なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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焦らす焦らすよ時代を焦らす

「こんなことしていていいのでしょうか……?」

「心配性だなぁマシュは、理由は道すがら説明したじゃん」

 

 

 洗濯物を一つ掴んでは洗濯板を使ってごしごしと洗っていく私達。

 生憎この時代に石鹸などという便利なものはないので、あくまでも水に浸けて洗うだけである。

 ……いやまぁ、それだけでも結構落ちるんだけどね、汚れ。

 流石はあらゆるものが溶け込むとされるお水、別に石鹸なんてなくてもなんとでもなるんや!けど油は勘弁な!

 

 ……まぁその辺はともかく。

 洗い物といっても別に技術が求められるわけでは……いやまぁなくはないんだけど、話しながらやるくらいの余裕すらないわけでもないのでこうして会話も弾む……弾む?もの。

 ゆえにマシュが疑問を溢しながら頻りに首を傾げる、などという状況にも付き合う余裕があるわけなのでございます。

 

 あ、一応説明しておくと現在洗い物をやっているのは四人+一匹。

 婆さまに私、マシュにカグスレさん、それから新人のおサルさんである。……姫様?それって姫の仕事じゃないよね、って見学してますよ。

 働かざるもの食うべからず、って注意したら『私、別に食べなくても死なないしー?』って返されたため仕方なく放置である。……不老不死ってそのレベルで不老不死なんっすね……。

 

 

「私は食べねば普通に餓死するので手伝うぞ。そもそも私はウサギだからな」

「うーんなんかちょくちょく爆弾発言が飛んでくるぞー」

 

 

 なお、カグスレさん本人は食わねば餓え死ぬので手伝う、とのこと。

 ……どうも彼、ウサギの中から取り立てられた存在に当たるそうで、種族としては『犬』に当てはまるウサギなのだとか。

 ついでにいうと、現在周囲にて身を潜めている面々も同じ……とのことである。

 

 これには驚くと同時、考えてみればそれもそうかと納得する私であった。

 幾ら不老不死とはいえ身体スペックはそこまででもない月の民達に護衛をやらせるより、不老不死ではなくとも圧倒的な能力を持つウサギ達を護衛に据える方が遥かに理に叶っている。

 ……となれば、必然彼らがウサギであることには気付けるはず……というわけだ。

 

 まぁ、個人的には猿より先に登場してた犬枠、ってことでカグスレさんまさかのお供第一号だったのか、という驚きの方が強いのだが。

 ……ということは、そのうちお供の同行権を賭けて姫様とバトらないといけなかったり?

 

 

「貴方がなにを言ってるのかよくわからないけど……仮にそんなことになったら私は棄権するわよ。さっきのあれこれで悟ったけど、貴方不死殺し系の武器なり技なり持ってるでしょ」

「エッ」

「はっはっはっなんのことやら」

「エッ」

 

 

 ……いちいち驚き顔を挟むんじゃないよそこのおサル。

 っていうか仮に持ってたとしても鬼以外には使わんよ、私の役割桃太郎(オーガスレイヤー)なんだし。

 ともあれ、仮に争うってなったらひたすら不利だから遠慮します、と告げてくる姫様は中々に冷静だと思います、はい。

 

 ……んで、ここまで語ったところでマシュの話に戻ってくるんだけど。

 直近で起きているイベント……もとい山神達の討伐をしばらくスルーする、という現在の選択を彼女が疑問視するのはわからないでもない。

 わからないでもないが、今の話みたいに理由を説明したあとなので拘られてもなぁ、という気持ちである。

 

 

「確か、山神達は一部を除いてとても用心深く、その一画であったおサルさんが行方不明になった以上は自分から打って出ることはせず、あくまでも自身の拠点で迎え撃つことを選ぶ……でしたか?」

「そうそう。彼らが神を名乗っているとして、けれどどこでもその力を奮えるわけじゃあない。なにせ日の本の国において一番影響力のあるのは天照、すなわちお天道様だからね」

「朝日が昇ってそれが地平線の向こうに落ちるまで、その間ずっとかの神の影響下であるというわけだな」

 

 

 その通り、とカグスレさんの言葉に頷く私。

 おサルさんのとこの縄張りが薄暗かったのは、極論を言えばお天道様──天照の影響を減らすことが一番の目的。

 言い換えると、例え十分な時間を掛けて陣地や結界を作ろうが、そこに十分な日の光が届くのであれば邪魔される可能性が高い、ということでもある。

 そのくらい、かの神の影響力は強いとも言えるわけだ。

 ……え?その結果が朝のあれなのかって?申し訳ないけどノーコメントで。

 

 

「まぁともかく、そこらの山神──まつろわぬ神だと好き勝手できるような状況ではないってのが一つ。それから好き勝手するためにはどう足掻いても引きこもって日の光を届かないようにしないといけない、ってのが一つ。……それらを総合すると、一先ず被害を減らしたいだけなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってだけで事足りるんだよね」

「その事実の伝達を部下達に頼みたい、と言われた時は流石に驚いたが……遅滞戦術を前提にすればなるほど、となるのも道理よな」

 

 

 言い換えると、どんなに意気がってようが結局のところ『お上から見えないような場所でふんぞり返っているだけ』というのが大半の山神達の実情なわけだ。

 ……で、それらの条件に当てはまらない原生生物の強化版に関しても、対処としてはそう変わらない。

 

 

「まぁ、そっちは畑とかに降りてくる可能性があるから、その辺をカグスレさんとこの部下に見張って貰う必要はあるけどね」

「生き物としての権利を主張してるだけだから、周囲の状況を見て行動を控える……って感じにはなり辛いってことよね。……まぁ野生動物なりに危機を察知することはできるからこそ、お守りにあんなもの持たせたんでしょうけど」

 

 

 はぁ、とため息を吐きながらこちらに呆れたような眼差しを向けてくる姫様。

 ……そう、実のところカグスレさんとこの部下達の実力がよくわからんので、保険としてちょっとしたお守りを持たせておいたのだ。

 

 彼らの実力がそこらの野生動物を歯牙にもかけないレベルなら取り越し苦労というか杞憂というかになるが、仮にそうでもなかった場合にも場の停滞くらいはこなせるように……と思って作っておいたお守り。

 その名も『鬼哭啾々ノ守リ』。『神断流』零禅式の一である『鬼哭啾々』の効果を付与したお守りである。

 

 

「見ているだけで産毛が逆立つというか、背筋が冷えるような逸品だったわね……」

「確か……物理的な圧力を持つほどに高められた殺気を立ち上らせることで相手を萎縮させる……みたいな技でしたか?」

「大雑把に言うとね。簡単に言うと滅茶苦茶近寄りたくない気配を放つ石を使ったお守り、ってことになるのかな?」

 

 

 自殺の名所だったり交通事故の多発する場所だったりで、なんとなく感じてしまう嫌な気配。

 それに似たものを自身の攻撃や武器などに付与する技術、それが『鬼哭啾々』である。

 

 その性質ゆえ、迂闊に対峙するとまず逃げる以外の選択肢が思い浮かばなくなるそれは、野生動物相手ならば強力な獣避けとして効果を発揮する。

 半端な殺気なら寧ろ相手を興奮させるだけなので、それこそそれを感じた途端に『次の瞬間自分は死ぬ』と錯覚させるほどに濃縮したそれは、ともすればそれを持っている方──それに守られる側の方にまで負担を強いる可能性の高い物体と化していた。

 

 

「まぁ、予測される相手を思えばそれで適正って感じだったから、部下の人達には我慢して貰うしかなかったんだけど」

「なに、あれはあれでよい修行になろう。何分月において命の危機など基本感じるものでもないのでな」

「あーなるほど、月の民達で殺せる気はしないから必然ウサギ同士の戦いでもないと感じないけど、原則ウサギ達は敵対する……もとい殺したいほど相手を憎む、みたいなことがないから殺気もあんまり浴びない、と?」

「然り」

 

 

 ……まぁうん、わからないでもない。

 今回は月のごたごたゆえに多少なりとも殺気を浴びる機会もあっただろうが、それでも()()()()()()()()()()()()()ような経験なんて基本できるはずもない。

 その点を踏まえると、件の強化原生生物相手でも隙ができる可能性はなくもない、ってわけか。

 

 ……本来のスペック差を思えば滅多にあることではないが、絶対にジャイアントキリングが発生しないほどの離れ方でもない。

 ならば、油断したうえで酷い致命傷を受ける可能性もなくはあるまい。

 その辺を考慮したうえでカグスレさんも今回の話を受けた、ということか。

 

 

「普段は私がそういう相手をして気を引き締めさせるのだが……うむ、あれがあるのならばそういうのは必要なさそうだ」

「しれっと今後の教育にも使うって言ってて草」

 

 

 あれだな、それならもうちょっと段階踏んで殺気を込めたお守りとか作ってもいいかもしれない。

 初めはそよ風のようなものから始まり、最終的には台風レベルであっという間に正気を削られるようなやつにする、とか。

 こういうのって感覚を鍛え続けることが必要だから、その辺検討してみるかねぇ……。

 

 

「……一応言っておくけど、ほどほどにしときなさいよ」

「いやなに、ちょっと修行のお手伝いをね?あと仮に死んだとしても精神的な死なら回復できるから任しておいて!」

「なにをしれっと蘇生するとか言ってるのよ貴方は……いや待ちなさい精神的な死???」

 

 

 なにそれ、と困惑する姫様を他所に、カグスレさんとがっちり握手。

 部下や弟子には多少スパルタなぐらいがいい、特にそれが命に関わるものならば……という共通認識を得たというか?

 

 なお、婆さまはこの会話中まったくこっちの発言に割り込むことなく、黙々と服を洗い続けていた。

 ……これが単に真剣になってお仕事してるだけならいいんだけど、たまーに爺さまの服とかを無表情に眺めてるものだから反応に困るんだよなぁ……。

 

 

「……?服を見つめていらっしゃる……はっ!?まさか!?」

「言わせねーよ!?」

 

 

 んもー、マシュってばすぐはっちゃけるー。

 不純な動機で洗い物しようとしてんじゃないよ、と彼女に釘を刺しつつ、相変わらずちょくちょく再起動と停止を繰り返している婆さまに視線を向け、深々とため息を吐く私なのでありました。

 ……うん、さっさと旅に出たいね……(白目)

 

 

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