なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
時間の経過がない、と猫神様が言ったように、お
ただ、それでも私達の体の方は、生理現象*2に忠実なようで。
「……お腹空いたん……」
「確かに。多分六時間くらい経ってるから、そろそろ夕食を食べたい気分だよね」
景色的には真っ昼間でも、体内時計的には夕方六時くらい。*3
そりゃまぁ、お腹も空いてくるってもので。
延々と野山を駆け回っていた私達は、腹ペコ状態で神社まで戻ってきていたのでありました。
「……姿が変わったわりには元気だな?」
「私は体型的には成長した方だからね。これが研究者としての貧弱そうな肉体から、更に虚弱そうになったクリスとかだったら、走る云々の前に盛大に転けてそうだけど」
「ああ、確かに。また境内の何も無いところですっ転んでいたからな」
「ちょっ、オグリさん!?それ言わないでって約束っ!!」
「はははっ、すまない。つい口が滑ってしまった」
階段を登ってすぐの場所で、オグリが箒で掃き掃除をしていたので声を掛ける。
どうやら、こちらが見ていない間に、クリスがまたハプニングを起こしていたらしい。……当事者である彼女の反応を見るに、恐らくはまたオグリに助けられたのだろう、という予測も付いた。
……なんだろうね?キマシタワーとでも言っとけばいいのかな、こういうの。*4
「違うわっ!申し訳なさで真っ赤ってだけよっ!!……ってあ、ちが、その違うの」
「言うに事欠いて自爆しておる。これが天才少女の姿か、嘆かわしい」
「@#%&♯☆ッ!!」
「どうどう、抑えろ抑えろ。なに言ってるのかまるでわからんぞ。それとキーアも、不用意に挑発するんじゃない」
なお、そのあたりのことを口にしたところ、ものの見事に自爆したクリスなのであった。……私達を嗜めるオグリの方が、よっぽど大人だと言えよう。
まぁ、今のクリスは
とやかく言うのは良くないというのは確かなので、素直に引き下がることにするキーアさんである。
……まぁ、その丈にあってない白衣を止めればいいのでは?とは言っておくが。脱がない理由もわかっているけども。
「……キーアも大概影響されてるんじゃないのか?」
「かもねー」
からかいぐせが付いたというか?まさにからかい上手のキーアさんだな!*5
などと適当なことを述べつつ、こちらに向けて真っ赤な顔で意味不明な言語を叫びながら、脇目も振らずに突進してきたクリスの頭を押さえて止める私と。
そんな私達の姿を見て、呆れたような声をあげるオグリなのでした。
「サンマの塩焼き……味噌汁……五穀米……ご機嫌な
「THE・和食って感じね。いいんじゃない?」
「…………」
「……いや、なによそのしょぼくれた顔は」
「ツッコミの入らんネタほど寒いもんもないからな。上手いカウンターやね。さっきの仕返し?」
「え?は?」
「……単純に知らなかっただけみたいだな」*6
神社の別室、和室っぽい場所に用意されていた夕食は、サンマと味噌汁、それから五穀米というそれなりに豪勢なものだった。
個人的には山盛りのキャベツとベーコンエッグもあれば、(ネタとして)完璧だなーと思いながら声をあげたのだが……うん、クリスには通じませんでしたとさ。悲しみ。
気を取り直して、両手を合わせて挨拶をしたのち、料理に箸を伸ばす。
味噌汁は具が豆腐と揚げだけの、オーソドックスなタイプで、啜っているとどことなく安心してくる、柔らかい味の一品だった。
サンマの方は塩加減が絶妙で、油の乗ったその白身を噛み締める度、幸福を実感してしまうような感じ。
誰が作ったのかはわからないが、満点をあげたい気分である。
『作ったのは我輩じゃよ』
「なん……だと……!?」
「猫のキッチンなん、包丁さばきがすごいん!」
「ん?見てないのに何故凄いと……ああ、猫の手か」*7
そんな風に料理に舌鼓を打っていたら、横から告げられたのはこれを作ったのが猫神様である、という事実。
……でも、言われてみればそりゃそうだ、となってくる。
だって、オグリもタマモも、さっきまで他のことをしていたのだから、彼女達が夕食の準備をする暇なんてないのだ。
だから、この中で唯一手が空いていた人物……猫神様が準備をした、と考えるのは本来自然な流れのはずなのである。
まぁ、外見がトトロ*8めいたこの神様に、料理ができるとは思っていなかった、という気持ちがあったことは否定しないが。
『因みに師はかの有名な御仁、天照玉藻之前猫被殿である』
「アマテラスタマモノマエネコカブリ……?」
なお、彼の口から告げられた料理の師であるという人物の名前には、皆揃って宇宙猫顔を晒すことになったのだが。
アマテラス?タマモノマエ??ネコカブリ……???
……我輩で猫キャラって
「……そう言えば、アイツらに会ったことあるのは私とお前だけ、だったかしらね」
「ソウデシタネー……」
「……どうした二人とも?なんだか元気がないみたいだが」
「「なんでもないわ」」
「お、おう……?」
他のメンバーが、あくまでも名前の意味不明さに困惑する中、その師というのが誰なのか、この猫神様が誰の影響を受けているのか……ということに気付いた私とパイセンだけは、乾いた笑みを浮かべていたのでした。
「露天風呂まであるとか、致せり尽くせりだねぇ」
「でも景色は昼間なん」
「そうだねぇ……」
夕食を食べたあとは、そのまま風呂に入ると良いと猫神様に言われ、一同は神社から少し離れた位置にある露天風呂に足を運んでいた。
山と川とを一望するその露天風呂は、秋頃ならば紅葉を視界いっぱいに楽しめる絶景だろうな、という感想を思い浮かばせるような良いお風呂だった。
まぁ、今は秋ではないので、あくまで視界に入るのは青々とした山々なのだが。……これはこれで絶景だと思うが、正直にお風呂に入って楽しむというのなら、秋に来た方が楽しいと思います。
「やけに秋推しね?」
「サンマと言えば秋、秋と言えば紅葉。……みたいな気分なのです、はい」*9
「設定されているのは夏、求められているのは秋、実際の季節は冬……季節があやふやすぎないか?」
「気にしない気にしない。そもそもの話、気温的には昼間なのにお風呂に入っても熱すぎない夏、って時点で狂ってんだから気にしたら負けよ負け」
「適当やなぁ」
ぐだぐだと会話をしながら、湯船に浸かる。
そもそもの話、あのサンマはそこの川で獲れたものらしいので、旬だとかなんだとかは全く関係なかったりする。
海魚が川で獲れる時点で、真面目に考えるだけ無駄……ということだ。*10
なので、季節設定的には真夏だとしても、真っ昼間(みたいな天気の中)風呂に入っていたとしても、特に問題はないのである。……普通はやらんだろうがな!
まぁ、そこら辺の話はおいといて。
これからどうするかについて、ぽつぽつと話し始める私達。
基本的にはれんげちゃんがどうするか、という部分に問題は集約されるため、私達にできることは彼女のお手伝い、ということになるが……。
「それをこの子に直接聞くのはアウト、ってこと?」
「そーいうことー。必要なのは彼女が
「周囲が聞いたら、必ず急かされるような内容だということか?」
「……急かすかどうかは別として、『それは良くない』とは言うんじゃないかね、皆」
まぁ、あくまで私が思っている通りの理由なら、という注釈が付くわけだけども。
そんな私の言葉に、皆が難しい顔で考え込み始めるが……その中で一人、クリスだけが「やっぱり」という顔を見せていた。
「
「まぁ、多分ね」
「ふーん、お姉さん達も大変なんなー」
「ははは、そうそう大変なの……総員警戒ーッ!!」
クリスからの
突然に増えた謎の声に、皆へと警戒を促す。……まぁ、あくまで流れ的に促したというだけで、別にそこまで警戒する必要はないのだけれども。
さて、私達のすぐそばに突然現れたのは。
「……かようちゃん」
「そう、うちだようち。かわいいかわいい、かようちゃんだよー?」
真っ黒なれんげちゃんと言うべき容姿の少女。
一番最初に出会ったはずの少女、かようちゃんだったのだ。
あまりにも突然に現れた彼女は、最初の時の印象とはまた違った姿をこちらに見せてくる。それは、
「んー」
「な、なんなん?なんでうちを見詰め……ひぃっ!?突っつくのはやめるん!」
「やーかーまーしーいーわー!!ええい勝手にあれこれやっちゃって!このっ!このこのっ!!」
「ひぃっ!?助けてほしいんキーアお姉さん!」
「ははは。素直に受けなさい、それが君のするべきことだよ」
「そんな馬鹿なっ!?なん!」
「あっはっはっはっ、待て待て待てー!」
「……え、なんやのこの状況?」
「わからん……なんもわからん……」
れんげちゃんに対し、執拗なそすんすを繰り返すかようちゃん。……いや当たってるみたいだからそすんすではないか。
ともかく、つんつんつんっとれんげちゃんの柔肌に突っつき攻撃を繰り返しながら、彼女を追い掛けるかようちゃんに、出会った当初のような
どっちかと言えば悪戯っ子めいたその姿に苦笑いを浮かべつつ、れんげちゃんに助けを求められた私はそれを華麗にスルー。
悲痛な声をあげたれんげちゃんは、容赦のない突っつき攻撃から、湯船をばしゃはしゃと波立てながら逃げ回っていく。
反対にかようちゃんは、どちらかと言えば悪ガキ感を迸らせながら彼女の背を追っていった。
そんな、突然の大騒ぎを目の前にしたオグリとタマモの唖然とした声を聞き流し、私は隣のクリスに声を掛ける。
「……役者は揃ったみたいだねぇ?」
「そうね。……ただまぁ、これからのことを考えると頭が痛いけど」
「確かに」
そう言葉を交わしながら、二人で空を眺めるが。
雲すら流れてこない青空は相も変わらず、地上の喧騒など知らぬとばかりに太陽が輝いているだけ。
結局、騒ぎを聞き付けた猫神様に『お風呂で騒いではいけないぞ』と注意されるまで、双子のような見た目の、二人のおいかけっこは続いたのだった。