なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「いやはや、大番狂わせだった……」
(・ワ・)「がんばりましたー」
「手も足も出ないってほどではなかったですが、だからこそ玄人感というものが凄かったですね……」
羽根つきを終えたら大体お昼前だったため、そのまま公園を離れて街の中心部へと歩いてきた私達。
三が日ということもあり、殊更に多い人の波を掻き分けて進みながら、どこで昼食を摂ろうかと相談していたのだけれど……。
「ハンバーグが食べたい」
「私は和食がいいわね」
「どうせなら中華とかどうですか?」
「みんなバラバラやん。いっそファミレスでも行った方がええ流れとちゃう?」
「それだと郷にいる時と変わらんじゃんか!却下じゃ却下!!」
『BBちゃんはお昼の必要がありませんので、完全な部外者目線での言葉になりますが……それ、多分お店が見付からずに困るパターンでは?』
ふーむ、みんなの食べたいものが別れてしまい、店選びに難航している……というのが正直なところなのだった。
なので、さっきまでの羽根つきの感想を語りつつ、適当に街を歩き回っている……という状況なわけである。
歩いている内になんかこう、
まぁBBちゃんの言う通り、ある程度以上時間が掛かるようだったら、諦めてファミレスとかに向かう方が良い……と思うところも無くはないのだけれど。
ともあれ、適度に会話を挟みつつ、道の両サイドにある店々を眺める私達である。
「ふぅん、小さいのに意外とやるのね、お前」
「ゆるされよ ゆるされよ いがいなふくへいゆるされよ」
「……いつの間にか戻ってきているパイセンはまぁ置いとくとして、ビワもキャラが安定しないねぇ。妖精さんモードの方が扱いやすいというか、安心感があるのは確かだけれど」
(・ワ・)「ふえますかー?ふえませんかー?」*2
「増えるのは勘弁してほしいかなー……」
(・ワ・)「それはざんねんですなー」
胸元からこちらを見上げて声を掛けてくるビワの頭を撫でつつ、そもそもに妖精さんモードだと作画が変わる……もといバタバタしないので、抱いて歩く身としても安心感が違う……みたいな言葉を返す私。
対するビワは「なるほどなー」と頷いたあと、再びバタバタし始めたのだった。……こっちからは見えないけど、今顔が変わったというのはよく分かる。
ともあれ、
「おじゃましまーす」
「はいいらっしゃい、何名様かな?」
「えっと……ひーふーみーの……七、いや八人ですかね?」
途中で私達が見付けたのは、山小屋っぽい外観の喫茶店。*3
偶然目に入った店の名前が、不自然に認識できなかったのが気になって、休みの日なのにも関わらず(半分仕事気分で)注視していたわけなのだが……。
それを目敏く見付けたマシュに、ここに入りたいのかと勘違いをされた結果、弁明する間もなく皆で入店する羽目になってしまった……というような感じである。
まぁその時点で、他の人達には『看板が認識できない』というような異常は起きていないか、もしくはそもそもに『見えないことに違和感を抱けていない』状態になっている、みたいな疑惑が持ち上がってしまったため、実情がどうあれここに入ることは決まっていた……みたいなところもなくはないのだけれど。
ただ……なんだろう、なんだかイヤーな予感(シリアス方面ではなくギャグ方面で)がするというのも確かなわけで。
試しにこの店の名前を他の皆に聞いてみたのだけれど、
「えっ?表に書いてあったじゃないですか。ほら、喫茶「
「そうよ、寝ぼけてんのお前?喫茶「
「喫茶「
「これはまさか……スタンド攻撃を受けているッ!?」*4
『……?どうしたんですかせんぱい、実は眠気の余り、ちょっと混乱していらっしゃったり?』
みたいな反応が返ってきたうえ、みんな互いの発言を聞いても、なにか疑問を感じるよう素振りもない。
全員で共謀してこちらをからかっている、という可能性もなくはないが、そもそもパイセンにさっき差し出されたメニューにしても、店の名前が靄がかって見えないのは表の看板と同じ状態なので、そこの説明が付かない以上は誰かがからかっている、という線は薄いだろう。
……私一人だけ視点が違うとか、唐突にコズミックホラー*5めいたシチュエーションにして来るのやめて貰えませんかね……?
ともあれ、周囲には一般の人も居るし、異常に関してもあくまで店の名前についてのみ。
店内の様子が殊更におかしいといったこともないため、一先ず料理を頼んでみてから考えようか、と一旦問題を棚上げにする私なのであった。……お腹が空いたっていうのも、本当の事だし。
なので渡されたメニューから、適当に昼食を頼もうとしたわけなのだけれど……。
「…………」
「どしたん?なんか名状しがたいものを見たような感じになっとるみたいやけど?」
「……いやその、メニューが……」
「メニュー?……なにかおかしいところがあるのか?」
「ん……至って普通のメニューみたいだけれど?」
「アッハイ、ナンデモナイデス……」
「何故にカタコト?」
「心なしか目が死んでるけど、大丈夫?」
まぁその、うん。
メニューが『strawberry spaghetti』とか『sweet maccha ogura spaghetti』とか、なにが書いてあるのか全然読めない字で書いてあるように見えてね?
……いやその、どうしろと?
流石に私も、正体不明のモノを頼むほどチャレンジャーじゃ
「じゃあすみません、この一番上のをお一つ」
「!?」
「なん……やと……!?」
「ちょっ、正気ですかキーアさん!?」
『流石のBBちゃんもドン引きでーす!』
「考え直しなさい、死ぬわよっ!?」
「一品頼んだだけでえらい言われようである」
ふふふ、へただなぁ世界……へたっぴさ……!*7
私に対するネタの振り方がへた……っ!!
そんな
どこぞの変な飲み物大好きな図書館探検部の少女とは、盟友となれるだろう逸材こそが私……!*9
例えメニューが読めずとも、変な料理があれば……そしてそれが致命的に食べられないモノ*10でさえないのなら、私が全ツッパするのは自明の理……っ!!
周囲の反応が割りとあれ(一般のお客さんまでこっちを驚愕の表情で見ている)なのはちょっと気になるけど、我が人生は死地に飛び込んでこそ輝くもの……そう、狂気の沙汰こそ面白い……っ!!
「なので私は止まらぬ!さぁ、このメニューの一番上を
「店員さんを脅すのは止めてくださいせんぱい!?」
見た目ロリが
ともあれ、賽は投げられた……もとい
喫茶店の主人である老人が厨房に消えていくのを見送りつつ、両手を付いて待っていると。
「その……せんぱい?考え直したりは……」
「くどい!なにが来ようがどんな味だろうが構わぬ!最後に全て食せばよい!」
「……今、フラグが立ったな」
「ゆるされよ ゆるされよ わかりやすいふらぐをゆるされよ」*13
むぅ、周囲がやけにうるさい。
というか、うるさいと言うよりはホントに心配している……?
……………。
今更になってなんというか震えが来たけど、武者震いだと自分をごまかしつつ待ち続ける私。
顔青くなっとるで、と言うタマモからの指摘にも強張った笑みを返す私は……そして後悔したのだった。
「……じ、地獄の大釜……」
「キャロライナ・リーパーをふんだんに使った特製カレー……」
「その、ホントに大丈夫ですかせんぱい……?」
「……大丈夫だよ、マシュ。わたしもこれから、頑張っていくから」
「ダメなやつやなこれ」
「おっと心は硝子だぞ」
「砕けても溶かしてもう一回成形しなおせばいいわね」
「砕けるのをまず止めてくれないかな!?」
私の前に現れたのは、ぐつぐつと音を立てる真っ赤な物体。
……スパイス代わりに
量こそ普通だが、その赤さは異常も異常。
近付いただけで襲い来るその圧迫感は、まるで野生の虎でも目の前にしたかのよう。……『虎くらいなら仕留められるだろお前ら』?そういう危機感をぶん投げる台詞はよろしくないと思います(白目)
「……思ってたのと違う。山小屋風だからいちごスパゲッティとかが出てくると思ってたのに……」
「え?」
「えっ」
店の名前がわからずとも、外観に見覚えがあったからこその突撃だったというのに。……思っていたものと反対の料理が出て来てしまい、おもわず困惑する私だったのだが……。
思わず溢した言葉に反応したオグリは、なんだか緑色のスパゲッティに挑戦していたわけで。あれは……抹茶じゃな?
「……絶望したっ!!罠を飛び越えたと思ったら、飛び越えた先こそが穴だったことに気が付いて絶望したっ!!」*14
「自業自得ね。次回からはよく考えて選びなさいな」
「よく考えて選べなかったんだよぉっ!!」
メニューには合ったのに、選べなかっただけ──。
あまりに残酷な現実に気付いて声を上げる私と、普通の洋食のランチを食べながら呟くシャナ。
周囲の人達の憐れむような視線を受けながら、半泣きでカレーに立ち向かう私なのであった。