なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
サンタのソリに戻り、遥か上空へと飛び上がった三人。
そうして周囲を見渡した末に視界に飛び込んできたのは、正に地獄絵図に等しいものであった。
周囲を飛び交う
その背にまるでドラゴンライダーの如く跨がる、
地上の人々──特に頭の寂しい感じの者達は、遥か上空を飛ぶその生き物達に、怨嗟の声を上げながら手を伸ばし続けている。*2
そうでなくとも、髪の毛
流石にハゲ軍団ほどの必死さではないものの、それなりの人数がちょっと高く飛んでみたり、はたまた近くのビルから捕獲しようと網を伸ばしたり、わりと意味不明な光景を作り出している。
それから、そんな風に混乱する街中に、時折雷が落ちてきていた。……人に直撃すること多数、木などの可燃物に落ちて、勢いよく燃え始めること多数。
幸いにして雷そのものは『郷の中での攻撃』判定になっているようで、それによる負傷者は出ていない。
ただ、辺りが落雷による発火で火だるまとなった、大きなもみの木の炎で照らされている……という状況は、自身の目を疑うこと頻りの光景だろう。
そして最後──街の遥か奥、ビルの立ち並ぶ場所に。
九本の尾を持つ巨大ななにかと、それの傍にいる巨大な毛玉。
……怪獣映画か何か?という疑問が浮かび上がってくるようなシルエットが、静かに鎮座していたのだった。
片方の──恐らく巨大なビワハヤヒデと思わしきシルエットの方は、変わらずダバダバ*4しているが、もう片方──『白面の者』と思わしき方のシルエットは、先程から
それを不気味な兆候と見るか、それ以外のモノと見るか。
判断は人それぞれだろうが、二人は前者を・アルトリアは後者を胸の裡に抱いたのだ……というのは、彼女達の反応を見れば一目瞭然だろう。
「……えっと、そのー」
「とあるお人は言いました。国が
「ユカリ?!これはそこまで真剣に捉えるべき状況なのですか、ユカリ!?」
それ故に、二人と自分との間で、温度差が激しすぎることになってやしないだろうか?……というようなことを、思わず心配してしまうアルトリア。
これは自分が空気を読めていないだけなのか、はたまた二人が
ほら例えば、こちらの世界の出身者にだけ作用する、特殊な電波でも発生しているとか?
……自分の思考も、大概おかしな風になっている事に気付かぬまま、巨大なシルエットに近付くように促す二人に従い、ソリを動かすアルトリア。
なんとなくドゥン・スタリオン二号なる名前を付けてしまったこのソリだが、それが飛ぶ原理というのは、実のところよくわかっていないのだという。
サンタパワーによる反重力発生だの、同じくサンタパワーによる浮遊効果だの、好き勝手理由が考察されているが、詳細は不明。
そもそもの話、クリスマスの夜以外には普通のソリでしかなく、件のサンタパワーとやらも、今日この時以外に観測も発生させることも不可能であるため、研究のしようがないのだ……みたいなことを、以前出会った
無論、単なる現実逃避だが、この時ばかりは悪手であった。
「……攻撃?!くっ!」
「えっ、ちょっ、ぬわーーーーっ!!!?」
「や、八雲さーんっ!!?」
「あ」
下から飛んできた、黒い極光。
魔力の塊とおぼしきそれは、ソリを狙うように夜空を己の色に染め、引き裂いていく。
自身に備わる直感により、間一髪でソリを操作してそれを避けたアルトリアだが──そんな急制動を行えば、他の同乗者がどうなるかというのは、火を見るより明らかであり。
結果、そもそもの体躯が小さい為に、絶望的に体重の軽い紫は、ぽーいと空に投げ出された。
思わずと言った風に声をあげたアルトリアは、どうすることも出来ずに落ちていく紫を見送る。……あ、ジェレミアがキャッチした。
彼女の無事を見届け、ほっと胸を撫で下ろし。
──漸くアルトリアは、自身の思考がおかしくなっていることに気が付いた。
先の場面であれば、ソリを動かして紫を確保しに向かうのが、自身が取る本来の行動のはず。……にも関わらず、自身がしたことと言えば、落ちていく彼女をただ見ているだけ、という体たらく。
故に、彼女は雷に撃たれたような衝撃を受けながら、己の異変の原因と思わしいものを口にしたのだった。
「まさか、思考誘導かっ!?」
「アルトリアさんも、時々お惚けさんになりますよね……」
……傍らのマシュが小さく目を伏せながらぼやいた言葉は、残念ながら彼女の耳には届かず。
怒りに震え、拳を握るアルトリアは、眼下より変わらず極光を飛ばしてくる何者かに対し、吼える。
「我はアンリエッタ・ド・トリステイン!貴公を我が敵と認め、我が最大の一撃をお見せしよう!!」
「えっと、アルトリアさん?出来ればですね、下に向けて攻撃するのではなくですね?あのすいませんアルトリアさん、貴方の攻撃は、何の対処もなしに街に向かって放っていいモノでは、決してなくてですね?」
「──魔力開放。多重竜脈励起、限界稼働。吼えよ、ドゥン・スタリオン二号!──我踏破せり、無穹の空!」
「せんぱーい!!!助けてくださいせんぱーい!!!私一人ではどうにもなりませーん!!」
さっきまでとは混乱具合が反転した二人に対して、地上に立っていた黒い影は、その顔に笑みらしきものを浮かべ、自身の得物を上段に構えた。
「──卑王鉄槌。極光は反転する」
「……!私の前で、その祝詞を口にするかっ!!ならば、容赦はしない!!──聖槍、抜錨!!」
「ひえっ……あわわわわ、このままでは『白面の者』云々の前に、郷ごと周辺地区が滅んでしまいます!!どどどどどうにかしないとっ!!?」
黒い靄に包まれた地上の何者かが告げた言葉に、アルトリアが激昂する。
……黒き騎士王が口にするはずのそれは、彼女の逆鱗を逆撫でするには十分であり。
故に彼女が選択するのは、目の前の敵対者に対して、その不敬への罰を与える為の光の槍。
……
「──
瞬間、世界を灼光が照らす。
既に光の暴風と化していたそれは、更なる暴威を孕みながら世界を軋ませ、周囲の全てを引き裂かんと唸りを上げる。
そして、地上の敵対者は。
「光を
ただ、上段から剣を振り下ろした。
「あいたたた……
「アルトリア様の『
「え、ホントに?あのロンゴミニアド、結構な魔力量だったと思うんだけど……」
上に被さっていた瓦礫を退かしながら、その下から現れた紫とジェレミア。
埃を被ってしまったために、紫の方は小さくむせていたりしたが、二人共怪我らしい怪我もなく、五体満足の姿を見せていた。
その姿から察するに、咄嗟に近くの建物の壁を盾代わりにしたのは、決して間違った選択ではなかった、と言えるのではないだろうか?
──なにせ、彼等の周囲一キロ四方程の建造物達は、ほぼ全てが見るも無残な瓦礫と化していたのだから。
街中でそんな物騒なもの使うな、と言ったマシュの心配通りの結果となったわけである。
……まぁ、周囲がこんなことになっていても、負傷者の一人も出ていないわけなのだが。
そこら辺は非殺傷設定様々というか、無機物に優しくない空気的には悪いと思うべきか。
「まぁ、後で直さなきゃいけないってことを考えると、今から頭が痛いのだけれど……」
「紫様、お疲れでしたら横になられては……」
「あー、大丈夫大丈夫。ちょっと愚痴っただけだから、心配しないで頂戴」
心配症な自身の従者を軽くあしらいつつ、事の発端──爆心地である方へと視線を向ける。
彼等自体が中心部より遠方に飛ばされてしまった事もあり、彼方のその場所で何が起きているのかはわからない。
ただ、いよいよ今回の騒動の原因……もしくはそれに近しいものと対峙しているのだろう、ということだけは確かだった。
故に、彼女はスキマを開いてその場に急行しようとして。
「……はっ!!すっごい嫌な予感!!」
「は?……その、紫様?一体どうなされましたか?」
途端にその身を襲った悪寒──虫の知らせに従って、開こうとしたスキマを寸でのところで破棄する。
主の奇っ怪な行動に、出来た従者であるジェレミアも唖然とするのを抑えられないが……。
「……!なるほど、確かにあのタイミングでスキマを開いていたら、あの爆発に巻き込まれていたに違いありませんね」
「でしょう?……シリアス力の増したアルトリアちゃんと、互角に打ち合えるって時点で只者じゃないのは確かな話。……あんな超人万博に何の対策もなしに突っ込むとか、馬鹿を通り越して死にたがりのやることよ、実際」
直後に周囲の空気を揺るがした、鈍い音に納得の表情を見せる。……例え死なずとも、痛いものは痛い以上、無用な傷は極力避けるべきである。
そういう意味で、今の紫の危機察知能力はかなりの高感度になっているのだろうと推測できた。……一度ソリから落とされたのが、効果覿面だったのかもしれない。
「……では、マシュ様は死にたがりということになりますね?」
「は?何言ってるのよ
とはいえ、口は災いの元と言うのは変わらず。
嘆き、哀しみ、必死で黒い誰かに手を伸ばすマシュの姿を見ることで、彼女は自身の言葉に反するような、危険地帯への特攻を行う羽目になるのであった。