なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……で?詳しく説明、してくれるんでしょうね?」
「ゆかりん近いし怖い。……いやまぁ、するよ?説明。するけど、ちょーっと待って貰える?紹介したい人が居るから」
「紹介したい人?」
暫くして、正気を取り戻したゆかりんが、こちらに詰め寄ってくる。
……一番反応が顕著なのがゆかりんというだけで、他の二人も聞きたいことがあります、と顔に書いてあったため、大人しく説明をしようと思った私なのですが……やめました。
いや、正確にはやめたというより、説明をするのならばついでに紹介したい人が居る、と言うか。
首を傾げたゆかりんに苦笑を返しつつ、改めて──
「あらぁん♡やっと出番なのねん♡」
「……キーアちゃん?」
「あーやめてやめて、胸ぐら掴んで前後に振り回すのはやめてぇぇ~」
やって来た人物の姿を見たゆかりんが、こちらの胸元を掴んで振り回してくる。
なお、他の二人は良くわかっていないらしく、頭の上にハテナマークを浮かべていたのだった。
……まぁ、アルトリアだけは、ちょっと様子が違ったのだけれども。
「えっ、この人が、『白面の者』なのですかっ?!」
「……盾の娘、その名で我を呼ぶでない。それと
「……妲己……」
「止めよと言っておるであろうがっ!!泣くぞ我っ!!?」
後片付けを主導すると言うことで、プレゼント効果で元に戻った街に残った、ジェレミアさんを除いた人物のうち。
私・マシュ・アルトリア・ゆかりん・ロー君・銀ちゃん・桃香さんと、それから話題の中心人物……さっきまでの軽いノリは鳴りを潜め、今はただただ縮こまっている桃色髪の女性。*1
……それらを引き連れて、近くのファミレスに集まったわけなのですが。
再びのロベルタさんから送られてくる、なんとも言えない視線を受け流しつつ、話を始めたわけなのだけれども……そこでまず始めにしたことが、さっきまで色気を振り撒いていた──今はロー君からコートを借りて、その肢体をすっぽりと隠してしまっている女性の紹介だった、ということなのです。
……まぁ、その容姿が誰の物なのか?……ということをよく知らないマシュは首を傾げ、知ってるゆかりんはなんとも微妙そうな表情で、ドリンクバーから取ってきたメロンソーダをちゅーちゅー吸っていたのでしたとさ。
なんとも締まらない空気であるが、生憎と時刻はもう朝の五時。……さっさと終わらせてベッドにダイブしたい欲を抑えきれないので、要点だけ押さえてサクサク進みたい所存であります。
なのでザパッと!スパッと!快刀乱麻の如く、結論だけババババーン!!
「というわけで、【顕象】【継ぎ接ぎ】のハイブリッド、元『白面の者』、現在のボディは『妲己』なこのお方は!」
「……ハクだ。業腹な名前ではあるが……まぁ、罪に対する罰なのだろう。甘んじて受けようではないか」
不服そうな表情を浮かべながら、軽く会釈を見せる『白面の者』……もといハク。ハクって名前なのに髪の毛ピンクなのはこれ如何に。
いやまぁ、元の妲己の赤というかピンクと言うか、目に宜しくない感じの髪の色よりは、なんとなーく白っぽくはなっているのだけれども。……同じ桃髪系の桃香さんと比べると、一目瞭然な程度には白っぽいわけだし。
あと、元ネタの妲己を知っている人からすると、彼女が絶対に浮かべそうにない不満げな表情をしているというのも、ちょっと違和感を抱かせるポイントかもしれない。
……まぁ、そんな感じに。
素直に『白面の者』と紹介しても、納得はされないだろうなーという感じの人なのが、今ここにいるハクさんなのであった。
「……【顕象】にして【継ぎ接ぎ】ということは、私と御同輩というわけですね?」
「そだねー。まぁ、そっちと違ってこっちは天然物。……その分色々問題点があったみたいだけど」
「問題点?」
「今回の騒動の発端の一つ、という風にも言えるかなー」
幾分か青王みが抜けてきた感じのするアルトリアが、ハクさんの姿を上から下まで見たあと、得心したように一つ頷きつつ、声を漏らす。
……彼女の言う通り、ハクさんは【顕象】にして【継ぎ接ぎ】。
いやまぁ『白面の者』が【顕象】だってことは端から語られてたから、重要なのは【継ぎ接ぎ】の方、かも?
ともあれ、彼女は自然発生した【顕象】である。……故に、他の自然発生な【顕象】と似たような問題点があったわけで……。
「『しっと団』が発生したのは結構前なわけだけど。……今の彼女に、嫉妬の波動を感じたりする?」
「……言われてみれば。今彼女から感じられるものは、単なる疲労感のような気がします」
こちらからの言葉に、マシュが小さく頷く。
……『しっと団』を元にして進化した存在……という割には、他者に対する羨望とか嫉妬とか、そういった負の感情が薄いような気がするハクさんである。
そもそも嫉妬心が膨れ上がって爆発する、というのが今回の予想される未来だったはずだ。
ならば、この場でも恨み辛み妬み嫉みを、ぐちぐちと溢し続けるというのが、本来想定される彼女の姿であるはずなのだ。
しかし、実際にここにいるのは、特に何かを恨むとか羨むとか、そういう様子の一切見えない、至って落ち着いた状態のハクさん。
これが何を意味するのかと言うと──。
「そもそもに
「……はぁ?」
つまり、彼女の始まりは普通に『白面の者』だったのだ。
そんなこちらの言葉に、ゆかりんが『なに言ってんのこいつ』みたいな表情を見せてくるが……生憎と事実なので仕方ない。
「【顕象】の成立過程はそもそも【逆憑依】と同じ、みたいな話があったじゃない?」
「ええと、芯となる中身が違うだけで、そこに至るまでの道筋にはほぼ差異がない──みたいな話でしたよね?」
「私が説明した話だね。前兆から進化する二つの結果……みたいな感じの」
話題に上げるのは、以前桃香さんから聞いた話──前兆から成長・成立するという近似した過程を持つ、二つの事象についてのもの。
あれは、ある程度鋳型を作ったところに、材料となる中身を流し込む……みたいな感じの話だったけど。
ここで言う鋳型──即ち原作キャラの記憶や記録というものは、原則
あれは、大体中身の材料が『どこまで知っているのか』を基準にして、『全て』の範囲が変動する……みたいな話だったはずだが。
これが【顕象】が対象の場合は、どうなるのか?
「……え、まさか」
「まさかもまさか。基本的には【顕象】の場合、なにかしらの外からの干渉がない限り、参照できる記憶は本当に
「……つまりだ。我は
「ええーっ!!?」
ハクさんから語られたことに、ゆかりんが驚愕の声をあげる。
……マシュとアルトリアの反応も、似たようなもの。
わかりあえない不倶戴天の敵と聞かされていた相手が、そんなことは一切ない、普通に仲良くなれる人……と聞かされたようなものなのだから、仕方のないことなのだが。
ともあれ、重要なのはハクさんが原作で起きたことを確り覚えている、ということ。
これがどう関係してくるのか、というのが今回の一連の騒動をややこしくしている元凶なのであった。
「【顕象】として成立する直前、我はどうにか踏み留まった。何故か?……それはな、このまま成立するのであれば、我は自爆を選らばねばならなかったからだ」
「え、なんでまた……」
「滑稽にも程があるであろう。一度負けた身で、またも地上に──それも以前と同じ姿で現れようなどと、己が情けなさ過ぎて恥しか感じぬわ。であれば、現れた時点で己の首を斬るのが道理。……が、困ったことに
「だから、それを解消する為に端末──原作での尾に相当するモノを作り上げた。それが『しっと団』だったってわけ」
「……まぁ、作った当初はどちらかと言えば、どこぞの橋姫に近いモノではあったがな」
原作の流れを全て覚えているハクさんにとって、原作そのままの姿を取ることは、恥以外の何物でもない。
故に、原作でそうした通り──自身に恥を掻かせた自分を爆発させるのは、実に理にかなった行動だと言えるわけで。
だが、それにストップを掛けたのもまた、自身の記憶。
……
故に彼女は、いわゆるガス抜きをするために『しっと団』の原型を作った。
ちょっとした知識も持っていたため、ある種の祝辞としても使われる「末永く爆発しろ」*3という言葉を知っていたからだ。
他者を羨みつつ、それを遠回しに祝える……というのは、本来負に近い方向性しか選べない彼女にとって、正に福音に近いものだったのである。
が、そう簡単に行かないのが浮世の常。
彼女は半端な知識しか持たなかったが故に、人の嫉妬と言うものを理解しきれていなかったのだ。
「……つまりな。負の念を散らすために作った筈のものが、逆に負の念を集めるものになってしまったのだ」
「『季節性の【継ぎ接ぎ】』のせいでね」
「うわぁ……」
マジかよ、みたいなゆかりんの反応と、それに同調するマシュとアルトリア。
……なお、この辺りの話は既に他のメンバーには先んじて終わらせてあるため、彼等の反応はいたって淡白である。……銀ちゃんに至っては、普通にパフェ食ってるし。
成立した時期が、運悪くクリスマスであったために、周囲から嫉妬心が転がり落ちてきた。
落ちてきた嫉妬心は、分かりやすく嫉妬の権化と化していた橋姫擬きに吸収され、その姿を変えていく。
──即ち、カップルに対する妬み嫉みより成立した、『しっと団』という幻想に。
「クリスマス中止のお知らせ*4、みたいな感じで、日本中から怨念が転がってくる。それは時期的なモノであり、日が過ぎればある程度は収まるモノでもあったけれど……」
「負の念を散らす速度と、負の念が集まってくる速度では、後者の方が明らかに早かった。……まぁ、作った尾には意思も持たせて居なかったがゆえに、余計に染まりやすかったという盲点もあったのであろうが……」
「ともあれ、次第に尾は彼女の意思を無視し始める。……カップルを撲滅したい、って感じにね」
こうして、騒動の火種は徐々に徐々に大きくなっていった。
そして今年──私達が来たことで、話は大きく動き始めることになるのであった。