なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
コナン君達とも別れ、一人で街をぶらり。
……ふむ、夕食前とあっては買い食いをするような気分でもなく、さりとて帰ってあれこれ悩むのも、夜の仕事として
……うむ、地味に詰んでるなこれ?
なんかこう、新しい出会いでもない限り話が進まない、一種の停滞期に入っちまったってやつだなこれ?
まさかそこら辺の人を適当に捕まえて「アナタハイセカイジンデスカー?」ってするわけにもいかんだろうし。
遠目には舞台の上で何やら踊ってる?騒いでる?演習してる?……どれかよくわかんないけど、背負った砲塔?っぽいものを振り乱しながら、何事かを喋っている女の子が見えるけど。
……んー、あれ艦これ*1かな、アズレン*2かな、それとも違うやつかな?……やってないからわかんねー。
まぁ、そんな感じで、ちょっと非日常的なものが見えたりはしているけど、遠目なので近付くのもちょっと億劫だし、そもそも求めてる相手かも分からんし。
みたいな感じで、あれに話し掛けに行くのもなー、とちょっと思考がボケている。……うん、慣れない戦闘なんぞするもんじゃないな、と言うか。いつまで寝惚けてるんだ、というか。
……なんて風にボーッとしていたら、鼻腔を擽る蒸かしたじゃがいものいい匂い。
ふむ?と視線をずらせば、公園の敷地内の一画に移動販売の車が何台か集まっていた。このじゃがいもの匂いは、その内の一台から香って来ているようだ。
「……買い食いの気分じゃない、とは言ったけど」
なんかこう、気になる。
何故だか近付いてみるべきだ、みたいな私の第六感が……いや、私のゴーストが囁いている*3……!アノコロッケヲタベルノデス、*4と!
なのでてくてくと近付いて、店員さんに声を掛ける。
「すいませーん」
「お、はいはいいらっしゃいませー!この店は初めて?じゃあこのオーソドックスなプレーンジャガ丸くん*5がオススメだよ!……って、どうしたんだい君、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をして」
「
「紐神様*7は止めてくれないかな!?」
出てきた店員さんが、ロリ巨乳なツインテ紐神様だったので思わず叫んでしまった。……いや、なりきりとはいえ、神様もオッケーなんすか?!
「あらあら、ヘスティアさま?お元気なのは構いませんが、そうして叫ぶのははしたないですよ?」
「あ、エウロペ*8。……ん、ごめん。僕ももうちょっと、君みたいにおしとやかにできればいいんだけど」
「……うふふ。いいえ、いいえ。わたくしのゼウスさまとは違う、ほかのゼウスさまが愛したヘスティアさま。貴女が在りたいように在ることを、きっとゼウスさまはお望みです。ですから、幾ばくかの慎みだけを、お持ちになればよいのではないかしら?」
「……んー、君はホントになんというか、いわゆる善の女神って感じだよねー。……ってあ、ごめんお客様、思わず話し込んじゃって……いや、ホントにどうしたんだい君?すごい顔になってるけど?」
「え、」
「え?」
「エロギリシャ勢が増えたー!!?」
「君は本当に失礼なやつだな!?」
「あらあら」
なんて風に驚いていたら、店の奥から現れたのは……スカート履いてないおばあちゃま!スカート履いてないおばあちゃまじゃないか!?*9
なんかいきなりこの辺りだけ、エッチさが跳ね上がったんだけど?!……なんて風に思わず混乱する私なのだった。
「落ち着きましたか?」
「はい、すごく落ち着いたので、できれば頭を撫でるのは止めて頂けないでしょうか?」
「あら、ざんねん」
見た目のエッチさに反して、内面はおっとりおしとやかなエウロペさんにずっと頭を撫でられる……という拷問のようなご褒美のような、よく分からない状態から解放された私は、改めて彼女達の店である移動屋台の前に立つ。
……一応、コロッケ屋なのだろうか。
メニューがチーズとかベーコン入りとか結構いろいろあるみたいで、私がエウロペさんに頭を撫でられている間も、ちょくちょくと売れていくのが見えていた。
おやつコロッケということなのか、小豆クリーム味とか言うのもそれなりに売れていたのは、ちょっとよく分からなかったけど。……美味しいんだろうか、それ?
「──さて、で?君は結局、何しにうちに来たんだい?」
「あ、そうだった。すいません、ころっけちょうだい」*10
「いや、なんでそんなハチミツ求める初心者みたいな台詞を……。と言うか、一応商品名『ジャガ丸くん』だから!作ってるこっちもコロッケと何が違うんだろう、ってちょっと疑問に思ったりするけど!」
「じゃがまる、と言う響きがかわいらしくて、わたくしは好きですよ?」
「ああいやエウロペ、そういうことじゃなくて……」
……相性がいいのか悪いのかよくわからないな、この二人。
まぁ、嫌ったりはしてないんだろうな、というのは会話の空気からよく分かる。
ふわりと微笑むエウロペさんと、ああもうと口では言いつつなんだか嬉しそうなヘスティア様。……これで格好さえ普通なら、幾らでも見ていられるんだけどなぁ……?
「服装、服装か。……いや僕も、ちょっとは気にしてるんだよ?けどさぁ」
「わたくしたちは、この格好が一番落ち着くのです。……そういう風に定められているから、なのかもしれませんね」
「うーむ、なりきりの弊害……」
こんなところにも憑依であることの弊害が出てるのか。
……トラブルメイカーであれば、トラブルを呼び込むようになり。
服装が独特であれば、それ以外の服に忌避感が浮かぶようになり。
さりとて、再現度が低すぎれば、いつかのアシタカのように自由に喋ることすら阻害されうる。
……デメリットも大概だけど、一体何を求められているんだろうなぁ、これ。
……は?!いかんいかん、シリアス思考は寝る前寝る前。
首を振って辛気臭い考えを頭から追い出し、改めてジャガ丸くんを注文する。
「はいよー!……とりあえず、普通のでいいかい?」
「あ、はい、普通のでいいです。怖いもの見たさに小豆クリームにちょっと興味がなくもないですけど」
「いや、ベーコン以外は普通にトッピングだからね?そもそもベースが甘めのコロッケだから、クリーム系も意外とあうんだよ」
そう言いながら彼女は、普通のジャガ丸くんと小豆クリームがトッピングされたジャガ丸くんを手渡してくる。
小豆クリームの方はお試しとのことで、お代は結構だと言われた。
では、早速普通のジャガ丸くんを一口。
……ふむ。さくさくの衣と、ふかふかの芋の食感。
サクッと噛み付けば、じゃがいもの甘みが口の中を席巻するこの感じ、美味しいのは美味しいと思うんだけど……。
「……うん、トッピング頼む人の気持ちがわかりました」
「なんだか物足りない、ってなるんだよね。そのままでも普通に美味しいけど、何かこう……もうちょっと変化と言うか特徴と言うかが欲しくなる、というか」
「あ、それですそれ」
中身に玉ねぎもひき肉も入っていない、純粋なじゃがいもだけのコロッケだから、食べててちょっと飽きが来るのだ。
不味くはないけど、もうちょっと味に幅というか変化というかが欲しくなる、という奴だ。
彼女の言葉に頷きつつ、プレーンなジャガ丸くんを完食。
そのまま、小豆クリーム付きの方に視線を移す。
見た目はまぁ、普通のコロッケに小豆とクリームが乗っかってる感じ。
ある意味豪快だなぁ、なんて思いながら一口。……ふむ、なるほど?
「意外とあいますね……」
コロッケ側の味付けが最低限だからか、甘いものを乗せてもおかしくない。どころか、物足りなかったじゃがいもだけの部分に、小豆とクリームがほどよいアクセントになって、控えめに言っても実食に足るクオリティになっている。
……つまり、雑に言うと甘くて美味しい!
「だろう?ただまぁ、小豆クリーム味ってこれでいいのか、ってところがなくもないんだけどね」
「そうなんです?」
「んー、なんか記憶の上では小豆
ヘスティア様が、むむむと唸っている。
ふむ、唐揚げにハチミツとかポテトチップスにチョコレート、とかと同じようなものということだろうか?本来は甘じょっぱい系なのかな。
「まぁ、その辺りはしばらく悩んでみようかなとは思ってるのさ。どうせ、僕らは特にすることもないしね」
「……することがない……ってああ、原作的な行動も取り辛いのか」
できるかどうかは別として、誰かに
役割が後方で支援系の人は、なんにも起きない世界だと本格的にすることがない、ということか。……いやまぁ、元はなりきりなんだし会話を楽しめばいいのだろうけど。
「ベル君も居ないし、なんだったらヴァレン
「まぁ、ヘスティアさま。わたくしがついておりますよ?」
「ああうん。エウロペが居なかったら多分、ヘファイストスのとこに居た時より酷いことになってたと思うから。……これでも君にはすっごく感謝してるんだよ?」
「……うふふ。ええ、ええ。わかっておりますよ、ヘスティアさま」
「……まーたそうやってイチャイチャするー」
「いや、別にイチャイチャしてるわけではないんだけど……」
ちょっと照れ臭そうなヘスティア様と、にこにこと楽しそうなエウロペさん。
……不思議な組み合わせもあるものだなぁ、なんて思いつつ残っていたジャガ丸くんをぺろり。ごちそうさまでした。
今の時刻は──意外と経ってないな、五時前か。
ふむ、となると……うーん、舞台の方にでも行ってみるかな?
そんな事を考えていたら、ヘスティア様から声を掛けられた。
「そういえば、近々何かの大会が開かれるみたいだよ?」
「大会?」
「そ、なんか腕に変な板みたいなのをくっ付けた子達が、
「……見なくてもわかったけど、やっぱり決闘者か……って、これは」
チラシを受け取る前から、なんとなく何の大会なのかわかってちょっと遠い目をしていた私だったが、チラシに描かれた人物を見て態度を改める。……なるほど、こう繋がるか。
チラシに描かれた人物は、ジャック・アトラス。
──もしかしたら、出会ったことのある人物かもしれない。
そんなチャンピオンとのエキシビションマッチが、優勝者の副賞になっていると、そうチラシには書かれていたのだった。