なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・終わる世界をただ君と

「え、なにあれっ!?どうなってるの!?」

()()()()()()()()から、この場での結論が確定しかかってんのよ!あれに捕まったら私達、存在を無かったことにされるわよ!」

「はぁーっ!?」

 

 

 徐々に空を伝わってくる亀裂。

 それは、この閉じられた世界が壊れようとしている兆しである。

 それに巻き込まれたが最後、繰り返された『ある』と『ない』の狭間に取り残され、私達は()()()()()()()()()へと追放されることになるだろう。

 

 そうなってしまえば最後、二度とこの世に戻ることは叶わない。

 ()()()()()()()()()()にされて、あとには塵一つすら残らないのである。

 ……よく知ってるなって?猫神様が『針を進めるのであれば、色々気を付けるのだポッター』とばかりに教えてくれたからね!*1

 

 ともあれ、現状がヤバめ、というのは間違いないわけで。

 

 

「いやいや恐ろしすぎるでしょそれ!?……っていうか、その説明とこの砂の塔に、一体なんの関係があるのよ?!」

()()()()でしょ!!()()()()()()また来るって!!」

「え……あ、ああーっ!!?そうです、私にその記憶はありませんが、確かに過去の私が、荷葉さんと再会の約束をしています!」

「は、はぁっ!?じゃあなに、もしかして()()以降に()()()()()()()から、今まで時間を繰り返してたってこと!?」

「厳密には違うけど、概ね正解!」

 

 

 エーテライトを介しての記憶の共有により、自身が過去?に行っていた荷葉ちゃんとの約束を思い出したマシュと、そんなバカなと大声をあげるシャナ。

 

 今回の一連の異変は、色んなモノが複雑に絡んだ結果、悪性腫瘍のような変貌を遂げたようなモノ。……すなわち、ある意味では()()が引き起こした不幸な事故、と呼べる事態だったのである。

 そしてその原因の一つになっていたのが、先述したマシュが荷葉ちゃん(仮)と交わした口約束。──『機会があればまた遊びに来る』という言葉だったのだ。

 

 なので、事件解決のための鍵の一つには、その約束を()()する……という選択肢が示されているわけである。

 

 

「……破棄するしか、ないのか?」

「するしかないの!まぁ、オグリはもうその理由についてはわかってると思うけど!」

「そう、か。……いや、そうだな。私達に、選ぶ権利なんてない、か」

「いやちょっと、勝手に納得しないでよそっちだけで!」

 

 

 その選択肢を思い、オグリが沈痛な面持ちで声をあげる。

 口にこそ出さなかったが、家から出てきた他のみんなも、大抵が暗い顔をしていた。

 だがそれは、あくまでも家の中で起きた出来事が理由のもの。

 家の中で起きたことなど、現状ではまだ知り得ないシャナは、勝手に納得するなとこちらに怒鳴り声を向けてくるのだが……。

 

 

「話はあとあと!!取り敢えず塔を作ったら、みんなで突入するよ!」

「あとって……って、突入する!!?えっ、入れるのあれ?!」

「入れるのっ、言ってしまえばダンジョンだから!」*2

「ダンジョン!?あれも!?」

 

 

 さっきから何度も言っている通り、悠長に話しているような余裕はない。

 猫神様の話が間違っていなければ、塔の中もまた時間が停滞しているはずなので、詳しい説明は中に入ってからの方がいいはずだ。

 

 その旨を伝えたところ、わけがわからないなりに砂を運び、固めて高く伸ばしていってくれる二人。

 その周りでせっせと塔が崩れないよう、てきぱきと補強していく私達。

 ……ここまで必死になって砂の塔を作る機会なんて、一生に一度あるかないかだろう。

 変な巡り合わせに思わず苦笑を浮かべながら、砂を掬ってはマシュに渡し、シャナが伸ばした壁面を固めに固め。

 

 

「……本当に、これでいいん?かーちゃんは、それでいいん?」

「別にいいよ。そもそも、そういうもんでしょ?ホントなら」

 

 

 背後の少女二人が交わす言葉に耳を傾けながら、ひたすらに砂を盛って……。

 

 

「よっしゃできた!乗り込むでみんな!」

「おうっ!!」

「おうって一体どうや……ってぬぉわぁー!!?」

 

 

 そうして出来上がった塔は、今までの記憶の中のそれと同じように、天高く伸びている。

 ──それは、届かぬ場所に届けと伸びた遥かな禁忌の塔を、密かに模したもの。

 時々勝手に組上がっていたのは、それが彼女達の迷いを示していたがゆえ。

 約束という呪いによって、それ以上を諦めきれなくなった……いわば祈りの形なのである。

 

 ……などとまぁ、ちょっとばかり意味深な言葉を脳裏に浮かべつつ。

 出来上がった塔が、音もなくその()を開き。

 私達をその内部に吸い込んでいくのを、どこか他人事のように眺めている私なのだった。

 

 

 

 

 

 

「え、なにこれ。なんで砂の中がこんなことになってるのよ!?」

 

 

 中に吸い込まれた私達が乱雑に放り出されたのは、図書館のような見た目の一室だった。……ような、と言うのは、本以外にも色んなモノが床に散乱したり、棚に収められたりしているから、なのだが。

 

 試しに床に転がっているモノのうち、近くにあった写真を一つ、手に取って眺めてみる。

 そこに写っているのは、長い黒髪の少女。

 ()()()()()()()()写真に写っていた人物と、恐らくは同一人物だと思われる少女だった。

 え、なんで同じ人だってわかったかって?そりゃ勿論……。

 

 

「あ、懐かしー。これ、私の七五三の写真だね」*3

「え?……あ、あれ?荷葉さん?」

「ん、どうしたのマシュさん?……ってああ、見た目が元に戻ってたりするのかな?自分じゃよくわかんないけど」

 

 

 今まさに、私達の前に()()()()()()()()()()()()()()()()()がいるから、に他ならない。

 

 先程までは黒いれんげちゃん、という感じの見た目だった彼女だが、現在は普通の──単なる黒髪の少女に、姿を変じさせていた。

 写真の中の日本人形みたいな少女と、同じ笑みを浮かべた彼女は。

 マシュとシャナの驚愕の視線を受け流しつつ、図書館のような見た目のこの部屋の中を、くるりと見渡している。

 

 

「んー、ここも懐かしい……かな?元気だった頃には、よく本を借りに来てたっけ」

「っていうと、市立の?」

「多分ねー。……いやー、もう二年くらい前になるのかな?」

「……話が、見えないのだけれど?」

「そうだね。時間に余裕も出来たし。てれれてってれー、エーテライトお味噌味ぃ~」

「ああなるほどエーテライト……って、お味噌味!?」*4

 

 

 心底懐かしそうな声をあげる荷葉ちゃんの様子に、困惑が限界に達したとばかりの空気を見せるシャナ。

 口にこそ出していないが、マシュにも似たような空気を感じたため、ここぞとばかりに説明タイムに入る私である。……まぁ、口で説明するのはちょっと冗長になるので、相も変わらずエーテライトによる直接の記憶受け渡し、なのだが。

 

 お決まりのネタなのに驚いたシャナに、ちょっとだけ苦笑しつつ。

 ぷすっと刺して手渡して、さっくり情報共有。その結果……。

 

 

「……ああ、なるほど。無くはないわね、確かに」

「そうそう。起きたことと、どうしてそれが起きたのかってところを考えれば、極々自然な結果になって……()()()()()()()と思ってしまったからこうなった、ってところよね」

「……そんな。どうにか、ならないのですか?」

「ならないね。だからまぁ、こうするしかないんだよ」

「…………」

 

 

 その事実を知り、マシュやシャナもまた、いたたまれないような空気を醸し出し始めたのだった。

 ……私が伝えたせいとは言え、なんとも気不味い空気である。

 

 

「ああもう、そんなに湿っぽくならなくていいよ。向こうで貰えるだけ貰ったし、結局のところ、私の我が儘にみんなを付き合わせただけなんだから」

「ち、違うん!我が儘を言ったのはうちなん!……うちが、悪いん」

「……ああもう。どっちも悪くなんてないわよ、責任の奪い合いをするんじゃないっての!」

「わぷっ!ちょっ、虞美人さんっ?!」

「わわわっ!乱暴!乱暴なん!」

「喧しい、素直に撫でられてなさい」

 

 

 そんな空気を打ち破ったのは、そういうのに敏感なパイセンだった。

 二人の頭を乱雑に撫で回し、うだうだと責任の奪い合いなどするな、と声をあげる彼女の様子に、最初のうちは気不味そうだった二人も、やがて小さく笑みを浮かべるまでに戻っていたのだった。

 ……年長者の面目躍如、ということだろうか?

 

 

「撫でられたいんなら言いなさい、頭がもげるほどに撫でてやるわ」

「それ撫でるって言いませんからねパイセン?」

「別にこっちはナデボしてもいいのよ?」

「ナデボってなに……?」*5

 

 

 まぁ、代わりに空気が弛緩しまくったわけなのですが。

 変にシリアスな空気になるよりかは気が楽だが、はたして最終決戦前にこんなゆるゆるな空気でいいのか、とちょっと疑問を覚えないでもない。

 

 そんな風に和気藹々と声を交わしていると。

 

 

『お間抜けな人々に、あんまりな結論。バッドエンド症候群に罹患した人類の皆様に、最高にハッピーな結末をお届けしようとお邪魔をしてみれば。……なんともまぁ、勝手に落ち込んで勝手に立ち直る、人類特有の自傷癖からの立ち直りを目の当たりにした、ちょっと引き気味のBBちゃんなのでした☆』<BBチャ!

「うおっ!?簡略化バージョンBBチャンネル!?」

『今話題の0.2秒バージョンです☆いい悪夢(ユメ)は見れましたか?せ・ん・ぱ・い?』*6

「はっ、BBさん?!こちらにいらしたのですか?!」

 

 

 天井裏からひょっこりと、こちらを呆れたように見つめている、何時も通りなBBちゃんに出会うのだった。

 

 

 

 

*1
『ハリー・ポッター』シリーズの名前を呼んではいけないあの人(ヴォルデモート)の台詞、『お辞儀をするのだポッター』より。原文は『We bow to each other. Harry,』。『ポッター』と呼んではいないようだが、現状はこの形で広まっている。この台詞が登場した『炎のゴブレット』では、彼は復活を果たして絶好調の状態であり、擬似的な不死であることも手伝い、ハリーに対して(かなり見下した状態で)形式的な決闘を申し込む……もとい強制している。状況的には万に一つも負けるはずのない場面であり、彼がポッターを馬鹿にしていることを端的に示すために、『お辞儀』という訳を取った、などと言われている。なお、『お辞儀』に相当する単語である『bow』は、他に『礼』などと訳すこともできる。決闘の礼儀としての互いの礼、を意識したものであるので、『お辞儀』という訳文に違和感を抱いた人も多かったようだ

*2
元々は『地下牢(dungeon)』を意味する言葉。そこから転じて、地下に伸びる迷宮を示す言葉となった。なので、原義的には天井のない迷宮はダンジョンではない、ということになる。……まぁ、最近では迷宮は全てダンジョンと呼ぶようだが。……そもそもの語源を紐解くのであれば、ラテン語の『君主(dominus)』に由来する古フランス語で、それは元々天守のことを意味しており、城の中で一番頑丈なそこが牢屋として使われていたことから牢の意味を持つようになり、時代が下って天守から地下に牢屋が移った結果、言葉が指す場所も移り変わっていった……みたいなところもあるので、あまり細かく言うのも野暮というやつなのだろう

*3
その名前の通り、7歳・5歳・3歳の子供の成長を祝う行事。元々は三つの別々の行事(3歳の『髪置』──男の子であれば髷を結うために、女の子であればきちんと伸ばす為に髪を整える儀式──と5歳の『袴着』──男の子が初めて袴を着ることで、幼児期から少年期に移ったことを示す儀式──、それから7歳の『帯解』──ひもを縫い付けた簡易な着物を着るのを止め、大人と同じように帯を結んで着物を着ることを祝う儀式。元々は男女ともに9歳時に行うものだったが、江戸時代に男子は5歳、女子は7歳に行うように変化した)だったものを纏めたもので、地域によってはどれか一つがことさらに大きな祝い事になっている、ということもある。『七歳までは神の子』という言葉があったように、子供の成長というのは昔だと今以上に大事だったので、こうして祝い事をする風習が根付いたのだと思われる。なお、7歳は大体小学一年生くらい

*4
『ドラえもん』ネタの一つ。元々の発言は『ほんやくコンニャクお味噌味』。基本的にバリエーションのないものが多いひみつどうぐの中で、数少ない実例がほんやくコンニャクである。そのせいなのかなんなのか、やけに耳に残るらしくなんでもかんでもお味噌味、と付けるネタが生まれたとかなんとか。なお、現在では更にバリエーションが増え、アイス味や醤油味なども登場している。他にも豊富な種類があるらしいのだが、味付きは高いから滅多に買えないのだそうな

*5
ナデポ(なでぽ)』(『撫でられてポッと頬を染める』の意味。要するにチョロインのこと、もしくは相手をそういう風にしてしまうキャラへの揶揄の台詞)ではなく『ナデボ(なでぼ)』。『撫でた時の摩擦で頭にボッと火が着く』の意味。発案者はどこぞのオリーシュである。ルルーシュでもないしオリ主でもない

*6
『呪術廻戦』及び『GetBackers-奪還屋-』より。前者は『領域展開』をごく短期間行うもの。他者に対してできうる限り影響を与えないように配慮したもの、とも言える。後者は主人公格の一人、美堂蛮が邪眼によって一分間の夢を見せたあと、キメ台詞として言う言葉『ジャスト1分だ、いい悪夢(ユメ)見れたかよ?』から


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