なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……で、結局さっきのあれこれって、なんのための行動だったの?」
束の間の歓談タイムも終わり、改めて虚夜宮擬きを離れた私達は、途中で集まっていたあのなにもない広場へと、再びたどり着いていたのだった。
各々が適当に休息を取る中、改めて先ほどの戦闘がなんだったのかを、五条さんに問い掛けてみた私だったのだが……
「あれねぇ、ウルキオラ君が地縛霊的なモノになってたんだよね。だからそれの解消とかの為の時間稼ぎ……ってのが正解かな」
「……は?地縛霊?」*1
なんというか、微妙にイメージに合わないような言葉が返ってきて、思わず困惑する羽目になるのだった。
いや……地縛霊?霊的なモノの中でも怨霊の極み的な系統に分類される
ともかく、本来の彼の実力的にはあり得ない状態、というのはまず間違いないわけで。
そうなってくるとまぁ、後の展開もうっすら見えてくるわけだけど……、一応確認のために、五条さんに続きを促す。
「まぁ、お察しの通り。『初心者か、さもなくば荒らし』ってね?」
「ご、ごごご五条さんっ!?」
「え、なしてマシュが慌てとるん?」
「今の台詞、昔のにわか五条さんにマシュが言った台詞なんだよね……」
「なるほど、失言やな」
「たたたタマモさん!?せんぱいまでっ!?」
「ゆるされよ ゆるされよ よげんのこのつみをゆるされよ さもなくば──」
(・ワ・)「どくはいぱーてぃ、かいまくです?」
「ビワさんんんんんんっ!!?」
「ビワが言うと洒落になってないな……」*3
結果は予想通り。このウルキオラ君は、初期の五条さんのようなモノ──再現度最低レベル、キャラクターとしての性質はにわか知識によって辛うじて装丁された、まさにはりぼての如き存在なのであった。
……その事実が明かされた時に、一悶着あったけど……まぁ、うん。口は災いの元、ということで……。
「改めて、ウルキオラ・シファーだ、よろしく」
「げ、原作からは想像もできない満面の笑み……だと……っ!?」*4
「!す、すまない。気を付ける」
「……キリッとしたで」
『さっきまでのは睨んでたんじゃなくて、ちゃんとしようとして顔が強ばってただけ、だったんですねぇ』*5
改めて、今回迎えに来た相手──ウルキオラ君との会話に移行したわけなのだけれども。
……本当なら絶対にしないような、あまりにも眩しい『陽』の笑みを返されて、困惑っていうか言葉を失うっていうか、ともかく変な空気になったのは確か、というか。
なりきるなりきらない云々の前に、これは『うるきおら・しふぁー』みたいな、なにか別の生き物なのではないかと疑ってしまいそうになる。
それくらい、外と中の気質が合ってないと断言できてしまうような人物が、今私達の目の前に居るわけなのだった。
「……えっと、五条さん?」
「ダメね、さっきからずっとああだもの」
「いっそこっちも笑えてくるくらいに、大笑いしているな……」
なお、今回のあれこれの主体であるはずの五条さんはと言うと、なんというか見ていてちょっとイラッとしてくるくらいに大笑いしていた。
……どうにも、ツボに入ってしまったらしい。これでは収まるのは大分先になってしまうだろう。
となると、ウルキオラ君本人に、知っていることを尋ねるしかなくなるのだけれど……。
「……すまない、俺もよく分からないところが多い」
「でしょうねー。……いやまぁ、なんとなく理由を考察することはできるけども」
「なんやて工藤!?」*6
「誰が工藤じゃ、誰が。……まぁ、考察って言っても簡単なモノだけどね」
本人の言うところによれば、気が付いたら周囲になにもない、星の瞬く夜空と白い砂の大地に放り出されていたとのこと。
自身の持つウルキオラとしての知識から、ここが虚夜宮のようなもの、という予想こそ付いたが、それ以外はさっぱり。
単なる記憶としては、
気が付いたら、さっきのように怨霊達にわらわらと群がられている……という奇妙な状況へと、更に変化していたのだという。
聞いているだけで宇宙猫パワーが脳内で瞳を開きそうなくらいに貯まってくるけど、そこで思考を止めては五条さんの二の舞、頭を振って気を取り直した私は、とりあえずさっきの怨霊達の理由くらいは察せられるな、と口を開いたのでした。
「初心者とかにわかとか言われてた五条さんであっても、『六眼』に関しては使えてたでしょ?多分再現度が低かろうと、
「ふむふむ。私だったらスキマとか?」
「さぁ?この辺りはにわかレベルの人達を集めて検証する、とかしないとはっきりとはしないと思うから、なんとも。……ただまぁ、例えばウルキオラ君だとか、あと居るのか知らないけどみょん──魂魄妖夢とかに関しては、結構わかりやすいんじゃないかな?」
「妖夢が?」*7
話す内容は、逆憑依において、最低限保障されるモノについて。
実際に
最低限の、と銘打っている通り、能力面に関してはとりあえず脇に置いたもの、ということになる。
そういう意味では、シャナやマシュ、ウマ娘組なんかもわかりやすいかもしれない。
「私達が?」
「ああ、なるほどね。じゃあ、私もわかりやすい側ってことね?」
「ですねー。パイセンは特に、そこを抜かすとパイセンとしての根幹が崩れますから」
「????」
オグリは首を傾げ、むむむと唸っている。しんちゃんもその横で、同じ様に首を傾げていた。
そんな二人の様子と似たような感じの者達もチラホラ見えるので、勿体ぶらずに答えを言おうと口を開いて、
「──種族だよ、恐らくは何に置いても、一番最初に再現されるもの。生まれついての性質、という風に見方を拡大するなら、僕の『六眼』も扱いとしては等価になるはずだね」
「『六眼』を生まれついて持っている男、
「……私の台詞取らないで欲しいんだけど」
大笑い状態から復帰してきた五条さんが、こちらの会話に割り込んできて、その言葉にパイセンまで相槌を打ってきたため、私の発言権は綺麗に掠め取られたのでした。
……いやまぁ、説明してくれるんなら、願ったり叶ったりだけども。
「ごめんごめん。……で、そこの彼──ウルキオラ君に関して、最低限再現されたのはその種族──怨霊の一種である虚であること、だったってこと」
「なるほど。俺が俺であることは、最初から保証されていたというわけか」
五条さんやパイセンが言う通り。
逆憑依という事例において、一番優先されるのは恐らく種族──性格面を除いた、その人がその人足り得るパーソナリティの根幹、だと思われる。
ハーマイオニー・グレンジャーの人種が、唐突に黄色人種や黒人種になったりしたら、誰だって困惑するだろう。*8
同様に、ドクター・ドリトル*9が突然白人になったりとか、ナポレオンの身長が高いとか。*10
そういった、元々の身体的特徴を大きく逸脱してしまったモノを、元のそれと同一の存在として見ることは難しいことだと言えるはずだ。
それと似たようなもので、逆憑依と言う事例において、一番最初に再現されるのはそのキャラクターの身体的特徴──すなわち器なのではないか?
というのが、今回私が話そうとしたことである。
そこから考えるに、このウルキオラ君は、まず虚であることから構築されていると推測しても差し支えないはず。
「つまり、兆しとしてのラベルは『虚』──すなわち怨霊であり、それを制御するためにウルキオラ・シファーという殻が用意された……みたいな?ただまぁ、そこで突っ込まれた中身が再現度が低い人だったせいで……」
「負の念が内に籠り切らずに、漏れ出す形となった。それがあの虚夜宮──特殊な場であり、彼を閉じ込める第二の殻だった、ってこと」
「ほうほう。つまりー、お風呂のお湯がいっぱいになって溢れちゃって、お風呂場までお湯まみれになっちゃってたんですな~」
「おー、意外とわかりやすい」
「いや~、それほどでも~」
怨霊になるために集められた負念は、本来ウルキオラ君の中に全て収まるはずだったのだが。
そうはならずに彼の周囲に停滞し、その記憶からあの世界を形作った。
そして彼をそこに縛り付け、更には他の負念を集める場所として機能していた……すなわち、先日の『白面の者』とかと似たような状態だった、というわけである。
で、さっきまでしていたのは彼と場を切り離すための準備とか、はたまた集まってきた負念が形を持たずに霧散するようにする仕掛けだとか、そういったことだったのだ。
……時間が掛かるからその間邪魔されないように護ってね、みたいなノリでもあるはず。
なので、半ば偶然とはいえキリアになったのは、わりと渡りに船だったと言えなくもなかったりするらしい。
「お陰で幾つか行程を飛ばせたからね。そういう意味では、今回のキーアさんは功労者と言えなくもないかも?」
「……うん、役に立ったのなら、変身した甲斐もあったかな……」
「彼女は何故落ち込んでいる?」
「感謝されたのが、自分にとってはあんまりやりたくないことだったから」
「なるほど、深いな」
なお、それで私に振り掛かった心労に関しては考慮しないものとする。……うん、まぁ、うん。