なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「私達、と言いますと……」
「私とマシュだね。……正確には、『魔王と名乗るモノが来た』ってのが重要だったみたいだけれども」
私の言葉にキョトンとした表情を見せるマシュ。……起点は確かに私の方──正確に言えば『
……話の流れをコントロールするには、マシュの存在も必要不可欠だったのは言うまでもない。
その点では、アルトリアやオグリも重要なファクター*1だったと言えるだろう。
……今オグリはここにいないけど。
彼女はいい子なので、今頃は普通に家で寝ているか、そろそろ起きてきて枕元のプレゼントに目を輝かせているか、どちらかだろう。
「まぁともかく。今ここにある私の性格とか行動とかがどうであれ、種族的には魔王ってのは間違いないわけで。……要するに、なりきり郷に負の念が集まりやすくなったんだよ、今までよりも更に強く」
「……え、宿儺君とかは?」
「本来なら彼もそういう系列なんだろうけど、今の彼って性格とかがかなり丸いじゃん?……基本的に自分の店から出てこないこともあって、影響としてはそんなに大きくなかったんだってさ」
私がここに来たことにより、負念が貯まりやすくなったため、尾の成育スピードは更に上昇。
そして、こちらに現れずに『どこでもない場所』に籠っていたハクさんは、このままだと尾の重さに引き摺られて引っ張り出されてしまう、ということに気付き……。
「どうにかならぬか、と思案するうちに……そこな娘が我を
「……桃香さんが?」
「はい、ここで私も登場です。……私にお任せになった
引っ張り出された『白面の者』が爆発するということを、
……これが、更に事態をややこしくしてしまった一因なのでございます。
なんのこっちゃと首を捻るゆかりんに、桃香さんが続きを語り始める。
「型月時空において、千里眼持ちの見る未来と言うものは、異能で見る
「えーと、確か……『予測』と『測定』、だっけ?」
桃香さんの言葉に、ゆかりんがうーんと唸りながら声をあげた。
彼女の言う通り、型月的な世界観において未来を視る方法には幾つか種類がある。
一つ、予測。
自身の状況や過去の状態など、あらゆる情報を使って未来を『予め測っておく』もの。
自身の知りうる情報によって、未来の近似解を得るものであり──それ故に、自身の知り得ない情報によって、容易く覆される可能性のあるもの。*2
一つ、測定。
始めに結末を視て、そこに至るように未来への道筋を
他の可能性を切り捨て、一つの結果に至るように筋書を変えていくものであり──人が使うものとしては最高峰であるが、同時に所詮は人の力の延長線上であるがために、人ならざるものには覆される可能性のあるもの。*3
一つ、予言。
情報の積み重ね、未来への道筋の改変……そう言った労働を負わず、単に未来を知る──『予め言っておく』もの。
先の二つとはまた別個、在り方としては託宣のような人ならざる奇跡の業とでも呼ぶべきものであり──故に、ある意味では千里眼による未来視に等しいもの。*4
そして、千里眼。
前者達とは違い、視点を移して直接視るもの。
即ち、視界の移動、権利の行使。
だが同時に、視ているだけに等しいがために──それだけでは、未来を変える力はない。
まぁ、基本的にはこの四つが、型月世界観で語られる未来視の在り方である。
その上で、先の三つ──予測と測定、それから予言は自分の視界を原則必要とし、残った千里眼は、自身の視界を原則必要としない、という違いがある。
……説明がわかり辛い?
視点移動をする時に、常に自分を中心とした一人称視点になるのが前者の三つで、マップ上の好きな場所に視点を動かせるのが千里眼だと思えば、なんとなーくわかるんじゃない?
前者三つは視える未来と自身の見える範囲──
……いやまぁ、厳密に言うと『予言』に関しては微妙なんだけどね。あんまり詳しく語られてないし。
ともあれ、ここで関係してくるのは『千里眼による未来視は、予測や測定とは違うもの』だということ。
覆せないわけではないけれど、取り立てて行動を起こさなければ、早々変わるものでもない未来だと言うことである。……本来ならば。
「私は本来、千里眼を与えられるような人物ではありません。故に、この千里眼には一つのバグがある。それが──」
「疑似境界固定。別名
「……はい?」
彼女の言葉に、ゆかりんがわけがわからないと首を傾げる。
……そりゃそうだ。さっきまで型月の話をしていた筈なのに、いつの間にやら科学アドベンチャーシリーズ*6の話になっていたのだから。
が、実は未来云々の話において、この両者には──いや、未来視を扱う物語には、奇妙な共通点というものがあるのである。
「覆せない未来、というものを扱う作品というのは、それなりの数があると思います。型月作品で言うのなら人理定礎──
「……なんか、話が変な方向に行ってない?」
「いえいえ。未来を語る時──特にその不変性について論ずる時、セワシ君の存在はとっても伝わりやすいので、意外と重宝しているんですよ?」
ニコニコと笑う桃香さんに、曖昧な表情を浮かべるゆかりん。
だがいつも通り超速理解したマシュは、ハッとした表情を浮かべながら声をあげた。
「セワシさんと言えば、のび太さんの結婚相手が変わっても
「そう、いわゆる『セワシ理論』*9という奴ですね。彼はそれを『どんな乗り物を使っても、目的地が同じであるならば大して変わらない』というような感じに例えましたが……それもおかしな話なのです」
「まず始めに、掛かる時間が違う。時間が違えば、掛かる疲労も違う。乗り物が違うので、たどり着くまでに見る景色だって違うでしょう。自家用車で一人きりの旅をする、ということでもなければ、隣に座っている人も違うかもしれない」
「そもそもの話、『ドラえもんがのび太君の元に行くまで』のセワシ君と、『ドラえもんがのび太君の元に行ってから』のセワシ君は、生物学的には別人の筈」
「だから、こう考えるのです。──『あの性格のセワシ君が生まれること自体が既に決まった未来』──即ち人理定礎なのだと」
「すごい
ゆかりんが桃香さんの結論に驚くが……実際、彼の存在が無いと『ドラえもん』が始まらない、という意味で超重要人物なのは確かなのである。
彼が過去にドラえもんを送らなければ、野比のび太は今までと変わらず、周囲にうだつの上がらない*10人生を送っていただろう……というのも確かであるが。
それより何よりも、数々の劇場版で起きた問題達が、解決できない可能性が出てくるわけで。
歴史の代替性うんぬんの話をするのなら、彼以外の誰かが解決する形になるのかもしれないが……それでも、秘密道具の助けなくしてそれらを解決するのは、不可能に近い。
ならば、『未来のロボットを過去に送る』というのは、どこかで必ず起こること──即ち、あの世界における人理定礎と言い換えても過言ではないのである、多分。
故に、それに紐付く形になるセワシ君も、半ば人理定礎となるわけなのだ。……まさかのセワシ君『人理の守護者』説である。*11
「なので、仮にあの世界で人理定礎を無茶苦茶にしたいのであれば、セワシ君が生まれないようにするだけで、割りと行けてしまうかもしれなかったりするわけですが……まぁ、完全な余談ですね」
「余談が衝撃的過ぎるんだけど……」
「そもそも、これまでの話がどう今回の状況に繋がるのですか?」
「ああ、そちらは単純です。私の千里眼のバグである『
「……は?」
そして、話は漸く戻ってくる。
先のセワシ君に関しては、セワシ君そのものというよりは、『セワシ君の役割』が定礎になっているようなもの、と見なすことも出来る。
──彼女の千里眼のバグとは、正にそれに近いもの。
視た情景が定礎と化して、回避できなくなる……さながら、どんなに足掻いてみても、血溜まりの中に沈んでしまう牧瀬紅莉栖のように。*12
「……えーと、つまり?」
「迂闊にも『白面の者』が爆発する瞬間を千里眼で視てしまった上に、折悪くバグも重なりました。……つまり、『白面の者が爆発する』という状況は、覆せないものになってしまったわけですね、てへ」
「て、てへで済むかおバカーっ!!?」
「あいたたた、だから言ったじゃないですか!
結果、語り終えた桃香さんは、ゆかりんにほっぺを思い切りつねられることになったのであった。
……いやまぁ、騒動の後押ししてどうすんじゃい、みたいなところはなくもないし、仕方ないねとしか。
不幸中の幸いと言うか、彼女の千里眼による『簡易人理定礎』は本来の
そういうところも、さっきの牧瀬さんの例と似てるかなー?*13
「ただまぁ、その分視た未来が
「ねぇキーアちゃん、この子大概ヤバい子なんじゃ?」
「
「あははは。事実だけに何も言い返せませーん」
「……この子絶対混沌・善とかでしょ……」
桃香さんの語りに、げんなりした表情でこちらを見てくるゆかりん。
諦めなよ、今回こんなんばっかだよ?……みたいな言葉を受けたゆかりんは、頭痛を堪えるように机に突っ伏すのでありました。
あ、説明はもうちょっとだけ続くんじゃ。