なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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怒りは全てボールにぶつけよう!

「こうなったら、この悔しさは山神様にぶつけよう!」

「山神様とやらもいい迷惑でしょうねー」

 

 

 うるせー神様ってのは都合の悪いことを全部押し付けるための舞台装置なんだよぉ!!

 ……チガウヨ、って空耳が聞こえた気がするけど気にしないキーアさんもとい桃太郎です。ショギョウムッジョ!

 

 ともあれやることは一つ、周辺区域の農家達に甚大な被害を与えている猿……もとい山神様の討伐じゃい!

 

 

「いや猿なのか山神なのかはっきりしろと!!」

「どっちもですね」

「なぬぅ!?」

「山神として崇められていましたが最近横暴が過ぎて荒神化、結果迷惑な猿と同義扱いされてるという次第でございます」

「ええ……?」

 

 

 まぁ童話世界なのでね、その辺はあんまり小難しく考えるものでもないというか。

 なので退治と言っても懲らしめるって方向であって、仮に切り捨てるとしても命の危険は多分ないげふんげふん。

 

 

「……何故今ごまかした?」

「世の中の童話ってのは思ったよりエグかったりするのでね……」

「おい!?懲らしめるだけなのだよな?!真面目に切り殺そうとか思ってないよな!!?」

 

 

 はははその辺は黙秘デース。

 ……冗談はともかく、目的地にレッツラゴー。ほらマシュもトリップしてなくていいから戻ってきて。え?トリップなんてしてない?うふふふ嘘付けなのだわ。

 

 

「うう……せんぱいからの眼差しが生暖かいです……」

「あー、元気出しなさいよマシュ。命あっての物種?ってやつよ多分」

「うう……慰めるのなら曖昧な言葉を使うのはやめてください……」

「や、それは無理でしょ。だって擁護できるところ一つもなかったし」

「……ぎゃふん」

 

 

 マシュがぎゃふんとか言ってる……珍しい……。

 

 後ろで繰り広げられるコントみたいなやり取りを聞き流しつつ、そろそろ気を引き締めるようにみんなに告げる私。

 周囲はいつの間にか鬱蒼と繁る木々に覆われており、昼前にも関わらず薄暗い。

 しんと静まり返ったその場からは生命の息吹を感じることはできず、されど何者かの視線だけははっきりとこちらの身に突き刺さってくる。

 

 ……すなわち、早速山神様のお出ましというわけだ。

 

 

「我が居城に何用だ人げ」

「チェストォォォォォォォッ!!!」*1

「ぬぉわー!?」

 

 

 のっそりと現れた山神──巨大な狒々の化け物とでも呼ぶべきそれは、その威容に見合った鷹揚な態度と発言でもってこちらへとコミュを取ろうとしてきたが……こっちとしてはそれに付き合う必要は欠片もない。

 というわけで、すかさず知恵捨ての構えで叩き割りに行ったんだけど……ちっ、避けられたか。

 

 

「未チェストにごわす」

「さようでごわすか」

「言の葉交わす前にチェストするんは女々か?」

「名案にごつ……名案?」

 

 

 いや知識を取り戻すんじゃないよマシュ。

 これはチェスト、すなわち知恵捨てぞ。*2

 半端な理性など刃を鈍らせるだけ、余計なことは置いておいてバッサリ切り捨ててこそぞ。

 特にこの山神なんてのは周囲の人に迷惑をかける邪悪な存在、となれば命乞いすら聞かずに荼毘に伏せるが定め……って、ん?

 

 

「ボクワルイサルジャナイヨ」

「……ちっ、命拾いしたな」

(さっきまで山のような巨大さだったのにあっという間に普通の猿の大きさに……)

 

 

 先程の威圧感・傲慢さはどこへやら。

 件の山神様は体を縮こまらせてこちらに媚びるように両手を揉んでいたのだった。

 ……流石にそこまでへりくだられると、こっちとしても無下にはできない。

 

 そんなわけで、件の山神様は経過観察もとい私らと一緒に連行ということに相成ったのでありましたとさ。

 

 

「へぇ、それがこのおサルちゃんだと?」

「誰がおサルちゃんだ、我は人の畏れを」

「………」

「ヘェ、アッシハシガナイサルデシテサァ、オバアサンニオカレマシテハオヒガラモヨク……ヘヘヘ」

「あらまぁバナナ食べる?」

「タベ……いやなんでバナナが???」

 

 

 童話世界で細かいこと気にしちゃいかんよ、と猿の首元に添えていた刀を引いて鞘に戻す私。

 ……なお、一連の流れを見ていた姫様はなにやら不満顔である。

 

 

「だってさっき言ってた話と違うじゃない。貴方一人だと大変なんじゃないの?」

「それに関してはこのおサルさんがそこまで脅威じゃなかったというか」

「……アッシナイテイイッスカ」

「よくわからんが笑えばいいと思うぞ」

「ヘヘヘヘヘ……(涙)」

 

 

 いや実際もっと大変というか、おサルさんがこんなにあっさり降参するとは思ってなかったというか。

 そのお陰で余計な仕事まで増えてるしね?

 

 というのもだ、こうして生かしてしまっている以上、無責任に放逐するわけにもいかない。

 バッサリやってしまうのが簡単、というのはそういう意味でもある。……後腐れなく倒してしまった方が後先考えずに済む、とでも言えばいいのか。

 

 このおサルに関してはこっちがその気になる前に命乞いしてきたものだから、そのきっかけからして覆してきたというか。

 ……そういう意味では中々に強かなやつと言えなくもないかも?生存に目的を即座に割り切って媚を売る、とか中々できることじゃないよ。

 

 

「ただまぁ、実のところ別に相手ってこのおサルさんだけじゃないので……」

「エッ」

「なんでお前さんが驚いてるねん。……え、まさかあの辺りで自分が一番上の存在とでも思ってたの?んなわけないじゃん」

「アッアッナンデモナイデス……」

「……今明らかにその子のプライドが音を立てて崩れて行ったわね」

 

 

 その辺がカグスレさんの言葉に返事できなかった理由というか。

 ……というのも、最近この辺りで話題になっているのはこのおサルさんみたいなやつだけじゃなく、普通に野生生物がわけのわからん規模まで成長した……みたいなのも含まれているのだ。

 普通そういうのって基本噛ませ犬になるんだけど、このおサルさんを見てからだとあながちそうでもなさそうというか……。

 

 うん、まず間違いなく一部の強化野生生物達はおサルさんより強いだろうな、みたいな?

 そこら辺をおサルさんもこっちの発言から気付いたのか、こうして愕然としてしまっているってわけである。

 ……まぁ、自分の実力を勘違いするよりは遥かにマシ、ということで……。

 

 

「そういうわけだから、本来ならおサルさんを切り捨ててたらそのまま他のヤツのところに向かう予定だったんだよね。少なくとも昼前には二か三くらいは回る気分でいたんだけど……」

「ああなるほど、こうして降伏されてしまった以上は一度連れ帰る必要がある、と」

「捕虜の扱いを間違えちゃいけない、ってことだね」

 

 

 うむ、それなりに時間はかかるだろうけど、少なくとも今みたいに一度戻る必要はほぼなかっただろうなー、みたいな?

 そんなわけなので、実のところおサルさんはこっちにわりと被害を出しているのだ。少なくとも、あのまま戦っているよりは。

 

 

「……はっ!?なるほどそういうことか、こうして即座に降伏することで扱いを酷くさせないように牽制しつつ、かつ自身のために使う時間を捻出させることで他の奴らの有利を引き出そうとしている……?!仮にそうだとするなら見誤っていたな、流石の策士だと認めておこう猿神よ!」

「エッアッハイソウイウコトデオネガイシマス……?」

 

 

 止めてやれよ(真顔)

 何やら勝手に悟ったカグスレさんが語っているけど、目が泳いでるおサルさんを見る限りそんなつもりは欠片もないと思うよ……?

 まぁ、下手に舐められるよりかは本人の扱いがマシになるだろう、って点ではいいのかもしれんが。

 私としても、ここから下剋上とか狙うつもりでもなければ特になにをするつもりもないし。

 

 

「……オヒトツキキタイノデスガ、カリニゲコクジョウネラッテタラワタクシメハドウナッテイタンデショウ……?」

「その首と体が泣き別れしてただろうね」

「アッハイ」

 

 

 いやまぁ、そんなことをするほどに頭が悪いとも思ってないから、あくまで仮定に仮定を重ねた話だけど。

 ……でもまぁ、カグスレさんの発言にも肯定できる部分がないでもない。

 

 

「と、言いますと?」

「時間の浪費部分のことよ。別に山神達に連携の気持ちとか欠片もないだろうけど、結果として他の面々に有利を与えるような動きになってるのは間違いないってわけ」

 

 

 例えば、当のおサルさんは準備不足がミスの一つとして考えられる。

 仮にも神を名乗る者なのだから、自身の場を構築することは不可能ではないはず。

 にも関わらず、彼処にはそこまで徹底した結界は敷かれていなかった。

 

 こちらを甘く見ていたというのが一番の理由だろうが、そもそも結界を構築するのにはそれなりに時間が掛かる、というところも大きいだろう。

 私達の接近を察知してからでは十分な陣地を築く時間が足りなかった、と言えばわかりやすいか。

 

 

「裏を返すと、こうしておサルさんが──他からしてみれば安否不明になって、かつそこからそれなりの時間が経過してるってことになるわけで。……まともな警戒心を持つ相手なら、普通は襲撃者に対しての十分な準備を整えようとするものじゃない?」

「なるほど、言われてみれば確かに」

「まぁ、神の傲慢としてそんなことできるか、って頑なな態度を取るやつもいるだろうし、さっきの強化野生動物とかはそもそも結界なんて作れないでしょ、って話になりそうではあるんだけど」

「……とりあえず、さっさと家を出て仕事に戻った方がいい、ってこと?」

「いんや?焦っても仕方ないから悠々と向かおう」

「んん?」

「具体的には一週間後くらい」

「…………んん?」

 

 

 あれだよ、向こうの都合にあわせる必要はない、ってこってです。

 そんなわけで、私は新しく加わった猿を連れて、婆さまの洗濯の手伝いに動き始めたのだった。

 

 ……そういえば猿って、この子本来のお供だったりするのかね?

 

 

*1
薩摩方言の一つにして示現流の掛け声である『猿叫』のこと。『チェーするぞ』(叩くぞ・やってやるぞの意味)という言葉が短くなった結果こうなった、とする説が有名

*2
山口貴由氏の漫画『衛府(えふ)の七忍』において登場する台詞。『チェストとは知恵捨てと心得たり』というもの。なお、チェストの語源として『(剣以外に向く雑念、という意味の)智を捨てよ』が訛ったものである、とする説があるので別に突飛な台詞ではなかったり

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