なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「と、そんなことを言ってる内に最後の後片付けも終わったし、あとはちょっと観光でもして帰ろうか?」
「あ、私は酒蔵とか見に行きたい……」
「残念ながらゆかりんはお帰りのお時間でーす」
「やだー!!お酒ぇぇぇえぇぇぇ……」
「……アイツがスキマに落ちていく、ってのはちょっと珍しい光景よね」
「下手人は私だ」
「でしょうね」
そんな風に話をしている間にも、諸々の後始末は進んでいたらしく。
にっこりと笑みを浮かべた五条さんが軽く手を叩くと、なんとなーく
……もうここまで来ると、能力的には原作と似たようなモノ、と言ってしまっても差し支えないような気がしないでもない。
まぁ、領域展開*1はまだできないらしいので、本当の意味では追い付いていないらしいのだけれども。
「寧ろそこまで出来とるのに、まだ伸び代あるんか……」
「そりゃまぁ、マシュちゃんを見てればわかるけど、普通に
「いや、なりきりそのものが誤解されるようなこと言うの止めない?」
「なるほどね……日夜情報の海の中で、密やかに行われる魂の練磨──その果てに人間は、あらゆる異端を暴き食らうってわけね」
「パイセン?貴重なシリアスモードをこんな与太噺に使うの止めません?」
『……はっ!?つまりBBちゃんは、そんな人間達の愚行の果てに生まれた、世界を救う安寧の光ってことですか?いやーん、人類の皆さんったら全くもって救えなーい!』
「BBちゃんも悪ノリするの止めて!?」
なお、型月組は平常運転なのであった。……こうなってしまうと、基本的に純朴なマシュだけが癒しである。
そんなたった一人の常識人、マシュが今一体なにをしているのかと言うと……。
「なるほど、鬼太郎さんも五条さんと同じお仕事をされていたのですね……」
「う、うん。この間のハロウィンとかは、妖怪達も出てきていたみたいだし。クリスマスもクリスマスで、白面が暴れだすようなら駆り出される予定だったし……みたいな感じかな」
「わぁ……!流石妖怪の専門家、鬼太郎さんですね!」
「うっ……いやその、それほどでも?というか……」
「あー!きたちゃんがオラの台詞を使って、マシュちゃんにデレデレしてるゾ!これは許されませんな~」
「う、うわわわわっ!?ししししんのすけ、いきなりなにを言い出すんだっ!?」
「……?鬼太郎さんは、照れていらっしゃるのですか?」
「……………いやその、えっと」
「もー、きたちゃんってば
「……それを言うなら、
「おお、オグリちゃーん。そうそう、そーともゆー」
五条さんが目立っていたために裏方に回った形となった、何気ない功労者鬼太郎君への労い……もとい、楽しく?会話をしていたわけでして。
……しんちゃんの言う通り、バージョンによる差こそあれど、鬼太郎というキャラクターは基本的に美女に弱い。
そんな彼がマシュなどという美少女に近寄られてしまえば、気持ちの上ではどうあれ、行動がぎこちなくなるのは仕方のない話。
結果として、あんな感じのたじたじ鬼太郎君、などというモノが生まれたわけなのだった。
「ふむ、
「そう、どうでもいい*4……なんて言うと思ったか!!?者共敵襲ー!!敵襲ー!!」
「うわぁっ!!?特級呪霊やっ、目隠れクレクレや!!?」
「はっはっはっ。──さらば!」
「逃げたっ!?」
「奴を追えーっ!!逃がすなーっ!!」
……なお、突然現れた目隠れ大好き海賊のせいで、そんなのほほんとした空気は崩れることとなるのだった。
「結局逃げられたし……」
(せ、せんぱいがションボリしすぎて等身が……?!)
(・ワ・)「おそろいというやつですなー」
「競馬ファンの世代が世代だから、たぬき動画って大体ノスタルジックよね」
「わからないものが多すぎる……」*5
結局、なりきりなのかその他のモノなのか、よく分からない『特級呪霊・隠れ目』もといバソに逃げられてしまった私達は、なんとも言えない気分になりながら、麓の町まで帰って来ていた。
……そう、町。あれこれとしている内に、すっかり朝になってしまったが、戻ってきたのはまだ明かりすら灯っていない、人気の薄い町なのである。
その前に居た場所が結構大きめの神社だったこともあり、人口密集度的な意味で、落差が酷いことになっていると言えなくもない。
「ああ、お客さん方。大丈夫でしたかい?」
「はい、滞りなく。『森の砂漠』はご相談の通りに片付きましたので、ご安心頂ければ」
「そうかそうか。いや、森が騒がしかったのもこれで落ち着くでしょう」
そんな中、五条さんはこの町の町長とでも言うべき人と、事後報告のための会話を交わしていた。
……なんとまぁ、今回のあれこれは
「森の中に突然開けた砂漠がある──そんな見出しで、いわゆるホラースポットとしてネットでまことしやかに噂になっていたのが、さっきの場所でね。夜な夜な遠方から肝試しにやってくる人達のせいで、森がうるさくてかなわない……みたいな話になっていたそうだよ」
「まさかの騒音被害」
「まぁ、それが単なる怪奇現象なら、僕達もここまで首を突っ込もうとはしなかったんだろうけど。……『砂漠の中で白い男を見た』みたいな話が結構な頻度で見付かるものだから、ちょっとゆかりんに確認お願いして、そっから予言者組に話が行ってー」
「……そしたら
「そーいうこと」
つまり、今回のあれこれはこういうことらしい。
とある閑静な田舎町で、偶然森に迷い込んだ人が、さっきの虚夜宮擬きに遭遇し。
おっかなびっくり出口を探して彷徨う内に、身動きが取れなくなって立ち往生していたウルキオラ君に出会い、彼の
その時の経験をネット……SNSに上げた所、知る人ぞ知るホラースポット、みたいな広がり方をしてしまった。
結果として、面白いもの見たさ半分怖いもの見たさ半分……みたいなノリで、全国から人が集まるようになってしまったので、それを解消したいと町長さんが思っていたところに、風の噂にそういうオカルトとか不思議現象の専門家が居る……みたいな話を聞いて、藁にもすがる思いで連絡を取ってきた、と。
「綿貫さんとかみたいに、外でそういうのの話を集めてくる人ってのが居てね。そこからこう、タイミングよくこっちに連絡が来たってわけ」
「無関係なモノも多いが、変な事が起きているのなら私達に関わりがあるもの、だと推測するのは普通のことだろう?」
「なるほど……時々情報源がよくわかんないなー、って思ってたけど、政府から聞いてたのね。……ところで」
なるほど、綿貫さん以降見掛けたことはないが、政府側でそういうのの探索は変わらず行っていた、と。
予言者組が情報の精査を行ったのと同じくらいのタイミングで、政府からの情報提供も重なり、結果として五条さんに話が回ってきた……ということになるようだ。
手数さえ足りていれば、五条さんでなくとも調査自体はできたかもしれないけれど。
事態の解決を望むのであれば、ある程度能力のある人物を派遣しなければいけない案件だったのも確か。
結果として、こうしてみんなでぞろぞろやって来た甲斐はあった、というわけである。
降って湧いたような事件だったが、解決できてよかったよかった。
……みたいな感じで、話の締めに入ろうとした私なわけなのだけれども。……うん、うん?
「……なんで居んの、バッソ」
「私は特級呪霊ではなく、普通になりきり組──それも外回り組の一人だからね。こうしてご一緒することもあるというわけさ」
「ま、幻とかやなかったんか、あれ……」
いつの間にやら、五条さんの隣に立つのは軽妙洒脱*6な伊達男。
……特に捻りもなくバーソロミュー・ロバーツその人なのだが、さっきは逃げてたのになんで戻ってきてるの?……っていうか、普通になりきり組なんかいっ。*7
「ははは。いやなに、貴女のように麗しい女性に対して挨拶をするのであれば、それなりの下準備というものが必要だろう?」
「はぁ……?え、麗しい?ソイツが?」
「……パイセン?貴方、私をなんだと思ってるので?」
「え、珍獣でしょ?」
「それパイセンにだけは言われたくないんですがーっ!?」
「お、落ち着いてくださいせんぱいっ!!」
「ははは。元気なことは良いことだ。ところで、マシュ嬢と鬼太郎君という二大天使に囲まれている君がここの王様だ、と見るのは決して間違いではないと思うのだが、その辺りどうかな?」
「メカクレ基準で語るのやめーや!!」
にわかに騒がしくなった私達の様子に、町長さんが目を丸くしている。
……早朝にこんなバカ騒ぎしてたら、肝試しに来た他の奴らと変わらへん!……という、大変もっともな指摘がタマモから上がったため、別れの挨拶もそこそこに町を離れる私達。
ゆかりんが残っていれば、スキマで郷に直帰してもよかったのだが、生憎と彼女は既に向こうに戻り、あれこれと報告書やらを纏めた後、そのままベッドにインしているはずである。
……要するに今はぐっすりと寝ているはずなので、起こすのは忍びない、ということ。
なので私達は、ちょっと途中で観光やらなんやらしながらゆっくりと帰ろう、という感じのことを話し合うのであった。
……え?今さっきお前スキマ使ってなかったかって?こまけぇこたぁいいんだよ!*8
「ははは、自己弁護の得意なお嬢さんだ。では、私達はこの辺で」
「お、もうお別れ~?」
「私は鬼太郎君の相方でもあるからね、彼の健康には気を遣わなければいけないのさ」
「……バソを、目隠れと一緒に行動させている……だと……?」
『これは
「いや、普通にバソさんはよくしてくれてるよ?」
「それが怖いんだよ!」
なお、バソと鬼太郎君は別行動だと言うのだが……目隠れならなんでもいいバソの生態的に、ちょっと不安になったのは仕方ないと思う。
次回からは幕間になります。