なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「じゃあ、イクゾー!」
「うち、迷宮探検は初めてなん!」
「でしょうね。はぐれないように、手とか繋ぎましょうか?」
「大丈夫なん。クリスお姉さんは、転けたりしないように気をつけて欲しいん」
「ふむ、それもそうね。オッケー、任せておいて」
と、言うわけで。
即席の
「……え、いきなり全然違うんだけど」
「あれー!?」
後ろ手に窓を閉めた途端に、周囲の景色が一変したため、パイセンが思わずと言った風に言葉を溢し、それを受けた私もまた、あまりにも違いすぎるその状況に、思わず大声をあげてしまったわけなのでございます。
具体的に言うと、
まぁともかく、さっきまでの道のりが薄暗い廊下だったとするのなら、現在私達が立つのは田舎の
……現代日本人が忘れてしまった、ある意味典型的な田舎のド真ん中に突然放り出された、というわけである。
そりゃまぁ、なんじゃこりゃって感想が出てくるのも仕方な……!?
「どうしたのよキーア、いつものアホ面が更に間抜けになってるけど」
「て、てれれてってれ~、普通の手鏡~」
「……いや、震えすぎでしょ声……って、は?」
辺りを見渡すためにちょっと視線を右に向け、その後左に戻した、そんな一瞬の出来事だったのだが……いや、驚かないで欲しいのだけれど……。
「……なんか私、背が伸びてない……?」
「おー、ほたるんと同じくらいになってるん。服装も、さっきのぐっちゃんと比べるとすっごい普通なん」
「あらホントね。さっきの痴女以外の何物でもない服に比べたら、いかにも普通の格好っていうか」
「……そういうクリスは、滅茶苦茶身長縮んでるけど」
「はっはっはっ。そんなバカな……バカだ!?」
「こっちはこまちゃんなん!みんなうちの友達みたいになってるん!」
「こまちゃん言うな!……はっ!?」*3
「あ、あー。一時的な【継ぎ接ぎ】みたいな感じ……?」
なんとまぁ、みんなして服装とか背丈とかが、のんのんびよりの四人組に近いものにチェンジされているのである。
パイセンは背丈こそちょっと伸びた程度で済んでいるが、服装が普通なものに変化していた。
……あの露出過多状態から考えると、あまりにも大きな変化である。蘭陵王*4が見たらちょっと感動してしまうかもしれない。主のまともな服装を見れた、とかみたいな感じで。
で、打って変わってれんげちゃんに関しては、変化ゼロ。
ここがのんのんびよりを意識した場所だとするのなら、そりゃ当たり前というものであるが。……こうも変化無しだと、それはそれでちょっと警戒してしまうところがなくもなく。
最後に、クリスなのだけれど。
元々はパイセンと全く同じ身長*5の彼女は、およそ二十センチ以上の大幅な減量となり、もはや子供以外の何者でもない見た目に変化していたのだった。
……ロリクリスとは、またニッチ*6な話である。
なお、私は背丈が伸びました。……キリアモードほどじゃないけどね。
「……これ、着替えられないのかしら」
「流石にその格好から前の格好に戻るのはどうかと……」
「動き辛いんだけど」
「我慢してください」
「……むぅ」
そんなわけで、似非のんのんガールズと化した私達は、周囲になにか無いかを確認しつつ、畦道を歩いている。
随分悠長な感じだが、それもそのはず。
「……太陽、動いてないわねここ」
「ずっと同じ場所で輝いてるん、ぽかぽか陽気なん」
「夏とかじゃなくて良かったわね。……いや、稲の成長状態からすると、本当なら夏場のはずだけど」*7
どうも、この場所は時間が止まっているようなのである。
……いや、止まっているというよりは、
どっちでも同じでは?と思うかもしれないが、実際は微妙に違う。
止まっているというのは、例えば『
空間の停止も結果として引き起こすため、本来であればそもそも思考は出来たとしても、動くことはできないはずの場所でもある。*9
対し進んでいないというのは、端的にはサザエさん時空のようなモノを言う。
物は止まらず、生き物は生を謳歌し、時間は確かに時を刻む。
──しかし、その時の刻みは決して未来にはたどり着くことはない。いつの間にか始まりに戻り、同じ時を刻み続ける。
要するに、
ここは、まさにそれを体現する場所。
風は吹いている、日は照り付けている、稲はそよそよと揺れ動き、影は私達に付いて回る。
──けれどそれだけ。
それは限られた時間の中を繰り返すようなもの。
ごく自然に終端と始点が繋がっているせいで気付けないが、ただひたすらにゼロと一を繰り返すだけの、余りに歪な平穏を紡ぐモノでしかないのである。
「……とまぁ、散々不安を煽ってみたけれど。……基本的にはのどかな田舎町でしかないよね、ここ」
「うちの住んでたところとは違うみたいなん、でも良いところだと思うん」
「ふーむ、別にのんのんびよりの原作の地、というわけでもない……と」
「じゃあ、私達なんのためにこの姿にされたわけ?」
「さぁ、この道の先に答えがあるんじゃない?」
なお、あくまで繰り返しの世界である、ということがわかっただけで、寧ろ危険とか一切飛んでこない分、さっきまでより快適ですらあったりするのだが……まぁ、些細なことだろう。
ごく短期間のループを、それを気付かぬままに横断し続けている……みたいな感じになっているらしく、ちょっとした入門気分だったりもする。
地面のアリが三歩ほど進んで、三歩ほど後退りしたりしているのを眺めつつ、木陰で一休みしながら、あれこれと考察する私達。
畦道はいつの間にか地面の色が見える道に変わり、それはまだまだ先へと続いている。
眺める道の先は山の中へと続いていて、いかにもなにかあると主張しているかのようだった。
「……まぁ、まだ歩き疲れるってほどでもないし。さくさく歩こっか」
「はーいなん」
「……歩幅が狭くなって、ちょっと歩くのダルいんだが?」
「文句言うんじゃないわよ、私だって服が鬱陶しいの我慢してるんだから。……っていうか、他の人間に会いそうもないんだし脱いでも「ダメです」ぬぅー……」
なので、スカートに付いた葉っぱを払い落としながら立ち上がった私は、他のみんなに手を貸して立ち上がらせながら、まだ見ぬ目的地に思いを馳せるのだった。
「凄い長さの階段なん!鳥居もいっぱいなん!」
「まぁ、なんというかお誂え向きっていうか……鬼太郎君が居たら、どういう感じの場所かわかったのかなぁ?」
「千本鳥居って奴よね、これ。有名なのは京都のだけど……」
「どこがモデル、ってことでもないんじゃないの。そもそも、あそこは周囲が田んぼってわけでもないし」
砂利道は山のふもとに至り、そのまま山の頂上へと、石造りの階段に姿を変えて続いていく。
雰囲気重視なのか、はたまたなにか深い意味があるのか。
まるで京都の千本鳥居のように、階段と寄り添うように立ち並ぶ鳥居の姿は、ちょっとの畏れと、れんげちゃんの言うような不思議なわくわくをもたらしてくる。
歩いた時間はここまでで一時間ほど、細かな休憩も挟んでいるので、疲れもほとんどない。
なので、そのまま階段に足を掛け、私達は先に進み始めたのだが……。
「……ループしてない?」
「かもしれないわね。どうする?鳥居の裏側に護符とか貼ってないか確認しておく?」
「そんな修学旅行・京都編じゃないんだから……「あ、あったん」あるんだ!?」*10
周囲の景色がほぼ代わり映えしないことから、途中まで気付かなかったが、どうやら途中でループに閉じ込められていたらしい。
さりげなく目印を付けておいた鳥居を通りすぎたあと、下からその鳥居を潜る……という現象を目の当たりにした私達は、ループの原因を探し始めるのだった。
なお、原因そのものはすぐに見付かった。
なんというか、馬みたいな見た目の護符?が、鳥居の額束の後ろに隠されていたのである。
うっすら光輝いていたため、まず間違いなくこれが原因だと思うのだが……。
「……ダメだ、なんもでねぇ!」
「参ったわね、まさかキーアが、一般人とさほど変わらない状態になっているだなんて……」
「不味いわ後輩!私も爆発できなさそう!」
「出来たとしてもしなくていいですからね?どう考えても巻き込まれるし庇えないし」
上から【継ぎ接ぎ】としてのんのんガールズの属性を付与されているせいなのか、魔法とか気とかのような、不思議系の能力が一切使えなくなっていたのである。
パイセンも
幸いにして、ループに気付いた場所は自販機がある踊り場のような場所だったため、喉の乾きを癒すのに苦労はしなさそうだが……。
「うーん、空き缶でも投げ付けてみる?」
「今の私の力で、あそこまで届く気がしない件」
「ってことは私?……いや待ちなさい、無理言うんじゃないわよ爆発するわよ?」
「あー、服が気になって、まともに投げられない……ってことかな、これ?」
「ぐっちゃんはわがままなん」
「喧しいわよ、そもそもあんな小さいのに狙って当てるとか、普通の時でも無理だっての」
こちとらみんなして能力制限中みたいなもので、普通に投げるのでさえ蛍ちゃん扱いのパイセン、次点でなっつんになってる私がどうにかなるかな?って感じなのだけれど。
それにしたって、あの高さの位置のあの小ささのモノに当てるのは、普通の時でもそれなりに苦労しそうだということを考えると、無謀以外の何物でもないというか。
端的に言うと、今の私達着ぐるみを着ているようなものだからね。どこぞの緑の怪獣じゃないんだから、動きが悪くなるのは仕方ないのであります、はい。*12
はてさてどうしたものか。
貧弱ボディとなった私達は、あれこれと考えを巡らせるのでした。