なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「はぁ?この展開を、さっき見たぁ?」
「あー、うん。説明が難しいんだけど……」
彼女──
違和感と既視感。
これらが実際にあったものだというのならば、そういう干渉系に強そうなパイセンなら、なにかわかるのではないか……と思ったのだけれど。
「……いや、ちょっとわからないわね。仮に
「えっと……、『D.Gray-man』だっけ?」
「そう、『巻き戻しの街』。ああいうタイプなら、私が認知できないなんてこともないはずだけど……少なくとも、今現在私が何かしらの干渉を受けている、って感じはしないわね」
「なるほど……」*1
生憎、パイセンにはよくわからないとのこと。
……違和感を覚えているのが私だけというあたり、実は気のせいかなにかなのではないか、と思わなくもないのだけれど……。
さっきの喫茶店といい、今のこの場所といい。
ここに来てから、他のみんなが気付かないものに私だけが気付いている……というのも確かな話。
となれば、なにかが起きている……と仮定して動いた方が良いだろう、と思わなくもないというか。
「ふーん、流石はなりきり郷随一の実力者、ってところやな」
「……茶化さないで頂戴。そっちは認識してないから問題ないんだろうけど、これが仮にエンドレスエイトみたいな奴だったとしら、一人で長門ちゃんみたいなことしなくちゃいけないのよ、私」*2
「お、おう……それはいややなぁ」
他者が認知できず、自分だけが世界の謎に気付いている……。
そんな状況に取り残されてしまったとしたら、並みの精神では発狂しかねないだろう。
というか、発狂すると精神が均一化され、永遠に続くループに気付くこともないままに、延々と同じ時間を繰り返す……なんておぞましいことになる可能性もなくはないわけで。
──哲学的ゾンビの話と同じ。*3
他者の思考が正常なものであるのか、なんて他人にはわからないのだから、今の『異常を認識できていない』他のみんなが、既にSAN値が0になった結果である……だなんて見解も、できなくはないのだ。
「いや怖っ!!?おっそろしいこと言うの止めてーや!」
「ふふふ、私の感じている怖さの一割でも思いしるがいいわ~」
「真夏の怪談じゃないんですから、無駄に怖がらせないで下さいよキーアさん……」
「おっと、ごめんよゆかりさん」
「ウチにも謝って欲しいんやけどー!?」
「タマモはダメ」
「ぐぬっ、からかったのは謝るから……」
「じゃあおあいこってことで」
「……まぁ、ええやろ」
(……上手いこと誤魔化されたわね、コイツ)
タマモに対して生温い視線を送るパイセンに苦笑しつつ、こういうのが得意そうなもう一人──シャナの方に視線を向けてみる。
彼女の持つ大太刀『贄殿遮那』は、自在法を含むあらゆる力の干渉を拒否する不壊の宝具である。
その性質を持ち主に伝播することこそ叶わないが、その大太刀を以てしての斬撃は、容易く結界のような異界を切り裂くことができる、ある意味斬撃版の『
なので、静かに精神を統一し、大太刀を構える彼女を神妙な面持ちで眺めていたのだけれど……。
「……ダメ。
「その言いぶり的に……
大きく息を吐いて、構えていた大太刀を下ろすシャナ。
その表情は険しいモノで、溢れた言葉には悔しさが滲んでいた。……ただ、その発言からするに『なにか』があることは確定的だったため、そこを尋ねてみたところ。
「ええ、太刀に絡まる
「……そりゃまた、なんとも。思考に干渉してる……みたいな?」
「干渉って言うより忌避って言うべきかしら。
「ふむ……?」
続く言葉は、現状についての疑問を加速させるものだった。
言うなれば、力業で解決するべきではない……みたいな?
そんな助言とでも言うべきものが、この異変を断ち切ることを躊躇わせているらしい。
……こういう予感とか予言というか、そういうものを無視するとろくなことにならないというのは、色んなオカルト系の話でもよく言われることである。
なので、ここは素直に周囲を探索するのが正解、ということになるのだろう。
「……ふーむ、脱出系のフリゲみたいな感じかな?」*4
「む、つまりこの家を探索すると?」
「ゲームやないんやで?勝手に家捜ししたら怒られるやろ」*5
「……いや、その心配はなさそうだぞ」
「?どこ見てるんですか、オグリさ……あれ?」
現状、一番怪しいのは
なので、次点であるこの家──再スタートの起点となっている彼女の祖母の家を探索するのが、今現在私達がするべきことだろう。
しかし、まさか祖母が見ている前で家の中に勝手に入るとか、はたまた中を見る許可を取るとか。
そういうことをする余裕とでも言うべきものが、現状あるのかと思っていたのだけれど……。
小さな声でこちらに静かにするように促しながら、とある場所を指差すオグリ。
その指の先にあったのは……こっくりこっくりと船を漕ぐ、*6少女の祖母の姿だった。……いや、都合が良すぎやしないかい、この展開?
「……っ、この香り……」
「香り?……そう言えば、なんだか花の香りがしたような……?」
「なるほど、あの裏方胡散臭夢魔ヤローの差し金ってことね」
そんな風に訝しんでいると、ふと鼻腔を擽る甘い香り。
……どう考えても
どうやら、ここを探索することをおすすめしている上に、サポートしてくれるらしい。
「
「そうだね。ちょっと見て回ってもいいかな?」
「大丈夫なん!でも、鍵がないと開かないとことかあるん!」
「うーむ、本格的に脱出ゲーム感が増してきたような……」
「とりあえず、手分けして中を探索しましょう。そんなに広そうでもないですし、その方が早く済むでしょうから」
「はーい」
しゅぴっ、とばかりに手を上げるれんちょんに御伺いを立てた後、皆で中を探索することにした私達。
縁側から靴を脱いで、そのままぞろぞろと中に入って行くのだった。
──そうして、日が暮れた。
「……おかしくない!?外観と内観が全然一致してないんだけど!?」
「まさかバイオめいた洋館だったとは……」*7
「おかしない?ウチ下に降りたはずなんやけど、なんで別の家から出てくる羽目になるん?しかも玄関から」
「……凄く長い廊下を、ずっと走らされたんだが」
「アンタ達なんてマシな方よ!私なんか何故かカラスに集られたんだけど!?地味に痛いし!ムカついたから爆散しといたけど!!」
「ピアノを引いていたら突然壁から虞美人さんが出てきて、『ゆかり、私死んだわ』と言われた時には、心臓が飛び出るかと思いましたよ……」
息も絶え絶え縁側に戻ってきた私達は、皆一様にボロボロになっていた。
襲われた感じなのはパイセンだけだが、他の面々も外観とは全く一致しない感じの場所を歩き回らされた挙げ句、特に何も見付けられないまま変な場所に放り出される……みたいな展開を繰り返していたらしい。
疲労困憊と言った感じで、皆が膝を付いたりしているのが窺えた。
「……上から天井が迫ってきた時は、潰されるかと思った……」
「マシュがたまたま通り掛かってくれなかったら、二人で潰れた煎餅みたいになるところだったわ……」
「いや、そもそもどうなってたんですかあの部屋?なんで天井が迫ってくるなんてことに……?」
「うーん、バイオ1……いや、私はなんか大きな動く豆腐とか見掛けたけども」
「動く豆腐っ?!」
「誰かクリアしとるやんかっ!!」*8
構造的にどうなってるのかよくわからない部屋とか、変な位置に繋がっている扉とか。
仮にバイオが元ネタだとしても、ちょっと意味がわからないモノも多かったため、なんというか屋敷系の色んな逸話とかが混じってるんじゃないかなーと思いつつ、一息をつく。
周囲を見渡せば、離れた時と同じように居眠りを続ける祖母の姿が見える。
このあたりは流石マーリン、という感じだろうか。
まぁ、ヒントとか一切くれないので、片手落ち感半端ないのだけれど!
「……?」
「どうされました、せんぱい?」
「いや、なんか忘れているような……?」
「なによ、アンタまで忘れたとか、流石に洒落にならないから止めなさいよ」
「うーん、なんだろなぁ……なんか忘れてる気がするけど……」
なにかが足りていないような感覚があるのだけれど、どうにも思い出せない。
喉に骨が引っ掛かったような、なんとも言えない不快感に顔をしかめつつ、とりあえず喉が乾いたのでれんちょんに貰ったお茶を飲む私。
この内装が無茶苦茶な家の中で唯一、台所だけは普通にたどり着けるので、そこの冷蔵庫に入っていたモノを貰った感じになるのだが……。
これは後から内装が変になった、という証左なのだろうか?
「さぁね。明らかに空間が歪んでいる中で、あの場所だけが普通なのは確かだけれど」
「うーん。わかんないことだらけでなにを探せばいいのかもわからないから、広さも相まって余計に時間を使わされた感があるよね……」
シャナの言葉に、むむむと唸る私。
探索するにしても、とりあえずしらみ潰しに探すことを目的にしていたため、かえって無駄に時間を浪費してしまったような感じがある。
このノリだと、どれだけ時間を掛けても無駄足にしかならない……という確信めいたモノを感じざるを得ない。
そうしてため息を吐いて。
──また
「むぅ、もっと食べたかった……」
『まだ食べる気なんですかぁ!?幾らなんでも暴飲暴食過ぎでーす!!』
「そういえば、私も結局服を買ったりはしなかったわね……」
「……………?」
思考の不自然な陥穽、意識の急速な覚醒。
前後不覚となる自身の状態と、脳裏に残る映像。
なんとも言い難い気持ち悪さを感じていると、
『おやぁ~?どうしましたかせんぱい、なんだか頭痛が痛いとか言い出しそうな顔をしていらっしゃいますけど?』
「あーうん、頭が痛いのは確かかな……」
「珍しいわね、アンタが頭痛を訴えるだとか」
他のみんなは、
今私達が居る場所は、街の中心部から少し離れた位置にある、ちょっと寂れた感じのする下町のようなところ。
強烈な既視感に、思わず目頭を押さえていると。
「あれ?お姉さん達、
「……にゃんぱすー」
「にゃんぱすー。……あれ?ウチ、この挨拶教えたことないん。なんでお姉さんは知ってるん?」
振り返った先には、