なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
物語性というのはなりきりだと失敗要素である
モノを書き始める時、何も思い付かないと苦しい思いをしたことはあるかい?
頭の中が真っ白になって、さっきまで考えていたことが急に思い出せなくなった事は?
スランプと言うべきか、はたまた単に調子が悪いと言うべきか。
原因の解明を急ぐばかりに、色んなモノを投げ捨ててしまってはいないかい?
続きを紡げなくなった
「せんぱい?大丈夫ですか?」
「……んあ?……ああ、寝てたかな、今」
マシュの声を聞いて、意識が戻ってくる。
……寝不足のつもりはないのだけど、どうにも最近よくレムレムする感じだ。マシュの
深呼吸をして眠気を飛ばす。
これから真面目……真面目?な話なのだから、しっかりしなければ。
日付的には、あの慌ただしい始まりの日から大体一ヶ月後。
色々と都合が付かないまま後回しになっていた、ゆかりんからの説明の続きについての話が来たのは、ここでの暮らしにもいい加減慣れ始めた、そんなある日の昼下がりのことだった。
「前回の説明会では、レベル2と呼ばれる区分の人々の事についてまで教わったのでしたよね?」
「そうだね、それと単語として聞いたってのも含むのなら、マシュが別の日にレベル5ってやつの存在を聞いてたんだっけ?」
「はい、その通りです。本来の私の区分はそこになるはずなのですが、現在は状態が安定しているので警戒するレベルには値しない──と八雲さんは仰っていました」
マシュからの言葉にふむ、と頷く。
……始まりの日、彼女がその体より立ち上らせていた、白い蒸気のような何か。
私はあれを魔力だと思っていたけれど、もしかしたら違うのかもしれないな、と今更ながらに思っていたのだった。
じゃあなんなのか、って聞かれるとちょっと困るんだけどね。
「あ、マシュさんにキーアさん、こんにちは。八雲さんなら中でお待ちですよ」
「こんにちは毛利さん。……はい、ご丁寧にありがとうございます」
そんな風に会話をしながら最上階まで上がると、『スレ主部屋』の前で門番のように立っている毛利さんの姿が見えた。軽く挨拶を交わし、そのまま中に入れて貰う。
「はーい、こんにちは二人とも。元気でやってるみたいで私も一安心だわ」
「はい、こんにちは八雲さん。そちらも、お変わり無いようで何よりです」
「一月丸々待たされるとは思ってなかったけど、元気そうで何よりだよゆかりん」
「あ、あははは……まぁ、待たせちゃった事については、素直に謝るしかないわね」
中に入れば、この前のソファーへとすでに座って待っていたゆかりんが、こちらの姿を確認したのち右手を軽く上げて挨拶をしてくる。それにこちらも軽く挨拶を返して、そのまま彼女の対面へ。
そうしてソファーに座ると、深緑の髪と左目の変な仮面のような形のモノクルが特徴的な男性が、私達の前のテーブルに紅茶を差し出してくるのだった。
……いや、なんでジェレミアさんがここに?そんな困惑混じりの視線を向ければ、向けられた当人は穏やかな笑みと共に、こちらへと声を返してくる。
「おや、私のこともご存知でしたか。私はジェレミア・ゴットバルト*2。紫様の元に仕える執事の一人にございます」
「因みに彼、あんまり再現度高くないからサザーランド*3とかは持ってきてないわよー」
「は、はぁ……?」
足りてても持ってこれるかはわかんないけど、というゆかりんの言葉に困惑するマシュの隣で、私は静かに思考を巡らせる。
……ふーむ、ゆかりんとジェレミアさん、この二人には特に関係性とかは無さそうだけど……、確かジェレミアさんは軍人で……作中で謂れのない風評によって立場を追われた人物だったような……って、あ。
気付いてしまった、ジェレミアさんがなんでここに居るのかを。それを確かめるために、ゆかりんの近くに控えているジェレミアさんに声を掛ける。
「もしかしてなんだけどさ……?」
「……なるほど、お気付きになられましたか。不肖ジェレミア・ゴットバルト、紫様より『ちぇん』*4の名を賜っております」
「やっぱり、『
なんでまたそんな回りくどいことを、という目でゆかりんを見れば、意外と見付からなかったのよ『ちぇん』って名前の子、と返されてしまった。
……いや、チェンって響きだけなら中華系のキャラを探せば居るでしょ?と思ったのだけど、生憎と彼女が探した中には居なかったのだとか。
でもさ、だからってジェレミアさんをちぇん扱いは……ねぇ?
そんなことを思いながらジェレミアさんに視線を向けるものの、彼は穏やかな笑みを浮かべたままだ。……うーん、忠義の騎士……。
というかなんだこのメンツ、近接戦闘重視的な選出基準なのかな……?
「キーアちゃん?色々と気になるのはわかるのだけれど、話を進めさせて貰っても良かったかしら?」
「ととっ、ごめんごめん。はい、構わないですはい」
「もう……えっと、確かこの間はレベル2についてのことまで、説明したのだったわね」
こちらを咎めるようなゆかりんの言葉を受け、改めて以前の話を思い出す。
レベル1は『知識も技術も足りていないが、何か一点でキャラとして成立している』人達。
レベル2は『人外系・獣系であるために意思疎通に問題がある』人達。
……問題児レベルと言っていたけど、ここから上のレベルの者達が、どんな風に変化というか区分されているのか……正直ちょっと、戦々恐々としているところが無くもなかったり。
何せレベル1も2も、極論を言えば『意思疎通に難がある』というのが一番の問題のように思えるし、それって問題児扱いとしては、なんだか程度が低いようにも思えたのだ。
そんな事を思う私の前で、ゆかりんが口を開く。
……あれ、今回は実例は出てこないんだね?なんて風に私が思っていると……。
「じゃあ早速レベル3の紹介ね、えっと静謐ちゃん*6にアークナイツ勢*7にいーちゃん*8に……」
「いやちょっと待って」
──ホントに問題児じゃねーか!?
あげられたメンバー的に、居るだけでヤバい奴らじゃねーか!?なんて風に思わず詰め寄る私に、ゆかりんはあははと空笑い。
……だから実例が来なかったのか、なんて思いながらソファーに座り直すと、ゆかりんは一度咳払いをしたのち、改めて話の続きを紡ぎ始めたのだった。
「静謐ちゃんに関してはとりあえず、汗を掻くだけでもマズイから、似たような体質の子達と一緒に原則隔離塔に居て貰ってるわね」
「あ、ああ、なるほど。一応一人とかじゃないんだ……いやちょっと待った、その隔離塔どくどくタワー*9みたいなことになってない?」
「
「そ、それはつまり、空気以外には問題がある……と言っているようなものなのでは……?」
「……ハイ次ー」
「八雲さん!?」
……いやまぁ、隔離で済んでるなら、寧ろマシな方なんだろうけど……。
困惑するマシュを横目に、ゆかりんが次の説明に移る。次は、アークナイツ組だ。
……私はちょっと齧ってるだけだからあんまり詳しいことは言えないけど、世界観からしてヤバいところ*11だったはずだ。
「アークナイツ勢はどちらかと言えば、憑依元への影響がわからないから経過観察のための入院──って面が強いわね。……ただまぁ、
「そうなの?」
「感染者との単純接触程度じゃ、基本的には感染はしない*13って言われてるんだけど、どうにもねぇ……」
個人的には、なんの問題もなければ普通に生活させてあげたいんだけど、と話を締めくくるゆかりん。
最後に話すのは──うん、どう考えてもあかんやつですねはい。
「
「うん、知ってる」
なんというか、そもそもあれのなりきりとか、いろいろ大丈夫だったのかなって気になるというか。
憑依うんぬんにしても、されてる方大丈夫?って心配な気分になるというか。
……いかんな、なんというか心配事しかないなこれ……。
「そんな感じで、レベル3は『居るだけで被害を齎しかねない』人達ね」
「うん、よーくわかった。わかった上で言わせて貰うんだけど、これより上ってなんなのなの」
存在罪*15とまでは言わないけど、似たようなラインの奴らばっかやんけ、これより上ってなんなのさって思ってしまうのは仕方ないと思う。……正直私の貧困な想像力じゃ、ちょっと例とかが思いつかないんだけど。
「勘違いしてるみたいだけど、これって
「……?いや、周囲に被害を齎すんなら、それは問題児なんじゃないの?」
「そういう意味でカテゴライズされるのは、レベル3までなのよ。4以上はちょっと話が違うの」
そんな事を思っていたら、ゆかりんからは呆れ混じりの視線が。
……いや、そんな事言われても、今までの例を見たら、見たら………、うん、わかんねぇ。よくよく考えてみたら1と2も直接被害系じゃないし、寧ろ3が特殊なんじゃないかって気がしてきた。
「4は『完全に噛み合っていない』人達、5は『噛み合いすぎてしまった』人達。特定の誰かってわけじゃないから、ちょっと説明するわね」
そうして首を捻る私に、ゆかりんが答えを述べる。
それに待ったを掛けたのがマシュだ、彼女はレベル5について「元の人物と憑依者のズレが深刻な者」と聞いたと主張する。──そしてゆかりんは、それを間違っていないと肯定した。
「順を追って説明するわね。レベル4は、なりきりを趣味としてこなしていた人のうち、『技術も知識も足りているけど、自分とは全く別の性格の人物を演じていた』人。──言うなれば、元となった人物の情報が、憑依者にとって
「……いや、それレベル1と変わるの?」
「変わるわよ?再現力が高いから人格も性質もほぼ憑依者本人のパーソナリティなのに、そこに絶対外せない
「あー……、つまり自己認識の中に、絶対に解消できないエラーが混ざるから酷いことになる、と?」
私の言葉にそういうこと、と答えてゆかりんが紅茶に口を付けた。
そういえば喉乾いたな、と思い出し私も紅茶を一口。……ふむ、甘い匂いと爽やかな渋みに深いコク。これはダージリンだな!(適当)
「ええ、ダージリン*16にベルガモット*17のフレーバーを付けたもの*18になります、茶葉のグレードはオレンジペコー*19ですね」
「あってた、だと……?っていうか思った以上にオレンジ尽くしだこれ!?」
適当なことを言った私に対して、ジェレミアさんが懇切丁寧に説明をしてくれる。……オレンジ卿の面目躍如とでも言うのか!?
い、いかんいかん、ここでペースを乱されていてはまた話が脱線する!
紅茶をぐいっと一気飲みして、ティーソーサー*20ごとジェレミアさんにお返ししたのちゆかりんの方に向き直る。……すっごい微笑ましいものを見るような目で見られてるんですがそれは。……私は見た目ロリじゃがロリじゃないんすよー!!
「はいはい。で、4に関しては憑依者本人がこっちに居るのを嫌がって暴れたりすることが多いから、基本的には凍結塔に厳重管理ね、これは5も大体同じだけど」
「凍結塔?またなんかヤバ気な名前の施設だね……」
ごまかすように話の続きを促したところ、彼女の口から飛び出したのは『凍結塔』なる謎の施設。
……名前からして物騒だけど、実際に語られた内容は更に物騒だった。
「実際ヤバ気よ?内部空間を時間・空間的に凍結させて、中に居るものの状態を停止させるためのものなんだから」
「想像以上にヤベー施設だった!?」
まさかの封印施設だった!?
驚く私の前で、ゆかりんは殊更妖しげに微笑んで見せるのだった。