なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・引き止めるのは

「というわけで、かようでーす。あ、漢字は荷物(にもつ)の『荷』に『葉』っぱね」*1

「……なぁキーア、聞いてた話と随分キャラ違うんやけど?」

「だねぇ。なんでだろうねぇ」

「……なんやその返事、実は知っとるんやろ自分?」

「ふははは黙秘!」

「そんなん答えを言うとるようなもんやないかい!」

 

 

 感覚的には夜(なお外は変わらず真っ昼間)なので、取り敢えず寝ますかとばかりに日の入らない部屋へ案内して貰った私達は、そこで改めて、再び私達の前に現れた黒いれんげちゃん……もとい、荷葉ちゃんの自己紹介を聞いていたのだった。

 まぁ、私が皆に教えていた人物像とは全然違ったため、案の定他のメンバーから質問責めに合うことになったわけなのだが。

 無論、私がその理由を知るわけなどない。

 ……タマモの言う通り、なんとなくの理由については、予想もできていたりするけども。

 

 

「……予兆?」

「そ。あの時皆に確認したけど、荷葉ちゃんは【逆憑依(なりきり)】でも【顕象】でもないって結論を出したんだよね。……だけど今の彼女、どう見てもこっちのことを理解したうえで喋っているでしょう?」

「【逆憑依】について知っている、と?」

「そういうこと。()()()()()()()()()()こっちを知ってるってことは、『予兆』の段階でも知識の参照はできる、ってことなんでしょう、多分」

「ふーむ。……いや待った、彼女はあくまで予兆なんだよな?じゃあ、れんげちゃんとの関係は……?」

「あ、それは簡単だよ。私に憑依し損ねたから、この子は【顕象】になっちゃったみたい」

「……はぁ?!」

 

 

 推測を並べる内に、荷葉ちゃんが横から話に突っ込んで来たわけだが……その内容はまぁ、予想通りというかなんというか。

 

 要するに、【逆憑依】として成立する際になんらかのアクシデントがあり、中途半端にれんげちゃん化した荷葉ちゃんと、【顕象】として成立したれんげちゃんに別れてしまった、ということだったらしい。……すなわち、魂の双子状態!*2

 

 

「もしかしたら、頑張れば合体とかできるんじゃないかな?」

「が、合体?」

「か、軽いわね、色々と……」

「そうなん!もっと深刻に考えるん!」

「ん、んん……?れんげ、どうしたんや?」

 

 

 当事者の一人である荷葉ちゃんは、何故かケラケラと笑っているが……それを受けた周囲は、一部を除いて微妙な顔。

 そもそもに【逆憑依】が失敗する、という状況自体が初耳なこともあって、皆どういう反応を取っていいのか、判断に困っているようだった。

 

 そんな中、微妙な顔をしていない人物(その一部)に含まれる内の一人──れんげちゃんが、普段の彼女らしからぬ真剣な表情で、荷葉ちゃんに対して怒りを見せていた。

 内容は、荷葉ちゃんが()()()()()()()()()()()について、余りにも楽観視し過ぎている──というような内容のもの。

 恐らくは【顕象】だと思わしき彼女が告げる言葉であるがゆえに、【逆憑依】の失敗にはとんでもない事態を引き起こすなにかがあるのでは、というような緊張感が皆の間に走ったわけなのだが……。

 

 

「あんたは!深刻に!考えすぎなのよ!」

「痛っ!?痛たっ?!や、止めるん!地味に痛いん!!」

 

 

 その言葉を受けた方の荷葉ちゃんは、逆にれんげちゃんに怒り返す始末。

 結果、さっきの露天風呂でのそれと同じように、二人のよく似た少女達の、おいかけっこが再び始まってしまう。

 

 これにはこちらの緊張感も毒気(どっき)*3も抜かれてしまうというもの。

 そうして、周囲の視線がこちらに(この状況の説明を求めて)向くのを感じた私は、返答代わりに肩を竦めて首を横に振る。

 言外に処置なし、と告げる私の様子に、皆は小さくため息を吐いて。

 部屋の中を駆け回る二人を、ボーッと眺めるはめになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 そのまま騒ぎ疲れた二人が泥のように眠るのを見て、私達も床につき。

 時間は流れて次の日?の()。『起きるのである』という猫神様の声と、開け放たれた襖から燦々と照り込む日光に、寝惚け眼を擦りながら外に出てきた私達は。

 

 

「あ、おそよう皆。ご飯できてるよー」

「……?はい、おそようございます……?」

 

 

 何故か割烹着*4を着ている荷葉ちゃんの姿に、思わず首を捻りつつ。

 昨日夕食を食べた部屋に向かって、皆で歩き始めたわけなのだが……。

 

 

「……あの、こちらはどなた様がお作りになられたので?」

「私だけど?……あ、久しぶりだから変だったらごめんね?」

「なん……だと……」

 

 

 そこに用意されていたのは、白菜の浅漬けや茄子のお味噌汁、鰆の西京焼き*5にだし巻き卵などなどの、余りにも完璧な和の朝食だったのだ。

 昨日の夕食よりも更に洗練されたそれを作ったのは、なんとそこにいらっしゃる荷葉ちゃんだという。

 ……見た目小学生にしか見えないんだけど、この朝食の出来映えはなんというか、思わず唸らざるをえないというか……。

 

 

「……白菜美味しい……っ!」

「おかわりもあるからね。たんと食べてね!」

「おかんや、ロリおかんがおるで……っ!!」

「ろ、ロリおかん?なにそれ?」

「今の君だよ!」*6

 

 

 そもそもの話、私達より早く寝て早く起きて、そこから料理を行っているという辺りが、既におかん(ちから)アゲアゲである(?)。*7

 見た目はれんげちゃんとほぼ同じだというのに……荷葉ちゃん、おそろしい子!*8

 

 

「ん、んー?よくわかんないけど、褒められてるんだよね?」

「うん、褒めてる褒めてる」

「ならいいや。ほられんげも、たくさん食べて食べて!」

「う、うん。頂きますなん」

 

 

 こちらの言葉に、小さく首を捻る荷葉ちゃん。

 ……ジェネレーションギャップ的なあれなのか、ガラスの仮面はよく知らないらしい。*9

 そのまま、複雑そうな表情を浮かべたれんげちゃんに声を掛け、お茶を注いだり味噌汁のお代わりをよそったりしている。

 

 そんな彼女のある種甲斐甲斐しい姿を横目に、茄子の味噌汁を啜る私。

 ……関係性的には、彼女の方が姉のようなもの、ということなのだろうか。

 構われることにちょっと遠慮というか、隔意というかをほんのりと漂わせるれんげちゃんの様子を目に焼き付けながら、朝食の時間は過ぎていった。

 

 

『片付けば我輩がやっておくから、皆で川にでも行くと良いのである』

「あ、ちょっ!私がやるってばー!……もう!善意の押し売り禁止だぞー!」

「ははは。まぁいいじゃないか。小さい子に任せっぱなしというのは、猫神様も気に病むのだろう」

「もー、別にいいのに」

 

 

 そうして朝食が終われば、そのまま片付けに移ろうとした荷葉ちゃんの背を押して、遊んでこいとばかりに外に放り出す猫神様。

 当の荷葉ちゃんは不満げな様子だが、周囲からしてみれば小さい子供が背伸びをしているようにしか見えないので、あの猫神様の対応も仕方ないというか。

 ……まぁ、下手すると私よりも料理が得意そうなあたり、あんまり歳上ぶるのもどうかとは思うのだけれど。

 

 

「ふーん、アンタ一応料理できるのね?」

「大体マシュがやってることが多いですけど、一応私もできなくはないですよ?……まぁ、あくまでもできなくもない、って程度ですけど」

「へー、ってことは男の料理、みたいなやつってこと?」

「……そこまで雑ではないかなぁ」

「男の料理が雑、って言うんも先入観やけどな。……で、このまま川に行くんでええんか?他にしたいこととかは?」*10

「う、うちはやっぱり……」

「はいはいはーい!行きます行きますれんげが言うことは無視でお願いしまーす!」

「ちょっ?!」

「おー、積極的」

 

 

 かと思えばこの通り。

 れんげちゃんが尻込みする……というか遠慮する時には、彼女がそれを叩っ切る感じらしい。

 遠慮の理由が()()()()なら、彼女がそういう行動を示すのは必然なわけだけど……。

 

 

「……すっかり、キャラが変わっちゃったわね、れんげちゃんも」

「んー、積極性が抜けたというか。……憑依のし損ねのせい、ってところもあるのかな?」

「さぁね。……ともあれ、ここからなんでしょ?」

「多分。……まぁ、悪いことにはならないと思いたいところだけど」

「そこ二人、なにコソコソやってんのよ」

「おっとパイセン。いやいや、ちょっとお手伝いをね?」*11

「胡散臭っ」

「ひでぇ」

 

 

 なお、クリスと二人であれこれ話していたら、パイセンからは胡散臭いと呆れられてしまった。なんでー?

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ?せんぱいがお戻りになりました?」

「え、早くない?確か十分も経ってないわよね?」

 

 

 それから暫くして。

 中であれこれと過ごした私達は、何故か家の玄関から外に戻って来ることに成功していた。

 ……やけに長いトンネルを潜らされたと思ったら、繋がっていたのは外への扉だったわけである。

 

 ともあれ、収穫はあった。

 あとは、それを成果として周囲に見せつけるだけだ。……が、その前に。

 

 

「マシュー、おばあちゃんはまだ寝てるー?」

「え、あ、はい。まだ縁側で寝ていらっしゃるかと」

「そっか。じゃあちょっと失礼して」

「……?台所になにかあるの?」

 

 

 マシュにこの家の持ち主である、おばあちゃんがまだ眠っているかの確認を取り、返事を聞き終わる前に再び家の中へ。

 迷宮状態は解消されたため、入り直した玄関はごくごく普通の姿を私に見せる。

 そのまま、目的地である台所に向かい、そこにあるはずのものを探す。

 

 果たして、それは数分も掛からずに見付けることができた。

 あくまで確認することが主目的だったので、特に()()に対してはなにもせず……あいや、手だけは合わせて。

 

 そのまま縁側から外に飛び出し、先程新しく加わったばかりの荷葉ちゃんが、他の皆と挨拶をしている輪の中に参加する。

 

 

「あ、あのせんぱい?これは一体……?」

「説明はあとあと。こっからは時間との勝負だから、さっさと砂の塔を作るよー」

「ええっ!?」

 

 

 同一人物、もしくは憑依前と憑依後の関係だと思っていたのが、何故か別々に──何故かれんげちゃんがしょんぼりとしている──姿に困惑するマシュだが、一々説明しているような時間はないので彼女を急かす。

 なにせ、砂の塔の建造から先、必要なのはマシュの頑張りなのだから。

 

 

「え、ええ?!どういうことなのですか?!」

「はっはっはっ。……とにかく、イクゾー!」<!

「いや、どういうことなのよ……」

「いいから!早くしないと皆呑み込まれるわよ!」

「はっ?……って、なにあれ!?」

 

 

 疑問を溢すシャナに、クリスがいいから早く、と声を掛ける。

 呑み込まれる、という単語に、彼女が意味がわからないと周囲を見回して。

 

 ──夕暮れの空が、ひび割れていくのをその視界に収めるのだった。

 

 

*1
『荷葉』は、ハスの葉のこと

*2
血の繋がりがないのにも関わらず、双子のような仲の良さや相性の良さを見せる間柄の人のこと。『ツインソウル』や『ツインレイ』などと呼ばれるモノとも。なお、正確にはそちらは『双子の魂』と和訳されるようだ

*3
人に対して害を与えるような感情、もしくは悪意のこと。これが抜かれた、ということで、気負っていた気持ちをはぐらかされたこと、もしくは呆然とさせられたことを示す

*4
和製のエプロン、とでも言うべきモノ。基本的には白い。エプロンそのものと違い、基本的には肩から袖口まで覆っている為、腕の汚れも防いでくれる

*5
米麹を多く使った甘みのある白味噌を、みりんや酒でのばした漬け床に、軽く塩をした魚の切り身を漬けたものである『西京漬』を焼いたものが『西京焼き』である。雑に言ってしまえば、魚の味噌漬けを焼いたものとなる。……無論、こんな覚え方をしていたら怒られること請け合いだが

*6
『彼女は私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!』とはどこぞの赤い彗星の言。幼い少女に母性を求めるのは何故なのだろうか、疑問は尽きない……

*7
『◯◯(ちから)』という読み方は、『伝説巨神イデオン』が元ネタ。そちらは『無限(ちから)』。富野由悠季(とみのよしゆき)氏の独特な言語センスがよく現れているネーミング

*8
少女漫画『ガラスの仮面』より、月影千草の名台詞の一つ。伝説の大女優である彼女が、主人公である平凡な少女・北島マヤが秘めた演劇の才能に気付き、それに驚嘆した時に述べた台詞

*9
美内すずえ氏による少女漫画。実はスポ根的な演劇漫画である。白目を剥いて驚愕するなどの表現は、この作品が祖になったものとされていたりする。名言も多いため、どこかで知らずに触れていることもあるだろう。なお、連載開始は1976年だが、間に休載を挟みつつも2022年1月現在未だ未完である

*10
男性の料理はワイルドである、という一種のステレオタイプ。よく考えれば分かる話だが、フランス料理のシェフなども普通に男性が勤めていたりするため、完全に単なるイメージだけの話である

*11
『アーマード・コアⅤ』に登場するとある人物が発した台詞。仲間外れはよくないなぁ?

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