なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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平行なのか並行なのか、割りと統一されてないよね

「平行世界って、マジで言ってるゆかりん?」

 

 

 思わず驚いてしまったが、どうにも胡散臭いため聞き返す私に、ゆかりんはにこにこ顔を崩さぬまま問いを返してきた。

 

 

「あら、キーアちゃんならなんとなーくわかって貰えると思ったんだけど」

「私なら?」

「そう。……あの子、手加減してるって思ったでしょ?」

「……そう、だね。本気出されてたら、こっちももっと色々追い詰められてたと思うけど。……それが?」

 

 

 返ってきたのは、『炎髪灼眼の討ち手』との戦闘のこと。

 ……まぁ、彼女がこっちを害する気全開だったなら、私ももっと酷い目にあっていただろう。特に隙なんて窺えたか、窺え……?

 まさか、と言う思いと共にゆかりんに視線を向ければ、彼女は「実際に彼女に聞いてみないとわからないでしょうけど」と前置きして、とある推論を語ってみせた。

 

 

「『審判』『断罪』『飛炎』『真紅』*1。これらを使()()()()()()んじゃなくて使()()()()()()んだとすれば、彼女が隙を見せた理由にもなると思わない?」

「……い、いやいや!『審判』*2は見え過ぎるって聞くから、あんな狭い所じゃ使わなかっただけかも知れないし!そもそも錯乱してる部分もあったんだろうから、使えないのも仕方ないって言うか!」

「……そこでなんで彼女の肩を持つのかわからないんだけど?」

「い、いや、だってさ……」

 

 

 そんな、()()()()だなんて、それは。

 ──最初の平行世界説を、半ば認める事になるじゃないか。

 

 

「……『灼眼のシャナ』の原作が終了したのは今から九年前。去年新作が発表されたり、色んなソシャゲとコラボしたりしてはいるけども。それでも、大筋が完結したのは随分前のこと。──それを知らないと言うのなら、()()()()()()()()ところから来たのだと見た方が正しいと思わない?」

「なりきりの宿命として、私達は未来を知り得ない。……逆を言えば、知っている筈の未来が知られていないのであれば、相手側にそれを知らない理由がある……ということですね」

 

 

 マシュの言葉に、そーいうことと頷いてゆかりんが後ろに振り返る。……視線の先に居るのは、部屋の中で眠ったままの『炎髪灼眼の討ち手』か。

 彼女が目を覚まさない限り、この問題は解決しないまま、ということになるのだろうか。……いや待てよ?

 

 

「ここに集まった人達全員からちゃんと話を聞けば、その辺りはっきりするんじゃないの?」

「おっとキーアちゃん、目の付け所がシャープ*3ね!」

「え?あ、ありがとう……?」

 

 

 これだけの人数が集まっているのだから、話を聞いていけば実際に平行世界である別の現実からやって来た人も見付かるのではないか?

 そう思って声を上げたらなんか褒められた。……な、なんか幼女扱いされてる気がする……!?

 撫でられた頭を擦りつつ、ゆかりんに視線を向ける。

 彼女はさっきまでと同じように笑っているが、眉がちょっと下がっているので困っている、らしい。

 

 

「私もね、これに気付いた時には確かめようと思ったんだけど……」

「確かめようと思ったけど?」

「んー、なんというかね?……()()に来てる時点で、知識が更新されてるっぽいのよね」

「……知識の更新?」

「なんと言えばいいのかしら……、憑依時点で知識の更新が起きてる、っていうか。……演者と憑依者が馴染む過程で、知識が平均化されてる感じ?だから、今ここに居る人達に話を聞いても、正確には把握できないのよね、知識の差。そもそもの話、大体の人が自分の居たスレを思い出せなくなってるわけで、状況の確認もできないし」

 

 

 もし、彼らが今居る世界と違う場所から来ていたのだとしても、それを確認する術がないからわからない。

 ……少なくとも。演者と憑依者が不和を起こして、記憶の平均化がうまくいっていないような人間でもなければ。

 そこまで気付いて、ここに来た理由に思い至る。

 

 

「……確認の為には、レベル4以上の人の協力が必要だったってこと?」

「レベル4相当の人が素直に手伝ってくれるとは思えなかったから、レベル5の人を選んだというのは確かよ」

「……うまくいってなかったらどうする気で?」

 

 

 思わず口元をひくつかせる私に、ゆかりんはにっこり笑ってなんでもないように言った。

 

 

「全部ふりだしね♡」

「そんな笑顔で言うことかなこれ?!」

「だってそうなったらお手上げですもの~♪」

「うっわ開き直った!?」

 

 

 シリアスが終わってシリアル*4が始まる、みたいなノリになってきおったぞこれ。

 私にどうしろと言うのだ、ツッコミは荷が重いぞこれ。

 

 途方にくれる私と、なんかくるくる回ってるゆかりんと、そんな彼女に困惑するマシュ。

 ……この意味不明な状況は、様子を見に来た先生から「終わったんならさっさと出ていけ」と言われるまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……なんか、無駄に疲れた……」

「お、キーアおねいさん!どしたの、おつかれ?チョコビ*5食べる?」

「……それってこっちの?それとも、ちゃんとしたの?」

「んー?よくわかんないけど、オラが好きなのはこのチョコビだゾ!」

 

 

 上に戻って解散になったあと、市民の憩いの場……なんて(てい)で作られたらしい公園のベンチに座って黄昏(たそが)れていた私に向かって、急に元気な挨拶が飛んできた。

 見ると、子供達の群れの中から見知った顔が一人、こちらに近付いて来ているのが見えた。……そう、皆さんご存知しんちゃんである。

 

 彼はこちらが意気消沈していると見てすぐ、自身の好物をオススメしてきたのだが……。

 私としては、その好物とやらが現実で作られたなんか違うやつなのか、はたまたアニメのイメージ通りに作られたものなのかの方が気になってしまい、思わず聞き返してしまう。

 

 返事は、件のチョコビをこちらに差し出すことで行われた。

 ……ふむ、ビスケット生地で包まれたチョコ入りのお菓子、と言った感じか。

 ならアニメ仕様かな、と思って無地の──チョコの注入口らしき穴が空いている裏側から、お菓子を表側にひっくり返して。

 ……なんか、顔の部分が黒く塗り潰されている、コアラっぽい絵柄を目にしてしまった。……なるほど?

 

 

「これコアラのマーチじゃねぇぇかぁぁァァアッ!!!?」*6

「おお~、ナイスノリツッコミ。まるで銀ちゃんみたいな勢いですな~」

 

 

 思わずしんちゃんに投げ返してしまった。

 ……華麗に飛んできたコアラを食べて見せるしんちゃんは流石だけど、食べ物を投げつけたことは確かなのでゴメンと謝っておく。

 とは言え、それはそれこれはこれ。

 

 

「いや、確かに現実で発売されたやつにはなんというか違和感あったけど。……まさか、代わりにコアラのマーチがこんなことになってるなんて思わないじゃん……」

「そうそう、オラもびっくり桃の木うっきっきー!だったんだゾ」

 

 

 改めて一つ貰ったチョコビ……と言うことになっているものをよーく確かめてみる。

 

 裏地はまぁ、こういうチョコ入りビスケット菓子全般に共通する、なんの変哲もない無難な感じのもの。

 けれどひっくり返せばあら不思議、顔の部分が塗り潰されていて、なんというかこう、「コロシテ……コロシテ……」*7みたいな声が聞こえてきそうな、一種のおぞましさがある物体に早変わりである。

 

 ……いや、というかなんでこれ、わざわざ顔を塗り潰してあんの?なんでコズミックホラー感を醸し出してるのこれ?

 世が世なら『○ッテ無貌のマーチ』とか名前が付いててもおかしくない見た目だよ?1D6くらい削れそうだよこれ?*8

 

 

「それは、このお菓子が既存の工場の製造ラインを一部借りて作られているものだからさ。……需要はここ、『なりきり郷』にしか存在しないものだから、新しくラインを立ち上げる程の話でもない。だから、既にあるモノにちょっとだけ手を加え、特別仕様扱いでラインを間借りさせて貰っている……ってわけ」

「ふぅむ、なるほどなるほど……。ところでしんちゃん?」

「お?なーにキーアお姉さん?」

「今のって、しんちゃんの声じゃないよね?」

「うん、オラそんな難しいことはよくわからないから、代わりに説明してくれたのはあっちの子だゾ」

 

 

 そうこうしているうちに、先ほどの疑問に対しての回答が飛んできたわけなんだけども。

 ……いい加減私も慣れるべきだとは思うけど、それでも全然慣れないわけでして。

 え?何が言いたいかわからんって?……すっごい聞いたことのある声が聞こえてきたうえ、それがヤバい(時と場合によって変化)人の声だった時に、覚悟の準備なんて咄嗟にできないよって話。

 いや、だってさぁ?

 

 

「死神*9の声が聞こえてきたら、誰だってこうなると思うんですよ私」

「……俺も自分が無関係の状態でこの声が聞こえてきたら、同じ感想を抱いたろうけどよ。……初対面の相手には、ちょっとは遠慮するべきじゃねーか?」

「初対面の相手に、タメ口*10きく子供よりはマシなんじゃないかなー」

「……敬語だと他とキャラ被りするから仕方ねーんだよ……」

「oh……」

 

 

 意外と切実な嘆きが返ってきてしまった。……いや、なんというか、すまんかった。

 気にしてねーし、と言いながら彼──江戸川コナン君が拗ねてしまったので、しんちゃんと一緒に機嫌を取る。

 数分後、気を持ち直したコナン君がやっとこっちを向いた。

 そこでなんかちょっと、覇気というかやる気と言うかが足りないような?……なんてことを彼から感じたので聞いてみたところ、当人からこんな台詞が返ってきたのであった。

 

 

「バーロー、俺は再現度低い方なんだよ。……つーか、低くて良かったって思ってる組の一人だっての」

「ん?低くて良かった?そりゃなんでまた」

 

 

 彼の返答に首を傾げる。……低くて良かったって、基本的には高い方が色々できていいんじゃないのか?だって能力とか再現され……あ。

 こちらが気付いたことをいち早く察知したらしいコナン君は、にやりと笑ってその理由を話し始める。

 

 

「江戸川コナンに求められるものって言うのは、例えそれがなりきりであっても変わらねーんだ。……江戸川コナンは探偵だ。創作の探偵達は、()()()()()()()()()()()?」

「……事件に出会うこと」

「正解。まぁ、それだけなら問題はないんだよ、単に求められているってだけなら。……作中(俺の原作)での一日の犯罪件数、真面目に数えたらわけわかんねーことになる、って話は聞いたことあるよな?」

「あーうん、それをネタにした漫画があるくらいだからまぁ、何となくは。……それってつまり?」

「再現度が高い探偵は、事件を引き寄せる。……な?俺が再現度高くなくてほっとするってのも分かるだろ?」

「望む望まないに関わらず毎日劇場版モードはイヤだなぁ」*11

 

 

 にっこり笑ってるハズなのに、すっごいげんなりしているように見えたのはそのせいか……。

 なりきり憑依の難点ってこんなところにもあったんだな、と頷く他ない午後三時の昼下がりなのでしたとさ。

 

 

*1
四つ全部『炎髪灼眼の討ち手』が使う自在法。一応、最初の方で使えていた炎系の技の発展系というか正式版というかがほとんど

*2
『炎髪灼眼の討ち手』が使う自在法の一つであり、彼女が契約している天罰神"天壌の劫火”アラストールの権能の一つ『審判』の名を冠するもの。自身の背後に大きく燃え上がる瞳を作り出す。これを自身の瞳と同調させることで、範囲内に対自在法・対存在の力特化の千里眼とでも言うべきものを使用することができる。隙を窺える筈がないと言うのは、これを使われていた時点でこちらの行動が筒抜けになってしまうから

*3
1990年から2010年までシャープ株式会社が使用していたスローガン。雑に言うと、良いとこ見てるね!みたいな感じか

*4
連続する(serial)』でも『穀物(cereal)』でもない。恐らくはシリアスとコミカルを組み合わせた造語だと思われる

*5
『クレヨンしんちゃん』作中に存在するお菓子のこと。ビスケット生地を星形に焼いた物の中に、チョコレートが詰まっているお菓子。類似している商品にプッカ(株式会社明治製造のチョコレート菓子)などが存在する。現実でも商品化されて販売されているのだが、そちらはチョコの染みたスナック菓子、と言った趣き

*6
上でも解説した通り、原作のチョコビはビスケット生地の中にチョコレートを注入したもの……すなわちコアラのマーチと同じタイプのお菓子である。それもそのはず、連載初期の方のしんちゃんは実際にコアラのマーチを食べていたのだが、アニメ化の際に色々あってコアラのマーチをそのまま使えなくなった為、チョコビという架空のお菓子を作ることになったのである

*7
自身の体を作り変えられてしまった存在が、周囲に一思いに終わらせてくれ、と頼む時に使われる言葉。明確な元ネタがよくわからないものの一つ。似たようなシチュエーションは昔からよくあったので、どれが元だとも決められないらしい

*8
『クトゥルフ神話』より。顔がないのでイメージ元は『無貌の神』ナイアルラトホテップか。……ナイアさんをパクパク食べるっておぞましすぎない?

*9
探偵ものの作品で、探偵役に与えられるある種の敬称であり蔑称。探偵行くところ事件あり。事件あるところ探偵あり。……作劇の都合上仕方ないとはいえ、なんとも可哀想な話である

*10
相手と対等な口をきくこと。敬語を使わずに馴れ馴れしく話すこと。『タメ』は元々博打用語で、ゾロ目(同じ目)を指す言葉。それが不良達に同格・五分五分のような意味で使われるようになり、そこから一般層にも普及したとされる

*11
とりあえず行く先々で何かが爆発しかねない。『名探偵コナン』の製作陣は爆発好きすぎではなかろうか?

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