なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「いやはやお久しぶりですねー。まぁ、ルビーちゃんとしては結構会話とかしてましたが!」
「はい、お久しぶりですね琥珀さん。三人とも連れてきましたよ」
「……あれー?対応がなんだか冷たくありませんかキーアさん?」
「気のせいですよー」
郷の一画、研究施設のある場所の一部屋。
あれこれ色々あった結果、とりあえず抱き込んでおいた方がいいだろう……という打算も踏まえ、彼女に用意された場所。
それがここ、琥珀さんの研究室である。
半ば幽閉めいた管理をされている彼女。
いわば、普通の住居だと言えなくもないそこで、彼女は常と変わらず、白衣姿であれこれと機器を弄っていた。
その背に声を掛けた結果、こうして応接用の机の前で、互いに顔を突き合わせているというわけだ。
「それにしても……ふーむ」
「えと、私になにか?」
「いえ、基礎原理としては【継ぎ接ぎ】の応用なのでしょうが、当初の研究結果とかはやっぱり適当だったんだなー、と思いまして」
「は、はぁ……?」
なお、この部屋の主である琥珀さんは、ソファーに座るなりアルトリアをまじまじと見詰めたあと、大きくため息を吐いていたのだった。
……彼女は元々、『逆憑依』の研究をしていた人物である。
その研究の中で、人工的な『逆憑依』──今で言うところの【継ぎ接ぎ】を見付けたわけなのだが。
以前彼女が話していた通り、その研究時に被験者となっていたのは、彼女を含む
特定の『逆憑依』に対して【継ぎ接ぎ】を施すことは勿論、【顕象】に至ってはその存在を知らないか、知っていたとしても研究の糧になるとは思っていなかったはず。
故に、その両者への【継ぎ接ぎ】の影響、というものについては、色々と憶測で語っている面が多かった……というわけで。
「思っていたよりも、結構融通が利く感じですかね?念能力で言うところの、メモリ的な?」*1
「許容量があって、そこまでなら継ぎ足せる……みたいな?」
「そうそうそれです。まぁ、入れ換えもできるみたいなので、正確には念能力もちょっと例えとしては間違い……という感じになるわけなのですが!」
彼女曰く、普通の人に新しく【継ぎ接ぎ】する場合、その人の許容量の内の
故に、そもそも【継ぎ接ぎ】という液を注いでも、器に入りきらずに溢れるだけで、なにも起きない。
数少ない成功例達は、基本的に『性質・性格の近似』を条件としていたが、これはつまり
こちらは……例えばパフェがあるとして、中のフルーツをイチゴからオレンジに入れ換えても、
反対に失敗例だと、たい焼きの中身をアンコじゃなくてイチゴにしようとしているだとか、はたまた、たい焼きではなくてクレープにしようとしているだとか。
そんな風に、カテゴリごと変えようとしているようなものだったわけで、そりゃ成功するわけないわな……みたいな感じというか。
では、『逆憑依』はどうなのか、と言うと。
これはどうやら、
存在の重ねあわせやら内包やら、真面目に語るともうちょっとややこしくなるのだが、その辺りは割愛。
重要なのは【継ぎ接ぎ】をする際に、『逆憑依』組はその器が普通の人よりも大きいという扱いになること、それと中身を入れ換えられる
前者は文字通り、入れ換えを起こさずとも何かしらの
二次創作における性格改変みたいなものだとも言え、これによってある程度、性質として
後者はカテゴリの範囲が広くなることで、例えば通常は猫であれば猫同士──即ち『ネコ科』の中でしか変化出来なかったものが、『哺乳類』まで範囲が広がることで、猫から犬、イルカやネズミなどにも変化できるようになる……というもの。
近似と扱うモノが増えるため、【継ぎ接ぎ】の成功率が飛躍的に上昇するのである。
その辺りを踏まえ、現在では【継ぎ接ぎ】は起こしやすいもの……という風に認識されるようになった、というわけだ。
まぁ、ゆかりんみたいな
あれは
要するに、海面から飛び出した氷山のようなものだ。
全体の容積の内、海面より飛び出している部分が
器から飛び出してしまっているので、結果として不調を来すわけである。
雑に言ってしまうと、キャパシティオーバー、ということ。
失敗するはずのものを、根幹の同一性で無理矢理保持しているのに等しいため、土台部分にもダメージが入る……というようなことなのだろうと言うのが、琥珀さんの見解である。
まぁ、この辺りは実際に眼に見えるものでもないので、正解かどうか微妙に断言しきれないのが問題といえば問題、なのだろうか?
あと、私にとってのキリアは、わりと以前の説明文のままというか。
本来であればオリジナル同士、綺麗に入れ換えられるはずが、後から属性が更に【継ぎ接ぎ】された形になるため、口調とか性格面で補正が入るようになるのが影響、という感じ?
それと、タマモに関してだけど──これは【顕象】組と合わせて解説した方がわかりやすい、かも?
「アルトリアさんは、無数のアルトリアの集合とのことでしたが──言ってしまえば文字通りの集合体。【複合憑依】に性質としては限りなく近く、それでいて別物と言うのが正しい感じですかね?」
そう言いながら琥珀さんが、アルトリア以下三名の状態について、推測を交えながら話を始める。
まずはアルトリア。
彼女はアンリエッタという少女の器に、アルトリアの要素を集合させた存在だというのは、マーリンの言から確定している情報である。
それをどうやってやったのか、という部分は一先ず置いておいて……彼女のあり方というのは、【顕象】というよりも【複合憑依】の方が近い。
無数のアルトリアの集合なのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。
ここで問題なのは、【顕象】と【複合憑依】は明確に別物、だということ。
まず【複合憑依】とは、『逆憑依』してくる対象が、一つの器に無理矢理押し込められたものである。
それ故に肉体の切り替えという一種の変身機能を有し、また人格としても多重人格に近い記憶の共有などを経ているため、元のそれと同一とは言い難い、別種のモノに変質していると考えられる。
……そもそも【複合憑依】の対象者が少なく、その研究も進んでいるとは言い難いため、確たる証拠を以て断言することはできないが……、存在そのものが不安定、というのはまず間違いない。
対して【顕象】、特にこちらと会話を出来るような者は──安定し切っている。
暴走していたノッブのような例もあるが、基本的には不安定さの欠片も見られない。場合によっては、複数の要素をその身に内包するにも関わらず、である。
「予想になりますが、【顕象】が己の性質に見合ったモノを収集している……というのはほぼ確定。そうして集まったモノが
通常の【継ぎ接ぎ】や、【複合憑依】のような
それが、琥珀さんの出した【顕象】の特異性である。
アルトリアが安定しているのは当たり前。
それは、そもそものアンリエッタという器が、アルトリア達を受け入れるに足る器の大きさに
この辺りは、フレイムヘイズの器についての考え方が近いだろうか。
紅世の王達はその力を奮うに際し、器の大きさをなによりも必要としている。そしてその器の大きさとは、器となった人物の歴史への影響力……その可能性の多寡により変動する。
──逆にいえば、その可能性の多寡を操作できるのであれば、器の大きさは変動させられるとも言える。多分、普通の『逆憑依』の再現度や人気度も、器の大小に関わっているんじゃないか、とは琥珀さんの言。
だが、再現度や人気度というのは、
器を別のモノで満たす【顕象】の場合、器の大小を決めるのは
「それと、成立時点で
「なるほど……わかったような、わからないような」
「ですよねー。言ってる私も、ちょっとよくわかってないですし」
「おい」
「あははー☆」
……まぁ、詳しい検証をするための設備もないし、あくまで考察の末の結論なので、信憑性はないんですけどー、と彼女は自身の語りの締めとしたわけなのだが。
うん、そこまで外れてもないんじゃないかなー、と私は思うわけで。
限りなく
そんな感じなのだろうなというのは、その後の二人──ハクさんとビワの存在から、なんとなく確信できなくもないのだから。
「……我か?」
「【顕象】に対して【継ぎ接ぎ】したのって、ここにいる二人が確認できる実例なわけだけど。……実際、成立にあたって性質を継ぎ足した結果、存在としては安定しているわけで。多分だけど、【顕象】そのものは限りなく大きくなっていくのが本質だけど、そこになにかを
「ふむ……?」
わかりやすいのはビワの方。
本来の彼女は、際限なく負念を集めていく『白面の者』の尾の一つであったが、外からの
そしてその中で、負念の吸収機能は失われている。──
恐らく、【顕象】相手に付与する【継ぎ接ぎ】は、一種の安全弁のような役割を果たす……ということなのではないだろうか?
まぁ、性質の近似とかの普通の【継ぎ接ぎ】の制約はそのままなので、言うほど簡単に付与できるものではないのかもしれないが。
実際、ノッブに安全弁とか付けようにも、ノッブ自体がフリー素材*2なので、なにを止めればいいのかわからんし。
「じゃあ、タマモさんは?」
「そっちは成立時点で【顕象】と【逆憑依】の中間みたいになっちゃったんじゃないかな、【継ぎ接ぎ】が割り込んできたせいで、その部分を込みで一つの器と認識された、みたいな」
【顕象】と【逆憑依】が本質的には同じ、というのは前述した通り。
故に、タマモの状態については次のように考えられる。
【顕象】として成立しかけているところに、【逆憑依】の条件に見合う器が見付かり、かつそれと同じタイミングで【継ぎ接ぎ】が起こり、結果として胡乱以外の何者でもない『謎のタマモX』になってしまった、と。
「……幸運のランクがE-、ということか?」
「そうかもしれないけど、酷い結論だなぁ」
やっぱりよくわからなかったのか、ハクさんが呟いたその言葉に、私は小さく苦笑を返すしかないのであったとさ。