なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なんで私は最近、よくわからない冷や汗ばかり掻いているのでしょうか……」
「自分の胸に聞いてみたらどうっすかね?」
「うわびっくりした!?……ってあさ……ルーツさん?」
「あさひでいいっすよ、こっちの姿ならその呼び方のほうが、周囲が混乱しなくて済みそうっすし」
(♪例のBGM)*1
私は虚無魔法使い、キルフィッシュ・アーティレイヤー。
学校の後輩が変化したマシュ・キリエライトが、唐突に修羅と化したため、彼女から命からがら逃げ出した私は、そのまま路地裏に迷い込んでしまっていた。
逃げることに夢中になっていた私は、背後から近付いてくるとある人影に気が付かなかった。
私はその女に声を掛けられ、気が付いたら──体が縮んでしまっていた!
……え?劇場版コナンごっことかしなくていい?*2
やれるタイミングあったらやるだろうがよ、そこら辺は空気読むでしょフツー。
まぁそんな感じで、逃げ出したのは確かだし回り込まれなかったのも確かだけれども、こうして逃げた先で別の魔王とエンカウントしたのは確かな話でございます。*3
ってなわけで、私の背後から声を掛けてきたのは芹沢あさひ……の姿をした、さっきちょっと話題に出ていたミラルーツさんだった。
元の姿が元の姿だけに、あんまり自分の居住区から出てくることはない彼女なのだけれど。……今回は珍しいことに、こんな人の海のど真ん中まで遠出しているようだ。
引きこもり……というよりは
……というようなこちらの不躾な視線に気付いたのか、彼女はへへっと笑って口を開く。
「いやあれっすよ。龍って寂しかったり寒かったりすると死んじゃうかも、ってことらしいんで。今日はちょっと暖を取りに来たっす」*5
「……いや、なんですかその兎みたいな生態*6。初めて聞いたんですが?」
「私も初めて聞いたっすよ?」
「え?」
「え?」
……いや、アンタが言い出したんでしょうが。そこで首を捻られても、私にはなんのことやらさっぱりだよ。
そんな風にこっちが困惑するも、相手は素知らぬ風。
寒いのがうんたらかんたら言ってた割に、元気な風の子ばりにこちらの周囲をくるくると回っている。
……というかこの、人の回りをくるくる周回してるのもなんなんです?
触れず離れずの位置をキープして、ふーん?とか、へー?とか言いながら、こっちを観察して来るんですけども。
……正直居心地悪いのですが。
「おっと、すみませんっす。ちょっと美味しそうだなーと思って。じゅるり」
「いきなり食べ物扱いされたんですけど!?へるぷー!!ゆかりんへるぷみー!!」
とかなんとか言ってたら、これまた突然の「美味しそう」宣言。……あさひの顔から飛び出すその台詞は、冗談なのか本気なのか、一見しただけでは判別できない『スゴ味』があるッ!*7
……要するに怖い。大本が龍種なだけに、思考回路が微妙に人間と違うので反応に困る!
……ん?龍種特有の感覚?……んんん?
「ん?どうしたっすか?突然唸り始めて。キーアちゃんってば大体唐突っすけど」
「……いや、唐突云々はそっちに言われたくないんですけど?で、結局どんなご用件でここにいらっしゃるので?」
「それは最初に言ったじゃないっすか。
「……え」
なーんかこう、喉まで出掛かってるのに出てこない……というか。
なにかを気付きそうになったけど、変にブレーキを掛けられたというか。
そんな、喉に魚の骨が引っ掛かったような違和感に、むむむと唸る私。……それを見たルーツさんからは、割りと失礼な言葉が飛び出してきたのだが。
唐突云々に関しては人に言えるようなモノでもないでしょうに、みたいな言葉を返してみても、彼女のぽやっとした様相は崩れない。
……あさひ本人よりも、不思議ちゃん度数増してないですかねこの人。
いやまぁ【逆憑依】でもなんでもない、たまたまあさひの見た目を使ってるってだけの
なので、改めて彼女のやって来た目的について問い掛けたのだが。
……あのー、もしもし?暖を取りに来たってわりに、周囲に冷気振り撒いてませんか貴方?『いてつくはどう』*8とか使ってませんか?というかあさひの姿なのに、目が人のそれじゃなくて龍のそれになってますがー!?そもそも貴方雷系でしょ、冷気も一緒に使うなー!
思わず気圧されて、一歩後ろに下がる私と、それに合わせて一歩進んでくるルーツさん。
……えーと、よくわからないけど、やっぱりロックオンされてる?
わりと真面目にどうしよう、みたいな気分になってきた私と、なんか笑みが怖くなってきたルーツさん。
お互いの間に、緊張感から来る沈黙が暫し流れ。
相手の動く気配に、こちらが手を動かそうとしたその瞬間、
「──せんぱいっ!!」
「マシュっ!?」
──横合いから、フル武装したマシュが土煙を上げて、私達の間に割り込んで来たのだった。
な、なにがなんだかよくわからないけども、このなりきり郷においては横に並ぶ者の居ない、最強の護りであるマシュの背に隠れられて、ようやっと気が落ち着いてきた……ということだけは確からしい。
いつの間にか自分が息をしていなかったことに気付き、大きく──半ば大袈裟に息を吐いて。
突然危なげな空気を醸し出した、ルーツさんの姿をマシュの盾越しに窺う。
「……ん、仲直りはできたみたいっすね」
「え?」
「え?」
「いや、私のことで喧嘩してたみたいっすから。ちょっとお節介ってやつっす」
そうして恐る恐る覗き見たルーツさんは……思わず唖然とするほどに、普通の姿に戻っていた。
……あれー?さっきまでのなんかヤバげな空気は、一体どちらに?
らしくもなくシリアスムード(?)だったと思ったのだけれど、なんかいつの間にか霧散してたでござる。
いや、わかんねー。
いやまぁ、獣とか魚とか龍とかみたいな、人ならざる生き物のなりきり組って、感性とかが普通の人と違うから、付き合うのは難しいのよ……みたいなことを、ゆかりんも言ってたけども。
それにしたってこの人、そもそもが最強種の龍なのにも関わらず、更にキャラを勘違いされやすいあさひを
今の彼女は、こちらの唖然とした様子を見てくすくす笑っている。……こういう意地が悪い笑い方も、あさひはしないものだろう。
そういう意味でも、あくまでこのあさひは姿形だけのもの。……なりきりですらないので、【継ぎ接ぎ】にも引っ掛からないのだろうと予測できる。予測できたからなに?って聞かれたらキーアは黙ります()
……ともあれ、変な空気が霧散したというのなら、いい加減肩に力が入りまくっている、マシュの緊張を解した方がいいだろう。……なんか、私が悪いみたいだから謝罪も。
「うんうん。仲良きことは美しきかな、っすね。私も混ぜるっすよー」
「わわっ、ルーツさんっ!?」
「……やーっぱわかんねーわこの人」
そんな私達のやり取りをニコニコと眺めながら、こちらにぴょーんと跳んでくるルーツさん。
……なにがしたいんだこの人、みたいな言葉を向けても、彼女は満面の笑みのままだった。
「そーいうわけで、お久しぶりっすねアルトちゃん。まーあの時はそっちは気絶してたんで、覚えてないかもっすけど」
「貴方がミラルーツさんですね。その節はお世話になりました」
「……あれ?覚えてるっすか?」
「覚えてはいませんが、マーリンに子細は聞いていましたので」
「ああなるほど。……抜け目ないっすね、あれ」
で、何故かルーツさん……もといあさひと呼べと言われたのであさひさんと呼ぶけど、彼女も一緒に遊びたいとのことだったので、元のスケートリンクの所まで連れだって帰って来た私達三人。
一団に戻るなり挨拶を始めた二人は放っておいて、銀ちゃん達男子組の集まるテーブルに直行した私は、そのまま机に倒れるように座り込んだ。
「……いや、どんだけ疲れてるんだよアンタ」
「そりゃー疲れるでしょ、マシュを宥めるの苦労したんだからさー」
「自業自得だろ、懲りずにまた新しい奴連れてきてるし」
「人聞きの悪いこと言わないでくれるー?あの子は普通にマシュの友達ですぅー!」
「ホントかー?実はなにか隠してるんじゃねーのかー?」
「……X1.5……」
「おーっとキーア!仲良きことは美しきかな!……だろ?」
「……やーい、へたれー」
「やかましいっ」
あさひさんの本体が龍であることは、彼女の希望で隠すことになった。
なので、さっきまでの行動に関してはでっちあげ済みである。……マシュから逃げる内にあさひさんと出会い、喧嘩の仲裁を彼女にして貰った……みたいな感じに。
正確には(色んな意味で)仲裁をしたのはマシュの方なのだが……本人はでっちあげの方で構わないって言ってたので、手柄はあさひさん持ちということになる。
あと、本来の『芹沢あさひ』とどことなくキャラが違うのは、オグリみたいに見た目だけで選んでなりきりを始めたから、ということにしておいた。
……いやまぁ、そもそもミラルーツのなりきり自体、彼等の性格だのなんだのの時点で、半分オリジナルみたいなもんなのだけれども。
そこは白いドレスの少女からの派生、みたいなもんだと思うより他ない。
って言うか、人以外のキャラのなりきり組がなにを思ってそれを選んだのかとか、私にはわからんのでどうしようもない。
……創作で言うところの人外転生、みたいなものだとするなら、まぁちょっとは理解できそうな気もするけども。
ともあれ、こちらにヤジを飛ばしてくる銀ちゃんには、コブラツイストをお見舞いしつつ。
話が終わったらしい二人が、女子組の方に戻っていくのを確認して、男性陣の方から離れる。
……気分的には、男衆に混ざってる方が気が楽なのだけれど。キリトちゃんの楽園を崩すのも可哀想なので、空気の読めるキーアんは大人しく元の居場所に引き返すのですよ、にぱー☆*10
「だから違うって!」
「?なにが違うんっすか?」
「なにも違わないよ、キリトちゃん逆ハーなのは間違いないよ。だって原作でも、男性キャラと一緒の時の方が楽しそうだからね!」
「おいバカヤメロォッ!?」
「あー……わりとボッチ気質だもんな、キリト」
「同年代の男友達、居ねーもんな」
「居たとしても……ねぇ?」
「やめろっ、俺を可哀想なものを見る目で見るなぁっ!!?」
……おー、なんかよく知らんけど、男衆にキリトちゃんが胴上げされている。
やめろーおろせーとかなんとかキリトちゃんは言ってるけども、男共が悪ノリしてるのは火を見るより明らか、暫くは解放されないだろう。
なのでー……。
「あさひさんは、どっか行きたいところとかあります?」
「んー、今時女子っぽくスイーツの食べ歩きとかどうっすか?」
「……今時、女子?」
「冷静に考えずとも、中身までちゃんと女性な方、何人居るのかと言う話ですね……」
とりあえずあさひさんに、やりたいこととか聞いてみたのだけれど。
……今時の女子って、なにして遊んでんの?みたいな疑問により、フリーズする私達。
中身までちゃんと女性と言えそうなのは、はるかさんを除けばココアちゃん・オグリキャップ・アルトリア。
その他の面々は、
……女子会ってなんだよ。
そんな私の声にならない言葉は、横のピカチュウに首を捻られるだけの虚しいものなのであった。