なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・あちらを立てればこちらが立たず

「………は?」

「せ、せんぱい?いきなりどうなされたのですか?」

 

 

 意識が回帰したのを認識すると同時、その状況の意味不明さに思わず声が漏れた。

 想像以上に不機嫌めいた声だったらしく、傍らのマシュがこちらを心配そうに覗き込んでくるのだが……いやいや、いやいやいや?

 

 

「……わけがわからねぇ……」

「せんぱい!?しっかりしてくださいせんぱい!!」

 

 

 またなんか変なパターン引いたんだけど!?……と膝から崩れ落ちる私に、マシュの混乱は最高潮になっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「……そう。死んだのね、私」

「死んだのね、じゃないですよォーッ!!?理由は察せられなくもないですけど、こっちは頭ん中疑問符まみれだったんすよォーッ!!?」

 

 

 こちらからの解説を受けたにも関わらず、あんまりにもさっぱりとしたパイセンの様子に、思わず大声をあげてしまう私。

 対する他のみんな(今回はシャナとタマモが居なかった)も、反応としては困惑を感じている者がほとんどだった。

 そりゃまぁ、そうなるだろうなとしか言えないわけだが。

 普通は死んだら終わりでその先はなし。……にも関わらず、平気でドカンドカンと爆散する彼女の気持ちなど、一般人にはわかるわきゃねーのである。

 

 ともあれ、文句を言いたいのは彼女に対してもだが……ここに居ない二人、特にシャナに対しても(半ば理不尽だけど)言いたいことがあるというのは否めないだろう。

 なにせ、ループし(こうなっ)た理由は(なんとなく)わかるけど、今ここに彼女が居ないせいで、完全に同じ状況で確認できないのがとても痛いのだから!

 

 

「って言うと……同じ人員を、同じ場所に配置したかった……ってこと?」

「その通り。……シャナが居ないから今回は捨て周回だよ、ちくせう……」*1

「え、えと。何故今回は、捨て周回ということになるのでしょうか?」

 

 

 勝手に話を進めていく私とクリスの様子に、おずおずと右手を上げながら、マシュが控えめな質問を繰り出してくる。

 ……んー、マシュ相手にこれを言うのはとても憚られるのだけれど……まぁ、仕方ないか。

 密かに意を決しつつ、努めて軽い調子で、私はこれからの予定を彼女に告げる。

 

 

「マシュ」

「は、はい!」

「──私、死ぬわ」

「はい!…………はい?」

「正確には()()()()()()()()()、って感じだけど。十中八九、私も死んでループすると思う」

「は、はぁ!?ななななんでそんなことになるんですかっ!?」

「いやまぁ、確かめた結果、疑惑が確かなものとして確定したら話すけど。……今のところは99.9%そうなる、ってことで納得しといて」*2

「えええええ!?」

 

 

 ……うん、こうなるから言いたくなかったんだけど。

 

 案の定、マシュはこちらの宣言に大慌て。

 自殺というか他殺というか、ともかく自身の死をとてつもなく軽ーく告げる私の姿というのは、守護を司るシールダーである彼女にとって、とてもじゃないが看過できる話ではないことだろう。

 ……その姿を見ていると、つくづく()()()()については隠していて良かった、という気持ちにならざるを得ない。

 

 まぁ、その話は置いといて。

 これから起こることに対して、彼女の(余計な)介入があると、ちゃんとした確証や情報を得ることが叶わなくなる。なーのーでー。

 

 

「BBちゃん、後は頼んだ!」

『……はぁー。BBちゃんはぁー?別に都合の良い女、っていうわけではないんですけどぉー?』

「ぬぐっ、……う、埋め合わせはするから!この(とぉー)り!」

『───はぁい♡しっかり言質は取らさせて頂きましたので、覚悟しておいてくださいね、せ・ん・ぱ・い♡』

(……あ、やべ。早まったかも)

 

 

 こんな時は頼れるもう一人の後輩、BBちゃんに相談だー♪*3

 ……みたいな感じに、今回はスマホの中にいらっしゃったBBちゃんに救援を頼んだのだけれど。

 あれ、もしかしてまたやらかした感じかな、これ?

 

 ……虚数使いである彼女は、無かったことになったモノ(虚数事象)を記憶しておける可能性がある。*4

 それがつまりなにを意味するかと言うと、かの有名な、事象の狭間に立ち消えとなった『逆令プ事件』*5と違い、有耶無耶にすることができない相手かもしれない、ということで。

 

 

「……な、()()()()()()()()()()()ので、お手柔らかにお願いします……」

「ふふふふふ♡」

「意味深に笑うの止めてくんない!?」

 

 

 まぁ、うん。

 ───死んだな、私。(残念でもないし当然である)*6

 

 

 

 

 

 

 一時的なマインドコントロールを施すことで、マシュを連れていったBBちゃん。

 普通ならそういうの弾いてしまいそうなものだが、そこは流石の月の上級AI、上手いこと精神防御などの防壁を、躱し誤魔化しやり過ごして、見事にマシュの瞳から光を失わせることに成功したのだった。

 ……意志が消えてる、ないし封じられている時の目のハイライトが消えるって表現、一体誰がやりだしたんだろうね?*7

 こっちとしては、外部からも相手の状態がわかるので、ありがたい方ではあるのだけれども。

 

 ともあれ、『せんぱーい、行ってきますね~☆』とマシュの行動を操りながら、その左手に携えられたスマホから手を振ってくるBBちゃんと、それにドン引きしたような顔をしつつ付いていくオグリとゆかりさんを見送る私達。

 家の中に彼女達が消えていくのを最後まで眺めたのち、これから起こるであろうことに対し、一つ気合を入れる。

 

 

「おお、すごい気合なのん。お姉ちゃんからすさまじい力を感じるん」

「私も認識の上ではあったばかりだから、詳しいことはよく知らないんだけど。キーアさんって、結構強かったり?」

「強さを詐称してる、ってのが正解だよ、私の場合は。……依り集まって、自身を大きく見せる──スイミーみたいなもんさね」*8

「……今の子達、わかるのかしらね、それ」

「え、わかんねぇの今の子達!?ポケモンにもこれを元ネタにしたやついるじゃん!(いわし)モチーフの!」*9

「種類も豊富で栄養価も高いイワシが、魚偏に弱いなわけないでしょ。強いに書き直しなさい」

「どこの血を吸わない吸血鬼の閣下かな!?」*10

 

 

 なお、気合を入れようとしてぐだぐだしたのはご愛敬。

 精神コマンド一つ使うのに、SP消費が上昇しているかのような有り様ではあるが、これもまぁ私のさだめ、みたいなものなのだろう。*11

 

 

「おお……思わずむせてしまうのん」

「……え、最低野郎(ボトムズ)だったのれんげちゃん?」*12

「なにを言ってるんだこの幼女二人」

「お前も大概意味不明よ、中二病ツンデレ」

「私は中二病ではないんだが!?」

 

 

 なお、れんげちゃんも大概不思議ちゃんだったため、やっぱり最後まで締まらない状態だったのでした、まる。

 

 

 

 

 

 

「……こんな記憶を見せられて、私達はどういう反応をすればいいわけ?」

「笑えばいいんじゃないかな?」

「なんにも笑えないんだけど!?」

 

 

 ……とまぁ、それが前回の捨て周回から得られた記憶である。

 その後急に地面から生えてきたゾンビ達にがぶーとされて、私達は哀れにも死んでしまったのでしたとさ。

 

 

「おおキーアよ、死んでしまうとは情けない」

「仕方ねーでしょうよ、あれってあのサマーキャンプみたいな概念貫通即死っぽいから、対処のしようがないし」

「う、うちも死んでしまったん……?がぶっとされて、ゾンビィになってしまったん……?」

「多分ね……って、なんでちょくちょくれんげちゃんから、胡乱な発言が飛び出してるんです?」*13

「繰り返す度に色々付け加えられてる、とかなんじゃない?」

「思ったより事態が深刻なんだけど!?」

 

 

 いつも通りの手っ取り早い情報共有により、みんなと記憶を共有したわけなのだけれど。

 ……うん、これ半分くらい詰んでね?

 

 

「と、言いますと?」

「今までのループを思い返す限り、一定時間経つとパイセンの周囲に死亡フラグが沸くんじゃないかな。カラスとか犬に攻撃されたみたいなことを言ってたけど、別にそれはあの家の中がバイオっぽいからってだけじゃなくて、パイセンに引き寄せられてる死の概念的なものが、場所に合わせた形を取ってるだけなんじゃないかな、というか」

 

 

 一つ目は、パイセンに対しての攻撃……というよりは、パイセンという存在自体がこの場所との相性により、死亡フラグを顕在化させるスイッチみたいになっているのではないか、という話。

 要するに、あくまでバイオっぽいところだったからカラスと犬だったというだけで、彼女が例えば水場に居たとしたら、そこの蛇口から鮫が飛び出してくる*14……みたいなパターンもあり得るのではないか、という話である。

 これを是とする場合、パイセンの配置位置は限られてくるということになる。

 

 

「ふむ?その心は?」

「家の中でのパイセン死亡時は、そのまま夜になるまでループしなかったのに、家の外での死亡時はループしたってところ。……多分、パイセンそのものの死がトリガーなんじゃなくて、それに巻き込まれた誰かの死がトリガーなんじゃないかな?」

「……なるほど。だからこそ、同じメンバーで同じようになるかを確認してから、条件の確認に移りたかったということですね?」

「そーいうこと。……パイセンが直接の原因ではないのは分かってるけど、それにしたって『家の外で死人が出たら』ってパターンだったら、誰が死んでも同じってことになるし」

「……まぁ、そこはそもそも『誰も死なせない』が前提条件だったし、虞美人を家の中の探索に当てれば済むって話じゃないの?」

 

 

 こちらの言葉に、シャナが軽い調子で口を挟んでくるが……すまん、ここでの問題点は君にもあるんだよ。

 

 

「んー、そうなるとれんげちゃんの確認がなぁ」

「あー、シャナが外に居るのが前提になるから、それの補助がいるのね」

「う゛」

 

 

 そう、現状『れんげちゃんの周囲に、なにかおかしなことが起こったりしていないか』ということを、オカルト方面から調べられるのはシャナ(と私)だけなのである。

 私が基本的に家の中に行くことが決まっている以上、シャナは自動的に外になってしまうわけだが……子供が苦手、という彼女の事情は、一朝一夕で治るモノではないだろう。

 故に、ループという()()()()()()()()()()()()環境下では、彼女の欠点の克服は望むべくもない、ということになる。

 記憶の引き継ぎに関しても、あくまで私の見た記憶を他の人に開示する、という形でしかないので、根本的な解決にはならないだろうし。

 

 

「前述の問題点から、パイセンを外に出せないとなると……クリスには分析をお願いしたい感じだから、ゆかりさんかオグリ、タマモかマシュに頼む感じになるわけだけど……」

「家の中が想像以上に広いから、走りが速いウマ娘組は探索範囲の拡大の面から、できれば中に入ってほしい……って感じになって。結果、候補として残るのは結月かマシュ……ってわけね?」

「うん、そうなんだけど……」

 

 

 二人でチラリ、と今回のメンバーを見る。

 ……うん、今回はタマモとゆかりさんが居ない。

 ここまで言えばわかると思うが、ゆかりさんおよびウマ娘組は、初期配置に居ないことが多い上、その中でもゆかりさんはその確率が比較的高いのである。

 つまり、必然的にマシュを外に置いておかなければいけなくなる、ということになるのだ。

 拠点防衛という点から見れば、彼女が外に居るのは大変喜ばしいことなのだろうが……。

 

 

「なりきり郷随一の盾と矛を拠点防衛に回すとか、正気か?……って言われても仕方ないと思うのですよ、私」

 

 

 特に、今回みたいになにがあるかわからない環境では。

 そう、言外に告げる私の姿に、皆が閉口するのであった。

 

 

*1
ちくしょう(畜生)の歴史的仮名遣いでの表記。せうゆ=しょうゆ(醤油)などが類似の例として有名。『とある』シリーズの主人公、上条当麻の口癖の一つとしても有名(正確には、『~しょう』を『~せう』と読み替える事がある、という感じか。基本的にはギャグパートでしか発生しない)

*2
ほぼ確実、というような意味。()()という通り、時々外れる。『日本の刑事裁判での有罪率は99.9%』という言葉があり、そこからドラマのタイトルに採用されたことも

*3
中央酪農会議が、若年層の牛乳消費拡大を狙ったキャンペーンの名前、及びキャッチコピーである『牛乳に相談だ。』から。基本的には2005年から2010年までの活動だったが、同一の牛乳消費拡大キャンペーンそのものは、現在も形を変えて続いている……

*4
型月作品での用語。詳しい解説をされたことはないが、基本的には無かったことにされたもの、だと思っておけばよい。なお、無かったことにはなっていても()()()()()()()()にはなっていないようで、参照先や対象の存在の性質によっては、子細はわからずとも『何かをやった』という事実に関しては参照できたりする、らしい。消えた作品のタイトルはわかる、みたいな感じだろうか

*5
『fate/grand_order』のイベントの一つ、『虚数大海戦イマジナリ・スクランブル ~ノーチラス浮上せよ~』において刑部姫が述べた単語『逆令呪プレイ』を省略したもの。相手に命令(お願い)してこちらに命令さ(令呪を使わ)せる、という倒錯極まりない遊び。省略した時の呼び方まで危ない感じなので、無かったことにされて良かったと言っておくべきだろう。fgoは健全な作品なので(震え)

*6
『残当』というネットスラングの読み方の一つ。もともとはとある掲示板の野球専門のスレで書き込まれたもの。そちらは『残念だが当然』だが、フェイクニュースの面も持っているので扱いには注意(ある人物が言った台詞として投稿されたが、そんなことは言ってなかったのだとか)

*7
『レイプ目』などと呼ばれる表現。目に光がない状態が、生気を失っているということを示しているとして、言われるようになった……が、表現的に嫌がられる場合もあるため、『虚ろ目』や『マグロ目』、負の面がない単なるハイライトのない瞳を示す場合は『ベタ目』などと呼ばれることが最近は推奨されていたりするらしい。まぁ、騒ぐ人が居れば宜なるかな、というか……

*8
オランダの作家、レオ=レオニ氏が作った絵本の主人公である小さな魚の名前、およびその作品のタイトル。小さな魚が依り集まって、大きな魚に擬態して敵を撃退するまでを描いた作品。……だが、その部分はあくまで結果であり、そこに至るまでの海の中での出会いの方が、扱いとしては大きい

*9
『ポケットモンスター』におけるポケモンの一匹、ヨワシのこと。鰯とスイミーをモチーフにしていると思わしい生態をしている(その名前と、ピンチになると仲間を呼び、大きな姿に擬態するという特性『ぎょぐん』)

*10
『魔界戦記ディスガイア4』の主人公、ヴァルバトーゼのこと。イワシに対しての拘りや、閣下と呼ばれるほどの高潔な精神性などが特徴

*11
『スーパーロボット大戦』シリーズの精神コマンドの一つ『気合』(気力を上昇させる。基本的には10)と、幾つかのゲームで散見される『技や能力の為に消費するポイントを上昇させることで、威力や効果を上昇させる』技能(『白猫プロジェクト』などで見ることができる)、それと『装甲騎兵ボトムズ』の主題歌『炎のさだめ』から

*12
『炎のさだめ』の歌詞、および『装甲騎兵ボトムズ』での人型機動兵器アーマードトルーパー(AT)乗りの呼び方である『最低野郎(ボトムズ)』から

*13
アニメ『ゾンビランドサガ』におけるゾンビの呼び方。普通のゾンビ(普通のゾンビとは?)と違い、わりと高性能

*14
鮫映画でたまには見られる鮫の特徴。水があればどこからでも出てくる。もはや鮫みたいな姿をした化物の類いでしかない。鮫映画であれば、どこでも死亡フラグが経つという話


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