なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……見とったんなら声掛けんかいっ!!」
「いや、これは私が悪いのか……?」
「悪いわダアホッ!!」
どこから出したのかよくわからないハリセンで、スパーンッ!!……と叩かれるオグリを、なんとも言えない目で見つめつつ。
竹林から出てきた私達は、所々に絆創膏を貼っているタマモを連れだって、近くの川原に腰を下ろしていたのでした。
聞くところによれば、彼女の先程までの奇っ怪な行動は『修行ってなにしたらええんやろか』と悩んだタマモが、突然の天啓を受けて考案したモノなのだという。
どう考えても
結果、お前さんどこのイナガミだよ?*1……みたいな動きをマスターすることに成功したのだという。
いやまぁ、本当にあれみたいな動きができるようになったとすると、突然竹を生やせるようになったことになってしまうため、実際はしなる竹を使っての高速移動を覚えた、というだけの話なのだろうが。
……え?その時点で大概意味がわからない?セイバー忍法なら仕方ない。*2……
ともあれ、こうして合流したタマモも、いつものタマモで間違いなさそうだ。ユニバース案件混じりのタマモなんて早々居ないだろうし、間違いない間違いない(慢心)。
「せやけど……ふーむ。繰り返す日々なぁ。今一実感が沸かんと言うか……」
「まぁ、記憶ごとリセットされてるみたいだし、仕方ないわよ。あの神様は、ここでは時間経過は起きないって言ってたから、猶予はまだあるんでしょうけど……」
「最終的に条件を満たさないことには、結局ループにまっ逆さまってわけでしょう?……そのあたり、気付いている奴にいい加減説明して貰いたいところなんだけど?」
タマモが頭をぽりぽりと掻き、クリスが嘆息を返し。
最後に、パイセンがこちらを見てくる。……知ってること全部吐け、みたいな感じのお顔ですね、はい。
まぁ、確かに?なんとなーくここでするべきこと……正確には
……それを私達が口に出したところで、彼女の成長に繋がるか?と言えばノーと言いますか……。
「……彼女?成長?」
「そ。……思い出して欲しいんだけど、のんのんびよりってどういう作品だった?」
「へ?……えっと、田舎でのほのぼのライフやっけ?」
「公式的には『脱力系田舎ライフコメディ』って書いてあったぞ」*3
クリスの言葉に、小さく頷き。
今回の案件に深く関わっていると思わしい『のんのんびより』という作品が、どういう描写をしていた作品だったかを問い返す私。
タマモやオグリからは、田舎町を舞台にしたコメディ作品である、という旨の返答が戻ってきたが……もう一つ、この作品を語るのに必要な要素がある。
「
「……そうなの?」
「あ、もしかしてアニメ組だったり?……原作では、普通にサザエさん時空の描き方だったんだよ」
それが、『のんのんびより』という作品は
なお、アニメでは一クールが一年、という描き方を一期の時に行っていたため、原作のそれ以降のエピソードは『以前語られなかった部分』という形で二期以降に回されたのだとか。
なので、アニメだけを見ていると、ループ感はなかったりするかもしれない。*5
ともあれ、『のんのんびより』という作品が(かなり乱暴な見方だけど)一種のループモノとして扱うことができる、というのはなんとなくわかって貰えたと思う。
そしてその上で──この作品が今のループに関わった理由、その一端が次の話になる。
「漫画だとわかりやすいけど……『のんのんびより』って、最終的にはループから離れるんだよ」*6
「……なるほど?ループを打ち破ることが最終目標ってわけね?」
「いやまぁそんな大層な話じゃないんですけどね……?」
──最終話。
そこで、作中人物達は卒業したり、妹が産まれたり、はたまた一年生になったりなど、明確な時間の経過を体験する。
そう、物語の針が、一年の壁の向こう側に進むのである。
それはある意味で、最終話だからこそ許されたことなのだろうが……原作において『閉ざされた時間の先に進んだ』という実績があるというのは、私達なりきり組に対しては大きな意味を持つ。
すなわち、成長の先にまだ見ぬモノがある、ということを指し示すものなのだ。
言ってしまえば半オリジナルへの扉である。……結論のせいで台無し?いやいや、これって凄いことなのよ?
「元がサザエさん時空の場合、ループに見合わないような展開は受け入れられにくいけど、そこから脱する過程までがあるのなら、作中人物が成長した姿を想像するのも、また意味が違ってくる。──要するに、
「……そのあたりの利点についてはよくわからないけど。それと今の状況が、どう結び付くのよ?」
「おっと失礼。勝手に興奮してすまないすまない」
なお、熱く語っていたらパイセンに白い目で見られることになるのだった。なんでや!
……まぁ、話がずれていたのは確かなので、軌道修正感謝感激雨霰ではあるのだけれども。
とにかく、『のんのんびより』がループ系でありつつも、最終的にはループから離れる作品として見ることができる、というのはわかって貰えたと思う。
それを踏まえた上で、ここでしなければいけないこととは……。
「──
──物語の終わりに、たどり着くことだ。
「……穏やかじゃないわね」
「どう見るかですよ、終わりを新たな旅立ちと見るか、はたまた単なる断絶と見るか。……いやまぁ、パイセン的にわかり辛いってのもわかりますけど」
不機嫌そうな顔を向けてくるパイセンと、その視線を真っ向から受ける私。
ここ最近の彼女は先輩力が上がっているため、こちらが言外に述べていることに気付いているようだが……だからと言って、こっちも意見を曲げるわけにはいかない。
心愛ちゃんの時から、なんとなく
そんな私達の突然の険悪な雰囲気に、周囲は何事かと右往左往。──ただ一人を除いて。
「……うちは」
「おおっと、別に口に出さなくてもいいよ、れんげちゃん。……貴方の状況が特殊だってことは、なんとなく気付いていたし」
「いや、勝手に納得して話を続けないで欲しいんだが?」
「おっとゴメンよクリス。……簡単に説明すると、ループの脱出条件は、れんげちゃんの成長にこそあるのよ」
「……れんげの成長?どういうことだ?」
「どうもこうも、そもそものこのループの起点は、れんげちゃんだってこと」
「……なん、やと……?!」
俯いていたのは、さっきから声を発していなかったれんげちゃん。
『のんのんびより』に纏わる話が多かったことからわかるように、このループの起点となったのは彼女である。
……まぁ、イコール彼女が黒幕ってわけでもないのだけれど。
「……どういうことだ?」
「燃料というか、場所というか。……ともかく、彼女の意思で起きたことじゃなくて、彼女を触媒・もしくは切っ掛けとして起きたのがこのループだってこと!黒幕って呼ぶべき存在は別に居るのよ」
つまり、ループの動機となったのがれんげちゃんであり、ループの実行者がまだ見ぬ人物で、ループの解消のための手段を残したのが猫神様、ということになるわけだ。……雑に言うと、三つの勢力が存在したという話になる。
理由については……まぁ落ち着いてから考えるとして。
恐らくは砂の塔の方に関わっているのが、ループ存続派であり、そこにいる誰かを倒す・ないし納得させるのが、ここでの最終目標になるわけなのだが。
その前段階として、中立ではあるもののループの存続派に近い立ち位置であるれんげちゃんが、ループから抜けようという意思を持つように成長しなければならない……というのが、今回この神社でやらなければいけないこと、ということになるのである。
私達にできることがないと言ったのは、ここで必要なのがあくまでも
彼女がループを止めようと思えない限り、私達は単なる賑やかしにしか過ぎない、というわけなのである。
……と言ったようなことを、皆に説明したところ。
それぞれの反応は、なんともまちまちなモノだった。
「よし、そうと決まれば走るでれんげ!」
「のん!?」
「走れば難しいこと全部吹っ飛ぶ!走り抜けたあとなら、なんもくよくよすることもあらへんわ!」
「お、おおお……、ででできればほどほどにしてほしいん、うち走るのは嫌いじゃないけど、モンモンについていくのは無理があるん……!」
「……モンモン?」*7
「タマモンモン、って感じじゃないか?それとタマモ、無理強いは良くないぞ」
「あいたっ!?」
ウマ娘組は、すさまじく体育会系な結論を出したタマモが、れんげちゃんに向かってレースのお誘いをしていた。
まぁ、ウマ娘とヒト娘のレースなどという、結果が見えてるものに付き合わされる方の身としては、堪ったものではない……とは言えずに、ガタガタと震えるれんげちゃんと、それを見てタマモの後頭部に
「……ふーむ、やっぱり私がここにいる理由って、そういうことなのかしら……」
クリスの方は、小さな声で何事かをぶつぶつと呟いている。
大方現状把握のための独り言なのだろうが、その真剣さから彼女に近付くものはいない。
で、残ったパイセンはと言うと。
「……寝るッ!用事があるなら適当に起こしなさい」
「あっ、ちょっ……行っちゃった」
彼女は不機嫌そうな顔をしたまま、神社の方に歩いて行ってしまうのだった。
……『虞美人』としてのあり方的に、このあたりが落とし処ということなのだろう。
彼女には最後に声を掛けるとして、今ここで私がするべきことは、っと……。
「よし、私が足になるぞれんげちゃん。風になれば思考も纏まるさ」
「キーアお姉さんがうちの足になるん?」
「そういうこった!負けねぇぜタマモ!」
「いや待ちーな!金色に光るな金色にッ!!」
迷いを見せるれんげちゃんに、とりあえず考える時間を与えることであろう。
というわけで、彼女を肩車して、そのままタマモとの競争に出掛ける私なのであった。