なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ここはやっぱりパチンコを使うしかないん!」*1
「え?男の修行は飯食ってパチンコして寝るに限る?」
「暗黒進化*2以外の何物でもない話するのやめなさいよ……」
暫くあーでもないこーでもないと考えを巡らせた結果、れんげちゃんから提案されたのは、パチンコ(飛ばす方)による狙撃であった。
実際、手が届かない位置にあるあの護符をどうにかしようとするのであれば、なにかを飛ばすという方法しかないのは確かな話。
その発言によって横合いからクリスが提示したのは、髪留めのゴムを使うかなり簡易的なパチンコだったのだが……まぁ、現状で用意できるものとしては、最上級のモノと言えなくもないだろう。
と、言うわけで。
道中の山の中、そこに生えた木々の中から、手頃な枝をへし折ってきて、自身の髪を留めていたゴムと上手いことクラフトし、即席のパチンコを作り上げた私である。*3
強度は……子供の腕力で扱うことを考えれば、まぁこんなものかな?……といった感じ。早々壊れることはない、というのは間違いないと思う。
弾に関しては、そこらに転がってる小石を使えばいいとして……問題は、誰が射手を務めるのかということになるが……。
「……いや、私は無理よ?そういうので遊んだことないし」
「私もパス。この四人の中だと一番力強いってことになるんでしょうけど、その分壊しそうだし、細かい狙いを付けるとか無理があるし」
「ということは、私かれんげちゃんか……別に弾に限りがあるわけでもないし、失敗とかもそこまで気にするわけじゃないから……」
「じゃあ、うちがやるん!ウソハナ張りのパチンコ捌きを見せるん!」
「ウソハナ?……ってああ、ウソップね」*4
他二人が拒否の姿勢を示す中、元気よく立候補したのがれんげちゃんだった。
……今回のあれこれが、彼女に纏わるものであるのなら。
彼女が活躍する方が、最終的によい結果をもたらすだろうという思惑もあり、持っていたパチンコを渡す私。
無論、ゴム部分が千切れたりしなければ、最悪他の部分は替えが利くものでしかないので、ある程度色々試すつもりだから、という面もなくはないのだけれど。
ともあれ、彼女は気合い十分の様子。
某海賊団の狙撃手に任せるような気持ちで頼るといい、みたいなことを彼女は告げていたけど……。
流石に、遠く離れた風見鶏になんなく当てちゃうような、意味不明な腕前の狙撃手と張り合うのはどうかなー?……とは口にしないでおいた。*5
折角やる気なのに、その気合を削ぐ意味があんまりないからね。
まぁそんな感じに、れんげちゃんに護符を打ち落とす役割を任せた私達は。
特になにか手伝えることがある……というわけでもないので、彼女を囲んで応援することにしたのでした。
「がんばえーれんちょーん」
「貴方ならやれるわ、頑張ってー」
「どうせなら鳥居ごとぶっ壊しちゃいなさーい」
「お姉さん達、応援下手くそなん……」
なお、当のれんげちゃんからは大不評でしたとさ、解せぬ。
「やったん!遂にうちは成し遂げたん!」
「十分くらい?意外と早かったわね」
それからおおよそ十分ほど。
最初の内はそもそも前に飛ばない・飛距離が足りない・狙った所に当たらない……などの問題を抱えていたが、無理をせず回数を重ねることを重視するように伝えた結果、地道に扱い方や狙い方を修正していったれんげちゃんは、遂に護符を打ち落とすことに成功したのだった。
これが遅いのか早いのかはよくわからないが、今の彼女が私達の中で一番パチンコを上手く扱える、というのは間違いないだろう。
短い間に酷使された即席パチンコ君にも、惜しみない称賛を贈りたいところである。
「それにしても……馬は馬なんだけど、なんだか変な形じゃない?」
「……む?変とは?」
そうしてれんげちゃんの両サイドから彼女に抱きついて、ひたすらになでなでする作業を敢行していた私とクリスだったのだが……、地面に落ちてきた護符を拾い上げたパイセンが、小さく首を捻りながら声をあげた。
内容は、馬のようなその護符の形について。
馬の頭、馬の体、馬の尻尾。それらは全て、私達のよく知るサラブレッドのそれだったのだが……。
「ほら、これ」
「……二本足?」
「走ってる最中、偶然この形になることもあるかもしれないでしょうけど。……わざわざそこを切り取る必要はないとは思わない?」
「まぁ、確かに。これだと
「いやなによ、急にワケわかんないこと言われても、こっちにはなにも伝わらないわよ」
足の形だけ、前後一本ずつに見えるような状態になっていたのだった。
要するに、左右の足が横から見た時にほぼ重なっているわけなのだが、普通馬を象る時は足が四つ見えるようにすることがほとんどであるため、このように『馬』を知らない人が見たら勘違いをしそうな形になっている、というのは幾ばくかの疑問を抱かざるを得ないわけで……みたいなことを考えていた私は、そこで雷に打たれたような衝撃を受けたのだった。
それこそ、『馬』という文字がどこで生まれたものか、ということを考えればすぐに気が付く話だったのだが、
「……なるほど、解けたで工藤!」
「誰が工藤だ、誰が。……で、なにが解けたのよ?」
「少なくとも、この場所を作ったのが誰か、ってことが解けたのよ」
「なんと?」
したり顔で呟く私に、クリスがツッコミを入れてくるが、こちらとしてはそれどころではない。
何故ならば、この田舎の風景を作り出した者が誰なのか、なんとなく予測が付いたからである。
二本足の馬、という護符が示すものは、今この場においては一つしかない。
そして、それに関連する者の内、ここまで大掛かりなことに関わることができそうな存在は、更に限られている。
今の今まで、彼女の存在を思い出せなかったのは……なにかしら理由があるのだろうが、今のところは全て推測にしかならないので、ここで語ることはしない。
「どこの探偵の勿体ぶり方よ、それ」
「まぁまぁ。とりあえず、先に進めるようになったみたいだし、さっさと進みましょうよ」
こちらに不満を溢してくるパイセンには、ループの解消された山道を示すことで答えとする。──どっちにしろ、推測が当たっているかどうかは、この道を進めば自ずとわかるのだ。
そんな風に彼女を宥めて、自販機のあった踊り場を離れ、再び階段を登り始める私達。
木々の間から差し込んでくる日差しの眩しさに目を細めつつ、石階段を進んでいき──、
「あ、頂上なん!」
「あ、ちょっと!急に走ると危ないわよ!」
階段の終わりが見えたため、階段を登るペースを速めたれんげちゃんに、慌ててクリスが付いて行き。
そのまま、
「あっ」
「危ないん!」
急いだせいか、階段に足を引っ掛けてしまったクリスが、体勢を崩し、倒れそうになりながら階段の向こうに消える姿を見た私とパイセンは、慌てて二人の後を追う。
登りきった先で、私達が目にしたのは……。
「ふぅ、危なかったな。これに懲りたら、境内を走り回るのは止めるんだぞ」
「は、はい、今後気を付けます……」
「すっごい速さで駆け付けたん!まるで王子様みたいだったん!」
「ちょっ、恥ずかしいからやめてってば!」
なお、現在の彼女はお姫様抱っこ状態なので、凄まじく照れていたりする。
……なお、なんとなく気付いているかもしれないが。
「……オグリ」
「ん?私を知っているのか?……んん?なんだか見覚えがあるような……?」
クリスを助けた白い髪の彼女。
それは、今回表の方には居なかった、オグリキャップその人なのであった。
「なる……ほど?私はいつの間にかここに居た、という記憶しかないが、そっちはそっちで大変だったんだな」
「大変……うんまぁ、大変かな……」
「……?なんだか歯切れが悪いな?」
「まぁ、色々あったのよ」
巫女姿のオグリの後ろを付いて歩きながら、これまでのことを説明する私達。
服装こそちょっと見慣れない感じだが、このオグリは私達の知るオグリで間違いないらしい。
「もしかして、タマモもここに?」
「ああ、いるぞ。私と一緒に巫女修行だ」
「巫女修行?滝に当たったりするん?」
「あれって冬にやるもんでしょ?この気温じゃ、単なる水浴びにしかならないんじゃない?」
「そうだな、そういう修行ではないぞ。大体境内の掃除をしたりするのが主だ。参拝客は来ないがな」
オグリとタマモは、どうやらこの神社──上に登った時点ですぐに確認できる、それなりの大きさの建物──で巫女をしているらしい。
今のところタマモの姿は確認できないが、多分境内のどこかで掃除をしたりしているのだろう。
……正月ピックアップかな、とは言わないでおく。
なお、参拝客云々は……そもそもこの場所の中で動いているのが私達と、それから彼女達くらいのものだろうと思われるので、そりゃそうだろうとしか言えなかったりする。
……というか、もしかして向こうに居なかった場合の彼女達は、基本的にこの田舎に飛ばされていたのだろうか?
そうだとすれば……なんというかご苦労様、としかこっちには言えない感じである。
そもそもにここに来たのが今回初ということは、毎度毎度たどり着きもしない相手を、掃除をしながら気長に待ち続ける二人……いや三人?まぁその時々によってメンバーの人数が違うだろうが、ともかくひたすらに待ちぼうけを受けていた、ということは間違いなく。
……
そんなことを話しながら、私達はその神社……