なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、特に問題も起きずに早一週間。
どうやらこちらの予想通り、相手側はこちらを警戒しまくって特に打って出ることはしなかったらしい。
「ですがそれは、自身の陣地を万全に整えている……というのと同義ではないでしょうか?」
「うんまぁ、最初のうちはね?」
「……はい?最初のうち?」
「まぁ細かいことは向こうに着いてから、ってことで。じゃあそういうわけだから、爺さま婆さま行ってきまーす」
「はい行ってらっしゃい。怪我をせんよう気を付けてなー」
「お土産は期待してませんからねー」
「はーい」
すっかり若い姿が板に付いた二人にそう告げ、もはやいつもの面子と化した面々で外へと繰り出した私達。
……うん、変わらず若いまんまなんだよね、この二人。
私のおにぎりによって変化したわけだし、それが消化吸収されたらそのうち元に戻るのかなーって思ってたんだけど、その兆候すらないというか。
一応、
特にこの世界、ちゃんとした現実……の過去を元にした場所ではなく、あくまでも童話の法則が支配している世界である。
それゆえ、仮に二人が若返ったとか言っても訝しまれるのではなく、普通に納得される可能性がそれなりに高い。
……納得されるだけならいいが、自分達も若返りたいとか言われたら困る。凄く困る。
「地方都市の高齢化問題解決に若返りを持ち出せばいい、とか言われたら滅茶苦茶困るんだよなぁ」
「そもそもの話、若返ってもその地に残り続けて貰えるかどうか、というのも問題ではないでしょうか?」
あーうん、その辺どうなんだろうね?
見た目だけ若返っても中身は同じなのだから、地方で生きてきた価値観が抜けたりいきなり変化したりするわけではない以上、今までの生き方を変わらず続ける……みたいな人が多い気もするけど。
無論、地方に良い思い出がなかったりだとか、はたまた他にやりたいことがあるとかの理由が重なって、若い人達と同じ様に地方を出ていく……って人も多いでしょうけど。
他所でやっていけるだけの基盤がないから地元に留まっている、って人もそれなりにいるだろうし?
……いやまぁ、現実には若返りなんてできないというか、できるとしても限られた人にしか提供されなさそうな辺り、仮定としても微妙な話題であることは事実なんだけど。
ってか、仮に国が主導して若返りをー、なんてことになったら無理にでも地方に留まらせようとする、なんて歪なことになりかねないし。
「はてさてそんな感じで暇潰しの話も終わったわけなんだけど……」
「あ、今の暇潰しの話だったのね。いきなり月の都の話をし出したのかと思ってたわ」
「唐突に気になる情報持ってくるの止めません?」
いやまぁ、言われてみればなるほどってなるんだけども。
月の民達は不老不死、若返っているわけではないが
無論、優れた独裁者が永遠に君臨できるのならそれはそれである種のユートピアである、という論調もわからなくはないのだが。
「不老不死って大抵精神の不変性とセットなこと多いじゃない?その辺
「精神は肉体や魂とは別物である、とする説も根強いですね」
「うむ、不老不死って基本肉体と魂に関わるものだから、精神面については保護されてないって解釈するところも多いよね」
そういう場所では不老不死は悪いものとして扱われやすい、と。
……他が不変なのに精神だけ劣化するとなれば、醜い怪物に成り果てる可能性が高いと見ている感じだろうか。
まぁ、私としてはそんなもん確かめようがない、と締めたくなるんだけど。
哲学的ゾンビというものが思考実験とはいえ存在しうる辺り、人間は思った以上に精神というものの実在を信じきれてないような気がするし。
……その辺りは語り始めると長くなるのでこの辺で中断するとして。
話を戻すと、どうにも現代の環境と月の都というのはわりと近しい状態になっているらしい。
「思うにその辺が姫様の逃亡理由だと思うんだけど……その辺どう?」
「ははは黙秘しまーす。……
「あ、じゃあ結構です」
「そこは最後まで付き合うよ、って言う所でしょうがぁぁぁっ!!!」
はっはっはっ嫌です(即答)。
ただでさえ不老不死で倒しにくいうえに、なんなら精神の不変性まで混じって改心も難しい……って感じなんでしょ?
そりゃまともな精神なら深入りしたくねーってなりますわ。……いやまぁ、月にも鬼がいるって時点で桃太郎としては行かなきゃいけないんだろうなー、って気分でもあるんだけど。
「でもそれはそれ、これはこれ。こっちであれこれ準備する分には文句言わないけど、あっちでどうこうしようってのは鬼退治以外手伝うつもりがありませーん」
「言ったわね、じゃああっちであの鬼が下剋上起こして月の王になってたりしたら遠慮なく手伝って貰うからね!」
「……アネゴハナンデイマフラグヲタテタンデス?」
なんでだろうね(白目)
しれっととんでもねーこと言い出した姫様に思わず天を仰ぐ私である。
……おサルさんの言う通り、どう考えてもフラグでしかねー。
あれこれ準備を整えて月に向かったら、いつの間にか鬼軍に編成し直された月軍と戦う羽目になりました、とかになりかねねー。
いやまぁ仮にそうなったらもろともに全て粉砕するだけなのだけれど、その場合月の文明は残るんだろうかって疑問が。
……少なく見積もっても月が割れるよね、それ。政治的にではなく物理的に。
「……え?」
「だって件の鬼って武道派じゃん?ってことは少なくとも
「……不死を封じるには殺し続けるのが一番。そこまでやっても改心が望めぬのであれば、もはやそれを続けて封印のようにする他ないということだな?」
「まぁそういうことですねー」
もうその時点で割れてますよね、こっちは政治的に。
そんなところにわざわざ乗り込む姫君+地上の民達、そりゃまぁたどり着く前に撃ち落としに掛かられても文句は言えないというか?
……結果、無事に向こうにたどり着けても始まるのは完全な全面戦争である。議論の余地もないよネ!
「そうなりゃ始まるのは大戦争、相手が鬼ってんなら
「……どうしようカグスレ、急速に帰りたくなくなってきたわ。ってか月の爺共のために帰る意味とかなくない?」
「姫様、月には爺共だけではなく他の民も暮らしていますので……」
「言ってみただけよ本当に帰らないわけないでしょちくしょー!!」
……おや、意外と責任感あるのね。
ってことはやっぱり逃げてきたってのは理由の一つ、本題は月でのクーデターのために戦力を集めるため、ってことになるのか。
まぁ、今の流れだと姫様がクーデターする前に月の鬼アンドウサギ達にその役目を取られかねないみたいですけどね!
「そうなったらおしまいでしょうが!くそう、こうなったら地上の荒神なんぞこてんぱんにノしてとっとと桃太郎達を連れ帰るしか……っ!!」
「姫様姫様、そもそもこの荒神共は私にとっても通過点でございます」
「ああそうだった!仕方ない地上の鬼共も綺麗に片付けるわよ!可能な限り早急に!」
「へい言質取りましたー」
「はぁ?言質ってなに……ってあ」
掛かったなかぐや姫、そこは私の逃走経路……もとい罠の内だー!!
いやー、いい加減こっちとしても旅立つ気ではあったんだけど、一先ず犬と猿っぽいのは見つかったけど、最後の一匹である雉っぽいのがどうしても見つからんのよねー。
いやまぁ、吉備団子も渡してないのにそいつらお供にできてるのか、って話でもあるんだけど……そもそもそれっぽいのが見つかってないのでそれ以前の問題というか?
そうでなくとも、姫様が化けてた相手であるアライさんだとか、ここに来てから一切顔を見せていないBBちゃんの捜索とかもあるわけで。
……うん、ぶっちゃけると私としてもこの辺で燻ってるわけにはいかなくなったというか?
「そういうわけで、傍迷惑な荒神様には早急に鎮まって頂く必要があるんですのよ」
「じゃあ何故、一週間もの間放置されたのですか?ここから早々に相手を片付ける……などということができない限り、苦戦し時間を浪費することは目に見えているように思いますが。……苦戦?」
「シリアスするんなら最後まで保って欲しいんだけどマシュ」
んもー、最初はせんぱいの迂闊さを嗜めるつもりだったのに、そこから『すなわちここから待ち受けるのはめくるめく苦戦の数々……?』って気付いて目を輝かせるー()
……まぁ確かに?マシュの言い分も間違ってはいない。
荒神達は現状そこまで能力を発揮できないが、それでも時間を掛けて陣地を準備すればその限りではない。
限りではないんだけど、実のところそれには一つ重要な問題があるわけでして。
「はい?問題?」
「まぁ、向こうとしてはそんなことになるとは思ってなかった、ってことなんだろうけど……論より証拠だね、丁度一番近い荒神の結界にたどり着いたし、様子を見てみよっか」
「えっあっちょっ」
話している内におサルさん以来の荒神達の結界にたどり着いたため、特に躊躇することもなくその中に入っていく私。
そこには神の力によって形成された陣地が、侵入者を撃滅せんと待ち受けて──、
「あ、あれ?」
「なんか、すっごいみすぼらしいんですけど」
──るなんてことはなく。
そこには枯れ葉の舞う寂しげな光景だけが広がっていたのだった。