なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「走れソリよ~♪光のように~♪」*1
「……いや、ソリを光速で走らせようとするな、マジで。……コイツ、その辺りの融通が一切利かないんだぞ」
なりきり郷の空を、ご機嫌な歌を響かせながら飛び続けるソリが一つ。
そこにいるのは勿論私、私ですよ。そう、ちっちゃくて可愛いキーアさんです。*2
……はい宣伝終わり。
唐突なゆかりんからのCM依頼に、何故か満面の笑みで答える羽目になりましたが、一応私は元気です。
……最近すっかり忘れかけていたけれど、相も変わらず『マジカル聖裁キリアちゃん』は人気番組の一つなのだそうで。
こうしてたまーに、CMやらなにやらの協力を頼まれることがあるのである。……深夜に依頼が来た理由?どこも
なお途中でロー君が反応して声をあげていたが、それは向こうで上手いこと編集してカットするそうなので、特に問題はないとのこと。……無駄な技術力~。
「……で?問題がないのに死にそうになってるのは、どういうことなんだ?」
「悲しみを背負っているだけなのです、特に問題はないので気にしないで下さい……」
「……おい、間違っても飛び降りるなよ?」
なお、別にアレについて慣れたとか吹っ切れたとか、そういうプラス方面な変化は一切無いため、いつものようにグロッキーになっている私でございます。……恐怖とは、常に過去からやって来るんやなって……。
……それとロー君や、わっち*4飛び降りても普通に飛べるタイプの人なんで、そこら辺の心配はしなくても大丈夫です(?)
話を戻して、サンタ業のお話。
宙を飛ぶよくわからない生き物が、こっち目掛けて突っ込んできたり、はたまた下から狙撃?っぽいことをされたりとかしたけれど、特にソリの運航には問題なく。
……デフォルトでソリに搭載されているサンタバリアが、大体の脅威を弾いてくれるので、とても快適な空旅なのであった。
まぁサンタ特攻持ちに攻撃されると、どこぞの光子力研究所のバリア*5みたくパリパリと割られかねないので、一応の警戒はしているわけなのだが。
「しかしまぁ……壮観だねぇ」
「この辺りは居住区だからな。サンタの動員数も、必然多くなるってわけだ」
ソリの縁に肘を置いて、周囲を飛び交うサンタ達の姿を見る。
私達も含めて、居住区であるこの階層に飛び交うサンタの姿は、おおよそ十組ほど。
それらが全て、光の穂を引きながら空を舞う姿は、どこか幻想的ですらあった。
……実際のところは、どいつもこいつも流星のごとき速度でビュンビュン飛び交っているため、『サンタ歪曲フィールド』*6がなければソニックブーム*7が発生し、地上が酷いことになりかねなかったりするのだけれども。……いや、サンタ万能説かなにかですか?
ともあれ、単に見ている分には綺麗な光景でしかない、今の状況。
サンタの相棒役である私は、周囲の監視が主な仕事であるために、こうして思いっきり気を抜きまくっているのでありましたとさ。
……そうして気を抜いてたら、さっきキリア関連のお仕事が飛んできたんですけどね。気を抜くなって言われてるようで、思わず渋面にもなるってもんですよ。
「……にしても、現れないねぇ、『白面』」
「出ないんなら出ないで構わないがな。……そもそも、それ以外にも妨害者は居るようだしな」
「あー、うん」
そうして愚痴を溢しつつ、出てくるはずの『白面の者』の姿が見えないことに、小さく首を傾げる私。
飛んでくる謎の生き物がそれなのか、と思ったりもしたのだけれど。
……『白面』関連で飛んでくるっていうと
あれ、目玉に羽が付いてるような見た目だったはずだから、今飛んできてるトンボみたいな奴とは、似ても似つかないんじゃないだろうか?
下から撃って来てたのに関しても、どうも別口の妨害者のようだし。……まぁほら、世の中にはサンタ狩りー、的なことをしようとする人ってのも、たまには居るわけで。
下に居るのは、恐らくそっちの類いの奴らでしょう。
お祭りに乗じて暴れているだけ、ってところもなくはないので、後でゆかりんに怒って貰うように言いつけておけば、特に問題はないはずだ。
……撃ってきてるのに問題がない理由?
そりゃまぁ、現代兵器はサンタパワーの前には無力、ってのは周知の事実ですので……。
こっちからしてみれば、どれだけ火力を上げても輪ゴム鉄砲程度の威力にしかならないから、一々怒る必要すらないのですよ。
仮にサンタ防御がなかったとしても、なりきり郷の
「ふうむ、でもマーリンが代わりに寄越すレベルの未来視能力持ち、件の桃香さんが言ってたことだからなぁ……前兆すら無いってのも変というか」
「桃香……って言うと、今こっちに向かって飛んで来てる桃髪の?」
「そうそう桃髪の。……
そうして話は戻って、『白面の者』のあれこれについて。
対処をしなければ未来は変えられない──すなわち、
未来視云々に関しては一家言ある私としましては、このまま無難にクリスマスが終わるとは、どうしても思えなかったりするのだけれど……。
──はい?桃香さんが?……こっちに飛んできてる?鬼の形相で?
いやなんでそんなことに、みたいなことを考えながら、ロー君の言葉を受けて振り返った私は。
彼女が見ているのが
……無論、その予感はただの予感などではなく。
「──魔王、覚悟っ!!」
「どわぁぁああっ!!ちょっまっ、人の話を聞けぇぇぇえっ!!?」
「わー、銀ちゃんがソリから振り落とされそうになってる、がんばれー」
「いや言ってる場合か?!ぶつかるぞこれっ!?」
「ハハハ、ムリデース☆流石にサンタ☆接触事故については想定外デース」
「いやふざけ、ぬわぁあああっ!!?」
明らかに暴走状態のソリに乗った二人が突っ込んで来たため、私達は夜空に咲く一輪の花火になってしまったのでした。
なんでソリとソリがぶつかった結果、爆発なんてものが起きるんですか?(現場猫感)
……みたいな疑問と、ぶつかる直前に桃香さんが呟いた言葉に思考を割きつつ、すいーっと近くの路地裏に降りてきた私。
無論、怪我一つ無い五体満足である。……実際は語弊が有りまくりだけども。
ん、ロー君はどうしたのかって?
……彼はああ見えても超人揃いの『ワンピース』世界出身者だから、高所からの着地くらいは普通にこなすでしょう、大丈夫大丈夫。きっとヒーロー着地*9してるよ、多分。
「……ふーむ、エル……サイ……ルゥ?なんのこっちゃ?」
そんなことよりもなによりも、鬼気迫った表情を一瞬緩め、爆炎に呑まれる前に桃香さんが言おうとしていた言葉の方が、現状ではよっぽど重要な情報である。
魔王、覚悟!……とか言ってた割に、殺気とか欠片も感じなかったし、きっとこちらになにかを伝えようとした結果、だったんだろうけども……生憎と声については爆音で掻き消されてしまっていたため、肝心の部分がよく分からないと言うのが現状なのであった。
「おや、キーアさんじゃないっすか。サンタはもう終わりっすか?」
「おやその声はあさひさん。そちらは今日は一日家に引きこもるー、みたいなことを言ってたような気がするんですが?」
「
「……はい?呼ばれた?」
そうしてうんうん唸っていたら、聞き覚えのある声が聞こえたため、振り返る私。
今日は自身の居住地に引きこもってるつもり、みたいなことを言っていたはずのあさひさんの姿が、そこにあったのだけれど……。
……あれー?あさひさんって『白い少女』の似姿として選ばれてたんだよね?
「……なんで服が青くなってるんです?」
「
「……なんで髪が伸びてるんです?」
「外界からのお達しっす。ちょっとアゲアゲ?に生きてけというお告げっすね」*10
「……なんで目隠しなんてしてらっしゃるのです?」
「…………なんででしょうね?」
常のあさひ──ショートカットで白いワンピを着た姿が、彼女のデフォルトだが。
今の彼女の姿は青いドレス──もっと言えば、どこぞの
その上で──目元を青いベールで隠している。……雑に言えば、『妖精騎士ランスロット』のコスプレをした芹沢あさひがそこに居たのだった。
見た目だけなら笑い話なのだが、生憎とここにいるあさひはあさひに非ず。
──その真体、すなわち龍躯。
コスプレ以上にヤバいなにかとしか言えないもの、それが今私の目の前に居るあさひさんなのであった。
それだけではない。
先程から路地裏に静かに響く音はなんだ?
……そう、それは地の底より響く音。
迂闊にも名前を出したがゆえに引き寄せられた、哀れなる骸の神の怒りの言葉。
その先触れ……その予兆の音。
それが、周囲を満たしていたのだった。
『マシュちゃん、そっちにキーアちゃん居ない?』
「──はい?せんぱいですか?」
同時刻、別の階層。
アルトリアと共に空を翔けるマシュは、突然の八雲紫からの通信に、小さく首を傾げた。
集合の時こそ一緒に向かいもしたが、サンタの仕事が始まってからはそれぞれ別行動。
何か異常事態が起きたとかでも無ければ、互いに連絡することはないように調整もしていたため、相手の同行を彼女が知るはずもない。
便りが無いのはよい便り……という訳ではないが、相手を信用して殊更に心配をしないようにする、というのも他者との関係では必要であると説かれもしたため、彼女としては今回は特に、意識して相手を気にしないようにしていたのだった。
──故に、どう足掻いてもこの時点の彼女には、相手がどうなっているのかを知る術はない。
『んー、
「なるほど、それは心配ですね。『滞空回線』ならぬ『八雲回線』の方には繋がらないのですか?」
「そっちは『宛先不明』になるのよねー。……彼女のスマホ、こっちで用意した特注品だから、複数通話も可能なはずなんだけどねー」
「……わっ!?や、八雲さん、いきなり隣に現れないで下さい、心臓に悪いです……」
困ったような声を上げる紫と、それに対して次善の案を述べるマシュ。
無論、その辺りは紫の有能な部下達が既に考え付いており、試してもいる。……結果は空振りなわけだが。
そうして、自身の住まいからスキマを通って自然にソリの上に乗ってきた紫に、ソリの手綱を握っていたアルトリアが驚いて声をあげようとして。
──直後、己の直感に従ってソリを急上昇させた。
突然の足場の揺れに、気の抜けていた紫が姿勢を崩しそうになって、それをマシュが抱え、ソリにしがみつく。
何事か、そう目で語るマシュに対して、アルトリアはただ静かに視線を下に向けて見せた。
二人が顔を見合わせ、ソリから身を乗り出して、下を覗き込めば。
──街を覆うように、珍妙な生き物達が行進しているのが目に写るのだった。