なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「と、凍結処理……ですか」
マシュが呆然としたような声でそう呟く。
……4以上が対象と言っていたことから、本来5扱いになるというマシュにとって、決して他人事とは思えないからだろう。
そんなマシュの震える手を取って、落ち着くように声を掛ける。
「落ち着いて、今のマシュは対象外なんだから。はい、深呼吸」
「──は、い。すみません、せんぱい」
「謝らなくていいから、はい、深呼吸」
マシュが落ち着くまで待って貰い、ついでにジェレミアさんにお菓子も持ってきて貰って、いっぱい食べさせる。……甘いものはなぁ、幸せの素*1なんだよォ!いいからいっぱい食え食え!
「せ、せんぱい!ありがとうございました、ですがもうこれ以上は!ご勘弁願えませんでしょうか!!」
「ぬう、仕方がない」
元気も戻ってきたみたいだし、これくらいにしておくか。
なんて感じに笑いつつ、改めてソファーに座り直す。……対面のゆかりんがなんとも言えない表情でこちらを見ていた。半笑いと言うか、苦笑いと言うか。
さっきまでのちょっと胡散臭い感じの笑みは、完全に消し飛んでいる。……あ、もしかして黒幕ムーブ*2してた?それは悪いことを……。*3
「うん、その、続きに行ってもいいかしら?」
「どうぞどうぞ」
気付かれたことに気付いたのか、ほんのり頬を染めて次を話そうとするゆかりん。……にちょっとほっこりしつつ、了承の意を伝える。視線がちょっと鋭くなったけど、涙目なので怖くないデース。*4
「……はぁ。えっと、凍結塔についてだったわね。それを話す前に『なりきり郷』の地下について説明しときましょう。実際に地下を掘っているわけではない、というのは知ってるわよね?」
「ゆかりさんに聞いたんで多少は」
「ゆかりさん?……ああ、そういえば結月ちゃんもゆかりだったわね……」
唐突なゆかりさん呼びに一瞬困惑して眉を曲げるゆかりんだったけど、すぐに結月さんの方だと気付いて納得したように頷いている。……名前被りは多重クロスのお約束よね。*5
「ここの地下は正確には地下にあるわけじゃないから、各階層で高さも広さも結構違う*6のよね。動物系になってしまった人なんかは、場合によってはヤバいことになってる*7から一階層丸々使ってる、なんてこともあるし」
「……参考までに聞いときたいんだけど、それどういうのが居るの?」
「えっと、ミラルーツ*8さんにバハムート*9さんに原作者も知らないドラゴン*10に……」
「よくわかったんでもういいで……いや待った原作者も知らないドラゴンって何?」
「原作者も知らないドラゴンよ?」
「ええ……?」
挙げられた
思わず宇宙猫*12になりつつ、それだと話が進まないので気にせず進めてくれとゆかりんにお願い。
彼女は苦笑いをしながら、続きを話していく。
「彼らはまぁ、どっちかと言えば他の龍と一緒だと争いになるかもしれない、って自分から進言してくれた人……人?達だからまぁまだマシなんだけど。うん、そういうの意識しないような人もまぁ、居るわけでね?」
「ヴィラン*13的な?」
「そうそう。で、そういう人達はとりあえず隔離以外できないわよね、って感じで地下に作られた施設が、さっきの隔離塔を含む隔離区画ってわけ」
ゆかりんの語るところによれば、地下千階というなんだそれ、みたいな場所にあるのが隔離区画なのだそうだ。
空間拡張系の技能を持っている人達が力を結集して作り出されたこの区画は、一つの星程の広さを持っているらしい。……スケールデカいなおい。
その中で、さっきのレベル3などの隔離が必要な者達は、自身と似たような体質の者と一緒に一つの塔に住んでいたり、はたまた一人で塔を占拠みたいなことになっていたりするらしい。
例で示すなら、静謐ちゃんやアークナイツ組は前者、いーちゃんは後者だ。
それとは別に、刃牙とかみたいな格闘系のモノを原作に持つ人達の為に闘技場みたいなものもあるらしいけど、それはまた別の話らしい。
「そういう隔離塔の集まりと隣接するように、別個に儲けられているのが凍結塔。こっちは隔離じゃ本人の行動を抑えきれないから作られた、文字通りの監獄みたいなものね」
そして、その隔離塔のある場所から少し離れた位置に隣接しているのが、中に入った者を概念的・空間的・時間的に凍結し
「保護?」
「監獄、って説明と矛盾するようだけど、根本的にはそのまま放っておくと自他共に傷付ける可能性がある人達を
「……いやまさかと思うけど、居ないよねあの辺りの」
「とりあえず今のところは。……
「怖いこと言うの止めようよゆかりん!?」
なりきりからの憑依だから、よっぽどの事がないとフルスペックなんて発揮できないんだろうけどさぁ!?
なんて風に叫ぶ私に、ゆかりんは苦笑い。……さっきから苦笑いばっかり浮かぶなこの話……。
「レベル4相当の人達はそれなりに原作のスペックを引き出せてるから、思うままに暴れさせるのは心身及び周囲によくないってことで、色んな所から状態停止に関する技能を集めに集めて……そうして作り上げたのが凍結塔なのよ」
「へぇー、停止系かぁ。……ストップ*15とか?」
「封絶*16とかタイムストップ*17とかね。纏めるのには私が協力しました」
「流石の境界弄り……」
「えっへん。管理人ですもの、これくらいはね?」
まぁ、作るのに一ヶ月くらい掛かっちゃった*18んだけど、と最後に付け加えて、凍結塔の話はおしまいになった。
……ふむ。なんというか、明かされた情報だけで結構お腹いっぱいなんだけど。これ、最後のレベル5についての話がまだなんだよなぁ。
なんとも言えない気分で横のマシュにチラリと視線を向ける。……さっきよりは落ち着いてるけど、はてさてどうなることやら。
「さて、最後のレベル5についてなんだけど。……そもそもここに区分されるような人達は、両手で数えられる程しか居ないから、ちょっと推測が入るということは先に言わせて貰うわね。彼等はレベル4とは逆に『演者と憑依者が噛み合いすぎてしまった』人達。主義思考や重んじるモノなどが
「重なり、過ぎた……?」
「そう。マシュちゃんにも覚えはない?
「あ、は、はい。私はマシュではありますが、同時に決してマシュではないという確信。……胸の奥で燻る焔のようなそれを、私は確かに感じていました」
「燻る焔、ねぇ?……まぁ、それは置いといて。凍結処理前に話を聞いたレベル5相当の人達は、皆同じ感想を抱いていたわ。
「………!」
ゆかりんの言葉を受け、隣のマシュが息を呑む。
レベル5相当の人物に共通する自己の否定。……これは哲学的なものではないのだろう。何故ならば──。
「おかしな話だと思わない?彼等は
「……実際に錯乱するほどに、似た人物を演じていたから。さっきのレベル4とは違い、『近しい性質を持つがゆえに、自他の境界が溶け合いそうになった』人達ってことね?」
「そういうこと。レベル4は
ある種、なりきりと言うものを真剣にやっていたからこその落とし穴。
なりきりとは、本来どこまで行ってもごっこ遊びである。だからこそ真剣になりきろうとするし、そのキャラクターらしい思考をトレースしたりもする。
だがそれは、遊びであるからこそ。──実際にそのキャラクターになってしまった時に、一体どうなるのか。
割り切れる人はまぁ、特に問題もないのだろう。似ているキャラ、似ていないキャラ、どちらであっても自分と言うものは揺るがないはずだ。
だが、割り切れない人は?なりきりの理由に何かしらのシンパシーが混じっていたりしたら?自分の思考のはずなのに、相手の思考だと誤認できてしまうほどに近いモノだったら?
──その結果が、強烈な
自分と彼等が同じである筈がない、彼等の輝きは、自分などには及ぶべくもないものだ、という。
「基本的にレベル5に区分される人は、その強烈な違和感に心身を蝕まれてしまうの。だからレベル5の人達に関しては、本当に保護という方が正しいのよね。──そうしないと壊れてしまうのが、目に見えてるんですもの」
「で、では、私は!?私はどうして今、無事なのですか!?」
ゆかりんの言葉に、たまらずと言った風にマシュが立ち上がる。……
彼女はこちらを驚いたように一瞥したのち、唇を噛み締めソファーに座り直した。
……あーもう、まーたぐちゃぐちゃになってるこの子。
仕方ないのでまたお菓子攻撃。もう大丈夫と根を上げるまでお菓子を食べさせてあげて、改めてゆかりんに向き直る。
「もう大丈夫?じゃあまぁ答え合わせだけど……そりゃもちろん、キーアちゃんのおかげ?よね」
「ですよねー」
「え、あっ!『
答えは分かりきっていたので、二人でため息。
……マシュの言う通り、私のハリセンが原因であることは明白だろう。
あのハリセン、言ってしまえば場面転換を物質化したものである。
結果、彼女は悩みながらも進む事ができるようになった、と。あんまりにも物理的な解決方法に、思わず自分の事ながら呆れのため息が漏れる。……いや、結果的にはよかったんだろうけどさ?
まぁ、そこは置いといて。
「スペックの上限値の計算に、なりきりの完成度が含まれている癖に、上げすぎると問題が発生するかもってどう見ても罠よねこれ……」
「遊びじゃないって仮定なら、俳優さんとか声優さんとかがそういうの高くて、なおかつ引っ掛からなさそうだけど、そういう人は居ないの?」
「その辺りの人達は、そもそもなりきり板なんかに来ないわよ」
「うわー唐突なマジレス*20……」
普通のなりきりでは、どこまで行っても五割程度にも満たない。
……なんだろうねこの欠陥システム。いや、ほどほどで十分だって言うんなら、今のこれでも構わないんだろうけどさ?
ますますこの現象について意味が分からなくなって来る中、ゆかりんがソファーを立ち上がった。そして、こちらにも立つように促してくる。
「どしたのゆかりん?」
「ちょっと確かめたい事があってね。これから凍結塔まで付き合って貰える?」
「……は?」
───なんですと?
間抜けな顔を晒す私に、ゆかりんは可愛くウインクして見せるのだった。