なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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誰そ彼彼は誰、明けの星

「……で、結局さっきのあれこれって、なんのための行動だったの?」

 

 

 束の間の歓談タイムも終わり、改めて虚夜宮擬きを離れた私達は、途中で集まっていたあのなにもない広場へと、再びたどり着いていたのだった。

 各々が適当に休息を取る中、改めて先ほどの戦闘がなんだったのかを、五条さんに問い掛けてみた私だったのだが……

 

 

「あれねぇ、ウルキオラ君が地縛霊的なモノになってたんだよね。だからそれの解消とかの為の時間稼ぎ……ってのが正解かな」

「……は?地縛霊?」*1

 

 

 なんというか、微妙にイメージに合わないような言葉が返ってきて、思わず困惑する羽目になるのだった。

 いや……地縛霊?霊的なモノの中でも怨霊の極み的な系統に分類される(ホロウ)、その中でも圧倒的な戦力を誇る破面(アランカル)の、更に精鋭である十刃(エスパーダ)の四番手に選ばれるほどの──二段階変身持ちなので、実際は席次ももうちょっと上かもしれない──実力者であるはずのウルキオラ・シファーが……吹けば飛ぶような木っ端の幽霊達と同ランクみたいな扱いの、地縛霊になっていた?……いや木っ端は言い過ぎか。*2

 

 ともかく、本来の彼の実力的にはあり得ない状態、というのはまず間違いないわけで。

 そうなってくるとまぁ、後の展開もうっすら見えてくるわけだけど……、一応確認のために、五条さんに続きを促す。

 

 

「まぁ、お察しの通り。『初心者か、さもなくば荒らし』ってね?」

「ご、ごごご五条さんっ!?」

「え、なしてマシュが慌てとるん?」

「今の台詞、昔のにわか五条さんにマシュが言った台詞なんだよね……」

「なるほど、失言やな」

「たたたタマモさん!?せんぱいまでっ!?」

「ゆるされよ ゆるされよ よげんのこのつみをゆるされよ さもなくば──」

(・ワ・)「どくはいぱーてぃ、かいまくです?」

「ビワさんんんんんんっ!!?」

「ビワが言うと洒落になってないな……」*3

 

 

 結果は予想通り。このウルキオラ君は、初期の五条さんのようなモノ──再現度最低レベル、キャラクターとしての性質はにわか知識によって辛うじて装丁された、まさにはりぼての如き存在なのであった。

 ……その事実が明かされた時に、一悶着あったけど……まぁ、うん。口は災いの元、ということで……。

 

 

 

 

 

 

「改めて、ウルキオラ・シファーだ、よろしく」

「げ、原作からは想像もできない満面の笑み……だと……っ!?」*4

「!す、すまない。気を付ける」

「……キリッとしたで」

『さっきまでのは睨んでたんじゃなくて、ちゃんとしようとして顔が強ばってただけ、だったんですねぇ』*5

 

 

 改めて、今回迎えに来た相手──ウルキオラ君との会話に移行したわけなのだけれども。

 ……本当なら絶対にしないような、あまりにも眩しい『陽』の笑みを返されて、困惑っていうか言葉を失うっていうか、ともかく変な空気になったのは確か、というか。

 なりきるなりきらない云々の前に、これは『うるきおら・しふぁー』みたいな、なにか別の生き物なのではないかと疑ってしまいそうになる。

 それくらい、外と中の気質が合ってないと断言できてしまうような人物が、今私達の目の前に居るわけなのだった。

 

 

「……えっと、五条さん?」

「ダメね、さっきからずっとああだもの」

「いっそこっちも笑えてくるくらいに、大笑いしているな……」

 

 

 なお、今回のあれこれの主体であるはずの五条さんはと言うと、なんというか見ていてちょっとイラッとしてくるくらいに大笑いしていた。

 ……どうにも、ツボに入ってしまったらしい。これでは収まるのは大分先になってしまうだろう。

 となると、ウルキオラ君本人に、知っていることを尋ねるしかなくなるのだけれど……。

 

 

「……すまない、俺もよく分からないところが多い」

「でしょうねー。……いやまぁ、なんとなく理由を考察することはできるけども」

「なんやて工藤!?」*6

「誰が工藤じゃ、誰が。……まぁ、考察って言っても簡単なモノだけどね」

 

 

 本人の言うところによれば、気が付いたら周囲になにもない、星の瞬く夜空と白い砂の大地に放り出されていたとのこと。

 自身の持つウルキオラとしての知識から、ここが虚夜宮のようなもの、という予想こそ付いたが、それ以外はさっぱり。

 単なる記憶としては、自身(ウルキオラ)の今際の際まで全てを思い出せるが、どこか今の自分とは結び付かないような、なんともえない違和感に思考の海に潜り──。

 気が付いたら、さっきのように怨霊達にわらわらと群がられている……という奇妙な状況へと、更に変化していたのだという。

 

 聞いているだけで宇宙猫パワーが脳内で瞳を開きそうなくらいに貯まってくるけど、そこで思考を止めては五条さんの二の舞、頭を振って気を取り直した私は、とりあえずさっきの怨霊達の理由くらいは察せられるな、と口を開いたのでした。

 

 

「初心者とかにわかとか言われてた五条さんであっても、『六眼』に関しては使えてたでしょ?多分再現度が低かろうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に関しては、最低限の装備として用意されているんじゃないかなーって」

「ふむふむ。私だったらスキマとか?」

「さぁ?この辺りはにわかレベルの人達を集めて検証する、とかしないとはっきりとはしないと思うから、なんとも。……ただまぁ、例えばウルキオラ君だとか、あと居るのか知らないけどみょん──魂魄妖夢とかに関しては、結構わかりやすいんじゃないかな?」

「妖夢が?」*7

 

 

 話す内容は、逆憑依において、最低限保障されるモノについて。

 実際にこちら(現実)に現れるにあたって、誰もが必ず恩恵を受けているはずのモノについての話だった。

 最低限の、と銘打っている通り、能力面に関してはとりあえず脇に置いたもの、ということになる。

 そういう意味では、シャナやマシュ、ウマ娘組なんかもわかりやすいかもしれない。

 

 

「私達が?」

「ああ、なるほどね。じゃあ、私もわかりやすい側ってことね?」

「ですねー。パイセンは特に、そこを抜かすとパイセンとしての根幹が崩れますから」

「????」

 

 

 オグリは首を傾げ、むむむと唸っている。しんちゃんもその横で、同じ様に首を傾げていた。

 そんな二人の様子と似たような感じの者達もチラホラ見えるので、勿体ぶらずに答えを言おうと口を開いて、

 

 

「──種族だよ、恐らくは何に置いても、一番最初に再現されるもの。生まれついての性質、という風に見方を拡大するなら、僕の『六眼』も扱いとしては等価になるはずだね」

「『六眼』を生まれついて持っている男、()()()()()()()()()()()()……とでも言うべき?私の場合は生まれついての精霊だとか、仙女だとか……まぁ、不死者であるというところはまず違えない、ってところかしら?」

「……私の台詞取らないで欲しいんだけど」

 

 

 大笑い状態から復帰してきた五条さんが、こちらの会話に割り込んできて、その言葉にパイセンまで相槌を打ってきたため、私の発言権は綺麗に掠め取られたのでした。

 ……いやまぁ、説明してくれるんなら、願ったり叶ったりだけども。

 

 

「ごめんごめん。……で、そこの彼──ウルキオラ君に関して、最低限再現されたのはその種族──怨霊の一種である虚であること、だったってこと」

「なるほど。俺が俺であることは、最初から保証されていたというわけか」

 

 

 五条さんやパイセンが言う通り。

 逆憑依という事例において、一番優先されるのは恐らく種族──性格面を除いた、その人がその人足り得るパーソナリティの根幹、だと思われる。

 ハーマイオニー・グレンジャーの人種が、唐突に黄色人種や黒人種になったりしたら、誰だって困惑するだろう。*8

 同様に、ドクター・ドリトル*9が突然白人になったりとか、ナポレオンの身長が高いとか。*10

 そういった、元々の身体的特徴を大きく逸脱してしまったモノを、元のそれと同一の存在として見ることは難しいことだと言えるはずだ。

 

 それと似たようなもので、逆憑依と言う事例において、一番最初に再現されるのはそのキャラクターの身体的特徴──すなわち器なのではないか?

 というのが、今回私が話そうとしたことである。

 そこから考えるに、このウルキオラ君は、まず虚であることから構築されていると推測しても差し支えないはず。

 

 

「つまり、兆しとしてのラベルは『虚』──すなわち怨霊であり、それを制御するためにウルキオラ・シファーという殻が用意された……みたいな?ただまぁ、そこで突っ込まれた中身が再現度が低い人だったせいで……」

「負の念が内に籠り切らずに、漏れ出す形となった。それがあの虚夜宮──特殊な場であり、彼を閉じ込める第二の殻だった、ってこと」

「ほうほう。つまりー、お風呂のお湯がいっぱいになって溢れちゃって、お風呂場までお湯まみれになっちゃってたんですな~」

「おー、意外とわかりやすい」

「いや~、それほどでも~」

 

 

 怨霊になるために集められた負念は、本来ウルキオラ君の中に全て収まるはずだったのだが。

 そうはならずに彼の周囲に停滞し、その記憶からあの世界を形作った。

 そして彼をそこに縛り付け、更には他の負念を集める場所として機能していた……すなわち、先日の『白面の者』とかと似たような状態だった、というわけである。

 

 で、さっきまでしていたのは彼と場を切り離すための準備とか、はたまた集まってきた負念が形を持たずに霧散するようにする仕掛けだとか、そういったことだったのだ。

 ……時間が掛かるからその間邪魔されないように護ってね、みたいなノリでもあるはず。

 

 なので、半ば偶然とはいえキリアになったのは、わりと渡りに船だったと言えなくもなかったりするらしい。

 

 

「お陰で幾つか行程を飛ばせたからね。そういう意味では、今回のキーアさんは功労者と言えなくもないかも?」

「……うん、役に立ったのなら、変身した甲斐もあったかな……」

「彼女は何故落ち込んでいる?」

「感謝されたのが、自分にとってはあんまりやりたくないことだったから」

「なるほど、深いな」

 

 

 なお、それで私に振り掛かった心労に関しては考慮しないものとする。……うん、まぁ、うん。

 

 

*1
何かしらの理由で、特定の場所に縛られた霊のこと。自爆でも自縛でもない。基本的に土地に縛られる理由が強い未練などによるモノである事がほとんどなので、色々と良くないものを引き寄せやすいとされている

*2
地縛霊そのものはそこまで霊的に強くない、ということも少なくはない。彼らが危ないのは、彼らによって死を迎えると彼ら(地縛霊)のようになる、というところにある。強い未練はそれそのものが悪しきもの、というわけではなく、それによって周囲を巻き込む可能性があるからこそ。地縛霊そのものはそこまで悪いものではないと言えなくもないという話。……そもそもの話、近付かなければ無害みたいなものでもあるのだし

*3
見た目こそビワハヤヒデ(たぬき)だが、内容物的にはケルヌンノス(fate)が混じっているため。許されよ、許されよ。始まりの六人の罪を、許されよ

*4
同作における『井上織姫』ばりに笑みを浮かべたウルキオラを想像して貰えれば、その衝撃が理解できるかもしれない

*5
無愛想キャラなどにままあること。真面目な顔をすると怒っているように見える、というある意味でのデバフ

*6
『名探偵コナン』シリーズより、服部平次の台詞。あまりにも工藤工藤と呼ぶものだから、言ってない台詞まで捏造されている(せやかて工藤)

*7
『東方project』シリーズより、半人半霊の少女。みょんと言うのは彼女のとある会話における、一つの台詞からきたあだ名。初登場は『東方妖々夢』。最近の人気投票では、大体一位になっているくらいに人気な女の子

*8
舞台『ハリーポッターと呪いの子』において実際に起きた問題。作中に人種を指定する文章はなかったので、別に演じる人物の人種に問題はなかったはずなのだが……。映画でのハーマイオニーとは印象が真反対に近い人物が演じることとなったため、違和感を覚えた人がそれなりに居たらしい

*9
自身の名前を冠した映画の主人公。元々は児童文学作品。動物の声が聞こえる医者が活躍するコメディ映画

*10
無論『fgo』でのナポレオンのこと。ライダーだと史実通りの背丈になると言われているため、風評の良い面を取り入れた姿というのが正解


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