なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「で、これからどうするのよ、お前達」
「せ、仙人!?……いや、仙女?なんにせよ、なんだか凄そうな人だ……」
「ん、見ただけで私のことがわかるとは、中々の後輩力ね。いいわ、思う存分崇め奉りなさい」
こちらがあれこれとしている間に、いつの間にやら鬼太郎君を後輩扱いし始めたパイセンと、それを半笑いで見詰める五条さんという、なにがなにやらよくわからない光景が出来上がっていたが……うん、しーらね。
とりあえずスルーして、改めて今回の目的を確認する私達。
「霊的ななりきりの方をお迎えする、ということなのですよね?」
「うん、マシュちゃんの言う通り。今回迎えに来たのは霊体に分類される存在だ」
「霊体……ふーむ、パッと思い付かないけど……」
「というか、霊体が逆憑依してくるって、わりと意味不明なことになってない?」
マシュが尋ねたことに対しての返答からするに、今回の相手は八九寺真宵とか本間芽衣子*1とか、そういった幽霊キャラに分類される相手、らしい。
荒事になる可能性が微塵にでもある以上、前者二人のようなタイプではなく、どちらかと言えば怨霊に寄るようなタイプのキャラのようではあるが。……パチスロ?あっちに行ったら悪霊化するのはみんな同じだから……司令だってただのギャンブル好きのおっさんと化してたし……。*2
ともあれ、なるかも?という彼の言葉からして、怨霊としてもそこまで悪質なものというわけではないのだろう、多分。
控えているのが対呪霊トップの五条さんと、対妖怪トップの鬼太郎君なのが不安を煽るけど、怯えて縮こまるよりは当たって砕けた方がマシである(震え声)
「いや玉砕はすな!相手を粉砕せぇ!!」
「粉砕・玉砕・大喝采!!」*3
「いや社長はええわ、あんなん幾ら余裕があっても相手しきれへんわ」
「ふぅん、流石は白い稲妻、タマモクロスの慧眼と言ったところか……」
「いや、普通に物真似上手いなキミ!?」
「おーい、漫才してなくていいから、さっさと行くよー」
なお、関西弁キャラとしての血が騒ぐのか、はたまた面倒見のよい性格に引っ掛かるのか。
タマモだけが私の言葉に律儀に反応してくれましたが、他のみんなはこっちのことはスルーして、そのまま先に進んでいたのでしたとさ。……マシュまでスルーするんだよ、酷くない?
「あっ、いえその、無視したとかそういうわけではなくてですねっ?これからお会いする方がどういう人物なのか、考察していたらつい周りが見えていなかった、と言いますか……」
『さっすがマシュさん、いつにも増して生真面目さがアップ!もしかして、ちょっと怖かったりしますぅ~?』
「ち、ちちち違います誤解です!そもそもにサーヴァントの皆さんは高位の霊体とも言えますので、慣れていない方がおかしいと言うかですね?!」
「──なるほど、
「……っ!!?せ、せせせせせんぱいっ!!?」
などとブーたれていたら、なんと実はマシュが怖がっていたことが判明。
原作のマシュに幽霊が怖い、なんて設定あったっけ?と思っていたのだが……そういえば我々はなりきり、中の人が居る存在。
そうして視点を変えてみた時、彼女の中の人である楯の方は、幽霊とかゾンビとか苦手だったな、ということを思い出したのだった。
基本的に中の人は記憶や記録の参照先であり、意思表明をすることなんてないと思っていたのだけれど……いやはや、
「まぁ良いと思うよ?レオニダスさんだって幽霊は苦手だー、って言ってたし」*4
「それとこれとは話がちがっ、というかレオニダスさんを例に挙げるのは止めてくださいせんぱい!」
「はっはっはっ。なるほどなるほど、フル武装なのは怖かったからってことね。いつにも増して張り切ってるなーと思ってたら、実態はそういうことだった、と」
「……うぅー、穴があったら入りたいでしゅ……」
「マシュが盾を被ってしゃがんでしまったぞ」
「ああもう、弄りすぎよ貴方達」
まぁ、からかいすぎて暫く機能不全状態になっちゃったんだけどね!!失敗失敗。
「では、参りましょうか。マシュ、大丈夫ですか?」
「は、はい!大丈夫ですせんぱいっ!!」
マシュの機嫌を損ねてしまったため、彼女のご機嫌取りをする羽目になってしまった私は、彼女の望むがままに変身──キリアの姿に変化していた。
変身ポーズまでご丁寧に指定されながらのそれを見たマシュは、漸く機嫌を直してくれたわけなのだけれども。……代わりに私の方が疲労困憊である。
「いやー、初めて見たけど凄いね、キーアさん?……おっと、今はキリアさんでいいんだっけ?」
「……よくも大笑いして下さいましたねゴジョー、後で怖いですよ」
「いやー、ホントに怖いんでやめて欲しいかなー。ね、鬼太郎?」
「え、なんでそこで僕に振るんだ……い、いや、綺麗で良いと思いますよ?はい」
(・ワ・)「あるいみきょうふのごんげですなー」
「……いえ、この姿で当たり散らすような真似をするつもりはありませんが」
理由は無論、周囲の反応によるもの。
衆人環視の中での変身に、周りの反応は様々。
オグリは
五条さんは予想通りに大笑いしてたし、鬼太郎君は僅かに目を見開いていたし。……まぁ、そんな反応に晒されて、色々と心労が酷かったというわけである。
「……項羽様、変身とかしたら喜んでくれるかしら……?」
なお、パイセンはパイセンだった()。
いや、あの人喜ぶかなぁ……?喜ぶなぁ……?
なお、この場にCP君が居ないのに変身できた理由は、いつの間にやら彼女と琥珀さんが共謀して作成された変身アイテムを(無理矢理)渡されていたから、である。
望んで作って貰った形になるゆかりんとは違い、私に関しては完全にとばっちりである。……変身したらその情報がCP君に発信されるようになっているため、帰ったら根掘り葉掘り*5聞かれることは確定なので、そういう意味でも心労が酷い……。
「まぁ、なんだか今のキリアさんは正の力に溢れているみたいだし、結果オーライなんじゃない?」
「仮にそうだとしても、貴方に言われるのは納得行きません」
「おお、怖い怖い。さ、もうすぐ着くよ、みんな」
からからと笑う五条さんの背を追って歩くこと暫し。
先ほどの広場から数分ほど、なにもない場所を抜けた瞬間に、
「……!景色が変わった?!」
「え、ホントに?……ってうわ、ホントだわ!?」
先ほどまで森だった場所が、突然に白い砂に覆われた大地へと変化する。
辺りには砂以外のなにもない、ただただ広い空間へと突然迷い出てしまったわけである。しかも、一歩下がると景色が元の森の中に戻るというおまけ付きだ。
「転移?いえ、これは……」
「近いもので言えば帳とか封絶とか、あとは固有結界とかかな?この場所の位相に重なるように展開された、彼の居城だよ」
「彼……?いえ、そもそも……
変わらない様子で答える五条さんに、若干の不審を抱きつつ。
砂を踏み締め、更に歩くこと数分。
進む度にどことなく空気が重くなるのを感じつつ、チラリと後ろを振り返ってみると、
「……なんや、神秘的やなー」
「ああ、綺麗な夜空だ」
怖がっていたはずのウマ娘達は、突然に開けた夜空に輝く星々に目を輝かせていた。
確かに、なにもない砂漠の真っ只中で見上げる夜空は、その輝きを邪魔するような地上の光もなく、その美しさを存分に見せ付けているような気がする。
少し気になることがあるとすれば……なんとなく
「違和感……ですか?」
「……本来この場所には星は輝かないはず……という感じでしょうか」
「星が……輝かない?」
「その口ぶりだと、キリアさんは気付いた感じかな?」
「誰が居るのかは別として、
「さっすが」
首を捻るマシュ──すっかり様子は平時のモノに戻っている──に答えを返せば、五条さんが愉しげに声をあげる。
その様子に内心「なに考えてんだろこの人」と眉を顰めてしまうのは……
とはいえ、その感覚が正解とも言い辛い面もあるので、彼が完璧に嘘を言っているとも断言はできないのだけれど。
この辺りは再現度やらなにやらのせいで、相手の精神状態やこちらへの対応が変わってくるから……というのが大きいせいなのだが。
そんな、微妙な空気の悪さを覚えつつ。
代わり映えのしない砂漠の景色を、夜空の星を見ることでごまかしながら進むこと更に数分。
「──と、言うわけで。今回僕が迎えに来たのは彼だよ、皆」
「───────、」
張り詰めた空気、どこからともなく体に掛かってくる圧力。
それらを発するのは、恐らく五条さんが指し示す先に居る人物。
「──そうか。お前達が、俺の迎えか」
表情に色はなく、その言葉に熱さはなく。
そこにある虚無のようなその男は、睥睨するようにこちらを見渡しており。
その視線に思わずとばかりに身震いをすれば、私の背後にいるメンバー達も、各々が動揺したような声や動きをしたことが窺えて。
故に、やはり荒事になんかならない、だなんて嘘じゃんか……という批難の視線を五条さんに向けて。
……彼が、楽しそうにとある方に指を差していることに気が付いた。
一体なにを?と疑問に思いつつ、その指の先を追ってみると……。
「……先に一つ、言っておく」
「…………助けてくれ」
彼……ウルキオラ・シファーの表情が、こちらを睥睨するものではなく。*6
自身ではどうしようもない事態に困惑しきった、憔悴した顔であることに気が付いて。
え、なにそれ、と呆けた時に、視界のピントがずれて。
彼の背後に焦点を結び、漸く
そこに居たのは──。
「ふ、ふふふふっ、」
「フレディだわっ!!?」*7
「ぎゃあっ!!?貞子もおるで!?」*8
「お、怨霊のオンパレード……っ!?」
「あっはっはっはっ。あれ全部悪い方の【顕象】だから、頑張って撃退しようね☆」
「はぁっ!?」
「それからウルキオラ君はかったいだけの戦力外だからー。彼は要保護対象でかつ怨霊誘引体質だからー。そこまで気を使わなくてもいいけど、不用意に近付かないようにー。取り憑かれるからねー」
「おお、これはへんたいな戦いですなぁ」
「それを言うなら大変、よぉっ!!」
「おお、そーともゆー」
彼の背後に大挙する、怨霊達の群、群、群!
思っていたのとは別種の状況に、思わず素で叫びつつ。
私達は、思わぬ大混戦に突入することになったのだった。