なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
隔離塔のうちの一つ、病を負った者達を癒す為に建てられたモノ。──それが、いわゆる治療塔と呼ばれるモノなのだそうだ。
「向こうの『鉱石病』患者用の塔とは、また別枠でな。憑依者が病人であるが故に身体的なハンデを背負うことになった者達が、この塔には集っているんだ」
そう説明する先生の先導の元、院内を歩く私達。
……さっき対峙した『炎髪灼眼の討ち手』が搬入されたという病室に案内して貰っているわけなのだが。……なんで先生自ら案内して下さってるんですかねこれ?
「……率直に言って、手が足りんのだ。医者はそれなりに姿を見るが、看護師が全くと言っていいほど足りていないんだよ」
「看護師が?……ふーむ、看護師……ナイチンゲール*1さん……はダメだ、あの人、お構いなしに向こうの塔に突進しかねない……」
先生から明かされた事実に、ふと思い付いた看護師を挙げてみたけど。……初手から躓いてダメだこれ、ってなったので考えるのを止める。素人判断過ぎて、まともな看護師を思い付ける気がしないや。
……いや、そもそもの話、看護師キャラで有名なキャラが思い付かないことないかな……?
「ジョーイ*2さんとか居ればいいんでしょうけど、あいにくと見たことないわねぇ。流石になりきりとしてはニッチすぎるのかしら?」
「いえ、そもそもジョーイさんと言っても、
「……に、ニビシティのジョーイさん、とか?」
「変化あるのかしらねぇ、それ」
……いやまぁ、多分私達の知識の幅が狭いだけで、ちゃんと探せば居るんだとは思う。
けれどそれらがなりきりの対象になっているの?と聞かれると、ちょっと首を傾げざるを得なくなるというか。
「そういう意味では、医師系はそれなりに姿が見えるからまだマシなのだろうな。───冥土帰し*3、トラファルガー・ロー*4、トキ*5、八意永琳*6……その他も疎らに、といった所か。……とはいえ。どうにも医療レベルの最大値を、現代の最先端医療まで引き下げられているようにも思える現状としては……冥土帰し辺りなんかは、歯痒い思いをしているだろうな」
「なるほど。……そういう意味では、ヒーラー系の方が有り難かったりするので?」
「ヒーラー、回復術士か。……どうだろうな?私には少々、判断しかねる所があるが」
医者系はまぁ、それなりに人気なキャラも多いので、姿がチラホラ見えることもあるようだ。
……聞く限り、いわゆる超技術級の医療を期待することはできなさそうだが。
冥土帰しさんが普通の医者のレベルにまで下がっているというのなら、そりゃもうかなりのデバフが掛かっているとしか思えない。
それと、ヒーラーについては口を濁されてしまった。
……ふむ、医者系より更に人員は多くなるんじゃないか、と思ったのだけれど……?
「戦闘系技能よりも遥かに強く、強烈な下降補正を受けているようでな。──ベホマズンがホイミになっている*7、と言えば分かりやすいか?」
「めっちゃ下がってる?!」
「キュア・プラムス*8で一割回復、かつ単体変化だからな。どうにも強すぎる回復術は、現実に合わせる際に不具合を起こしているらしい。……元の原理で動かせているわけではない、と言うことなのだろう」
「いやいやいや、キュア・プラムスが一割で単体化って何の冗談ですかそれは……」
最高域の回復術がえげつないレベルのナーフ*9を食らっている……。誰だよこんなクソみたいな調整しやがったやつぅ!!?
思わず吠えてしまうが、ここで私が吠えても仕方がない。……どっかの回復術無双してる人とか、凄まじいデバフ食らってない?みたいな事を思いつつ、思考を戻して先生の方を見る。
「これは推論だが──恐らく、医療系は求められていないのだろう。そこの八雲の言を借りるのなら、この異変はあくまでも、治すことには眼を向けていないんだ」
「治すことに、眼を向けていない……ですか?」
続きを語る先生の言葉に、疑問を浮かべたマシュが聞き返す。
先生はそうだと頷いて、手にしていたカルテをこちらに差し出してきた。
……私にはよく分からないけど、それでもなんとなくおかしなところがある気はする。
ざっと流し見して、カルテをマシュに渡す。
……マシュの方はある程度カルテが読めるのか、読み進める毎に表情を険しいモノに変えていった。
読み終わったマシュがカルテをゆかりんに渡そうとするが、彼女は「私は一応知ってるから」とやんわり断っていた。
マシュがそれに頷いて、カルテを先生に返す。彼はそれを受け取って、話を再開した。
「今見て貰ったのは、とある患者のカルテだ。……何か気付いたことは?」
「……病気が完治しそうになる度に、不自然なまでに薬が効かなくなったり、体調が崩れたりを繰り返しています。……もしかしてなのですが、治せる範囲に限りがあるのですか?」
「ご明察だ、具体的には二つ。『原作で治せていない病は完治はできない』『憑依直後を起点として、それよりも状態が良くならない』。代わりに、死を覚悟するレベルまで病が進行しても、次の日にはある程度小康状態にまで回復する。──まるで、今を繰り返しているかのように、な」
「それは……」
返ってきた言葉がエグいというか、なんだそれはというか……。
……ってアレ?ってことはもしかしてだけど……。
「アークナイツ組、結構ヤバいので?」
「いや、彼等は作中に発症しない者が存在するからか、そこまで重篤な状態には陥っていない。……無論、完治もしないので楽観できる訳でもないが」
世界観的に病と付き合い続けなければならない彼等はどうなのか。
……そう思って聞いたのだが、彼からは心配するほどのモノではない、という言葉が返ってくる。
うーむ、なんか隠されてる気もするけど、だからと言って私が聞いても何ができるわけでもないしなぁ。
……もやもやは残るが、この話についてはここで打ち切っておくべきだろう。
「さて、ここが彼女の病室だ。……長期間の封印状態から解放された彼女は、現在は精神を落ち着ける為なのか深い眠りの中だ。極力、起こさないでやってくれよ」
そんな話をしている内に、『炎髪灼眼の討ち手』の病室に到着した。
先生は簡単な注意だけを残して、足早に去っていく。
取り残された私達は顔を見合わせたのち、意を決してその部屋の中に進み入るのだった。
内部は別に特別なものというわけでもなく、普通の病室だった。
目立つものと言えば、彼女の腕に繋がれた点滴がぶら下がるスタンドくらいのものか。
近付いて彼女の寝顔を窺ってみる。……すやすやと眠っていてる。少なくとも悪夢に魘されたり、ということは無さそうだ。
「……ふむ、上手くいった、ということかしら?」
「さぁ、話してみないことにはどうにも」
ゆかりんの呟きに、わからないという意味を込めて首を横に振る。
……私としてはマシュの時と同じ事をしただけなので、それ以上のことは本人に聞かない事にはわからない、としか言えない。
もっとも、その本人が起きるかどうかは、こちらからでは全くわからない訳なのだけれど。
「あの、起こしてしまうと失礼になりますし、外で話しませんか?」
「私としては、今すぐ起きて貰いたいくらいなのだけれど……まぁ、マシュちゃんの言葉の方が正当性があるわよね。仕方ない、外に出ましょうか」
入ったのにすぐ出るのってどうなんだろうね?みたいな気分で病室の外へ。……さて、仕切り直して。
「ゆかりん、いい加減話して貰える?なーんでわざわざ私達を連れてきたのか」
さっきから多くを語らず黒幕ムーブしてるのはわかってるんだぞ!吐け!……的な視線を向けつつ、ゆかりんに問い掛ける。
だってさぁ、さっきから胡散臭い笑みをずっと浮かべてるんだもんゆかりん。
なんか隠してると言うか、隠してることを聞いて欲しくて仕方がないって感じなんだもん。そりゃ聞くよねっていうか?
「ふふふ、期待通りの反応ありがとうキーアちゃん。……まぁ、別に大した事じゃないんだけどね」
「
「あら心外。ホントに大した事じゃないのに」
くすくす笑うゆかりんが、楽しそう過ぎてうへぇ、ってなる。……そのムーブでなんでもないとか絶対嘘じゃないですかヤダー!
そうして笑みを浮かべながら、彼女が質問を投げ掛けてくる。
「ねぇ、キーアちゃん。ここ、地下千階だって言ったじゃない?」
「……言ってたね、滅茶苦茶階層あるんだなって思ってたけど」
「病棟もある、食事処もある、なんなら遊興施設もあるわね。……まぁ、普通の街ならおかしくはないかしら」
「………」
「規模的には普通に政令指定都市級、下手するともうちょっと多いくらいの人数がひしめき合っているわけだけど。──ふむ、政令指定都市に認定されるには、何人くらいの人口が必要だったかしら?」
「……五十万人だね」
「そうそう。それくらいだったわね。……日本の総人口的には一パーセントにも満たない人数だけど。さて、もう一つ聞くわね?──あのなりきり板、そんなになりきりキャラ居たと思う?」
「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ*10。……ってちゃう!なんで私が責められてるみたいになってんのこれ?!」
「わーい」
「いやわーいじゃなくて?!」
なんかいつの間にかタッカーさん*11扱いされてるんですけど?!あっれさっきまでの流れ的にタッカーさんポジなのゆかりんじゃないのこれ?!
みたいな感じで混乱していると、胡散臭い笑みを止めたゆかりんが、朗らかに話を再開しようとする。
「まぁ、ここに居る人がみんななりきりしてた人、ってわけじゃないのはちょっと口に出したことがあるけど。……それでも、人数的にみんなあの板の住人だと思うには、ちょっと無理があると思わない?」
「そう、ですね。仮に全体の半分……いえ、十分の一の人数だったとしても、一つの掲示板になりきりをするために集う人数だとは、到底思えません」
「うんうん、マシュちゃんの言う通り。なりきりなんて場末の遊び、こんなに人数が集まっているわけもない。聴衆である名無しを含めたとしても、ちょーっと足りないように思えるわよね?」
「えーい、まだるっこしいぞ八雲紫!つまり何が言いたいんだ君は!」
痺れを切らした私の言葉に、彼女はにっこりと笑って。
「つまり、この場所に集まっているなりきりをしていた奴等は!平行世界であの掲示板を使ってた奴も含むんだよ!」
「な、なんだってー!!?」
ある種の爆弾を落っことしてくれやがったのでした。