なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……なるほど、つまり既視感混じりの頭痛は、リーディング・シュタイナーが起きてるってことね?」
「り、りーでんしゅたん?」
「『
パイセンが発した言葉に、首を傾げるれんちょん。
それをマシュが説明するが……うん、わかってはいなさそう。
タイムリープと、リーディング・シュタイナー。
どちらも、Steins;Gateにて登場し、その中核を為したワードだ。
タイムリープは、時間跳躍と和訳されるSFの用語であり、『自身の意識のみが過去や未来の自身に乗り移る』ものとされる。
タイムスリップと違い、いわゆる『親殺しのパラドックス』を回避することができるとされているが……。まぁ、そっちはそっちで『そんなの起きない』みたいな話も最近は出ているので、ちょっと長くなるからスルー。*2
ここで重要なのは、タイムリープが『意識を飛ばす』技術であることだ。
「……それの何が重要なの?」
「意識の実在は物理的には証明できない、みたいな話したでしょ?……つまり意識を時間移動させても、
「タイムパラドックスというのは、その時に
「わ、わかったような、わからないような……」
首を捻るシャナに苦笑しつつ、改めて今回の事象に思考を戻してみる。
「ループ範囲はこの家に来てから、日が暮れて暫く経つまで。外的要因によって定まっているとするなら、世界線移動そのものと完全な同一視はできないけれど……でも、思考の補助にはなるはずよ」
「そもそもの話、ここで世界線の話を持ち出したのが、
「わかりやすさ……なにか、他にも思い出したことが?」
オグリの言葉に、小さく頷く私。
世界線移動は、他の世界に移動するようなもの。平行世界移動とは違い、
……正確な話をすると、可能性に戻るというだけなのだが、わかりにくいのでとりあえずこう述べておく。*3
過去干渉の時点で世界が切り替わり、今や未来が過去に合わせた形に変化する……というのが世界線の変動に伴う変化だが、それにより現在では男性だったはずの人物が女性になったり、死んでいたはずの人が生きていたりなど、
「観測していなければ他の世界はあくまで可能性。波動関数の収束みたいなもの、ってわけ?」*5
「まぁ、うん。重ね合わせの理論も混じってるし、似たようなものかも。……まぁともかく、前の世界を覚えていないのなら、なにも違和感を感じないんだろうけど。世界線移動による世界の変動ってのは、単純な平行世界移動より奇妙な結果をもたらしやすい、ってのがここで言いたいことかな」
「奇妙な結果?」
何故わざわざ世界線の話を持ち出したのか。
それは、平行世界の概念は可能性の過多を基盤とするものであるが、それゆえに
普通の平行世界の考え方は、微細な変化ごとに別の世界がある──すなわち
要するに、他の世界は本当に
それは何故かと言うと、
『自身の求める世界』への到達のために行われる平行世界移動において、過去干渉とは求める世界を作る・ないし求めるための手段にすぎない。
そこにたどり着くためには、別途平行世界移動のための技能が必要となる。
普通の過去干渉の場合は、タイムマシンなどを用いて行われるため、それがそのまま平行世界移動のためのツールとして扱われるわけなのだが……。
先ほど述べた通り、タイムリープのような『意識の遡行』は物理的な変化をもたらさない以上、他の平行世界を生むような結果にはならないはずなのである。
いわゆる歴史の修正力というものによって、本来の自身が居た時間軸においては、
つまり、実際にその身を以て時間移動でもしない限り、人が為し得る平行世界への移動というものは、あくまで微細な差異に収まる場所にしか到達し得ないのである。
──そこに
「その点、世界線移動は干渉と移動が結果的にワンセットになっている。望んだ結果にたどり着くのに掛かる労力の点では、普通の平行世界移動と大差ない……どころか多いように見えるけど。その実、
「……話がよくわからなくなってきたんだが、つまりなにが言いたいんだ?」
首を傾げるオグリに、私は小さく笑みを返す。
長々と語ったが、結局言いたいことは一つだけ。
これを語るだけで、今起きている異常というものはすぐに理解ができる。……理解するための前段階として、さっきまでの話が必要だったという面もなくはないのだが。
ともかく、私はその重要な一言を、ゆっくりと自身の口から吐き出すのであった。
「いるはずの人間が、いない。いないはずの人間が、いる。……メンバーがおかしくなってるのよ、今の私達」*6
「……はぁ?」
「本来ここに居たのは、私・マシュ・BBちゃん・オグリ・タマモ・パイセン・シャナ・ゆかりさん。今ここに居るクリスに関しては、いつの間にか増えていた」
「ふむ……それはまた、お誂え向きというか」
「まぁ、皮肉感はあるよね。クリスの居る居ないが話に組み込まれてるってのは」
困惑の言葉を漏らすパイセンに、指折り数えながら、本来ここに居るべき存在を口に出していく私。
現状と照らし合わせるのなら、タマモとゆかりさんが居ないということになり、その代わりにクリスがいる、という形になる。
そして、そのことに皆は気付いていない。
……これが、今の状況が『世界線の移動』に近いものだとする理由の一つ。
実際、私も違和感を覚えていなければわからなかっただろう。
「えと、せんぱいはリーディング・シュタイナー持ちだったと?」
「あれは普通の人でも起こり得るみたいな話だったけど……私の場合は種族特性、かな?まぁ、そのあたりはややこしいんで単にリーディング・シュタイナー持ちだった、ってことで納得してくれてもいいけど。実際、今は理由に気付いたから思い出せてるけど、さっきまでなんとなーくぼんやりとしか、前の状態のことは認識できてなかったし」
「は、はぁ……?」
このあたり、パイセンも認識できても良さそうなのだが……単純な
彼女は過去と未来を問わない存在だが、流石に隣の世界には歩いては行けないタイプの人だし。
「多分だけど、このあたり一帯がなにかしらの結界みたいなのに覆われていて、その中だけ
「……抽象的すぎて全くわからないんだけど?」
「あー、マシュはわかる?」
「えっと、つまりこの場所では正解ルートにたどり着くために、何者かがずっとセーブのロードとリセットを繰り返している、みたいな感じでしょうか?」
「付け加えるのなら、望む結果にたどり着くために、リセットの度に前提条件──交遊関係・パーティメンバーなんかも毎回シャッフルしてる……ってところかしら」
マシュは相変わらず理解力が素晴らしいなぁ、などと思いつつ、改めて情報を整理してみる。
起点は私達がここに来てから。より明確にするのなら、れんげちゃん及び
そこから、なにかしらのクリア条件が達成されなかった場合に、日が暮れたタイミングで全部のリセットが掛かる。
この
時間の経過までリセットしているのでわかり辛いが、恐らくは結界内の因果は重ね合わせ──観測が確定するまで因果として決定していない状態になっているのだと思われる。
物理法則の上では無茶にも程がある話だが、
「いや、それどんだけの力が必要なのよ。無理があるでしょ無理が」
「私達が箱の中に居るからややこしいことになってるけど、単に『プレゼントボックスの中身は、確かめるまでなにが入っているかわからない』を前提とするのなら、そんなに無茶苦茶な話でもないんだよ、これ」
「さっきの猫箱──シュレディンガーの話ね。観測者が実際に確かめるまで、中身の状態は確定していないとみなすこともできる……っていう」
「……うみねことかひぐらしっぽい話になってきたな」
なお、掛かる労力が大きすぎるという面から、パイセンのツッコミが飛んできたが……今この場所での行動が、因果的にはまだ確定していない状況になっているのだと仮定すれば、そこまで労力は掛からないと見積もることができるので、多分想像してるほど無茶苦茶な話でもないはず……と私は声を返す。
言ってしまえば、現状はまだ
もうちょっとわかりやすく言うのなら……遊戯王の対象を取る・取らないみたいな感じかな?
『対象を取る効果』は、発動時点でなにを対象にするのかを決める必要があり、それゆえに対象が居なくなると効果が不発になる。
つまり、結果を先に決めて動くせいで、結果を覆されると発動したこと自体が無効化される。
対し、『対象を取らない効果』は、発動時点ではなにを対象にするのかは決まっていない。
ゆえに、なんとなく頭の中では、なにに対して効果を発動するかを決めていたとしても。仮決めの対象がいなくなった時には、それを確認してから他の対象を選択しなおすことができる。
『手札を一枚捨てさせる』ことを目的とする場合、例えば前者は左端のカードを選択した時点で、それ以外のカードを選択することは出来なくなっており、故に左端のカードが(なんらかの手段で)先になくなってしまうと、『手札を一枚捨てさせる』という目的を果たせなくなる。
どうしても手札を一枚捨てさせたいのなら、また新しいカードを使う必要があるだろう。
後者の場合、決まっているのは『カードを一枚捨てさせる』ことだけであり、ゆえに最初に左端のカードを選び、それが他の手段によって手札からなくなったとしても、改めて別のカードを捨てさせるように選ぶことができる。
今の状況は、まさに後者。
猫箱の中──可能性が無数にあり、一つに収束していない状況下であれば、それを維持するのに必要な労力というものは、少なく済んでしまうのである。
……まぁ、現実では猫箱を用意することができないので、机上の空論以外のなにものでもないのだが。
「まぁ、それがわかったところで、なんか今が凄いことになってる、みたいな感想しか抱けない訳なんだけどね」
あと、理由がわかったところで答えに繋がるわけではないです、と言ったらみんながずっこけた。
……まぁ、仕方ないね。