なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ああ、酷い目にあった……」
「むぅ、もっと食べたかった……」
「まだ食べる気なの!?あんだけ食べて?!」
「そういえば、私も結局服を買ったりはしなかったわね……」
騒ぎが起きた場所から急いで離れた私達は、肩で息をしつつ*1呼吸を整えている真っ最中。
こんなことになった原因である二人は、特に反省した様子もなかったが……そもそも彼女達にやりたいことを聞いたのは、私の方である。
故に深掘りすると、責任がこっちに飛んできそうな感じがしないでもないので、とりあえず有耶無耶にしてしまおう……と画策する私なのであった。
なので、彼女達への視線を一先ず逸らして、周囲を眺めてみると。
私達が逃げてきた場所は、街の中心部から少し離れた位置にある、ちょっと寂れた感じのする下町風のところであることが窺えた。
なんとなく懐かしい感じのする場所に、思わずほうと吐息を吐いていると。
「あれ?お姉さん達、
「おっと、ごめんなさいね。たまたま通り掛かっただけだから、邪魔なら退けるわよ?」
「そうだったんなー。ウチ、こんなところまで来る人が居るなんて、初めて見たん」
背後──具体的にはちょっと下目──から響いてくる声に、苦笑を浮かべながら振り返る。
どうにも、ここは誰かの家の玄関先だったらしい。
そこに戻ってきた……声からして子供とおぼしき少女の、通行の邪魔になっていたようなので、道を開けるために移動する。
そうして振り返った先に居たのは、
「……な、なんなん?うちの顔に何かついてるん?」
「いや、別に、なんにも?……とりあえず、にゃんぱすー?」*2
「……?にゃん?ぱす?……猫の鳴き声なん?それとも、猫をパスすればいいん?」
「……いや、そういうわけじゃないんだけど」
「かようちゃん、ねぇ?」*4
「そうなん、それがうちの名前なん」
真っ黒いれんげ、みたいな感じの彼女の名前は、どうやら『かよう』というらしい。
あんまり聞いたことのない、珍しい名前だと思う。
あと、他のみんなにも一応確認を取ってみたけれど、彼女に感じた第一印象は私と同じ、『黒い宮内れんげ』というものだった。*5
ただ、それと同時に
よく似た双子というか、たまたま姿形が似通っているというか、さもなくば自己像……他者像?幻視というか。
ともかく、逆憑依だとか【顕象】だとか、そういうオカルトめいたものではなさそうだ、というのは共通認識で間違いないようであった。
「……せやけど、よー似とるなぁ。なんちゅーかこう、雰囲気?みたいなんが」
「そうだねぇ。私はのんのんびよりにはそこまで詳しくないけれど、それでもパッと見た時に『れんちょんだ』って思うくらいには、空気感が似てる感じだよねぇ」
「……にわかの語る『似てる』ほど、信憑性のないものも無いのでは?」
「ははっ、そりゃそうだ」
彼女の家だという、古い家屋に招かれた私達は、その家の縁側に腰掛け、彼女が庭で遊ぶ姿を眺めている。
「あの子の親は忙しくてね。私に預けて、そのまま仕事に帰ってしまったのさ」
……とは、この家の持ち主である、彼女の祖母の言葉である。
見知らぬ人間をそのまま招くのは無用心じゃないか、と思わなくもなかったのだが、「孫に話し相手ができるんなら大歓迎だよ」などと言われてしまえば、どうにも指摘する気にもなれなくなるというか。
まぁそんな感じで、庭の砂場でお城を作って遊ぶかようちゃんとオグリ(!)を見守っているのだった。
……いやまぁ、うん。「ダートじゃないから大丈夫」などというお告げを受けたとかなんとかで、真っ先にかようちゃんに「遊ぼう!」と彼女が声を掛けた結果、なわけなのだが。
……
「いやまぁ、そんなこと全然気にしてへんとは思うけど」
「天然でやってる分質悪いのでは?……いやまぁ、本ウマはここにはいないわけだけども」
「……?お二人は一体何を仰っているのですか?」
『『ウマ娘 シンデレラグレイ』は五巻まで好評発売中*8ってことですよマシュさん!』
「は、はい?何故いきなり単行本の宣伝を……?」
まぁともあれ、見ているだけと言うのも勿体無い話。
見たところ用意された砂の量は十分、なればいつぞやかの
「者共、左官屋の意地を見せたるでぇ!」*9
「いつから左官屋になったのよ、私達」
「いいから、イクゾー!」
「デッデッデデデデ!」<カーン!
「カーンが入ってな……カーンが入ってる!?」<ガビーン
「そんな驚くような事なんかそれ……」*10
縁側で座っているより、彼女達と一緒になって遊んでいる方が良いだろう、ということで皆を促してかようちゃん達の元へ突撃ー!これより大要塞建築の儀に入る!*11
「ダメや!」
「ダメかー」
「お、お二人だけでわかるネタで話を進めるのはどうかと!」
「えー?じゃあマシュ、この台詞言って貰える?」
「え、あ、はい。……ええと、敵の潜水艦を発見!」
「ダメだ!」
「ダメや!」
『
「
「
「え、ちょっ、なんなんですかこれっ!?」
「うち、なんだかよくわからないけど……、お姉さん、大変なんなー」
「え、えっその、はい……」
まぁ、そんな感じに和気藹々としつつ、しばらく砂遊びを続けた結果、出来上がったのは……。
「うーむやり過ぎた。マスドライバーとかそんな類いでは?これ」
「いいや、これはエ・テメン・アン・キや!!」*12
「どっちかと言えばカ・ディンギルじゃない?」*13
「え?至高の財を持ってウルクの守りを見せればいいの?」*14
「遠きウルクの民達も、何千年も経って自分達の言語がこんなに使われてるところを見たら、ビックリするでしょうね……」
なんというかこう、まさに聳え立つと言うに相応しい威容の……塔?的なモノができあがっていたわけで。
……うん、やっちゃったんだぜ☆
「すごい高さなん、しかも登れてしまうん」
「しっかりと固めたからねぇ、でも危ないから登るのはやめようねー」
「はーいなん」
「こ、こりゃまたえらく高いモノを作ったもんだねアンタ方……」
「あ、おばあちゃん。うちも頑張ったん!」
「はっはっはっ。……えと、後で戻しときますんで」
「あー、そうだねぇ。勿体無いけど、こんなに目立ってると色々言われそうだし、そうして貰えると助かるよ」
「えー?折角作ったのに、崩すん?」
その高さ、なんと五メートル。エンパイアステートビルの高さだぜぇ?!……いやんなわけあるか(真顔)*15
いかんな、MADに脳を侵され過ぎている……キョンも言ってるではないか、『MAD作成はほどほどにね!』と。……私達の生活なんて大体MADみたいなもんだけど!*16
ともあれ、二階建てのかようちゃんの祖母の家より、高い建造物になってしまっているので、勿体無くとも壊してしまった方が良いのは確かな話。
名残惜しいが、他所に迷惑をかけない内に取り壊してしまおう。……と、解体工事に取りかかろうとしたところで、
「す、すげー!なんだこれ!?」
「これ、うち達が作ったん!」
「マジかよ、スゲーなお前!」
「……おや?」
「せんぱい、周囲の住人が、この塔を見て集まってきているようです」
「ありゃ、ちょっと遅かったか」
かようちゃんが近付いて行ったのは、どうやら地元に住んでいる子供達。
街の中に突然現れた大きな物体(と、それを作る大人達)を目敏く見付け、集まってきたらしい。
周囲に見えるのは子供達だけなので、特に騒ぎが広がったりしているわけではないようだが……。
「……もうちょっと、取り壊すのはやめておきましょうか?」
「……そうだねぇ。あの子に友達ができそうだから、もう少し……かねぇ」
一人寂しそうに遊んでいたかようちゃんに、友達ができるかどうかという状況に。
その立役者である大きな塔を、崩すのはちょっと先送りにしよう──と、私はそう頷くのだった。
「じゃーなー!また明日も遊ぼうなー!」
「ばいばいなーん、また明日も宜しくなーん!」
結局、彼女達が遊ぶ姿を眺めていたら、すっかり時間が過ぎてしまっていた。
辺りは薄暗くなり、子供達は自分の家へと帰っていく。
そんな彼らの後ろ姿に手を振りながら、また明日と声をあげるかようちゃん。……うん。
「もはやこれまで」*17
「せんぱい落ち着いてください、これはのんのんびよりではありません!」
『そういうマシュさんも、ちょっと影響されていらっしゃいますよ?』
「えっ、あっ」
「日常系作品を見終わると、なんとも言えん無情感に包まれるんよな、わかるわかる」
なんというかこう、日曜の終わりにサザエさんを見終わった時のような、なんともいえない脱力感というか無力感というか、とにかく気が抜けた感じがしてしまったというか。
そうして漏れた言葉がもはやこれまでであるが、なんというか……うん、言葉通りとしか言いようがねぇ!!
まぁ私達はこれから帰るところなので、もはやこれまでなんて言ってもいられないんだがな!
「おや、今からお帰りかい?」
「ええまぁ、流石に帰らないと私達も明日は朝が早いので」
「ええー、お姉さん達、帰ってしまうん?」
「はい、すみませんかようさん。ですが、機会があればまた必ず来ますので」
「……ん、わかったん。お姉さん達を困らせたりはしないん」
しょんぼりするかようちゃんに、マシュがしゃがみ込んで右手の小指を立てながら、彼女の前に差し出す。
最初はよくわかっていない様子のかようちゃんだったが、すぐにマシュがなにをしようとしているのかに気付いて、同じように右手の小指を立てながら、マシュの前に差し出した。
お互いが、指を絡めるようにして。
「「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきったっ」」*18
と、約束を交わしていた。……なんともまぁ、微笑ましい光景である。
「じゃあ、またねかようちゃん」
「ばいばいなん、キーアお姉さん」
それから、他の人達も挨拶をして。
そのまま、駅まで歩こうと一歩を踏み出して。
───
「むぅ、もっと食べたかった……」
「まだ食べる気なの!?あんだけ食べて?!」
「そういえば、私も結局服を買ったりはしなかったわね……」
「………?」
思考の途切れ、意識の断絶。
不可解な認知の差異と、俄に香る違和感。
思わず目蓋を瞬かせていると、マシュが心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「せんぱい?お顔が少し青いようですが、どうかされましたか?」
「え、いや、なんでも、ない……?」
「なんで疑問系?」
他のみんなは、なにかを疑問に思うような素振りもない。
今私達が居る場所は、街の中心部から少し離れた位置にある、ちょっと寂れた感じのする下町のようなところ。
どこかで嗅いだような匂いのする場所に、思わず首を傾げていると。
「あれ?お姉さん達、
「……おっと、ごめんなさいね。たまたま通り掛かったってだけだから、すぐに退けるわね?」
「そうだったんなー。ウチ、こんなところまで来る人が居るなんて、初めて見たん」
背後──具体的にはちょっと下目──から響いてくる声に、どことなく既視感を覚えながら振り返る。
どうにも、ここは
そこに戻ってきた……声からして子供とおぼしき少女の、通行の邪魔になっていたようなので、道を開けるために移動する。
そうして振り返った先に居たのは、
「……な、なんなん?うちの顔に何かついてるん?」
「えっと……にゃんぱすー?」
「……?お姉さん、なんでその挨拶知ってるん?」