なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
二つの攻撃が交差し、爆風と閃光を撒き散らしたあと。
爆心地に残っていたのは、黒い靄に包まれた何者かと、膝を付いて息を荒げるアルトリア。
それから、いつの間にか出現させた大盾により、自身より後ろに有るものを見事に守ってみせたマシュ。……その三人の姿であった。
状況を見るに、優勢なのは黒い靄の側……なのかと思いきや、突然、靄の一部が割れるように晴れる。
顔の部分と思わしきその場所の靄の下から覗いたのは、金と銀の瞳。……よく知る誰かの瞳だと気が付いて、マシュが息を呑んだ。
「そんな……どうして、せんぱい!!」
──そう、靄の下から出てきた瞳は、彼女の親愛なる先輩であるキーアのものだったのだ。
でしょうねと、アルトリアは内心で小さく呟いた。
激昂しているように見せつつも、実際は冷えた鉄のような冷徹さを持って状況を俯瞰していた彼女は、先の攻撃に関しても本気でこそあれ、全力のそれではなかった。
……相手を確実に気絶させられる程度の出力に調整し、他に被害を出すつもりなど微塵もなかったのである。
ところが、『
何故ならば、彼女の一撃よりも高い攻撃力を誇る武装や技などというものが、このなりきり郷においては
そうなれば、後は消去法。
例の一人であるシャナは、黒い極光などというものを放つことが出来ない以上、候補からは外れる。
故に、もう一人──キーアの仕業であると考えるのが、ごく自然な流れなのであった。
まぁ一応、自身と同じ様に
しかし、そうなると。
現状、アルトリアにできる対処はない、ということになってしまう。──基本的に力押し主体の彼女にとって、より強い力で向かってくる相手と言うのは、天敵に近いものだからだ。
「どうして、か。……なーんでなんだろうねぇ?」
そんな風にアルトリアが状況を窺う中、靄の下に見えたキーアの口が、滑らかに動いて声を出す。
……見た感じでは洗脳などの意思の誘導は感じられない。だが、現状のなりきり郷を見よ。
──辺りは(落雷によって発生した)炎に包まれ、(髪の神を求める)人々の悲鳴や嘆き、(ハゲ達の)怒りの声が木霊し。
巨大な獣達(トンボとビワハヤヒデ)が、世界を蹂躙(?)しようと飛び交っている。
それらを背後にこちらと対峙するキーアは、ニヤリと笑みを溢しながら、その言葉を告げた。
「
「全てを、夢に?」
「どう言うことだ。何を企んでいるのです、キーア」
「え?……あ」
「………ん?」
放たれた言葉に困惑するマシュと、その内容を問い質すアルトリア。
だが当のキーアと言えば、アルトリアの言葉に「あれ?」とでも溢しそうなほど、間抜けな表情を一瞬垣間見せ。
その後自分の目元の靄が無くなっている事に気付いたらしく、小さく声を漏らした。
さっきまでのオーラと言うか、威圧感と言うか。
そういったモノが霧散した事に気が付いたアルトリアは、困惑したように眉を下げるが──、困惑の元凶であるキーアは暫し瞑目したあと、大きく声をあげた。
……どこかやけっぱちに見えるのは、色々予定が崩れたから、だろうか?*1
そんな事を考えられる余裕を得たアルトリアは、とりあえず動向を見守ることにしたのだった。……状況の理解を諦めて全部投げた、とも言う。
「さあマシュ!私は悪い『白面の者』パワーに取り込まれたダーク・キーア!ダーク・キーアは戦いの本能を
「そ、そんな!せんぱい!どうにかならないのですか!!?」
「ならん!!代わりに言っておくが、私は聖なる力とかにとても弱いぞ!対悪宝具でぶん殴られたら多分気絶するなぁ!!気絶したら洗脳からも開放されるかもなぁ!!」
「……!な、なるほど!!待っていて下さいせんぱい、私が必ず貴方を助け出します!!」
「さあ来いマシュウウ!!実は私は一回殴られただけで倒せるぞオオ!」*3
「うおおおっ!!」
「……え、何これ」
「ああユカリ、私はもう疲れたので寝ます、朝になったら起こしてください」
「えっ、ちょっ、待ってアルトリアちゃん、ホントに寝ないでっ!!?って言うか誰か状況を説明してよぉーっ!!?」
後に紫はこう語る。
収拾が付かないことなんて結構あるけど、この時のわけのわからなさは歴代トップクラスを飾るだろうと───。
「そんなこんなで、わたしは しょうきに もどった!」*4
「戻ってない戻ってない、それ戻ってない時の台詞」
へーい、そんな訳でそろそろクリスマスも佳境?を迎える中、色々あって戻って参りましたキーアでござーい。
いやー、まさかあんな雑な片付けられ方するとは、思ってもみなかったんだぜ☆
もうちょっとシリアスが続くかと思ったのですが、全くもって全然これっぽっちも空気が持ちませんでした!
即ちいつもの私達!笑えっ!!笑えよちくしょーっ!
「ええと、あれは素だったのですかキーア?」
「おおっとアルトリア。あれはダーク・キーア。私であって私でない闇の人格。……細かいことは突っ込まないこと、いいね?」
「あ、はい……」*5
いつの間にやら性格が青王の方に近くなっているアルトリアからの言葉に、あれは私じゃないからと返すが……うん、信用してないっていうかバレテーラ。*6
いやまぁバレない方がおかしいんで、そりゃそうだろうなとしか言えないのだけれど。
ともあれ、クリスマス騒動もそろそろ終わりの時間である。
さっくりと終わらせて、家に帰ろうではありませんかっ。
「……とは言うけど、これからどうするの?」
「いやー、実はもうほとんど終わってるんだよね」
「は?」
「メインはダーク・キーア戦だったってこと。ほれ、そろそろ……」
まぁ、実際にはもう状況は大詰めも大詰め、こっちがすることと言えば、最後の仕上げくらいのものなのだが。
そう説明する私が視線を向けるのは、さっきから一切動いていない『白面の者』のシルエットの方。
みんながそれに釣られて視線を動かすと、突如シルエットが動き始める。
『ふははははは!我、降☆臨!クリスマスを破壊せし闇の使者とは我のこと!さぁ、無知蒙昧なカップル共よ、怯え竦み、哀れに無様に許しを請うがいい!ふははははは!!!』
「……え、誰あれ?」
「え、『白面の者』?」
「嘘でしょ!?」
「嘘じゃないんだなぁ、これが。……なんてこった!!『白面の者』は闇の化身!圧倒的なサンタ☆パワーをぶつける以外で打倒することはできない!!」
「えっ、えっえっ」
動き出したシルエットから響いてくる声は、おぞましく・恐ろしく・この世の終わりを告げるような冷たさを持っており。……そんな空気を保ったまま、どこかやけくそ感を滲ませる、なんとも言えない哀愁漂うものでもあった。
無論、相手がそんな声音なものだから、周囲の視線がこっちに向いてくるけど……すまんな、説明は後回しなんだ。
とりあえずでっかい花火を上げたらおしまいなので、みんなにはこれからラストスパートまでを駆け抜けて欲しい。
そーいうわけなーのーでー。
「今じゃ!パワーをメテオに!」
「いいですとも!」*7
「えっ、トラファルガーさんっ!?」
「あっ、他のサンタも、自分の前で手を翳して……っ!?」
合図と共に、物陰からババッと飛び出してきたサンタ達──軽く事情を説明してある面々が、とある一点……即ち、
それはまるで、自分の中からサンタの力を送り出すような、ある種の神聖さすら感じさせる光景だった。……ホントだよ?
ともあれ、困惑する三人を置いて、事態は進んでいく。
無論、そのまま何もせずにいると酷いことになるので、サンタではない私が真っ先に
すると当然、マシュも反射的に走り出し始め、私よりも先に、腕の着地点に到達。そのまま、何の躊躇いもなく大盾を地面に叩き付け、防御の構えを取った。
だから私は、彼女の背に追い付いて、その華奢な後ろ姿に手を伸ばした。
「───令呪を以て告げる!」
「えっ──、せんぱい?」
「いいから、合わせてっ」
こういうのは気分なのである。
故に、彼/彼女のように、私はその言葉を叫ぶ!
「聖夜とかサンタとかどうでもいいから───」
「マシュの、凄いところを見せてやれーーーー!」
その言葉を言い終えた瞬間。
──確かに、マシュから感じ取れる力の質が、一つ跳ね上がったのを感じ取った。
「───はい、……はいっ!!私の力は借り物だとしても、私の意思もまだ、彼女には届かないのだとしても!──その言葉を聞いたのなら、私は奮い立たなければいけないのです!!」
(……あ、これこんなところで消費していいやつじゃないわこれ)
気炎が立ち上るほどに張り切るマシュに、たらりと冷や汗が額を流れる。
いやその、マシュさん?張り切るのは良いのですがね?その、出来れば手加減とかをですね?
そんなこちらの祈りは届かず、マシュが気迫と共に奮った大盾は、『白面の者』の腕を押し留めるどころか押し返し、彼の姿勢を大きく崩すことに成功
「ええい、予定が狂ったけど、仕方ない!!……アールートーリーアー!!」
なので、再び予定を放り投げて、次の段階に話を飛ばす。
声の先、サンタ達の放つ暖かな光に包まれたアルトリアは、閉じていた目蓋を開き、静かに語り始めた。
「……では、祭の終わりの合図と行きましょう」
手をつい、と払えばその手には聖剣・エクスカリバーの姿。
常のそれよりもなお明るく、強く輝くそれは、開放の時を今か今かと待ち構えているようで。
「──束ねるは聖夜の息吹。輝ける祈りの奔流──」
それを更に束ね、束ねに束ね──極光は虹色に輝き、聖夜の終わりを告げる鐘となる。
それを構えたアルトリアは──姿こそリリィのものだったが、その姿に青き王の姿がダブって見えて。
「──受けるが良い」
「
解き放たれた虹の極光は、違わず『白面の者』を撃ち抜き。
轟音を上げながら『白面の者』は爆発。飛び散った欠片はプレゼントに変化し、郷の全域にばら蒔かれていくのであった。
「……どういう、ことなの?」
「これも、"
「え、ええー……?」
なお、そんな光景を見たゆかりんは、SAN値が全部削れてしまったかのような呻き声を上げていたのでしたとさ。