なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
メアリーさんとスーさん、二人合わせてメアリー・スー(大嘘)
年末近くのちょっとした騒動も終わり、今度こそなんにも無い一日を迎えるかと思われたある日の朝。
世間様は年越しの準備やらなにやらで、あれこれと忙しく走り回っているけれど……今の私はお休みの真っ只中。
ゆっくりのんびり、こたつに入ってみかんの皮を剥いていたわけなのでございます。
「くぁ……うーむ、寝すぎたか」
「ん、おはよーさんハクさん。今日は遅起きだね?」
そんなゆるーい空気の中、居間にやって来たのは寝ぼけ眼のハクさん。
……見た目が妲己なのにも関わらず、ずぼらが極まったような現在の彼女の格好は、その寝相の悪さを示すかのような、シワだらけのパジャマ姿。
本来の彼女──『白面の者』としての威厳……畏怖?的なモノは、一切感じられない醜態なわけなのだが……。
「うむ、布団で寝ると言うのはよい。二度寝もまた格別、というやつよの」
「……うーむ、堕落の化身……」
「なにを言う、我闇の化身ぞ。堕落を甘受するは、魔なる者の嗜みというやつよ」
……みたいな感じで、自己弁護力の方が高まっている感じがなくもないと言うか。
まぁ、そもそもに尊大に見えて臆病者なところのあった『白面の者』なので、色々なしがらみから開放されればこうもなろう、ということなのかもしれない。
……でもやっぱり(悪)属性的に同系列になる私としましては、もうちょっと自身の状態に気を配って欲しいと思うわけでですね?
「
「……蜜柑食べます?」
「誤魔化すでないわっ。……全く」
まぁ、私も休み故に現在かなりラフな格好をしてたので、説得力とかが一切無いわけなのですが。
その……あれだ、私はちゃんとする時はちゃんとするので大丈夫なんだよ、とか言いそうになったけど、相手からも同じ言葉が返ってくるだけな気がしたので自重。
そのまま洗面所に向かっていくハクさんを見送りつつ、テレビをぼんやり眺めながらお茶を一口。
そうして、しばらくだらだらとテレビを眺めていると……。
「んんん♡妾パーフェクトモードよん♡」
「ぶふっ!!?」
戻ってきたハクさんが、何故かきっちりかっちり妲己の姿と仕草をしていたがために、思わず含んでいた茶を吹いてしまうのだった。
いやいきなりそれはちょっと心臓に悪いかなって!!
「なんだ、汝がちゃんとしろと言うから、こうしてやってやったと言うのに。文句ばかりだな、汝」
「いやだって
こう、やるにしてももうちょっと威厳が出る方向で来ると思ってたので、妲己の姿を再現する方向に来るとは思ってなかったというか……。
というか、原作でのキャラと違いすぎるでしょう貴方。
「当たり前であろう。今の我は異世界転生した『白面の者』のようなもの。己の秘した願いも知っておるのだから、それを満たせるように動くは必然、と言うやつよ」
「はぁ、なるほど?」
……自身の状況を異世界転生って言うの、狐界で流行ってたりするんだろうか?*1
そんな、若干失礼なことを脳裏にちらつかせつつ。
私は汚れてしまった机を拭くために、布巾を取りに台所に向かうのでした。
「……これが注射に向かうぺっとの気持ち、というやつか……?!」*2
「いや、自分で言うんですかそれ」
どうにも愉快なキャラになっている気がしないでもないハクさんと、それからいつも通りバタバタしているビワを抱え、外行き用の服に着替えた私は、玄関の外に出てきていた。
少し前にタマモの健康診断的なモノを敢行した時、琥珀さんから、
「そちらの方々も、一度検査した方が良いかもしれませんねぇ」
……と提案を受けていたため、今日はその検査のために、彼女の研究所へと訪問する予定になっているから……というのが理由である。
「……私も、ですか」
「まぁ、アルトリアは色々あって、
なお、今回の遠出には、アルトリアも同行することになっている。
……彼女はここに来て結構長い方になる身ではあるが、そのわりに詳しい検査とかをしたことはなかったりする。
彼女が来た当時は、会話ができてこちらに友好的な【顕象】というものが珍しいものであったため、一応部外者にあたる
流石に友好的な【顕象】も三例目となれば、いい加減に詳しい検査も必要だろう……ということで、今回の話が成立したというわけなのである。
……まぁ、アルトリアの検査を躊躇した理由にはもう一つ。
彼女の基本的な姿はリリィのもの……つまり、琥珀さんならぬルビーちゃん的な感性からしてみれば、魔法少女力が高い方に区分されそうだから、というところが大きかったりするわけなのだが。
琥珀さんが暴走すると、場合によっては私やゆかりんでも対処に困ってしまう……というのは周知の事実。
なので、アルトリアの検査については、ちょっとばかり気後れする気持ちがある……というところも、なくはなかったりするのでしたとさ。
「……琥珀とかいう女のことはよく知らんが、大層面倒な奴だと言うのはよくわかったぞ」
「あ、ハクさんは多分大丈夫。なにせ妲己だし」
「それはそれで、なんとなく納得がいかんのだが!?」
なお、ハクさんに関しては、多分そこまで興味がない……もとい被害がないと思われる。
……それだと翼さんとか、ゆかりんへの対応がおかしかったって?
翼さんはここでは唯一のシンフォギア組だし、ゆかりんも大人モードは変身形態、基本はロリの方なので……というところもあるのだが、そもそもハクさんは『
具体的に言うのなら、変身ヒロイン系→少女→その他みたいな感じで興味のレベルが変わるというか?*4
まぁ、興味のレベルが高い相手にはまんまルビーちゃん化するし、それ以外の相手には普通に社会人らしい対応されるってだけなので、興味を持たれる方が面倒な面が大きいとは思うのだけれど。
ともあれ、今は三人分の検査を一日で終わらせようとしている感じなので、彼女があれこれと趣味を優先する暇はないはず……みたいな感じで、ゆかりんが許可を出した……ということだったりするのです、はい。
「……薄々感づいてはおったが、改めて言うぞ?ここの者共、どいつもこいつも狂っておるのか?」
「なりきりとは狂うことと見付けたり、みたいな?」*5
「……真顔で返されるとは思わなかった」
なお、そんな感じのことを説明したら、ハクさんからは凄く渋い顔をされることとなった。
……とは言うものの、自分以外を演じるのは、大なり小なり負担を強いるもの。
それを趣味として行う人々が、まっこと正気であるとは、私には保証できないとしか言えないわけで。
「というかだね、人の正気なんてものは、元来その本質たる獣の
「お、おう?……汝、時々わけのわからん方に飛び抜けるな?」
「それが私ですので」
「開き直るでないわ、まったく……」
煙に巻かれてしまったように、頭をがしがしと掻きむしるハクさん。
その格好は、白のカッターシャツと白のズボン。
……妲己のイメージとは違い、なんだか仕事のできるキャリアウーマンめいた格好である。
実際にはずぼらもずぼらなので、イメージと内面に隔たりがあること甚だしいという感じではあるが。
あとわりと薄手の生地なので、寒くないのかと思わなくもないのだが……その辺りはあれこれとやっているので大丈夫、らしい。
……郷の中で軽率に術を使うのはどうなのか?……と思わないでもないが、別に誰かを傷付けるために使っているわけでもないため、とりあえずは黙認。
いやまぁ、そこまでするのなら素直に服を着込めよ、という気もしないでもないのだが。
「必要以上には着とうない。服は煩わしいから嫌じゃ」
などと、
……というか、パジャマのままで出てこようとした彼女を、あれこれと世話を焼いてここまで
「いえ、後輩ができた、という面もなくはないのですが。……あまりに自堕落な姿は、見ていてとても辛い。それが見目良い女性のものであれば、なおのことです」
などと、騎士めいたことを言われたらしいハクさんは、すっごい名状しがたい表情をしながら、彼女の言にしたがったのだとか。
……こんな風にうるさく言われるとは思っていなかったという嫌悪と、こんな風に言って貰えるとは思っていなかったという歓喜の混じった、なんとも言えない顔だったという。
「うーん、ずぼらな姉としっかりものの妹、的な?」
「龍と狐でその関係というのは、ちょっと笑ってしまいますけどね」
「うーむ?なちゅらるにまうんと取られている様な気がしないでもないが、
「ないと思うよー。単に事実を述べてるだけ、って奴だと思う」
「……それはそれで度し難いのう」
「あ、いえ、その!別にハクさんを下に見たとか、そういうわけではなくてですね?!」
「よいよい、わかっとるわかっとる。……もうちと成長したならばいざ知らず、今の汝にそういう腹芸が出来んことなぞ、
「……それはそれで複雑な気持ちです」
「……のうキーア?こやつも大概めんどくさいんじゃが?」
「私に言わないでください」
……
至って普通に対応する二人に、そっと胸を撫で下ろしながら、抱えたビワがバタバタしている頭を撫でてやる私なのでした。
……というかこの子、じっとはしていられないのだろうか?
いやまぁ、バタバタしてるってところを除けば、別に嫌がるわけでもなく大人しい──