なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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特殊勝利条件は悪い文明……

「殴れば倒せるゆーても、こんなんキリが無いんと違うん?」

 

 

 タマモの言葉が響く、虚夜宮(ラスノーチェス)を模した、星空を抱く砂漠の中。

 

 その量と内容に初見こそびっくりしたものの、実際の質としては『殴れば倒せる』という、お前ら幽霊としてどうなん?みたいな怨霊達でしかなかったので、千切っては投げ千切っては投げ……を繰り返していたわけなのだけれども。

 ……なんというかこう、終わりが見えねぇ!!

 さっき夜空の星にしてやった貞子が、再び戦列に加わってる……っていうか、そもそも複数人居るんだけど!?*1

 とかなんとか、さっきから文句しか浮かんでこない様相なのであります、はい。

 

 最初は周囲の怨霊達にビビり散らしていたタマモも、目の前でB級ホラーの無双場面*2かの如く軽々しく吹っ飛ばされていく怨霊達には、恐怖心を徐々に解されていったようで。

 

 今では「とりあえず蹴ったら祓えてしまうんと(ちゃ)うやろか……」みたいなノリで蹴っ飛ばしたところ、実際に特撮の雑魚戦闘員みたいに楽に倒せてしまったため、普通にこちらの戦列に加わってしまっている始末である。

 

 ……が、それでもなお相手の増える?数の方が多いのか、戦闘が一向に終わらない!!

 思っていたのとは方向の違う戦闘から来る疲れに襲われつつ、これって一体なにが勝利条件なのか、と五条さんに尋ねてみたところ、

 

 

「残念ながらこれ、耐久戦なんだよねー。悪いんだけど、もうちょっと持たして貰える?」

「ふざけんなー!鬼ー!悪魔ー!ちひろー!!」*3

「訴訟も辞さない」

「今の誰っ!?」

「鬼か悪魔でしょ」

 

 

 などという返答が戻ってきたのだった。救いはないのですか!?*4

 

 

 

 

 

 

「いやー、お見事お見事。ホントは用事が済み次第撤収のつもりだったんだけど、まさか全部成仏させちゃうとはねー」

「そりゃ、やれそうならやるでしょ。どうなってるのかとか、なに待ちなのかとか、何時終わるのかとか、そういうの全然わかんなかったから様子見してたけど」

 

 

 結局、こうして口にした通り、何を目的にした戦闘行動だったのかがわからなかったため、防衛に徹していた私だったわけなのですが。

 なんとなーく相手の正体とかが掴めたあとは、まさに一転攻勢。

 

 周囲に被害がでないように、あれこれとパラメーターを弄った極小ブラックホールをぶん投げ、怨霊達を一塊にしたのちに爆散させる……という、わりとヤバめな技により殲滅したのでありましたとさ。*5

 ……いやまぁ、相手方はバイバインみたいな性質?だったようだし、それくらいしか対処法がなかった……っていうのもあったりはするんだけども。

 

 

「おっ、『バインバイン』?」

「おっとしんちゃん、喧嘩売ってるなら買うけど?」

「お、おぉぅ……聞き間違えちゃっただけだから、そんなに怒らないで欲しいんだゾ……」

「ふふふ、いいかいしんちゃん?私の前で胸の話をするやつは、なんであれ敵……kill them all(キルゼムオール)なんだよ」

「い、以後気を付けるんだゾ……」

「よろしい。……まぁ、紛らわしい台詞を吐いたのも事実だから、一応こっちからもごめんとは言っておくけどね」

「ほーい。……で、結局『バイバイン』ってな~に~?」

 

 

 なお、途中でしんちゃんが盛大に聞き間違えたため、話がストップしましたがなにも問題はありません。ないったらないです。

 

 

「ドラえもんに出てくるひみつ道具の一種ですね。増やしたいモノに一滴垂らすことにより、五分ごとに数が二倍になる……という薬品です」

「お?ということは~、チョコビに垂らせばチョコビ食べ放題ってこと~?」

「はい、しんちゃんの言う通り。そういうことになりますね」

「おお~、ふともも~!」

「それを言うなら太っ腹、や。……ところで、話に聞くだけやったら随分と便利な道具に聞こえるけど、どうせヤバいやつなんやろ?ひみつ道具やし」

「タマモさんの反応には、思うところがなくもありませんが……そうですね。ドラえもんの作中において、モノを増やすという機能を持つひみつ道具は、多数存在しますが……()()()()()()()()()()()()()という点においては、欠陥品という評価を下されても仕方ないのではないか?……と私は考えます」

 

 

 大まかな解説はマシュがしてくれたが、こちらでも補足を。

 

 ドラえもんにおいては『フエルミラー』『まほうのかがみ』『レプリコッコ』などなど。

 なんで同一の用途なのにも関わらず、類似品がいっぱいあるんだろう?

 ……という疑問を抱かざるを得ないくらい、似たような役割を持つ道具というものが溢れている。*6

 

 これはまぁ、ドラえもんという作品が一話完結型の作風であり、以前使ったものを使い回すのでは新鮮味がない……などの作劇的理由を含むものだろうとは思うけど。

 ともあれ、近似に互換、どこぞのSCP紛いのモノなどなど。

 ひみつ道具というものが、物語を作る種の結晶のようなものである、というのは間違いでもないだろう。

 

 と、言うような前ふりをした上で、バイバインについてのお話。

 類似品達が増殖を人の手で行う必要があるのに対し、この薬品は()()()()()()()()()()()()勝手に増える、という違いがある。*7

 一応、この薬品にも効果時間というものがあるらしいのだが……仮に一日放置した場合、一日に増える回数は(24(時間)×60(分))÷5(増えるのに掛かる時間、単位・分)となって、その数は288回になる。

 

 これがそのまま指数となるため、倍率は2288となり、これによればなんと、一日放置しただけで宇宙が埋まるような事態になるのだとか。*8

 作中描写からして効果時間が一時間そこら、ということも考え辛いため、これは別に大袈裟でもなんでもない宇宙の危機……ということになるわけだ。

 

 ドラえもんは『それこそ一日で、地球が栗饅頭の底に埋まる』というようなことを述べていたそうだが、これを正確に直すと『それこそ一日で、地球は()()()()()()()()()()()宇宙の海の底に沈む』となるだろう。

 ……ドラえもんのひみつ道具は、子供の思い付きをそのまま叶えたかのようなものも多いため、真面目に考えると訳のわからないことになる……という好例である。*9

 

 

「……澗?」

「十進数で三十七桁ほどの数値の事ですが、この場合ですと無量大数のあとに現れているため、いわゆる二週目となりますね」

「漢数字表記って二週目とかあるんか!?」

「命数法的には仕方のないことですので……」*10

「仏教での数詞使っていいなら、もっと大きいのもあるよー、不可説不可説転とか」*11

「……完全にピンとこないのだが」

「一応107×2122くらいだね」

「いや聞いてもワケわからんのやけど!?」

「まぁ、それより大きい数もあるけどね」*12

「ゆるされよ ゆるされよ すうじがにがてなのをゆるされよ」

 

 

 なお、大きい数字……巨大数というものは、奥が深すぎて説明してると日が暮れるどころの話ではないので、今回は割愛。

 そもそもの話、性質がバイバインに近いというだけで、怨霊達が天文学的な数になるというわけでもないから、余談の域を出ないわけだし。

 

 

「そ、それはよかった。正直ちょっと話に付いていけなくなっていたところだったんだ」

「そりゃまたご苦労様と言うか。……まぁ、上限が決まってるみたいで、その数までは指数的に増える相手だった、ってことを言いたいだけだったんだけどね」

 

 

 オグリの様子に、頭を掻きながら声を返す私。

 どれほど減らしても、必ず一定数まで増える相手。その増え方が倍々であったために、バイバインの話を思い付いた……というだけの話なので、頭から煙がでるほど悩む必要性はないんじゃないかなー、と思わなくもないのでした。

 

 

*1
ダビングとか関係なく、貞子は増えることができる。まさにSDK(サダコ)48……

*2
ホラー系の映画でたまにある展開。こちらを追い詰めていた相手に対して、何かしらの反撃手段を得た主人公側が、さっきまでのビビりはどこへやらとばかりに幽霊やら怪異やらを吹っ飛ばしていくもの。その性質上、大体ギャグめいたノリになるため、普通のホラー作品で見ることは(それが主題だったりしない限り)あんまりない

*3
『アイドルマスター シンデレラガールズ』における事務員、千川ちひろの(非公式的な)イメージから来る扱い。元々は、いわゆるポイント競争形式のイベントで、効率的なポイント獲得のためのアイテムが売り出されたことが切っ掛け(古いモバイルゲームによくあった形式)。課金を煽る存在、すなわち運営の刺客とみなされた彼女は、いつしか鬼や悪魔と同列に並べられるような存在と化してしまっていたのだった……。アイテム販売所に特定のキャラが常勤している場合、似たような扱いをされることがある(例:鬼!悪魔!ダヴィンチちゃん!など)鬼や悪魔はモンスターとして出てくる場合はともかく、地獄の獄卒をしていたり契約に従順だったりするため、『流石にあの女のような血も涙もない集金はしない』と言った風に揶揄されることがある

*4
アニメ『ウマ娘プリティーダービー』に登場するキャラクター、メイショウドトウの台詞。救いはない()ですか、だと別のネタになるので注意。……地味に変な風評被害を受けているような気がするが、大丈夫なのだろうか?

*5
これもちょっとした虚無魔法の応用です

*6
前者二つは鏡、後者一つはニワトリ型の機械。『フエルミラー』は鏡に写ったものを中から取り出すことで増やすタイプの道具。鏡なので作りや向きが反転してしまうが、機械類などは問題なく使用できる。人をコピーすると反逆される恐れがあったりする。『まほうのかがみ』は『フエルミラー』の完全上位互換のひみつ道具で、左右反転しないし人をコピーしても反逆してこない。『レプリコッコ』は見せたものを複製(産卵)することで増やす。卵から生まれるという仕様上、本来の物品より小さくなるが、機能面では問題が一切ない。フィギュア向けのミニチュア家具作成とかに向いているかも知れない。また、間接的に見せたモノであっても複製できる(テレビに写った怪獣など)。恐らく特撮かアニメかなにかの映像だと思われるが、実在しないものを増やせているあたり、わりとヤバいアイテムなのかもしれない……ひみつ道具は全般的に危ない?それはそう

*7
増えたモノにオリジナルの概念はないらしく、一つでも完全な状態のモノが残っていれば、そこからまた増えていくことになる。食品の場合は食べることで、そうでなくとも壊れてしまえば増えなくなる、らしい

*8
10進数で80桁くらいの数値になる。参考までに、『吸血鬼すぐ死ぬ』における天文学的数値が飛び交う人気投票の総投票数は、約20澗無量大数(10進数で100桁ほど)

*9
『十円なんでもストア』などが分かりやすい。専用の『かんばん用紙』に店の名前を記載することにより、用紙一枚につき一品限り、()()()()10円で買うことができるという、わりと意味不明なアイテム。用紙がべらぼうに高く、そちらの単価で利益を得ているのかとも思えなくもないのだが、作中のドラえもんは高々数百円程度のどら焼きの購入の為に、特に躊躇した様子もなくこのひみつ道具を使っているため、一回の使用単価が高いとも思い辛い。つまり『なんでも10円で買えたらいいな』という子供の夢をそのまま叶えたような道具であり、正直こんなものが跋扈している未来世界とはなんなのか、と戦慄を覚えざるを得ないわけだったりする

*10
無量大数以上の数を命数法的に表記しようとすると、どうしても下の桁を使い回すしかなくなるため。巨大数ともなればそれでも足りなくなるので、大体10n桁という風に表記されるようになる

*11
仏教の数詞としては最大の数値。大体10の37澗乗くらいの数字

*12
グーゴルプレックスなど。こちらは1010100。Googleという名前の由来でもある


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