なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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地上に星があったら眩しすぎる

 ……なんか、凄くヤバめなお話をされているのではなかろうか。

 そんな雰囲気を感じ取ったのは、一体どのタイミングだったか。

 『天の遣い』に対しての言葉が、美辞麗句で飾られているわりには刺々しいものだったからだろうか?*1

 はたまた、髪の毛の一部……変色したその一房を、やけに恐縮そうに触れていた時だろうか?

 

 いや、恐らく彼女の話の中で、一番の厄物なのは。

 

 

「───そういうわけで。私は千里を視る瞳を持つ者達の末席に、恐れ多くも加えて頂くこととなったのです」

「完全にどっかの二次創作の主人公じゃないっすか!」

 

 

 どうにもあのグランドロクデナシ(マーリン)が、自身の後釜にと無理に見付けてきたものだった、ということだろう。

 

 

 

 

 

 

「あー、整理させて貰うわね?つまり貴方は、区分としては『無印の劉備』なのね?」

「正確にはあの世界に居たかもしれない、劉備になり得た誰か……になると思いますが。ほら、余所の劉備様達とは、似ても似つかないでしょ?私」

 

 

 視線を逸らしながら、どこか自嘲を孕んだように吐き出された言葉に、こちらとしては苦笑いを返す他ないが……ともあれ、彼女から聞いたことを纏めると、次のようになる。

 

 曰く、彼女の大本(オリジナル)にあたるのは、いわゆる無印──三國志における劉備のポジションに、(恋姫の)原作主人公である北郷一刀(ほんごうかずと)が収まっていた世界──に()()()()()()()()彼女、であるらしい。

 

 原作の人気が出て、リメイクに近い『真・恋姫無双』が製作されてから追加されたキャラである劉備……もとい桃香は、言ってしまえば数いる追加ヒロインのうちの一人、である。

 ……が、そもそも恋姫自体が外史という、いわゆる平行世界を扱った作品でもあるため、元の原作……いわゆる無印に彼女が『居なかった』とは言いきれない、というある種の想像の余地というものがある。

 そのため、時々二次創作なんかでは『無印では本来劉備がいるはずのポジションに北郷がいるので、結果として史実とは別の生き方をすることになった劉備(桃香)』、みたいな設定で物語が作られることも稀にあるようで。

 

 彼女もまたそんな桃香のうちの一人、なのだけれども。

 ……二次創作の常、人気はあるが同時にヘイトも向けられやすいキャラ造型をしている桃香は、魔改造を受けやすい人物でもあると言える。*2

 簡単に言ってしまえば、たまに小説のタグ付けに見られる能力だけクロスオーバー(対象は『fate』シリーズ)、というやつである。……地雷かな?

 

 彼女に与えられたモノは二つ。

 一つは、彼女がずっと仄めかしている通りの『千里眼』。しかもまさかの冠位級(EX)である。*3

 そんなポンポン与えられるモノとちゃうやろ感が凄まじいが、そこら辺はまぁ、二次創作なんてそんなもんだよ、というか。

 なお、彼女の『千里眼(それ)』は未来を見るものだそうだ。……この間のどこぞの英雄王(フラグ)が近付いてきている感が凄い。

 なにせ、それはかの英雄王のモノと、ほぼ同じモノなのだから。……未来を見通せるなら、基本的には平行世界視は付随するものなのだから、別に不思議ではないのだけれど。*4

 

 で、よくある二次創作なら、雑に能力を与えられて雑に放り出されるもの、なのだけれど。

 彼女は微妙に凝った設定をしているらしく、それが二番目に与えられたモノに繋がるわけで。

 

 

「……未来に絶望して壊れた、かぁ」

「フレーバーみたいなものなので、気にされなくても構わないですよ?……いえ、今の自分はそのフレーバーを思いっきり(こうむ)っているわけなので、当人的にはあんまり笑える話でもないんですけど」*5

 

 

 思わずため息を吐いてしまうが、当の桃香さん的には笑ってくれた方がありがたい、みたいなことを言い出すので、反応に困る。

 ……型月系の異能というのは、なんというかデメリットがエグいものが多いように思う。

 いやまぁ、昨今のそこらの作品でも、反動大きめの能力はあったりするけども。……なんというか反動(笑)みたいな、とりあえず付けただけ感のある、本当にそれデメリットとして機能してる?……という感想が思い浮かぶようなのも、それなりに多いわけでして。

 

 そうして見ると、型月系の異能はなんというか……殺意高いなこいつら、という気分になるというか。

 一時期みんな大好きだった『直死の魔眼』とか、基本的には発狂とセットみたいなもんだし。*6

 よく多用される『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)』も、起源と属性が剣になった副産物だから、怪我をした時に下手をすると勝手に暴発して体から剣が生えてくる、なんてスプラッタを起こしかねないし。……『無限の剣製』はストック問題の方がキツイ?それは素直に()()ストックしてください。*7

 

 ともあれ、なんというか代償と対価に対してシビアな感じがするのが、型月作品……というか中二的作品に共通する空気だと思う。

 そんなルールを踏まえて──未来の全てを見通す瞳、などというものを与えられて。

 正気でいられるのは、どれくらいの確率なのだろう?……その答えが、彼女が持つスキル『投影魔術(補強)』である。

 ……まぁ、雑に言ってしまうと。これまた二次創作によくある『正義を標榜する者に、正義の味方(エミヤ)をぶち込む』である。すなわち、与えられた二つ目のモノとは。

 

 

「壊れたモノを動かすための歯車。エミヤの生涯、そしてその果てに得た答え。──未来と人に絶望し、その全てを焼き尽くしてしまいたいと願ってしまった少女に、今一度火を灯したモノ。それが、私に与えられた全てです」

「……ねぇ?うちってもっとゆるーいところだったわよね?重くない?背負ってるもの重くないこの子?」

「気持ちはわかるけど、ゆかりん抑えて」

 

 

 自身の事情について、微かに微笑みながら答えてみせる桃香さんと。

 それを聞いてなんと反応したものやら、どうにも困惑してしまうこちら。

 

 ……いやまぁ、元はなりきりだったのだから、本来はそこまで深刻な話になることもなかったはずなのだけれど。……これ、逆憑依なんだよなぁ……。

 元がフレーバー、単なる裏設定だったとしても、その裏設定通りの存在が、こちらにこうして実在してしまっている以上、それらの裏設定は笑うに笑えない事実と化しているわけでですね?

 っていうか未来と人に絶望して人を焼き尽くして云々って、『fgo』一部のボスと被ってるじゃないですかやだー!!

 

 

「はい、ですのでゲーティアさんには同族意識的なものと同族嫌悪的なものを感じる、なんて設定もありますよ?」

「やめろー!世界観が重くなるからやめろー!」

「ゆかりん落ち着いて!っていうかそうやってわちゃこちゃ言うの私の仕事!人の仕事取んなっ!!」

「……そういう問題ではないと思うのですが」

 

 

 ジェレミアさんからの冷静なツッコミを受けながら、とりあえずゆかりんが落ち着くのを待つ私達なのだった。

 

 

 

 

 

 

「で、えーっと結局?予兆が【逆憑依】として成立するまでは、本来どこかに佇みその時を待ち続けるのが普通だけど?」

「その辺りは、花の魔術師様があれこれ干渉していたみたいですよ?で、今になってそういう風にそこらに蒔いていた種の一つを開花させた……即ち私を呼んだ、というわけです。なので、存在の大本的にはその黒マントと私は同一ですが、黒マント時代の記憶は持ち合わせていないので完全な同一とも言い難い、という」

「だから半分正解、と。……いやもうこれ全部正解でよくない?」

「いえ、私デュエルとか出来ませんし……」

「ああなるほど……」

 

 

 雑に言ってしまえば、代理の千里眼持ちとして派遣されてきたわけである桃香さん。

 ……千里眼そのものは、再現度と出力の関係上、本来のEX級ではなくB+くらいにまで性能が下がっているらしい。

 そのため、『未来が見えているにしてはおかしい行動』を取っていたのが目についた、というのが私の違和感の正体だったようだ。

 

 また性能が下がっているため、彼女自身は理想郷のマーリンを直接視ることはできないらしい。そのため、向こうから連絡?的なものが来るのを待つのが基本なのだとか。

 なので……。

 

 

「こちらに来てからは、基本的にとある一団の邪魔をするために動いている、という感じになりますかね?」

「とある一団?」

「……おっ、ようやく銀さんも話に加われそうだな。誤解を解くためにも、銀さん張り切っちゃうよー」

「む?ここで銀ちゃんが関わってくるとな?」

 

 

 おおっと、そういやそうだった。

 桃香さんの正体云々も重要だったけど、銀ちゃんが彼女の真名を普通に呼んでたのも、重要案件の一つだったんだ。……いやまぁ、さっきからの彼女の軽いノリからして、大した理由じゃないような気もしないでもないけども。

 なので、気にはなりつつも当初のそれに比べれば数段落ちる……みたいな関心を抱きつつ、銀ちゃんの話を待つ私。

 

 

「もう暫くしたら、クリスマスだろ?」

「そだねぇ。どこもかしこもクリスマス一色、ちょっと前までハロウィンだったのに、ってエリちゃんが悔しがってたよ」

「あのドラ娘が?……あいや、そういや原作でハロウィンとクリスマスで、なんか険悪みたいな感じになってたな……って、そんなことはどーでもよくて」

「あ、酷いんだ銀ちゃん。仕方ないからチクる代わりにエリちゃんライブ特等席で許してあげるよ」

「それ遠回しに許す気ないって言ってるよね?ホントに遠回しなのか疑わしいくらいに、そのまま銀さんをこの世から亡きモノにしようとしてるよね?」

 

 

 彼が口に出したのは、クリスマスについてだった。

 ……思わずエリちゃんについての話が口を割って出てきてしまったが、完全な不可抗力なので許してほしい。それから銀ちゃんは責任もって年越しエリザライブに参加して♡

 

 ……まぁそれはそれとして。

 ダンテ君も参加してたサンタ説明会に来ていなかったわりに、銀ちゃんも個人でクリスマスを気にはしていた、ということのようだ。

 それから話された内容は、主に先の我が家にて話題に上がったいた、『しっと団』についてものだったのだから。

 

 

「これは詳細を省くが結論だけ言うとなりきり郷は!クリスマスの日に滅亡するんだよ!!」

「「「な、なんだってーっ!!?」」」

 

 

 そう、彼等『しっと団』の暴走により、なりきり郷が崩壊するという、衝撃的な予言の話だったのだ!……いやどういうこっちゃ。

 

 

*1
『恋姫』シリーズにおける、主人公北郷一刀の称号のようなもの。『混迷とした世に平穏をもたらす天からの遣い』みたいな感じのもの

*2
『元の状態からかけ離れたような状態に変化させること』を意味する言葉。言葉の初出は『プラモ狂四郎』から。該当する範囲が広く、『本来の状態から逸脱している』ものであれば、どれも『魔改造』品だと言える。なお、一部界隈では美少女フィギュアのエッチな改造のことを指していたようだが、現在はわりと広範のモノに使われている感じがなくもない

*3
『fate』シリーズより、千里を視る瞳。低ランクでは単純な視力の良さを示すだけだが、高ランクになると明らかに見えてはいけないものが見え始め、EXランクにもなれば過去や未来、現在の全てを見渡す……といった、異次元の視覚になっていく

*4
過去視は自分のいる世界の過去だけ視られても過去視だが、未来視は()()()()()()()()()()という仕様上、平行世界=選ばなかった未来に関してもある程度は見えているはず、という理論

*5
香りを意味する単語、フレーバー(flavour)。ここの場合はそれを元にした『フレーバーテキスト』のことを指す。いわゆる()()()の類い

*6
『月姫』『空の境界』に登場する異能。『モノの死を視る』魔眼。単純な"死"ではなく、モノの終わり──言ってしまえばそれが存在できる限界値を視る眼であり、『視ることができるのなら』謳い文句の通り、神様だって殺してみせる。……なお、実際は神様の死は視ることができないので殺せない(相手の"死"を魔眼の所有者が理解できないため)

*7
『fate』シリーズより、英霊エミヤの宝具、固有結界。基本的には白兵戦用の武器を無限に生成できるもの、という認識で間違いないが、エミヤは現代機器なども投影しているので、実際どこまで投影可能なのかは謎である。二次創作御用達能力の一つだが、自身の心を武器とするものであるため、単にこれだけ与えられても中に武器がない、なんてことにもなりかねなかったりする。同時によく用いられる『王の財宝』と違い、とりあえず見れば複製できるのは利点ではあるだろうが……


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