なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なにももなにも、日の出から数刻の間だけ顔をお見せになる黄猿太陽だけど?」
「いやあんなの見たことないんだけど!?」
「日中は普通なのに日の出だけあんな感じなのですか……!?」
「うん、そうだけど?」
おや、この様子だとやっぱり三人のところだと違った、という感じだろうか。
なんならカグスレさんすらマスクから見える目元が驚愕の色で染まりきってるし。
……ただまぁ、彼らの地元はともかくこの辺りでは一般的な光景なので慣れて頂きたいところ。
我らの家は街から離れてるからまだマシだけど、人口が密集してるところだとそこの住民総出で挨拶をしてるようなところも少なくないし。
「え」
「え、じゃないよみんなやってるよ?だからこそ君達が驚いてることにこっちが驚いてるわけだし」
「ええ……」
見た目がアレなだけで、根本的なところは『お天道様が見てる』だからね、これ。
それも明朝地平線から顔を出す時にしか発生しないし、せいぜい『悪いことをしないように』と毎朝自戒しなおすくらいしか意味はないというか。
なんなら一種のモーニングルーティンって言い換えてもいいかも?
「朝起きてお天道様に挨拶をする。……言葉にすればそれだけのことだからね、別におかしな話でもないでしょ?」
「う、うーん?そう言われてみれば……そうなのかしら……?」
「特別なことではない、と。……いやしかしあれは……」
「というか、そもそも何故私達のところでは観測したことがなかったのでしょう?」
こちらの言葉に納得したような、してないような。
……そんな感じの微妙な反応をする三人に苦笑しつつ口を開く。
一応、マシュの疑問に対して答えのようなものは思い付いていたためだ。
「多分だけど、区切りとその起点の問題かな」
「……区切りと起点?」
「そ。前者は姫様のところに、後者はマシュのところに関係する感じかな」
より正確に言えば月と竜宮城、ということになるか。
前者──区切りに関しては、宇宙における昼夜の区別は難しい、という話になる。
「特に月における昼夜って半月おきでしょ?*1んなものまともに付き合ってられないだろうし、管理された環境に引きこもってるんじゃない?」
「あーうん。ウサギ達はともかく普通の月民はそうね」
「しれっとウサギ達の身体能力の高さが明言された件」
なんやねんウサギってルナーリア族かミンク族かなんかなのかい?……ありそうで困るな……。*2
というか冷静に考えると設定元それっぽいな?ミンク族とか動物の種類を問わない辺りに類似性が見えるし。
……まぁその辺の考察は長くなるので適当に切り上げて、だ。
「要するに、昼夜の区切りの間隔が長すぎるのがポイントの一つだろう、ってこと。……まぁ、それも重要なんだけど、もっと重要なのはマシュの方にも当てはまる条件、って感じではあるんだけどね」
「確かそちらは……起点、でしたか?」
「そ。当たり前だけどこの辺で太陽が上ってくるのは地平線の向こうから。でも竜宮城だとどうでしょう?」
「……なるほど、基本的には水平線の向こうから、ということになりますね」
「そういうことー」
あくまでも地平線を介した現象である、ということになるか。
それなら宙の向こうである月の都では当てはまらないのも当然だろう。
……まぁ、海の向こうは常世の国であるって話と、それから不老不死の民が住まう月の都、ってことで生命観の違いが理由の可能性もなくはないけど。
そんな感じで話を締めながら改めて居住まいを正した私は、そのまま再度姫様に問いかけたのだった。
──実力を見たいって話だったけど、今からやるのかい、と。
「……流石にもうそんな気分じゃなくなったわよ。改めて機会は設けないから日々の中で見せなさい、以上」
「委細承知~」
まぁ、この空気感の中で改めて……って気は流石に起こらなかったようで、ご覧のように適当に流されたのだけど。
……うん、よかったのやら悪かったのやら。
「ごちそうさまでしたー」
「はいお粗末様でした」
朝餉を終え、再び外に出た私達。
とはいえ目的は先程と違い、普通にお仕事のためである。
「仕事と一言に言いますが……これからなにを?」
「うむ、桃太郎としての最終目標は勿論鬼を退治することだけど、生憎と旅立ちのタイミングはまだみたいだからね。となると日々の糧を得るためにあれこれやらなきゃならんのですよ」
「ふむ、道理だな。してなにを?」
「とりあえずは山神様をしばき倒すことからかな」
「なるほどなるほど山神様をしばき倒す……今なんと?」
「いや、山神様を芝狩りに」
「表現がより直接的に!?」
今日のお仕事は最近迷惑になってきている山神様退治である。
周辺の民からも陳情が届く始末なので、いい加減どうにかしようと思っていたのだ。
……いやね?普段の私ならともかく、桃太郎──それも成長途中の彼と混ざったような状態になっている今の私だと、一人で山神様を相手取るのは結構しんどいんだわ。
「その点今なら受けにマシュを、攻めにカグスレさんを導入できるからなんとかなりそうだなーって」
「ねーねー私はー?」
「逆に聞くんだけど、姫様戦えるんです?」
「舐めないで頂戴、ちょっと激しく運動したら息が上がるわ!」
「ダメじゃねーか」
なんで胸を張って主張したし。
……え?姫としての役割を強調するいい機会だと思った?それって自分のことお飾りだって言ってるようなものじゃない?
などと姫様と和気藹々としていると、焦ったような表情を浮かべてカグスレさんが声をあげる。
「い、いやちょっと待て!何故当然のように私を混ぜる、というか山神様?山神様と言ったか貴様?それも山神様を退治するだと???」
「え、なにかおかしなこと言った……ってああ」
なにを慌てる必要があるのか、と首を傾げた私だが……なるほど合点がいった。
「まさかとは思うけど、神様って付いてるから神様退治だと思ってる?」
「……違うのか?」
「山に住まう生き物──特に強靭なそれを神と崇めることってあるじゃない?巨大な猪とか、賢い猿とか」
「……地上の文化としてそういうものがある、と聞いたことはあるが……そういうことなのか?」
「山ほどの巨体を持つともなれば神として崇められるのも納得だよねー」
「……は、ははなるほど。こっちの勘違いであったか。はははは……」
「ですので山神退治、張り切っていきましょうね~」
「なぁ?なぜ先程からキチンと答えぬ?おいこら目を逸らすな違うと明言しろスッゾコラー!!」
はははは。
……はてさて襟元掴んで前後に揺らしてくるカグスレさんはスルーするとして、私は視線をマシュの方に向ける。
戦力として見積もるような発言をしたものの、微妙にあてにし辛いのもまた今のマシュの特徴。
……いやまぁ、今も変わらずタンク役なんだけどね?ただこう、育ちゃんが変な感じで組み込まれてるので扱いに困る部分もあるというか。
このすばで例えるなら、めぐみんなのに中身ダクネスみたいなもんだからなぁ。
いやまぁ性格的と主義思考的な意味であって、スペック的には別物だけども。
その辺どうなんやろなー、と探る目的も含めての視線移動だったんだけど……うん。
「童話における神……ですか。なるほどそれはさぞかし力のあるお方なのでしょうなにせ桃太郎の話でわざわざ名前が挙げられるような方ですからね!それこそもののけ姫での乙事主のような、強靭強大な山の神が現れる可能性はとても高い……はぁはぁ、想像するだけで……キッツ……♡……ああいえ、よく考えたら乙事主さんは既に消費済なのでしたっけ?となれば他の相手が出てくる可能性も高い……いえでもこういう場合は本筋と別物なので敢えて再度現れる可能性も……?……いいえどちらにしても得難い経験となる可能性は高いと言えなくも……♡」
はい。……いや見なかったことにしてスルーしたいんですがそれは()
もはやこれ育ちゃんじゃなくて別ものじゃねーかな?
要素がジョグレス進化してカオスの権化に至り星辰は明後日の方向を指した、みたいな話じゃねーかなこれ???
だってこれありがちなスパさんパターンですらねーよ、なんかもっとおぞましいものへの入り口だよ。
え?流石にまだそこまで言われるような段階じゃないだろうって?
いやちゃうねん、基本キャラぶれをほとんど起こさないマシュがこんなことになってる、という事態がヤバいねん。
これこのまま放置してると本当に本体に悪影響出るんじゃねというか、最悪出なくても変な残存効果発揮しそうというか……。
そんな感じに悟った私が死んだ目になりつつ、救いを求めるように視線を彷徨わせた先にいた姫様はというと。
「諦めたらそこで楽になれますよ?」
「慈愛の含まれた眼差しで言うこっちゃねぇ」
「オラー!!ムシスンナオラー!!」
まるで諦めるなと諭す安西先生のような表情で、正反対の言葉を紡ぎだしたのでありましたとさ。
……なんだこれ地獄かね?(白目)