なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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アーティレイヤーの姓は悪役を任ずる……かも知れない

 時間は飛んで、クリスマス(12/25)の前日。

 

 朝も早い内から、サンタ役やその相棒役として選抜された者達が、集合場所でもあるプレゼント集積場に集まって来ている。

 ……基本的に彼等の本格的な仕事の始まりは、深夜──日付の変わる前から、日付が変わって朝日が昇るまで──みたいな感じなのだが。

 その時間よりも遥かに早い今、こうして集まっているのは──サンタと助手、双方の顔通しと、互いの親睦を深めるため……ということらしい。

 

 無論、こうしてコートとかマフラーとかで重武装してまで、ほいほいとここまで歩いてきた私も、その主な目的は補助する相手であるサンタとの、仕事前のちょっとした会話のため……ということに違いない。

 昨今のあれこれ(しっと団とか)を踏まえたセキュリティの面で、実際にサンタと助手が顔を合わせるのは、仕事当日の朝になるまで厳禁されている。

 そのため、私もここに集まっているその他大勢の御多分に漏れず、朝から寒さを堪えつつ顔出しをした、というわけなのだった。

 

 ……え?お前さん寒いのは得意ーとか、そんな感じのことをどっかで言ってなかったかって?

 例え得意であったとしても、許容できる寒さの量には限度があるんですー。

 今日の夜はホワイトクリスマスにでもするつもりなのか、昨日までの寒さ(それ)よりも、更に輪をかけて*1寒いんだもんよ。

 キーア風の子元気な子*2、と言ってもそりゃー無理があるってもんですよ、はい。

 

 

「おお寒っ。……えーと、私の相手はっと……」

 

 

 そんな感じで、吐いた息が白く染まりながら、朝の空気に溶けていくのを眺めつつ、自身のパートナーであるサンタ役の人物を探しているわけなのです。

 

 ……ただ、サンタ券とかいう、相手を探すための目印となるカードの案内に従って動いているのだけれど、これがまた指示がアバウト……もとい、アナログというか。

 

 ワンピースに出てくる『ビブルカード』*3の原理を応用して作られたモノであるとか、ゆかりんから渡される時に軽ーく説明をされたのだけど……。

 流石にあれそのものってわけでもないらしく、どこか平たい所に置いて暫く待つ……みたいな手間こそ無いものの。

 初代ポケモンのダウンジングマシン*4に、大まかな方向指示が付いた……くらいの杜撰なナビゲートシステムしか付いてないため、結局のところあんまり指標として役に立っていない、というか……。

 

 説明がわかり辛い?じゃあ見たまんまを。

 大きなチケット風の紙の真ん中に、『南 300m圏内』って書いてあります、こっちが動くと書いてある文字も更新されます、以上。

 ……なんで感知範囲の最小単位が百メートルからやねん。

 

 いやまぁ、理由というか理屈というかはわかるのですよ。

 元がビブルカードであるところに、ちょっと詳細なナビゲートとか、紙の使い回しができるように、対象者の変更機能を搭載しようとか。

 そういう、あれば便利だけど元の性能的には余分な機能を付け加えた結果、機能同士が干渉(コリジョン)*5しちゃったんだろうなー、というのはわかるのです。

 だってこれ、いつもの失敗作の有効活用みたいなこと、最初に言ってたからね!

 

 なので、とりあえず形を整えること・とにかくちゃんと動くことを前提として、あれこれと調整したんだろうなー。それも結構苦労したんだろうなー。……というのも、よーくわかるのです。

 

 だから、その上で言わせて頂きたい。

 

 

「……プリペイドスマホでええやんけ」

 

 

 ……なりきり郷の内部において、普通の機械類は使用できないとは言うものの。

 それでも、変に創作由来の技術に拘るより、元からあるものをここで使えるようにした方が、よっぽど楽だったのではないか?……と、首を捻らざるを得ないわけなのです。

 とりあえずなんでも試そうとする、そのチャレンジ精神は凄いと思うんだけどさ……。

 なんてことを愚痴りながら、あっちを向いたりこっちを向いたりする私なのであった。

 

 

 

 

 

 

「……ああ、アンタが俺の相方か」

「ん?……んんー、そうなる、のかな?」

 

 

 結局、そこから三十分ほど探し回って。

 ようやく見付けた相手は、近くの医務室にいたとあるお医者様だった。……屋内かよ、見付からないわけだ。

 ともあれ、ようやく出会えた相手に軽く会釈をして、本来なら患者が座るのであろう丸椅子に腰掛け、相手の顔を見る。

 

 ──トラファルガー・ロー。*6

 ワンピースの登場人物の一人、初登場の時と現在でのキャラが違いすぎて話題の、いつ仲間になるんだろーなーと皆から生暖かい目で見られている人物……。

 

 

「おい、心の声が全部漏れてるぞ、キーア屋」*7

「おおっと、こいつは失敬」

「……あと、最初の時のことを突っ込むのはよせ、誰にだって思い出したくない過去ってのはあるもんだ」

「へーい、承知してまーす」

……本当にわかってるのか?コイツ……

 

 

 なんて風に、彼をまじまじと見詰めていたのだが……おおっと、初手対応をミスってしまったらしい。

 見るからに不審げになってしまったトラファルガーさんの様子に、ちょっとだけ反省する私。

 

 ……数少ないワンピース系キャラなうえに、更に数が少ない真っ当な医者系のキャラでもある彼に、悪い印象を持たれるのは宜しくないと言えるだろう。

 なので汚名挽回のため、ちょっと張り切るキーアちゃんなのであった。

 

 

「……それを言うなら、汚名返上だろうが」*8

「失礼、噛みました」

「……いや、わざとだな?」

「噛みまみた」

「わざとじゃなかった!?」

「神谷見た?」

「……あ」

 

 

 なお、いつも通り心の声は駄々漏れだったので、トラファルガーさんは生来の生真面目気質で対応してくれたのだが……おや?

 思わず流れ的に八九寺(はちくじ)ってしまった*9のだが、対応が……おやおやぁ?

 おやおやおや。おやおやおやおや。……失礼、愛ですよロー。

 

 

「うわっ目ぇ怖っ!!?」

「えー、貴方は一つ、隠し事をしています。違いますか?」*10

「い、いや。何も隠してない、隠してなんか無いぞ」

「ではどうして、一連の会話の流れで登場した『神谷見た?』という台詞に対して、一瞬の間を生んでしまったのでしょうか?貴方の声が神谷浩史氏のものであることは、周知の事実。『噛みまみた』というフレーズから連想するものとしては、わりとありふれているモノだと思えますが……」

「い、いや、それは……」

「貴方が隠していること。えー、それは貴方が純粋なトラファルガー・ローではなく、『神谷浩史氏の演じているキャラクター』が混じったモノだから……違いますか?」

「ち、違う!デタラメだ、そんなのっ!!」

「……くうくうおなかがなりました」

「ひぃっ!!許してくれ桜!冷蔵庫の中のプリンを食べたのは謝るからぁっ!!……って、あ」

「……だらしがないですね、シンジ」

「ライダー!?」

「通りすがりの魔法使いだ、覚えておけ」

「いや混ざりすぎだろっ!!絶望したっ!!キャラがぶれぶれすぎて絶望したっ!!」

「それをお前が言うんかーい」

「言うんだーい♪……さぁ殺せぇっ!!」

「……わー、情緒不安定~」

 

 

 まるで多重人格者のように、ころころとキャラのノリが変わって行ったトラファルガーさんは、最終的に元のノリ(トラファルガー)に戻って、こちらに介錯要求をしてきたのだった。

 ……いや、私にどないせいと?

 

 

 

 

 

 

「はぁ、『神谷浩史スレ』?」

 

 

 数分後、絶望先生ばりに首を吊ろうとするトラファルガーさんを、どうにか(なだ)(すか)した私。

 そうして落ち着いた彼がおずおずと口にしたのは、自身の出身スレについてのお話であった。

 こちらの言葉に、椅子に座り直したトラファルガーさんが鷹揚に頷きを返してくる。

 

 

「ああ、文字通り・言葉通りの場所だ。神谷屋(かみやや)の演じたキャラを、名無し達にリクエストされた通りに演じていく……みたいな感じの場所と言うべきか」

「はぁ、そりゃまたなんとも、ありがちというかなんというか」

 

 

 どっちかと言えば声優ファン向け、というか。

 まぁ見掛けるのはごく稀ながら、たまーに盛況になってたりするタイプのなりきりだと言えるだろう。

 というかスレの盛況さ的には、今までこっちで見たことがなかったということの方が、珍しい感じでもあるのだけれど……。

 

 そういうスレから来た人物がどういう状態になるのか?

 ……というのは、意外と考慮したことがなかったような気がしないでもない。

 なので今の彼のように、どこか情緒不安定に見えるというのが。

 ……それが正常な状態なのか、はたまたこっちのせいでおかしくなっているのか。微妙に判断が付かないのが、困り者なのであった。

 

 

「……これに関しては、正常な動作だと思って貰っていい。……なんというか、同じ神谷屋のキャラの中でも、特に出てくる頻度の高かったキャラが、性格的なモノとして表に出てきやすいというか……まぁ、そんな感じだ」

「ふーむ?」

 

 

 聞くところによれば、トラファルガー・ロー、糸色望、間桐慎二、ティエリア・アーデ、阿良々木暦と、あとリヴァイ兵長辺りが、彼のスレにおいて登場頻度が多いキャラだったらしく。

 それゆえに土台はトラファルガーなのだが、興奮したり困惑したり激怒したりなど、平時の精神状態でなくなると、思わず他のキャラが出てくる……みたいな感じになっているのだという。

 

 ……【複合憑依】とは、また微妙に原理が違うらしい。区分的には【継ぎ接ぎ】だが、【継ぎ接ぎ】ほど単純でもない、というか。

 

 

「まぁ、色々とやっかいな体質だってのはよーくわかったわ。……もしかして、今回貴方がサンタ役なのも、そのせい?」

「……恐らくな」

 

 

 そのまま、話はサンタ云々についてのものに移っていく。

 

 正直な話、トラファルガー・ローというキャラクターに、サンタ性というものはないはずだ。

 何かしらの企画でサンタの格好をした、とかは合ってもおかしくはないが、逆に言えばそれくらいしかサンタ要素というものとの関わりはないだろう。

 どっこい、彼が『神谷浩史氏の演じたキャラクター』として判別されているとすれば、話は違ってくる。

 

 神谷氏は普通に有名かつ、人気声優に区分される側の人物である。それ故、それらの集合体に近い彼に付随されるサンタ性とは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……相変わらずサンタ回りの話は頭が痛くなるようなものが多いが、多分これで間違いないだろう。

 要するに、『神谷浩史氏サンタ説』!!

 

 

「……いや、論理が飛躍しすぎだろう、それは」

「ですよねー」

 

 

 なお、あまりにも胡乱過ぎたため、当の本人からは否定されました。是非もないよね!

 

 

*1
弓道の弦輪(つるわ)に由来するとされる言葉。要するに『弦をキチンと張ることで、矢が良く飛ぶようになる』=『前までよりも程度が強くなる』という意味になったのだとか。なお、桶の箍として使われる輪が、桶そのよりも広い円を描く……すなわち程度が大きいという意味となった、という説もある。前者の方が有力視されているが、実際の由来は不明

*2
江戸時代のことわざ、『(わらべ)は風の子』から。子供は寒くても外で元気に遊び回るものである、もしくはだからこそ外で遊びなさい、みたいな意味の言葉。なお、この言葉のあとに『じじばば火の子』とか『大人は火の子』と続く。『元気な子』がいつから付随するようになったのかは不明だが、恐らく後半部分が削られた結果、なのではないだろうか

*3
『ONE PIECE』に出てくるアイテム。対象人物の爪の欠片を練り込んだ、特別な紙。対象の居場所を指し示すほか、対象の生命力とも連動しており、対象が死んだ時は燃えてなくなる。それ以外の方法では、如何なる手段を用いても消失させることはできない

*4
近くに隠されたアイテムを見付け出す為の機械。初代ではポケモン図鑑の登録数が30匹を越えると、研究員から貰うことができた。画面内にアイテムが隠されていると、特徴的な音で知らせてくれる。……が、画面内にあれば音が鳴るため、片手落ち感が漂う。最新作では廃止されたが、それまではずーっと使い勝手が良くなっていった

*5
本来の意味は衝突。IT用語としては干渉という風に解釈しても間違いではない。通信機器などで、同じ伝送路を同じタイミングで同じ用途に使ってしまったがために、信号が混線してしまった状態などを指す

*6
『ONE PIECE』のキャラクターの一人。『死の外科医』という異名を持つが……初期ならともかく、今の彼は別な意味で『死の外科医(笑)』だろう(主に若気の至りで付けた名前に見える、という意味で)

*7
『◯◯屋』は、俗に屋号と呼ばれる呼び方。江戸時代頃には名字が存在しなかったため、名字の代わりに『八百屋の◯◯さん』や、『桶屋の◯◯さん』のように、相手の職業を名字代わりに使っていた。花火を打ち上げる時の『たまや、かぎや』も、そういった屋号の一つ。なので、『鍵屋』さんは今も存在していたりする(『玉屋』は廃業済み)。なお、ヨーロッパの方でも屋号は使われていたりするそうな。日本人よりも名前が被りやすい(聖人の名前を使わせて貰うことが多い)から、なのかもしれない

*8
『汚名返上』と『名誉挽回』はよく混同される言葉。意味としては前者が『悪い評判を返す(捨てる)』、後者は『良い評判を取り戻す(挽回する)』。なので、言葉の意味を考えると間違えるはずもない……のだが。実は、『汚名挽回』も『汚名の無かった状態を取り戻す(挽回する)』となるため、間違いではないのだそうな(『疲労の無かった状態に回復する』という意味の『疲労回復』と同じ用例)

*9
『八九寺-る』[はちくじ-る](動詞) 八九寺のようにする。言葉を噛み、そこから話を展開する。『噛みました』から始まる、一連の流れのこと

*10
『えー』から始まる推理文は、主に『古畑任三郎』シリーズの主人公、古畑任三郎をイメージしたもの。最初に犯人(フーダニット)を明かし、主にどうやってやったのか(ハウダニット)を推理していくのが、『古畑任三郎』シリーズのセオリーである

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