なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……もう、そこら辺の責任云々とかは後で考えるわ。それで?その後どうしたってのよ?」
「うーん、ゆかりんが荒んでしまった。後で埋め合わせをしなくては」
「じゃあ私はバクレツアロワナ*1持ってきまーす」
「なんでそれっ!?……いやちょっと待って居るの?あのヤバげな素材生物達*2も生息してるの貴方のところ?!」
「あ、やべっ」
「ちょっとおぉぉぉっ!!?」
憂鬱な表情を浮かべたまま、小さくため息を吐くゆかりん。
なのでなにか機嫌取りでもしようと声をあげた私に、あさひさんがとある魚を持ってこようか、と提案をしたわけなのですが……。
おおう、環境侵食でもしてるんですかねこの人。
確かあの魚って、小さいけどモンスターの一種*3だったような?……なんでいんの?
そんな私の困惑は、ゆかりんも同じように感じているようで。……うわああと叫びながら、勘弁してくれと机に伏せってしまった。
うん、まぁ、気持ちはわかる。
ただでさえ年末で忙しいのに、更に調べなきゃいけないことが増えたようなもんだもんね、わかるわかる。
なお、涙でぐちゃぐちゃになった顔を、ジェレミアさんに拭いて貰っていたゆかりんは、彼に耳元でなにかを囁かれたのち、いつも通りのキリリとした態度に戻っていた。
……なにを言ったんですかねぇ、この従者……。
ともあれ、話が中断しないで済むのは良いことである。
ただでさえ、今回の説明を語っているだけで、既に一時間近く経過しようとしているのだから、これ以上長引くと……こう……酷いことになる!
なので、そのまま会話を元に戻す私なのであった。
「やることとしては簡単。ケルヌンノスと奈落の虫が居るんだから、いっそのこと『白面の者』も厄災に当てはめてしまえばいい。無論、そのままだと単に問題が二つから増えるだけだから……」
「妖精國の再演にすることで、対処できる物事に落とす*4。その為にもう一人──
「
「……いやその、そのしめじは一体どこから……?」
「あさヒーヌっすよ?」*5
「意味がわかりません!?」
目的の一つは、負念の分散。
二つある負念の集合先を、四つに増やすこと。
それも、ある程度負念に耐性のある人物である必要があったため、白羽の矢が立ったのが龍にして人の姿も持つモノ──即ち、本体がミラルーツであるあさひさんだった、というわけである。
髪を伸ばしたり目元を隠したりしたのも、それによってメリュジーヌを
そしてその企みは成功し、彼女は今回
で、その流れで『白面の者』を『白面の者』ではないものに変える、という誘導も開始。
……したのだけれど、これが微妙に難航した。
在り方を変えて無害化するに辺り、その存在の本質──『闇の全て』とでも呼ぶべきそれを、変化させる先というものが見付からなかったのである。
【継ぎ接ぎ】とは、上に新しくくっ付けるもの。
弱らせるものでは原則無いため、派生できるのは似たような性質を持つモノのみ。
……この辺りが無理矢理混ぜこぜにする【複合憑依】との差であるわけだが、この性質が悪い方面に働くのはわりと珍しいのも確かな話。
それで、一先ず先に私への説明が行われた、というわけである。
「……ん?キーアちゃんへの説明?」
「えらそーに奈落の虫ですって名乗ったけど、クリスマスの朝の辺りでは、私はその辺りの話一切知らなかったからね。……まぁ、あさひさんから感じる謎の既視感とか、色々察せられる前フリはあったけども」
え、知らなかったの?
……みたいな言葉をゆかりんからお受けしましたが、まさしくその通り、私は今日あさひさんから詳しいお話聞くまで、一切この辺りのこと知りませんでした。
だからこそ、私が
「はい、
「……なるほど、二人で一つの役柄だったと」
まぁ、つまりはそういうこと。
暗躍担当・桃香さん、実戦担当・私という感じに、役割分担が(いつの間にか)されていたわけで、それを私はあの路地裏で、あさひさんから伝えられていた、というわけなのでした。
で、そこで──、
「『封神演義』の妲己に派生させるのが、『白面の者』の変化先としては妥当なんじゃないか、って提案したってわけ」
『白面の者』と近似値として扱えそうなモノとして、妲己という形を──
「……えーと?」
「原初に別たれた闇とでも言うべきものが『白面の者』だから、世界の半分……即ち、世界の理と見なすことができるわけでしょ?だったら星の一面の発露の仕方の一つって風にこじつけられるし、妲己も『白面の者』も狐系*7だし、ラスボスだし……みたいな感じで、要するに【継ぎ接ぎ】の条件を十分に満たせるモノだな、ってなってね?」
「そこから妲己が持つ『ラスボスにして
「いやちょっと待って?なんか今不穏なこと聞こえたんだけど?」
「我も正直どうかと思ったのだが……まぁ、我が『白面の者』のままであれば、それはそれで宜しくない話になっていたであろうからな。必要経費という奴だ」
「なんか違和感あると思ったら、色々混じってたのねこの人……!?」
星に溶けた
これくらいなら十分に【継ぎ接ぎ】できるため、
……それと、そのままだと単にヤバさが違う方向に行くだけ*8なので、直前のロー君との会話で思い付いていた、忍ちゃんとかのエッセンスだけ引っ張ってきたりして──それを何かしらの力を利用して、付与する直前にまでは漕ぎ着けたわけなのである。
が、そこまではどうにかなったのだけれど……。
「マイナスにマイナスをかけてプラスにする……いわゆる反転術式*9的なモノを、ハクさんは扱えなくてねぇ」
「
「ええ……」
二人揃ってやれやれ、と首を振っていれば、呆れたような疲れたような、そんな感じの声をあげるゆかりんである。
いやまぁ、仕方のない話ではあるのだ。
マイナスにマイナスをかけるというのは、数字上ならいざ知らず、現実で行おうとするのであれば──
方向性の反転と言えば楽そうに見えるが、その実滅茶苦茶難しい技術なわけで。
特に、ハクさんは闇の全てと言われるほどの存在。
それを全て反転させるのは、中々に無理があるわけだ。……そもそもの話、『簡易人理定礎』による『白面の者』の爆発自体は回避できないのだし。
「そこで考え付いたのが、今がクリスマスであるって事実。即ち、サンタパワーを活用して、爆発と反転を一纏めにしてしまえばいいんじゃないか、ってやり方」
「な、なるほど?つまり、アルトリアさんに皆さんがサンタパワーを集結させていたのは……」
「アルトリアの成長自体も、
故に、全部一辺にやればいいじゃん!
……という暴論の結果が、アルトリアの『
あれは、原理的には圧縮されたサンタパワーを相手にぶつけ、プレゼントにしてしまうモノであり──サンタのプレゼントというある種の奇跡を以て、負を正に転換するという目的を果たすために、うってつけの武装だったのである。
ついでに大本が『
「……まぁ、わかんないけどわかったわ。で、あのビッグ・ビワハヤヒデの方は?どうなってるの?」
「あれはねー、単に【継ぎ接ぎ】するだけでどうにかなったんだよ」
「はぁ?」
これまでの説明に、一先ず納得する様子を見せたゆかりん。
けれど、ここまでの説明では『白面の者』についての話は終わっても、残された片方──即ちケルヌンノスの話が片付いていないようにも聞こえるわけで。
そんなゆかりんの疑問ももっともな話。
ただこれは、別に説明を省いたとかそういうことではなく、その逆。
説明の必要もないくらい上手く行ったので、説明することがないというのが近いのである。
なんのこっちゃ、というような顔をするゆかりんに、単純明快に答えを告げる。
「あのたぬき達が人を呪うと思う?」
「……ないわね!」
ええ……?みたいな表情を浮かべるマシュが横に見えたが……実際、そこまで難しい話ではないのである。
郷の内部に放たれたミニ・ビワハヤヒデ達が、特に破壊工作を行っていなかったように。
本来負念が果たすべき攻撃系の所業は、全て私とあさひさんが請け負っていた。
それは、郷の住人判定が確りと乗っている私達二人なら、万が一誰かを攻撃したとしても、重篤な負傷とかには繋がらないと踏んでのことだ。
これがケルヌンノスの呪いの腕だったりすると、そもそもあれが自滅の呪いであるらしいことから、郷の防御機構をすり抜ける可能性もあったわけで。
なのでとりあえずの対処として、いわゆるたぬきと呼ばれるモノの中でも、殊更にケルヌンノスと関連付けられる事のある──癖毛の酷い状態のビワハヤヒデを【継ぎ接ぎ】したわけなのであった。
……まぁ、元の素体の出力的な問題で、自身の眷属として
「ケルヌンノスの呪いの腕と、あのちっちゃなビワハヤヒデってイコールなのよね……」
「え゛」
「持ってたら毛が伸びたって聞いたけど、それが厄災としての力ってこと。……投下するところを選べば戦争が起きそうな感じが、どことなく呪いの面影を感じさせるわよね……」
結果として、とりあえず集まってきた負念をミニ・ビワハヤヒデ……今現在は他のたぬき達も発生するようになってるみたいだけど……。
まぁ、割りと無害な形に勝手に出力してくれる、天然の負念浄化装置みたいなものになった……と言うわけなのでありましたとさ。
……え?つまりあれって倒せてないんじゃって?
あれだよあれ、人々が大地への感謝とか忘れなければ大丈夫だよ、多分!*10
ホントはクリスマスパーティの内容でも書こうかと思いましたが……やめました。
今章が長くなってしまったので、ちょっと幕間したら次に移行します……