なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「まぁ、難しい話はそのくらいにしましてー……」
手を叩き、皆の視線を自身に集中させる琥珀さん。
この辺りの話は世間話みたいなもの、今回は三人が身体的・精神的に健康であるかを確認することが主な目的。
なので、ちゃんとやることやりましょう、という彼女からの提案というわけである。
まぁ、あれこれと思索するのが楽しいというのもわかるけど、というやつだ。
「……主にその辺りを楽しんでおったのは、どちらかといえば汝らの方だと思うがの」
「アーアー聞こえなーい」*1
ハクさんからの呆れたような視線と言葉は、耳を塞いでスルー。……自覚があるんだろうって言われそうだけども、とりあえず形として否定はしておこう、みたいな奴である。
「とりあえず、前回のタマモさんと同じ方法ということで宜しいですか?」
「へ、変身ですかっ!?」
「……いや、あれはタマモさんの特異性もあったので、今回は単にこちらを握って貰えるだけで構いませんよー。……勝手に変身させると後が怖いですし」
なお、検査については前回使った『マジカルルビー・ツヴァイ』による同調によって行われる。
これは、細胞レベルで異常を探知するのに、これが一番簡単だから、というところが大きい。
……体内にはたらく細胞*2的なモノが居るとかでもない限り、人というのは己の体の子細を知ることはできないものである。
というか、プランク長*3より小さな世界は認知のしようがない辺り、『極小』というものも人間にとっては手に余るもの、というのは覆しようがないわけで。*4
そこら辺を突き詰めると、大きいも小さいもわからないのが人間である、という元も子もない*5結論が飛んでくるというかなんというか。
……また盛大に話がずれたような気がするけれども、つまり『細かい部分を
それが、『ツヴァイを通じての同調』となるわけである。
まぁ、アルトリアの心配ももっともな話ではあるのだけれど。だってこの人、魔法少女大好き人間だからね!
ただ、本人の言う通り、あれはタマモが特殊だったから、というところも大きい。
彼女は自身に付与されていた【継ぎ接ぎ】をどうにかしたいと申告していたが、タイミング的に
変身ヒロインというのは、一種の二面性として扱える。
──変身してない時と、変身した後。単純な区分ではあるが、単純だからこそ付与はしやすく、方向性の誘導も行いやすい。
有るものをその有るがままに別のモノへと変じさせる時に、
結果として、健康診断の同調を変身のためのプロセスとして馴染ませ、最終的に『謎のタマモXはタマモクロスが変身した姿である』と分離──【継ぎ接ぎ】することに成功した、と。
……正直『逆憑依』うんぬんよりも【継ぎ接ぎ】の方がよっぽど意味不明な気がしないでもないが、今のところ問題になるようなこともなく、寧ろあれこれと役に立っている面しか見えてこないので、細かいことは言いっこなし……みたいなところもなくはないような?
この辺りをもうちょっと研究すれば、色々と応用が利くようになるのかもしれないけれど……、その結果として見えてくるのが『人工逆憑依』なので、あんまり深掘りするのもなぁ……と琥珀さんに視線を向ける羽目になるのでした、というか。
話を戻して。
このまま『ツヴァイ』に触れさせて、なにか悪影響はないのか……ということについてだけど。
彼女の本質である【顕象】は、普通よりも【継ぎ接ぎ】との馴染み方が強いような気がしないでもない……というのは散々語った通り。……罷り間違って本当に変身させてしまった時が怖いので、彼女達に触れさせる分には、同調以外の機能については意図的にカットされている。
杖を持った結果、テンション上がって魔法少女の真似をし始めたーとかでもない限り、外的な要因で魔法少女に変化する……ということはないはずである。
まぁ、アルトリアに関してはそもそもアンリエッタ……即ち
「まぁ、変な化学反応起こしてスペース・アルトリア・キャスター……なーんて胡乱物体に変化する可能性が無いでもないですから、出来得る限り迅速に終わらせて頂きますけどねー☆」
「す、
「ユニヴァース属性かー……」
なお、彼女に含まれていないアルトリア・キャスターの要素が、『魔法少女の杖』という存在と反応して
……なまじ『マジカルルビー』系列であるため、【継ぎ接ぎ】の効きが変に作用してしまう可能性は……低いとは言え、なくはないわけで。
物事において百パーセントなんてものはない、とは常日頃から言われること、警戒も相応にしているので大丈夫……と言った感じなわけである。
「【顕象】相手の【継ぎ接ぎ】に関しては、『逆憑依』相手の
「は、はぁ……」
そんな感じに、残念そうなため息を深く、深く吐きながら。
琥珀さんは、計測のための計器を弄り始めるのだった。
「んー、こういう言い方で良いのかわかりませんが……至って健康体ですね、お三方とも」
「……あー、前例として【顕象】の状態を確認したことがないから、普通の人の
「そうそう、それです。……健常者のそれと同じバイタルデータと言えそうですが、それが彼女達にとってもベストなのか?……私としては、ちょっと断言しかねる感じですね」
短いながらも濃厚?な検査も終わり、一先ず三人を外に出して、検査結果を聞いていた私。
測定結果としては、特に病気とか疲労とか、そういうモノを検出することは出来なかったとのことだった。
……ただ、それを素直に喜べないのが、彼女達の本質。
つまるところ【顕象】には
まぁ、その問題については『わかっててなおやった』という面もなくはないので、あんまり言い募っても仕方のない話ではあるのだけれど。
「まぁ、比較対象三例がそれぞれ人としての健康体を示している以上、
「……個人的には、ビワが
「それはまぁ、彼女自体は元々巫女──橋姫からの派生ですから。その
「……八頭身化するションボリルドルフみたいになるとか?」
「いや、なんてもの想像させるんですかキーアさん」
ともあれ、元気だと言うのなら問題はない。
人としての健康体に近いということは、下手すると人に対しての感染症にも感染する可能性があるということでもあるので、これから空気が乾燥して、インフルエンザとかに感染しやすくなるかも……みたいな、別方面の心配事が増えたりはしたのだけれども……まぁ、それくらいならば些事、というやつだろう。
「全ては些事、ですか?」
「そうそう、些事些事。……
「……?はい、タマモさんのトレーナーさんでしたっけ?」
そんな事を会話する中で、思い出した一つのこと。
大したことではないのだけれど、と前置いて、私は彼が呟いていたことを口に出す。
「
「ふむ……?いえちょっと、私も彼と会話したのは彼処が始めてですし、ちょっとわからないですね。……なんです、怪獣が目覚めてないとか、そういうあれですか?」
「あはは、幾らなりきり郷が並行世界と繋がってるらしいと言っても、流石に怪獣が平然と闊歩してそうな世界とは繋がってないですよー」
「そうですよねー☆」
まぁ、試しに聞いてみた程度のものでしかないので、別に答えが出ずとも構わないのだが。
そんな風に会話を締めたあと、あれこれと細かいことを確認したりして。
大体十分ほど経って、こちらに手を振る琥珀さんに手を振り返しながら、研究室から外に出る。
「あ、キーア。終わりましたか?」
「んー、一応診断書的なモノも貰ったし、あとはこれをゆかりんに投げ付けたら終わりかなー」
「なるほど、それなら私に任せてくれ」
「うわびっくりした!?……ってオグリか。なんでこんなところに?」
「アルトに呼ばれてな。話し相手をしていたんだ」
「なるほど。……あれ、ハクさんは?」
「私と一緒に来ていたタマに、あれこれと稽古をしているぞ?」
「……は?稽古?」
彼女の研究室は、周囲に民家などのない、森の手前にある。
……ぶっちゃけてしまうと、地下千階にある隔離塔……その近くにある森の前というのが、今私達が居る現在地。
その森の近くで、リスやウサギと戯れるアルトリアの姿があった。
こちらに気付くなり、動物達に断りを入れて、こちらに小走りに近寄ってくるアルトリア。……その背を見送る動物達は、どことなく物寂しげに見えた。
……まぁ、ここにいる動物が普通の動物なのかと言われると、なんとも断言しかねるため、あんまり見た目通りのファンシー状態かどうかは、議論の余地があるわけなのだが。……もし仮に何かしらのなりきりだったら、
……というような思いを乗せて睨んでいたら、動物達は散り散りに逃げてしまった。……
ともあれ、用事も終わったので、あとは報告をしておしまい……だと思っていたら、アルトリアが呼んだらしいオグリと、それについてきたタマモの内、後者の方がハクさんになにやら稽古を受けているとかなんとか。
なんのこっちゃ、と思いながら二人を探したところ。
「ほれ、威勢が弱くなっておるぞ、もっと気張らぬか」
「な、なんでウチがこんな眼に……」
「仮にも狐種の名を背負うものであろうが、根性が足りんわ」
「せやから、ウチのこれは、タマモ違いやって……」*6
「……?だから、タマモナインの番外なのであろう?」
「ちーがーうー!!!」
ビワを背負って走るタマモと、それを鬼コーチのように見守るハクさんという謎の光景を見付けることとなったのだった。
……なにこれ?