なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「あ、あかん……もうダメ……」
「大丈夫かタマ、卵食べるか?」
「なんで卵やねん……」
「むぅ、ツッコミにキレがない。本格的に疲れているようだ」
「……いやまぁ、見りゃわかるというか……」
近くの切り株にへたり込むタマモと、その背を擦りながら、何故か茹で卵を薦めるオグリ。
まぁ、運動直後の脱水気味な状態で、口の中がパサパサする感じになる卵は好まれなかったようで。
彼女の差し出した卵は、案の定やんわりと押し返されていたのだが。
そんな二人の姿を横目にしながら、今回の下手人であるハクさんに視線を戻す私。
視線を受けた彼女は悪びれた様子もなく、逆にこちらへと首を捻る様子まで見せているのだった。
「いやそもそも、我闇の化身じゃし。誰かの越えるべき障害として立ち塞がるとか、寧ろ誉れじゃしー、みたいな?」
「時と場合と程度を考えてください。どこぞの『人間の苦行見るの大好きおばあちゃん』じゃないんですから」
「……いや、寧ろ居るのか、今の我に似たような方向性のキャラクター」
まぁ、それでもこちらの叱責の内容には、目を白黒させていたわけなのだが。
……神話内でも普通にトップクラスに区分される実力を持つ
当の
……類似例のアマッカス?あれは倍とかそういう次元の迷惑さじゃないです。*2
ええ……なにそいつら……。
と、自身を棚上げにして引き気味になるハクさんに苦笑しつつ、改めて今回の凶行についての、弁解というか弁明というかを尋ねる私。
「……汝らが自身を自身と思えぬように、我も今の我を定義しきれぬところがある。中身を持たぬ故に、より元の我等に近いのが【顕象】というものなのかもしれぬが……結局のところ、そこまで述べても気休めにしかなりはせんのだ」
「【継ぎ接ぎ】されているから、とかそういうことではなく?」
「
「なるほどなぁ、
「ちっ、しんみりした空気と、小難しいことを言っとけば騙されるかと思ったが、甘かったか!!」
「当たり前じゃー!!ウチをなんだと思っとるんやー!!」
……えー、結果としましては、タマモに対して
「わけわからん、なんでみんなしてウチに変な絡みばっかしてくるんや……?」
「関西弁系キャラには積極的にネタ振りしていけと、私のゴーストが……」
「やかましいわっ、そんなゴーストは掃除機にでも吸わせとけっ!!」*4
実は現在私の周囲に居る人物の中では唯一、関西弁を使うキャラであるタマモクロス。*5
ちゃんとした関西弁、という括りになると難しいだろうけれど、なんとなくそれっぽく聞こえる『なんちゃって関西弁』*6としては、十二分にそこに求められている役割を果たせる彼女の存在というものは。
……なんというかこう、新しい風をこのなりきり郷に運んでくれる、期待の星とかうんぬんかんぬん。
みたいなことを聞かせてみたところ、彼女が返してきたのは名状しがたい表情。
……なんというかこう、『なに言っとんねんこいつ』という感情が、これでもかとばかり込められた顔……みたいな?
まぁとりあえず、女の子がしちゃいけない顔だ、と言うのは確かだと思います。
「やかましいっ、ウチになにを期待しとるんかと思うたら、それ結局他の関西弁キャラでも、十分に代役が務まるやつやんか!」
「んー、そだねー。はやてはりんちゃんだったし、他の関西弁系キャラとは出会ったことないし。つまり今のタマモのポジションは、とにかく危険域ってことだね」
「なるほどなぁ、ウチ以外に関西弁キャラはおらんから、ウチ以外の関西弁キャラは、ここに来たそばから全部蹴落とす勢いやないとあかんってことやね。……ってちゃう!!」
「おお、ノリツッコミ」
「喧しいっ、こんなん別に関西弁系キャラでなくともツッコむわーっ!!」
そもそもウチは香川出身やー!
と声を上げるタマモであるが、そんな彼女の今日の昼食は、出身地に因んでということなのか、きつねうどんであった。*7
……なるほど、タマモクロスは実は勇者だったんですね?クロスは即ち胸に輝く勇者の証、と。*8
「咲かんわっ!別に星座の化けもん殴り倒したりもせぇへんわっ!!」
「……白い稲妻が?」
「僕を責める~♪……やらすなっ!!」*9
……うーむ、打てば響くこの感覚。
彼女は我がなりきり郷に必要な人材だ、というのは間違いなさそうだ。……主にる!のサンダルフォン的な意味で。*10
「……別にウチはコーヒーに煩かったりせぇへんよ?」
「そこで冷静になられても困るんだけど?」
「そか。ほな、昼飯さっさと食べよか」
「せやなー」*11
……とまぁ、こんな感じに話を終えて、食事に戻ろうとしたところ。
なんというかこう、周囲からの視線が妙な感じになっているような……?
怪訝に思いながら目線を横に向ければ、ジトーっとした視線をこちらに向ける、ハクさんの姿が目に入った。
……ふむ。
「行くでタマ、ワイらのワイルドワイバーンで、あのキツネをこゃんこゃん言わしたるんや!」*12
「がってん承知の助や!ウチの逆撫でヒーコラ言わしたるでぇ!!」*13
「いや待ていや待て、増えるな合わせるなこっちに来るな!というかさっきまでの空気と違いすぎるじゃろ汝ら!?」
無意味に決めポーズを取ってみながら、ジリジリと二人で彼女ににじり寄って見たところ、滅茶苦茶怖がられてしまった。
失敬な、ノリには全力で乗るのが芸人魂やで(?)
みたいなことを、タマモの方に向いて述べてみれば、彼女はせやせやと大きく頷いている。
これには周囲も苦笑い。なんでって?さっきまでのやり取りが険悪に見えてたからだよジョニー。*14
「誰が真紅の稲妻やねん」*15
「おっと、こりゃ失敬。赤と白で縁起が良いかと思いまして」
「年末やからな、新年に向けて運気を上げんとあかんしな」
「そうそう。そういうわけでご用意致しました、紅白饅頭」
「ほぉー、そらまたええかんじやね。ところで、赤い方には中になに入っとん?」
「キャロライナ・リーパーですね」*16
「……白い方の形が変なんは?」
「シモ・ヘイヘを象りました」*17
「どっちも死神やんけ!縁起悪いわ!!……ども、ありがとうございましたー」
「……はっ!?いつの間に漫才に……っ!?」
「わりと始めからやで?」
思わず箸が止まっていたオグリが、思わずとばかりに声を上げれば、さっさとうどんを食べるのに戻ったタマモが、まるで何もなかったかのように答えを返す。
皆がなんとも言えない空気に包まれる中、やはりタマモクロスこそなりきり郷希望の星……!
と、謎の確信を得る私が一人。
「……えと、とりあえず食べ終わってからにしませんか?」
「う、うむ。そうしよう……」
なお、その場の変な硬直は、アルトリアの鶴の一声により弛緩するのでしたとさ。
今年はありがとうございました。
来年もまた宜しくお願い致します。