なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「嫉妬で爆発とか、マジにリア充爆発させる奴がいるか!!」
「うーん、なんというか救いがない……」
思わず頭を抱えて叫ぶ私と、扇子で口元を隠して苦笑するゆかりん。……その扇子、普通の八雲さんだとよく見るけど、ゆかりんだとあんまり使ってないよね。*1
などと意識が関係ないところに飛んだのは、現実を理解したくないがため。……なにが哀しくてリアルでリア充爆発、などという奇怪な状況を目の当たりにせねばならぬのか。*2
口では爆発しろと嘯く人でも、実際に目の前で爆発されたらドン引く人の方が大多数だよ!そこで喜んでしまう人はメンタルやられてるから、仕事とか放り投げてちょっと休もうね!
……と、誰に向けたのかよくわからない叫びを脳内に
っていうか『白面の者』て。『しっと団』からそっちにワープ進化*3するって。なんだそのワケわからん状況、帰って寝ていい?
いやまぁ、設定的にわからんでもないけども。
『しっと団』が憎み羨むのは、イチャイチャしているカップル達だが。『幸せになること』が人の至上命題だとするのなら、彼等はその只中にいるもの、即ち『陽』の極致である。
『陽を羨み・憎むモノ』と言い換えられるわけだから、彼等の成長先に『
いやそのあれだ、笑い話だったものがいつの間にかインデペンデンス・デイ*4に差し替えられていたというかだね?……例えがわからん?要するに『鼠押し入り大山鳴動す』ってことだよ!*5
「それ絶対分かりにくいと思うわよ?……ともあれ、なんというか
「おいこらゆかりん、フラグ立てんな」
「え?……って、あ゛」
ぬぐぐと唸る私の横で、ため息を吐くゆかりんだが、ちょいと待ちたまえ。……どー考えても『口は災いの元』だぞそれ。
……脳裏に言葉が焼き付いていたとか、そんな下らない話なのかもしれないけれど。……そもそもの話【継ぎ接ぎ】の判定がすさまじく緩い、というのが今回の問題の大きな要因なわけで。
……呪いへの対処が得意な人、今からでも集めとくべきかなぁ。
なんてことを朧気に考え始める私の前で、ゆかりんはこっちが申し訳なくなるくらいに慌て始めるのだった。
流石に、刻一刻と変化していく未来を、常に見続けることはできない──みたいな桃香さんの台詞故に、『白面の者&ケルヌンノス』などという意味不タッグの結成余地があるかどうかはわからなかったが。
……まぁ、悪い予想は大体当たる、という経験則から少なくとも現れる可能性自体は高い、と踏んだ私達。
内容が大事になってはいるものの、結局のところ今回のあれこれはクリスマス──即ちサンタの活動を上手いことできるかどうか、みたいなところに掛かっているのは間違いない。
何故って?結局のところ、『しっと団』がそこまでわけのわからないことになっているのは、雑に言ってしまえば『世間に溢れた妬みや僻みが季節性の【継ぎ接ぎ】となって押し寄せている』せいだからだ。
……ぶっちゃけてしまうと、なりきり郷の外に居る非モテ達の怨嗟の声も、ここに転がり落ちてきているから、ということである。
質量の大きな物質は、周囲の空間を歪ませる……という話を聞いたことはあるだろうか?
いわゆる一般相対性理論で示されている重力歪み、というやつだ。
空間だけじゃなく時間も歪むとか、光がブラックホールに引き寄せられるのは、歪みに落ちていくからだとか。
まぁ色々とあるのだが……ここで必要なのは一つ『重いものは空間を歪ませ、凹みを作る』ということである。
……つまり、『白面の者』に成長し得るほどの重い憎しみを持ったモノに対し、周囲の軽い憎悪達は坂を転がり落ちるように引き寄せられていっている、ということ。
全ての陰であるとまで称される*7『白面の者』の姿を模すことができるのだから、言ってしまえば付近にこれより
故に周囲の大小様々な憎しみはここに落ちてきて、全てが『しっと団』に吸収されていく、と。
イベントごとのない普段であるならば、ここまで訳のわからないことにはならないのだろうけども。……ことクリスマス(と、バレンタイン)については話が別。
世に溢れる
要するにエサまみれなので、幾らでもエサを食べて成長していく……と。
ただまぁ、そもそもの元となっているものが『カップルへの憎しみ』という、拡大解釈しなければわりとしょーもないモノであるために、形こそ『白面の者』になるけれど、本来の彼だか彼女だかの本質とはまるで別物であるため、結果として
……うん、うん。
絵面だけ見たら『なんか産み落とされたと思ったら、与えられたご飯が思っていたのと違ったので、盛大に自爆する白面の者』となって、シュールな笑いにしかなっていないような気がしてくるが。
まぁ、原作でも『自分を裏切ったから自分の目を潰す』とかやっちゃう方なので、納得できなくもないのが酷い。*8
こっちに被害を出さないのであれば、慰めの言葉を掛けてあげるのも吝かではない感じの可哀想さだ。
……まぁ、慰めの言葉とか多分逆効果だろうけども。*9
ともあれ、時期が時期だけに、憎しみの発露を止めることはほぼ不可能。それゆえに彼等の生育を妨害するのも、ほぼ不可能だろう。
あり方があり方だけに、現状においては『生きてるだけで勝手に成長する』ようなものなのだし。
じゃあ、このまま見ているしかないのか?
……ということへの答えとなるのが、即ちサンタなわけである。
「はいせんぱい!」
「はいマシュ、どうしたの?」
「先程までの説明と、サンタが結び付きません!」
「なるほど。だが型月の胡乱なイベントの記憶を持つマシュなら、与えられた情報からその理由について考察することは、十分に可能なはずた。もうちょっと頑張ってみるように」
「わかりましたせんぱい。マシュ・キリエライト、全力で脳細胞をフル回転させます!うおー!」
「……時々見掛ける胡乱なマシュちゃんモード、って奴かしら?」*10
こらゆかりん、折角マシュが張り切ってるんだから、水を差すようなこと言わないの!
……とまぁ、いつの間にやら私まで白衣と眼鏡着用で、ホワイトボードの前で解説やら対策やらを話しているわけなのですが。
マシュが頑張っている間に、こちらも脳内で話を纏めておこうと思う。
先程歪みが云々の話をしたと思うが、これはなにも憎悪だけが当てはまる現象ではない。
万有引力という言葉があるように、全てのモノには引力が働いている。
……重力が『地球と地球上のモノに対して働く引力』のことと考えても、そう間違いではないように。
大きな質量を持つものは、強い引力を持つ……というように。
引力あるところに時空間の歪みありと考えるのも、そう間違いでもない。
故に、先の歪み云々は、憎み妬み以外にも、希望や祈りなどにも適用される原理、というわけなのである。
つまり、サンタがやけにクリスマス中に強いのは、妬み嫉みを周囲から集めて強くなる『しっと団』と同じく、サンタもまた世界中のサンタへの祈り・願い・喜びを集めているから、ということなわけだ。
……つまり、今回の騒動を端的に表すのであれば!
「『サンタ VS しっと団 地上最強の決戦!!銀時、お前がやらねば誰がやる!』(半ギレ)……ってことだね」*11
「いや待て、俺を据えんな据えんな」
「いやでも、桃香さんを桃香って呼んでたの、ある意味このためでしょ?」
「……否定しきれねぇ」
そう、劇場版の特別番組……みたいなものなのである、今回の騒動は。
……で、口ごもっている銀ちゃんは、いわゆる怪獣映画における解説役、と。
そもそもの話桃香さんがいなければ、こんな訳のわからない状況になることを察せられるモノは、なりきり郷には居なかった……は言い過ぎだけども、対処ができなくなるような直前で気付く、みたいなレベルの予知能力者しかいなかったみたいだし。
……これはなりきり郷の予知能力者が不甲斐ないというよりは、予知という技能に対して、世間一般がやけに難易度とか重要度を低く見積もってるところがある、という方が正解に近いと思う。
実際、
……そんなもの、再現度の壁に引っ掛かる私達には、基本的に手の届かないものであるし。そもそもそれに手が届くようなキャラは、基本的にロクデナシである。
そこに手が届くレベルなのに、性格面に問題がなさそうな感じの桃香さんがおかしいのであって、こっちの予知能力者が不甲斐ないと言うのはちょっと可哀想というか……。
ともあれ。
銀ちゃんが桃香さんを桃香さんと呼んでいたのは、それがわかりやすく
真名を預けると言うのは、命を預けるに同じ。それが異性の間のものとなれば、ある意味男女の関係を隠喩するにも等しいわけで。
それをこのクリスマスの時期に行っているのだから、事実の補強とするには十二分。
見事なまでの釣り餌として、『しっと団』を引き寄せる要素になるはず、だったのだけれども。
「予想よりも向こうの成長が早かった、と申しましょうか。……こういう時、自らの不徳を呪わずにはいられませんね……」
「……まぁ、今さらだけど。その自罰的な物言いが宜しくなかった、ってことかもね」
「……あー、なるほど。……確かに、それはあるかもしれませんね」
なんというか、向こうの方の成長速度が思ったほど早かったというか。
……ちゃちな撒き餌に引っ掛かることもなく、すくすくと成長してしまったというか。
こうなる前に止められてれば良かったのだけれど、と微笑む桃香さんは──なんだか、ちょっと哀しげに見えたのだった。