なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ほんっっっ……とぉ~~にっ、すまんかった!!」
「ああうん、そっちが火傷しなくてよかったようん……」
数分後、私の目の前に居たのは、頭を下げてこれでもか、と謝罪を重ねてくるタマモの姿。
……こっちが驚かしたから、そっちに怪我させてしもうた、本当に堪忍な?
なんて風に、彼女から謝られているわけなのだけれど。
正直、これくらいならば大した怪我というわけでもないので、あんまり気に病むことはないよ、としか返せないキーアさんなのです、というか。
いやまぁ、熱い汁を被った直後は、そりゃあもうすっごいびっくりしましたけどね?
半ば自業自得めいたところもあるし、あんまり彼女を責める気にもならんのですよ、これがな。*1
ともあれ、ずっと彼女に頭を下げられていると、こっちとしても(横のライネスの気配的にも)気まずい……というのも確かな話。
なので、もう一度大丈夫だからと声を掛けてみたわけなのですが……彼女は未だに渋い顔をしながらも、下げていた頭を上に戻してくれたのでした。
まぁ、その表情は未だに気に病んでる感じだったのだけど……さっきみたいに謝り続けられるよりは、遥かにマシ……と思うことにする、うん。
それに、別に悪いことばかり……と言うわけでもない。
タマモが怒りを治めてくれたため、もうちょっと建設的な話をすることができる、というのは間違いないのだから。
「と、言うわけで。……とりあえず前提として聞いておきたいんだけど、なんで私の所に来たの?」
「なんでって……そらもちろん、アンタがここで一番凄いって聞いたから……」
故に、ここからは事情聴取の時間である。
こっちに来たのがごく最近……例のあれこれが起きたクリスマスよりも後、ということになると。
そのタイミングというのは、ほぼ昨日とか今日の朝とかの、本当に直近としか言い様のない時期になってしまう。
要するに、【顕象】であるハクさんよりも更に新参者なのが、今ここにいるタマモと、多分こっちに向かってきている沙慈さん……ということになるわけで。
だとすると……おかしいことがある。
私は区分的には『オリジナル』に当たるキャラクターである。
……つまり、なりきり郷内での知名度ならばいざ知らず、他所から来た人物達が私の事を知っている確率というのは、下手するとガチャで最高レアのアイテムやらキャラやらを引き当てるよりも、遥かに低い可能性があるということで。
……話が回りくどい?つまりはだね、
「私を頼ってくる理由──私がここで一番凄いって知ってる理由がわからんのですよ。だって私、見たらわかるけど外見ただの子供よ?」
「……せやな。ウチよりも背丈低い大人とか、もしかしたら初めて見たかもしれん」*2
「……お?なんだ身長マウントか?仕方ねぇ、やりたくないけど変身すっか!」
「いや止めたまえよキーア、突然柄悪いキャラに変貌するのは。……というか、変身って君の場合
「……唐突に横から言葉のナイフを刺してくるのは、条約違反だと思うんだけど?」*3
今回のあれこれについての疑問は、まさにこれに尽きるのである。
だって私、目の前のタマモよりも背が低いからね!
……背が低いせい?で幼稚園児の格好までさせられたことのある*4目の前の彼女よりも、更に背丈が下なのが私、キルフィッシュ・アーティレイヤーなのでございます。
つまり、私の詳細を知らない相手が、私を頼る理由が全く無い。
それが、彼女達が私を訪ねてくる理由がわからない、という結論に繋がるわけなのでございます、はい。
「まぁ、ここに来る前にゆかりんに会ったとか、そういう可能性もなくはないけども。……それだとゆかりんを血祭りに上げてやらなければならなくなるから、出来れば違うといいなぁ、と言うか?」
「ひぃっ!?今後ろに鬼がっ!!鬼が見えたでこの人っ!!?」
「いやー、だってキーアって種族:魔王だからねぇ」*5
「種族っ!?魔王って種族だったんか!?あの兄ちゃんとんでもないもん掴ませよってからに!!何が『すぐに済むよ、なんてたって彼女はそういうののベテラン、だからね』や!こんなん難易度ルナティック*6やんか!」
「……兄ちゃん?」
なお、出現→来訪までの短期間の間に、誰かから私のことを聞いた……という可能性も、なくはない……というか、現状だと一番確率的に高いんじゃないかなー?
みたいなことを呟いてみたところ、思わずちょっと漏れだした負念に当てられたらしいタマモから、興味深い言葉を聞くことができたわけでして。
ふむ……兄ちゃん。兄ちゃんとな?
その若干ゃ*7胡散臭い台詞回し、それから(当人の)世間への知名度……おまけに彼のここでの役職。
なるほど、全ては繋がった。つまり、
「犯人はお前だ!五条悟ぅっ!!」
「はっはっはっ。バレちゃったかー」
大仰な身振り手振り(と、ついでにBGM)を加えながら、私が指差した先に居たのは。
さっきからこっちをにやにや笑みを浮かべながらコーヒーを飲んでいた、相変わらず(色無し)グラサン状態の五条さんその人。
……世間様への知名度とか、周囲に知られているその強さとか、それから彼が元々は新人達を探す為の役職を負っていたとか。
そういう、考慮すべきモノを考慮していくと、確かに彼にモノを尋ねに行く・ないし彼が新人になにかしらを吹き込みに行く……というのは、わりと普通に起こりうることだと言えてしまうわけで。
無論、元の性格がアレなので、(タマモ達のような新人が)自分から関わっていくのは、ちょっと躊躇われる部分もあるだろうが……そもそもの話、ここに居る『逆憑依』というのは、よっぽど再現度が高くない限りは人畜無害にならざるを得ないモノ。
──自身に起きたことなどを鑑みて、相手もまた『
「まぁ今の俺、キーアさんからの贈り物のお陰で絶好調だけどね!」
「……なんかこう、原作とは別ベクトルにめんどい感じに進化してない?この人」
「それを君が言うのかい……?」
元凶君だろうに、というライネスの言葉には聞こえないフリをしてごまかす私。
大人の五条悟に学生の五条悟を重ねるという形の【継ぎ接ぎ】……その結果として、昔の彼のダンボール空気砲のようなものだった虚式・茈も、今となってはかめはめ波級の威力に……それって原作のより下なの?上なの?
……ま、まぁ、少なくともへなちょこと言われても仕方のない戦闘力だった彼は、最早影も形もなく。
その対価というかなんというか、昔のようなスカウト業務からは完全に開放され、好き勝手やってる感じなのが今の五条さんである。
わりと真面目にやっちゃった感があるが……あの当時とは違い、今のスカウト業務は面倒な先方との折衝やらは全てカットされてるとのことなので、そういう意味では彼が戻る意味もない、という風にも言えなくもないのかも……?
まぁ、そっちの変化も私のせいと言われれば、私のせいなんだけども。……なりきり郷に変革をもたらしすぎじゃない私?
閑話休題。
タマモに解決策を伝授したのが彼だと言うのなら、この流れも納得できる話である。
……彼のことだから、今回話からハブられていた当て付けという可能性も、なくはないだろうし。
「えー、
「やかましいわ、この悪童。そーいうのは大学デビューしたみたいに、連日連夜ヤバい奴等に喧嘩売るのを止めてから言いなさい」
「うへー、キーアさんも知ってたんだ、それ。……聞いたの紫からだったり?」
「……なんやキナ臭くなってきたんやけど、この兄ちゃんなにしてはるん?」
そんなこちらの言葉に対し、ケラケラと笑みを浮かべる五条さんだが……。
私は知っている。ゆかりんから聞いたから知っている。
荒事大好きな奴等が
まるでどこぞの学園一位を思わせる鉄壁の防御空間と、それを攻撃に転用させたと思わしい馬鹿げた火力を併せ持つ存在。
……ゆかりんが胃を痛めていたのを、私は知っている。いつの間にか問題児になってしまっていた彼のことを、知っているのだ。
まぁ、ゆかりん的には『今まで頑張ってくれた報酬みたいなもの』ってこととか、あくまでも喧嘩大好きな奴等に混じって喧嘩してるだけだから強く言えないとか、そういった色んな感情あっての黙認だったみたいだけど。
実際、今の五条さんは戦力増加の過渡期みたいなもの、自身の腕を磨くのにあれこれ手を出すのは、わりと推奨される行動でもある。
……ただまぁ、微妙にこっちの目の届かないところであれこれ好き勝手されるのが、胃とか心臓に悪いというゆかりんの主張もわからないでもなく。
こうなってしまった元凶の一人である私としましては、正直なんとも言い出せないのが本音なところがあるのでございます。
「そっかー。……迂闊に権力持ってまうんも、モノによっては考えものやなぁ」
「せやせや。私も好きで今の中間管理職的なポジションに立ったわけじゃないし、その前任者的な彼には言語化し辛いあれこれがなくもないというか?」
「……あれー?これもしかして俺、結構旗色が悪いってやつー?」
「諦めたまえよ、五条悟。面倒事をキーアに投げたのは君なんだし、彼女は逃げても追い掛けてくるよ?」
「うわぁ、想像したくねー」
「……ええと、これは一体どういう状況なのでしょう……?」
「謎ですね!よくわからないのでカレーを一つお願いします、エアー・キング!!」
「なに、ユニヴァース的な名前で呼ばれても、気にすることはない……」
「いえ、そこは気にされた方が宜しいのではないでしょうか……?」
なお、それはそれとして五条さんには言いたいことがないわけでもないので、後から他のみんながやってくるまで、彼の両サイドに移動して逃げられないようにしつつ、うだうだと愚痴を溢しまくっていたのでした。