、こいつ頭ちゃんと動いてねーな?
……まぁ、とりあえず桃香さんの意表を突くことはできたようなので、終わり良ければ全て良しの精神である。
どうせ変な奴判定は免れないのだから、これで良いのだ、多分。
「……いや、だからってなにもヨゴレ役に甘んじることもねーんじゃねーの?」
「カッとなってやった。今は反転している」
「反転?……ってうわっ!?カラーリングが変にっ!?目に悪っ!!?」
「ネガポジ反転とか、言われなきゃわかんないでしょそれ……」*11
「そこで即座に理解してくれるゆかりん、正直ちょー愛してる」
「!?……せ、せんぱいっ!!私もわかってましたよっ!?わかってましたからねっ!!?」
などと言っていたら追加の胡乱が投入され、マシュがぐるぐるおめめを晒している。
……うーむぐだぐだ。
天下の大うつけも病弱な天才剣士もいないのに、隙あらば差し込まれるぐだぐだ感には私も大いに困惑である。
なお、おいてけぼりな感じのしている桃香さんであるが、ぼーっとしてるところをジェレミアさんに肩を揺すられ、どうにか意識を現世に戻してきていた。
「えっと、すごいね。色々と」
「そうそう。すごいのだよ色々と。──
「……心配してくれてたんだ?でもわかってると思うけど、そこまで深刻でもないんだよ?私の場合は」
ほう、とため息混じりに吐かれた言葉に、ニヤリと笑いながら声を返してあげれば。
桃香さんは小さく苦笑して、こちらに一礼を返してくる。
そのまま、彼女は改めて、自身の素性を口に出すのであった。
「では改めまして、お初にお目にかかります。私は劉備。本来なれば国を興し、三國の覇の一つを担う宿命を持つハズだった星。……