なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

141 / 1001
悪いがこれも仕事じゃきに、的な

「走れソリよ~♪光のように~♪」*1

「……いや、ソリを光速で走らせようとするな、マジで。……コイツ、その辺りの融通が一切利かないんだぞ」

 

 

 なりきり郷の空を、ご機嫌な歌を響かせながら飛び続けるソリが一つ。

 そこにいるのは勿論私、私ですよ。そう、ちっちゃくて可愛いキーアさんです。*2

 

 ……はい宣伝終わり。

 唐突なゆかりんからのCM依頼に、何故か満面の笑みで答える羽目になりましたが、一応私は元気です。

 

 ……最近すっかり忘れかけていたけれど、相も変わらず『マジカル聖裁キリアちゃん』は人気番組の一つなのだそうで。

 こうしてたまーに、CMやらなにやらの協力を頼まれることがあるのである。……深夜に依頼が来た理由?どこも年末進行(デスマーチ)*3だから、とかじゃないですかね……。

 なお途中でロー君が反応して声をあげていたが、それは向こうで上手いこと編集してカットするそうなので、特に問題はないとのこと。……無駄な技術力~。

 

 

「……で?問題がないのに死にそうになってるのは、どういうことなんだ?」

「悲しみを背負っているだけなのです、特に問題はないので気にしないで下さい……」

「……おい、間違っても飛び降りるなよ?」

 

 

 なお、別にアレについて慣れたとか吹っ切れたとか、そういうプラス方面な変化は一切無いため、いつものようにグロッキーになっている私でございます。……恐怖とは、常に過去からやって来るんやなって……。

 ……それとロー君や、わっち*4飛び降りても普通に飛べるタイプの人なんで、そこら辺の心配はしなくても大丈夫です(?)

 

 話を戻して、サンタ業のお話。

 宙を飛ぶよくわからない生き物が、こっち目掛けて突っ込んできたり、はたまた下から狙撃?っぽいことをされたりとかしたけれど、特にソリの運航には問題なく。

 ……デフォルトでソリに搭載されているサンタバリアが、大体の脅威を弾いてくれるので、とても快適な空旅なのであった。

 まぁサンタ特攻持ちに攻撃されると、どこぞの光子力研究所のバリア*5みたくパリパリと割られかねないので、一応の警戒はしているわけなのだが。

 

 

「しかしまぁ……壮観だねぇ」

「この辺りは居住区だからな。サンタの動員数も、必然多くなるってわけだ」

 

 

 ソリの縁に肘を置いて、周囲を飛び交うサンタ達の姿を見る。

 

 私達も含めて、居住区であるこの階層に飛び交うサンタの姿は、おおよそ十組ほど。

 それらが全て、光の穂を引きながら空を舞う姿は、どこか幻想的ですらあった。

 ……実際のところは、どいつもこいつも流星のごとき速度でビュンビュン飛び交っているため、『サンタ歪曲フィールド』*6がなければソニックブーム*7が発生し、地上が酷いことになりかねなかったりするのだけれども。……いや、サンタ万能説かなにかですか?

 

 ともあれ、単に見ている分には綺麗な光景でしかない、今の状況。

 サンタの相棒役である私は、周囲の監視が主な仕事であるために、こうして思いっきり気を抜きまくっているのでありましたとさ。

 ……そうして気を抜いてたら、さっきキリア関連のお仕事が飛んできたんですけどね。気を抜くなって言われてるようで、思わず渋面にもなるってもんですよ。

 

 

「……にしても、現れないねぇ、『白面』」

「出ないんなら出ないで構わないがな。……そもそも、それ以外にも妨害者は居るようだしな」

「あー、うん」

 

 

 そうして愚痴を溢しつつ、出てくるはずの『白面の者』の姿が見えないことに、小さく首を傾げる私。

 

 飛んでくる謎の生き物がそれなのか、と思ったりもしたのだけれど。

 ……『白面』関連で飛んでくるっていうと婢妖(ひよう)でしょ?*8

 あれ、目玉に羽が付いてるような見た目だったはずだから、今飛んできてるトンボみたいな奴とは、似ても似つかないんじゃないだろうか?

 

 下から撃って来てたのに関しても、どうも別口の妨害者のようだし。……まぁほら、世の中にはサンタ狩りー、的なことをしようとする人ってのも、たまには居るわけで。

 下に居るのは、恐らくそっちの類いの奴らでしょう。

 お祭りに乗じて暴れているだけ、ってところもなくはないので、後でゆかりんに怒って貰うように言いつけておけば、特に問題はないはずだ。

 

 ……撃ってきてるのに問題がない理由?

 そりゃまぁ、現代兵器はサンタパワーの前には無力、ってのは周知の事実ですので……。

 こっちからしてみれば、どれだけ火力を上げても輪ゴム鉄砲程度の威力にしかならないから、一々怒る必要すらないのですよ。

 仮にサンタ防御がなかったとしても、なりきり郷の概念規制(非殺傷補正)に引っ掛かるから殺傷力下がるしね。

 

 

「ふうむ、でもマーリンが代わりに寄越すレベルの未来視能力持ち、件の桃香さんが言ってたことだからなぁ……前兆すら無いってのも変というか」

「桃香……って言うと、今こっちに向かって飛んで来てる桃髪の?」

「そうそう桃髪の。……()()()()()()?」

 

 

 そうして話は戻って、『白面の者』のあれこれについて。

 対処をしなければ未来は変えられない──すなわち、()()()()()()()()に等しい現状では、『白面の者』の爆発によるなりきり郷の崩壊という事態は、必ず……とまでは言わずとも、高確率で実現する未来のはず、なのである。

 

 未来視云々に関しては一家言ある私としましては、このまま無難にクリスマスが終わるとは、どうしても思えなかったりするのだけれど……。

 ──はい?桃香さんが?……こっちに飛んできてる?鬼の形相で?

 

 いやなんでそんなことに、みたいなことを考えながら、ロー君の言葉を受けて振り返った私は。

 彼女が見ているのが()であることに気付いて、ちょーっと嫌な予感がしてくるのであった。

 ……無論、その予感はただの予感などではなく。

 

 

「──魔王、覚悟っ!!」

「どわぁぁああっ!!ちょっまっ、人の話を聞けぇぇぇえっ!!?」

「わー、銀ちゃんがソリから振り落とされそうになってる、がんばれー」

「いや言ってる場合か?!ぶつかるぞこれっ!?」

「ハハハ、ムリデース☆流石にサンタ☆接触事故については想定外デース」

「いやふざけ、ぬわぁあああっ!!?」

 

 

 明らかに暴走状態のソリに乗った二人が突っ込んで来たため、私達は夜空に咲く一輪の花火になってしまったのでした。

 

 

 

 

 

 

 なんでソリとソリがぶつかった結果、爆発なんてものが起きるんですか?(現場猫感)

 

 ……みたいな疑問と、ぶつかる直前に桃香さんが呟いた言葉に思考を割きつつ、すいーっと近くの路地裏に降りてきた私。

 無論、怪我一つ無い五体満足である。……実際は語弊が有りまくりだけども。

 ん、ロー君はどうしたのかって?

 ……彼はああ見えても超人揃いの『ワンピース』世界出身者だから、高所からの着地くらいは普通にこなすでしょう、大丈夫大丈夫。きっとヒーロー着地*9してるよ、多分。

 

 

「……ふーむ、エル……サイ……ルゥ?なんのこっちゃ?」

 

 

 そんなことよりもなによりも、鬼気迫った表情を一瞬緩め、爆炎に呑まれる前に桃香さんが言おうとしていた言葉の方が、現状ではよっぽど重要な情報である。

 魔王、覚悟!……とか言ってた割に、殺気とか欠片も感じなかったし、きっとこちらになにかを伝えようとした結果、だったんだろうけども……生憎と声については爆音で掻き消されてしまっていたため、肝心の部分がよく分からないと言うのが現状なのであった。

 

 

「おや、キーアさんじゃないっすか。サンタはもう終わりっすか?」

「おやその声はあさひさん。そちらは今日は一日家に引きこもるー、みたいなことを言ってたような気がするんですが?」

()()()()ので。今日は残業っす」

「……はい?呼ばれた?」

 

 

 そうしてうんうん唸っていたら、聞き覚えのある声が聞こえたため、振り返る私。

 今日は自身の居住地に引きこもってるつもり、みたいなことを言っていたはずのあさひさんの姿が、そこにあったのだけれど……。

 ……あれー?あさひさんって『白い少女』の似姿として選ばれてたんだよね?

 

 

「……なんで服が青くなってるんです?」

()()()()っすからね。ちょっとしたおめかしって奴っす」

「……なんで髪が伸びてるんです?」

「外界からのお達しっす。ちょっとアゲアゲ?に生きてけというお告げっすね」*10

「……なんで目隠しなんてしてらっしゃるのです?」

「…………なんででしょうね?」

 

 

 常のあさひ──ショートカットで白いワンピを着た姿が、彼女のデフォルトだが。

 今の彼女の姿は青いドレス──もっと言えば、どこぞのドラ娘(妖精騎士)を彷彿とさせる服装へと変わり、髪の長さもまた本来の彼女のそれよりも遥かに長く伸びていた。

 その上で──目元を青いベールで隠している。……雑に言えば、『妖精騎士ランスロット』のコスプレをした芹沢あさひがそこに居たのだった。

 

 見た目だけなら笑い話なのだが、生憎とここにいるあさひはあさひに非ず。

 ──その真体、すなわち龍躯。

 コスプレ以上にヤバいなにかとしか言えないもの、それが今私の目の前に居るあさひさんなのであった。

 

 それだけではない。

 先程から路地裏に静かに響く音はなんだ?

 ……そう、それは地の底より響く音。

 迂闊にも名前を出したがゆえに引き寄せられた、哀れなる骸の神の怒りの言葉。

 

 

 ──祭神・■■■■■■。
 
 ──祭神・ビワハヤヒデ。
               

 その先触れ……その予兆の音。

 それが、周囲を満たしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

『マシュちゃん、そっちにキーアちゃん居ない?』

「──はい?せんぱいですか?」

 

 

 同時刻、別の階層。

 アルトリアと共に空を翔けるマシュは、突然の八雲紫からの通信に、小さく首を傾げた。

 

 集合の時こそ一緒に向かいもしたが、サンタの仕事が始まってからはそれぞれ別行動。

 何か異常事態が起きたとかでも無ければ、互いに連絡することはないように調整もしていたため、相手の同行を彼女が知るはずもない。

 便りが無いのはよい便り……という訳ではないが、相手を信用して殊更に心配をしないようにする、というのも他者との関係では必要であると説かれもしたため、彼女としては今回は特に、意識して相手を気にしないようにしていたのだった。

 

 ──故に、どう足掻いてもこの時点の彼女には、相手がどうなっているのかを知る術はない。

 

 

『んー、()()()()()()C()M()()()()()()()()()()()()()んだけど、結構前からずーっと通話中で繋がらないのよねー』

「なるほど、それは心配ですね。『滞空回線』ならぬ『八雲回線』の方には繋がらないのですか?」

「そっちは『宛先不明』になるのよねー。……彼女のスマホ、こっちで用意した特注品だから、複数通話も可能なはずなんだけどねー」

「……わっ!?や、八雲さん、いきなり隣に現れないで下さい、心臓に悪いです……」

 

 

 困ったような声を上げる紫と、それに対して次善の案を述べるマシュ。

 無論、その辺りは紫の有能な部下達が既に考え付いており、試してもいる。……結果は空振りなわけだが。

 

 そうして、自身の住まいからスキマを通って自然にソリの上に乗ってきた紫に、ソリの手綱を握っていたアルトリアが驚いて声をあげようとして。

 

 ──直後、己の直感に従ってソリを急上昇させた。

 突然の足場の揺れに、気の抜けていた紫が姿勢を崩しそうになって、それをマシュが抱え、ソリにしがみつく。

 

 何事か、そう目で語るマシュに対して、アルトリアはただ静かに視線を下に向けて見せた。

 二人が顔を見合わせ、ソリから身を乗り出して、下を覗き込めば。

 

 ──街を覆うように、珍妙な生き物達が行進しているのが目に写るのだった。

 

 

*1
アメリカの民謡『ジングルベル』の日本語版訳の一節より。元々は感謝祭を祝う為の曲だったそうな

*2
『魔女の旅々』の主人公、イレイナの台詞『そう、私です』から。同じ声である『月姫 -A piece of blue glass moon-』のヒロインの一人、シエルの台詞『ほら。わたし、わたしですよ』も元ネタと言えば元ネタか

*3
『死の行軍』。元々は、虜囚や捕虜を、健康や生命を考慮せずに移動させることを指す、文字通りの『死の行軍』のことを指したが、今日においては仕事において無理なスケジュールなどを組んだために、死にそうな思いをしながら、徹夜したり残業をしたりして、どうにか仕事を終わらせようとしている状態・ないしその状況を指す言葉として使われている。年末は特にそうなりやすいのは……計画性の欠如、ということだろうか

*4
花魁の使う一人称、もしくは一部の地域においての(男女問わずの)一人称。オタク的には『狼と香辛料』のヒロイン、ホロの一人称として有名か

*5
『マジンガーZ』に登場する『光子力研究所』の周囲に張り巡らされたバリアのこと。『敵の攻撃を受けると()()()』タイプのバリアとしては元祖にあたるのだとか。そのせいなのか、『光子力研究所のバリアはよく割れる』と揶揄されることがある

*6
『スーパーロボット大戦』シリーズより、『歪曲フィールド』。空間を歪曲させ、その表面に攻撃を受け流す……みたいな感じのバリア。言葉そのものはApple社の創設者・スティーブ・ジョブズ氏のカリスマ性を表した言葉『現実歪曲空間(フィールド)』の方が世に早く出ているが、関連性は不明

*7
物体が音の壁を越えた時に鳴り響く爆発音のこと。また、それと同時に発生する暴風のこともソニックブームと呼ぶ。『←(溜め)→+パンチ』

*8
『白面の者』の尾の一つ『婢妖の尾』から産み出される妖怪の群れ。目玉に耳が生えているような見た目をしているが、戦闘時には爪とか牙も生える。数の暴力を使う事もあり、作中での危険度はかなりのもの。記憶操作や洗脳までできる辺り、汎用性がヤバい

*9
カッコいい着地の仕方の一つ。正確な名称は三点着地、命名したのはデッドプール(その時の呼び方は『スーパーヒーロー着地』)、元祖は『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の草薙素子。衝撃を一切殺さずにダイレクトに受けるため、膝にとても悪い着地の仕方

*10
いわゆる『ギャルあさひ』……有償衣装『フリーサイドジェイケー』を着用したあさひのこと


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。