なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
クリスマスの騒動も終わり、年明けを待つだけとなった今年最後の一週間。
こたつでぬくぬくと暖まりながら、つい先日のクリスマス気分から一転、あっという間に年末特有の番組編成に変わってしまった、薄情ものなテレビを眺めていた私だったのですが。*1
そんなゆったりとした団欒を崩すかのように、突然玄関のチャイムが鳴り響いたのでございます。
「……?今日って誰か来る予定とかあったっけ、マシュ?」
「ええと……大晦日*2までは、そのような予定は無かったように思いますが……?」
向かって左側、同じようにこたつに入っていたマシュに尋ねてみるが、彼女も小さく首を捻るばかりで、この突然の来訪者には覚えがない様子。
ではアルトリアはどうか、と視線を向けて見るものの……。
「うーん……マーリン……それは油ではありません……エリンギです……」
という、一体どんな夢を見ているのだろうと不思議になる寝言を呟きながら、机に突っ伏して苦しそうに魘されていたのだった。
……もしこれがアルトリアの客であるのならば、こうして呑気に寝ているなどと言う失態は犯すまい。
ならば私の反対側で、こたつから顔だけ出してテレビを見上げているハクさんかな?と思ったのだけれど。
「我ではないぞ。……そもそも、我の知り合いなど居るわけないであろうが」
「それもそうか……じゃあ、なんなんだろ?」
彼女の言葉に、ふむと一つ声を漏らす。
言われてみれば、彼女はここにおいては新参者も新参者。
もうちょっと日が経って、行動範囲が広がったならば話はわからないけども、今現在彼女の扱いは、関係各所があれこれと調整中なわけで。
……外に出ることが叶わない以上、他所と交流を持つのは不可能に近いだろう。
眷属的なモノだった
じゃあ……宗教勧誘とかだろうか?
みたいな気分でこたつから出ようとした私は、
「ああ、待つんだキーア」
「……声を掛けてくるってことは、CP君のお客さん?」
別室からきゅぺきゅぺ足音を鳴らしながらやってきた、CP君に呼び止められる。
……彼女への来客、というのはそれはそれで警戒してしまうが、まぁ誰だかわからないのよりは幾分マシかな?
みたいな気分で、次の彼女の言葉を待っていたのだけれど……。
「違う違う。僕じゃなくて、彼女のお客さんみたいだよ?」
「彼女?……って、ビワの?」
首を振った彼女が首を向けた先に居たのは、最近うちに加わった住人のうちの、もう一人……
「ビワハヤヒデさんを訪ねて来た、ということは……」
「相手もたぬき、なのかな?」
マシュと言葉を交わしながら、いつも通りバタバタしているビワを抱き上げて、玄関へと向かう私。
今では色々と落ち着いたらしく、毛の厄災としての力はなくなっているらしい彼女は、あの時
基本的に喋ることができないらしく、身振り手振りで相手と意志疎通を図ろうとする彼女達
そんな彼女達の一人、いわゆるリーダーとでも言うべき存在に対して、接触しようとやって来た相手……。
厄介事とかでは(多分)ないだろうけど、それでもちょっと気になるというのが人情と言うもの。
なのでこうして彼女を抱き抱えて、物見遊山気分で同行したわけなのだけれど……。
「お前かー!!!ウチをこんなんにしたんはお前かーっ!!?」
「どうどう、落ち着いてタマモ。深呼吸深呼吸」
玄関を開けた先に居た人物達に、早くも後悔し始める私なのであった。……厄介事じゃんこれ!?
「…………」
とりあえず玄関先でバタバタするのも、という事で居間まで上がって貰ったわけなのだけれど、さっきから相手は無言のまま。
そのままだと顔がこたつで隠れてしまうので、天板の上に座らされたビワはと言えば、呑気にラーメンを食べていた。
……いや、そのラーメンどっから出したというか、そもそも話の最中にラーメン食べるなと言うか……。
動きがどうにも決まっているような、不思議な行動を取り始めるのがたぬき達の特徴だが、幾ら可愛いとは言っても限度があるだろうよ……。*5
ほら、こっちを見てる相手方の目が怖……あれ?私の方睨んでないこの人?
視線がどうにもこっちに向いているような気がして、改めて相手の姿を眺めることになった私。
相手の姿は……端的に言うと謎のヒロインXのような感じ。……いや、隣の1.5ちゃんの方じゃなくて、帽子とジャージを着ている元々の方……みたいな感じね?
正確には、青地の上着に赤い線が入っていたり、下に履いているのがショートパンツじゃなくて、白いズボンになっていたりと、ちょっとXちゃんとは違うなーって感じなのだけれど。*6
全体的に感じる空気が、『謎のなんたら』みたいな感じ、というか?
そんな彼女の隣に座る、もう一人。
こっちはまぁ、すぐにわかる。人畜無害そうな感じだけど、なんかいつの間にか話題の中に居そうな感じのする彼は……。
「こんなところにも出張か、
「刹那みたいな顔で言うのはやめて欲しいな……」
あはは、と控えめに苦笑を浮かべる彼の名は、沙慈・クロスロード。
機動戦士ガンダム00の登場人物の一人……ポジション的に主人公格ではあるのだが、方向性的にはモブ系列……という、ちょっと珍しい立ち位置の人物である。
別に特別な生まれでもないし、特殊な能力も持ってないし、あくまで巻き込まれただけでしかないし……。
そういう意味では、昨今の無力系主人公の一種とも言えなくもない、のだろうか?
ともあれ、それだけなら別にモブっぽい主人公、くらいの立ち位置で終わっていただろう彼は、数々のロボットアニメ達がクロスオーバーする作品、『スーパーロボット大戦』シリーズにおいて、その存在感を遺憾無く発揮していくことになる。
……のだけれど、それは今はとりあえず置いといて。
気になることがあるとすれば、横の人と一緒に彼がうちにやってきた、ということの方である。
うーむ、繋がりが見えない。
今のところ、横の人がちょっと伏し目がちというか下を向いているというか、とにかく顔が確認できないのが状況把握に響いているというか。
目深に被った帽子も、視線を読ませない感じにしてしまっているし。……いやまぁ、こっちを睨んでるのだけは、その纏う空気からよーく感じられるんだけども。
ただ、なんでそんなに敵視されているのかがわからない。
一応ビワの主張していた通り、彼女?がビワのお客さんというのは、別に間違いではないようだし。
……いやまぁ、新参者度数で言えばハクさんと大差ないはずのビワに対して、お客さんが来る……というのも、よくよく考えてみるとちょっと意味不明なのだけれども。
そんな風に、なんとも言えない空気が居間を満たしていたのだが……。
「……って、またお客さん?」
「まるでガトリングの如く、と言わんばかりだの。どれ、我が見てきてやろう」
「あ、ハクさん私が出ますので、大丈夫ですよ?」
再び、部屋の中に響くチャイムの音。
……なんというか、やけに訪問者が多い感じだなぁ、今日。
マシュにも聞いたけど、本来今日はなんにもない平日に近い日、特に人が来る理由も意味もないような気がするんだけども……。
そんな風に私が首を傾げていると、よっこいしょと年寄り臭い言葉を呟きながら、ハクさんがこたつから抜けて玄関に向かっていった。
その後を追うように、マシュもこたつから抜け出して小走りに玄関に向かっていく。
……隣で変わらず魘されているアルトリアに、私の横できゅぺきゅぺしているCP君。
それから、机の上で再びバタバタし始めたビワと、その向こうで変わらずこちらを睨んでいるとおぼしき誰かと、その横で曖昧に微笑む沙慈君。
……なんだろうなぁ、この状況。
と、思わずため息を吐きそうになって。
「とぉぉ↑おう↓!*8謎のヒロインX1.5見参!こちらにサーヴァント・ユニヴァースの気配を感じましたので、失礼ながら緊急時と判断しお邪魔させて頂きました!!」
「どわぁっ!!?なななな、Xちゃんなにしてんのアンタっ!?」
そのため息を飲み込む程の、突然の衝撃。
驚いて振り返った先には、何故かシンフォギア風味な姿となったXちゃんと、その後ろで目を回したハクさんを抱えて、慌てたようにこっちに戻ってきているマシュ。
それから、無残にも破砕されたうちの玄関の、哀れな残骸があったのでした。
……いやちょっと待った。
ツッコミ所しかないのは今更とはいえ、なんで玄関粉砕する必要があるんですか!?
そんなこちらの視線は見えていないのか、部屋の内部を見回していた彼女は──Xちゃん来訪と同時に立ち上がっていた、謎の何者かの姿を、その視界の内に捉え。
「……自己紹介がまだやったな。ウチはタマ……タマ……タマ……ッ!!」
「え?暗黒タマタマ?」
「やかましい!!誰が埼玉のルーラーや!!*9……ちゃう、ウチは、ウチは~~~……ッ!!」
帽子の鍔先を掴み、帽子を取り去ろうとしながら、なんだかわなわなと震える彼女の姿に、思わず首を傾げた私に、彼女が声を荒げ。
そうして一瞬瞬間湯沸し器のようにその激情を噴出させようとした彼女は、大きく深呼吸をしながら息を整えて、改めて、口を開いた。……心底、忌々しげにである。
「ウチは……タマモナインの幻の十番目、その名を謎のタマモ
「まぁまぁ、抑えて抑えて。で、僕は謎のトレーナー沙慈・
「……はぁ?」
彼らから放たれた言葉の意味を理解するのに、更に時間を要する事となったのは言うまでもない……。
あと帽子を取ったタマモさんからの視線が怖かったのも、言うまでもない話だったりする。