なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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二章 焔と渇望、ネズミの足は何処にいく?そりゃもちろん帰るんだよ(小並)
物語性というのはなりきりだと失敗要素である


 モノを書き始める時、何も思い付かないと苦しい思いをしたことはあるかい?

 頭の中が真っ白になって、さっきまで考えていたことが急に思い出せなくなった事は?

 スランプと言うべきか、はたまた単に調子が悪いと言うべきか。

 原因の解明を急ぐばかりに、色んなモノを投げ捨ててしまってはいないかい?

 

 ()()はまぁ、こういうお話。

 続きを紡げなくなった物語り(ストーリーテラー)に、存在価値はあるのか、そういうことを問うた者が居たという、それだけの話だ──。

 

 

 

 

 

 

「せんぱい?大丈夫ですか?」

「……んあ?……ああ、寝てたかな、今」

 

 

 マシュの声を聞いて、意識が戻ってくる。

 ……寝不足のつもりはないのだけど、どうにも最近よくレムレムする感じだ。マシュのせんぱい(先輩)呼びに引っ張られていたりするのだろうか?*1……この体、そういう所があるしなぁ。

 

 深呼吸をして眠気を飛ばす。

 これから真面目……真面目?な話なのだから、しっかりしなければ。

 

 日付的には、あの慌ただしい始まりの日から大体一ヶ月後。

 色々と都合が付かないまま後回しになっていた、ゆかりんからの説明の続きについての話が来たのは、ここでの暮らしにもいい加減慣れ始めた、そんなある日の昼下がりのことだった。

 

 

「前回の説明会では、レベル2と呼ばれる区分の人々の事についてまで教わったのでしたよね?」

「そうだね、それと単語として聞いたってのも含むのなら、マシュが別の日にレベル5ってやつの存在を聞いてたんだっけ?」

「はい、その通りです。本来の私の区分はそこになるはずなのですが、現在は状態が安定しているので警戒するレベルには値しない──と八雲さんは仰っていました」

 

 

 マシュからの言葉にふむ、と頷く。

 ……始まりの日、彼女がその体より立ち上らせていた、白い蒸気のような何か。

 私はあれを魔力だと思っていたけれど、もしかしたら違うのかもしれないな、と今更ながらに思っていたのだった。

 じゃあなんなのか、って聞かれるとちょっと困るんだけどね。

 

 

「あ、マシュさんにキーアさん、こんにちは。八雲さんなら中でお待ちですよ」

「こんにちは毛利さん。……はい、ご丁寧にありがとうございます」

 

 

 そんな風に会話をしながら最上階まで上がると、『スレ主部屋』の前で門番のように立っている毛利さんの姿が見えた。軽く挨拶を交わし、そのまま中に入れて貰う。

 

 

「はーい、こんにちは二人とも。元気でやってるみたいで私も一安心だわ」

「はい、こんにちは八雲さん。そちらも、お変わり無いようで何よりです」

「一月丸々待たされるとは思ってなかったけど、元気そうで何よりだよゆかりん」

「あ、あははは……まぁ、待たせちゃった事については、素直に謝るしかないわね」

 

 

 中に入れば、この前のソファーへとすでに座って待っていたゆかりんが、こちらの姿を確認したのち右手を軽く上げて挨拶をしてくる。それにこちらも軽く挨拶を返して、そのまま彼女の対面へ。

 そうしてソファーに座ると、深緑の髪と左目の変な仮面のような形のモノクルが特徴的な男性が、私達の前のテーブルに紅茶を差し出してくるのだった。

 ……いや、なんでジェレミアさんがここに?そんな困惑混じりの視線を向ければ、向けられた当人は穏やかな笑みと共に、こちらへと声を返してくる。

 

 

「おや、私のこともご存知でしたか。私はジェレミア・ゴットバルト*2。紫様の元に仕える執事の一人にございます」

「因みに彼、あんまり再現度高くないからサザーランド*3とかは持ってきてないわよー」

「は、はぁ……?」

 

 

 足りてても持ってこれるかはわかんないけど、というゆかりんの言葉に困惑するマシュの隣で、私は静かに思考を巡らせる。

 ……ふーむ、ゆかりんとジェレミアさん、この二人には特に関係性とかは無さそうだけど……、確かジェレミアさんは軍人で……作中で謂れのない風評によって立場を追われた人物だったような……って、あ。

 気付いてしまった、ジェレミアさんがなんでここに居るのかを。それを確かめるために、ゆかりんの近くに控えているジェレミアさんに声を掛ける。

 

 

「もしかしてなんだけどさ……?」

「……なるほど、お気付きになられましたか。不肖ジェレミア・ゴットバルト、紫様より『ちぇん』*4の名を賜っております」

「やっぱり、『オレンジ()』……」*5

 

 

 なんでまたそんな回りくどいことを、という目でゆかりんを見れば、意外と見付からなかったのよ『ちぇん』って名前の子、と返されてしまった。

 ……いや、チェンって響きだけなら中華系のキャラを探せば居るでしょ?と思ったのだけど、生憎と彼女が探した中には居なかったのだとか。

 でもさ、だからってジェレミアさんをちぇん扱いは……ねぇ?

 そんなことを思いながらジェレミアさんに視線を向けるものの、彼は穏やかな笑みを浮かべたままだ。……うーん、忠義の騎士……。

 というかなんだこのメンツ、近接戦闘重視的な選出基準なのかな……?

 

 

「キーアちゃん?色々と気になるのはわかるのだけれど、話を進めさせて貰っても良かったかしら?」

「ととっ、ごめんごめん。はい、構わないですはい」

「もう……えっと、確かこの間はレベル2についてのことまで、説明したのだったわね」

 

 

 こちらを咎めるようなゆかりんの言葉を受け、改めて以前の話を思い出す。

 レベル1は『知識も技術も足りていないが、何か一点でキャラとして成立している』人達。

 レベル2は『人外系・獣系であるために意思疎通に問題がある』人達。

 

 ……問題児レベルと言っていたけど、ここから上のレベルの者達が、どんな風に変化というか区分されているのか……正直ちょっと、戦々恐々としているところが無くもなかったり。

 何せレベル1も2も、極論を言えば『意思疎通に難がある』というのが一番の問題のように思えるし、それって問題児扱いとしては、なんだか程度が低いようにも思えたのだ。

 

 そんな事を思う私の前で、ゆかりんが口を開く。

 ……あれ、今回は実例は出てこないんだね?なんて風に私が思っていると……。

 

 

「じゃあ早速レベル3の紹介ね、えっと静謐ちゃん*6にアークナイツ勢*7にいーちゃん*8に……」

「いやちょっと待って」

 

 

 ──ホントに問題児じゃねーか!?

 あげられたメンバー的に、居るだけでヤバい奴らじゃねーか!?なんて風に思わず詰め寄る私に、ゆかりんはあははと空笑い。

 ……だから実例が来なかったのか、なんて思いながらソファーに座り直すと、ゆかりんは一度咳払いをしたのち、改めて話の続きを紡ぎ始めたのだった。

 

 

「静謐ちゃんに関してはとりあえず、汗を掻くだけでもマズイから、似たような体質の子達と一緒に原則隔離塔に居て貰ってるわね」

「あ、ああ、なるほど。一応一人とかじゃないんだ……いやちょっと待った、その隔離塔どくどくタワー*9みたいなことになってない?」

空調(外に排出する空気)の部分に関しては、ガラルマタドガス*10君とかが居るから問題はないわよ?」

「そ、それはつまり、空気以外には問題がある……と言っているようなものなのでは……?」

「……ハイ次ー」

「八雲さん!?」

 

 

 ……いやまぁ、隔離で済んでるなら、寧ろマシな方なんだろうけど……。

 困惑するマシュを横目に、ゆかりんが次の説明に移る。次は、アークナイツ組だ。

 ……私はちょっと齧ってるだけだからあんまり詳しいことは言えないけど、世界観からしてヤバいところ*11だったはずだ。

 

 

「アークナイツ勢はどちらかと言えば、憑依元への影響がわからないから経過観察のための入院──って面が強いわね。……ただまぁ、鉱石病(オリパシー)*12の仔細が原作でもあまり語られていないから、ちょっと慎重になってる面もなくはないかなー、って感じだけど」

「そうなの?」

「感染者との単純接触程度じゃ、基本的には感染はしない*13って言われてるんだけど、どうにもねぇ……」

 

 

 個人的には、なんの問題もなければ普通に生活させてあげたいんだけど、と話を締めくくるゆかりん。

 最後に話すのは──うん、どう考えてもあかんやつですねはい。

 

 

()に関してはノーコメント。本人が自主的に隔離されてくれてるからまだいいけど、いろいろと触るのは止めておくべきね」*14

「うん、知ってる」

 

 

 なんというか、そもそもあれのなりきりとか、いろいろ大丈夫だったのかなって気になるというか。

 憑依うんぬんにしても、されてる方大丈夫?って心配な気分になるというか。

 ……いかんな、なんというか心配事しかないなこれ……。

 

 

「そんな感じで、レベル3は『居るだけで被害を齎しかねない』人達ね」

「うん、よーくわかった。わかった上で言わせて貰うんだけど、これより上ってなんなのなの」

 

 

 存在罪*15とまでは言わないけど、似たようなラインの奴らばっかやんけ、これより上ってなんなのさって思ってしまうのは仕方ないと思う。……正直私の貧困な想像力じゃ、ちょっと例とかが思いつかないんだけど。

 

 

「勘違いしてるみたいだけど、これって()()()レベルだからね?」

「……?いや、周囲に被害を齎すんなら、それは問題児なんじゃないの?」

「そういう意味でカテゴライズされるのは、レベル3までなのよ。4以上はちょっと話が違うの」

 

 

 そんな事を思っていたら、ゆかりんからは呆れ混じりの視線が。

 ……いや、そんな事言われても、今までの例を見たら、見たら………、うん、わかんねぇ。よくよく考えてみたら1と2も直接被害系じゃないし、寧ろ3が特殊なんじゃないかって気がしてきた。

 

 

「4は『完全に噛み合っていない』人達、5は『噛み合いすぎてしまった』人達。特定の誰かってわけじゃないから、ちょっと説明するわね」

 

 

 そうして首を捻る私に、ゆかりんが答えを述べる。

 それに待ったを掛けたのがマシュだ、彼女はレベル5について「元の人物と憑依者のズレが深刻な者」と聞いたと主張する。──そしてゆかりんは、それを間違っていないと肯定した。

 

 

「順を追って説明するわね。レベル4は、なりきりを趣味としてこなしていた人のうち、『技術も知識も足りているけど、自分とは全く別の性格の人物を演じていた』人。──言うなれば、元となった人物の情報が、憑依者にとってノイズ()にしかなっていない状態の人のこと」

「……いや、それレベル1と変わるの?」

「変わるわよ?再現力が高いから人格も性質もほぼ憑依者本人のパーソナリティなのに、そこに絶対外せない()()()()()()()()()()()()()()()()を持ったモノがあるんだから」

「あー……、つまり自己認識の中に、絶対に解消できないエラーが混ざるから酷いことになる、と?」

 

 

 私の言葉にそういうこと、と答えてゆかりんが紅茶に口を付けた。

 そういえば喉乾いたな、と思い出し私も紅茶を一口。……ふむ、甘い匂いと爽やかな渋みに深いコク。これはダージリンだな!(適当)

 

 

「ええ、ダージリン*16にベルガモット*17のフレーバーを付けたもの*18になります、茶葉のグレードはオレンジペコー*19ですね」

「あってた、だと……?っていうか思った以上にオレンジ尽くしだこれ!?」

 

 

 適当なことを言った私に対して、ジェレミアさんが懇切丁寧に説明をしてくれる。……オレンジ卿の面目躍如とでも言うのか!?

 い、いかんいかん、ここでペースを乱されていてはまた話が脱線する!

 紅茶をぐいっと一気飲みして、ティーソーサー*20ごとジェレミアさんにお返ししたのちゆかりんの方に向き直る。……すっごい微笑ましいものを見るような目で見られてるんですがそれは。……私は見た目ロリじゃがロリじゃないんすよー!!

 

 

「はいはい。で、4に関しては憑依者本人がこっちに居るのを嫌がって暴れたりすることが多いから、基本的には凍結塔に厳重管理ね、これは5も大体同じだけど」

「凍結塔?またなんかヤバ気な名前の施設だね……」

 

 

 ごまかすように話の続きを促したところ、彼女の口から飛び出したのは『凍結塔』なる謎の施設。

 ……名前からして物騒だけど、実際に語られた内容は更に物騒だった。

 

 

「実際ヤバ気よ?内部空間を時間・空間的に凍結させて、中に居るものの状態を停止させるためのものなんだから」

「想像以上にヤベー施設だった!?」

 

 

 まさかの封印施設だった!?

 驚く私の前で、ゆかりんは殊更妖しげに微笑んで見せるのだった。

 

 

*1
『fate/grand_order』の主人公は、突然夢の世界に引っ張られたりしている(上に、それがイベント開始の合図だったりする)。その姿を『レムレムしている』と呼ぶ

*2
『コードギアス』のキャラクター。エリア11と呼ばれるようになった日本で、現場指揮を務めるブリタニアの軍人。作中最強の戦士達からも一目置かれるほどの実力を持つ

*3
『コードギアス』で登場する機動兵器、『ナイトメアフレーム(KMF)』の一つ。サザーランドはその中でも第五世代ナイトメアフレームに分類される機体で、作中では量産機として主力級の機体でもある

*4
藍「ちぇぇぇぇぇぇんっ!!?」

*5
『コードギアス』原作に置いてジェレミア卿が受けたとある汚名?が『オレンジ』であり、『東方project』のキャラクター、八雲藍の式神『(ちぇん)』の名前もまた『オレンジ(だいだい)』を意味していることから。……こじつけが過ぎる……

*6
『Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ』に登場するサーヴァント。fgoでは星3(レア)アサシンとして登場。全身に猛毒を纏った『毒の娘』

*7
株式会社Yostarが送るスマートフォンゲームのこと。いわゆるタワーディフェンスゲームであり、ポストアポカリプスなSF的世界観に生きるキャラクター達が人気を博している

*8
『戯言シリーズ』より、戯言遣いのこと。表紙のポップさに惹かれて見た者を(色んな意味で)撃墜するやべー主人公

*9
ゲームソフト『スーパードンキーコング2』にて登場するステージの名前にして、みんなのトラウマ

*10
『ポケットモンスター』のキャラクターの一種、マタドガスの『ソード&シールド』の舞台での特殊な姿。排気ガスなどを栄養源としており、それらの毒素を吸収して綺麗な空気を排出する、という生態を持つ。見た目が紳士モチーフで、どことなく愛嬌がある

*11
『天災』と呼ばれる破滅的な自然災害によって人々の生息圏は常に脅かされている上に、それ以外にも大小様々な事件がどかどかやってくるやべー世界

*12
『アークナイツ』内に存在する病気。『源石(オリジニウム)』と呼ばれる未知の鉱物を由来とした病気で、発症した場合は基本助からない。一応病の進行を遅らせることなどはできるようだ。なお、感染すると『源石術(オリジニウムアーツ)』と呼ばれる特殊な技術への適正などが上昇するようだが、同時に使えば使うだけ病の進行を進めてしまう諸刃の剣でもある

*13
『アークナイツ』作中の描写より。……病が進行すると体表に源石が表出するため、それに触れるなどするのは恐らくアウトだと思われるが詳しくは不明

*14
いーちゃんに関しては、間違っても利用しようとか考えてはいけない類いの存在だと言えるだろう

*15
『存在している事が罪』。生きているだけで、本人の意思によらず周囲に破壊や混乱を撒き散らしてしまう者達のこと。あんまりにもあんまりな呼び方

*16
紅茶の銘柄の一つ。インド北東部にあるダージリン地方で収穫されるためその名を付けられている。因みにダージリンはヒマラヤ山脈低部のシワリク丘陵に位置しており、インド国内では有数の避暑地でもある

*17
ミカン科の植物の一つで、長い緑の葉と白い花を咲かせるのが特徴。柑橘系でありながらエレガントさを感じさせる香りが特徴とされ、香水やアロマオイルとしても利用されている

*18
いわゆるアールグレイ。香り付けをした紅茶全般を意味する名前であり、特定の茶葉を意味するものではない。名前の由来はイギリスの元首相『グレイ伯爵(Earl Grey)』から

*19
茶葉の等級、大きさの一種。芯芽と若葉を細くねじった、大きめの茶葉を使ったもの。別にオレンジが入ってるわけでもないのにオレンジとついている理由は、説が幾つかあって判然としない

*20
紅茶などを頼んだ時にカップの下にある小皿のこと。万一カップの中身が溢れてしまった時の受け皿にもなる他、砂糖やミルク、それらをかき混ぜるスプーン、場合によってはお茶請けのお菓子などが一緒に置かれることもある。元々はソーサーにカップの中身を移し変えて飲むのが主流だったが、次第に廃れていった為今ではそういう使い方をする機会はほとんどないと思われる


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