なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「そ、そんなまさか、ゆかりさんが……ゆかりさんが……まな板に!?」
「そんなわけないじゃないですかー!!」
「あ、ゆかりさん。お帰りー」
「お帰りーじゃないですよ!なんなんですか訴えますよ!?」
「まぁまぁ落ち着いて。板仲間として仲良くしましょう?」
「煽ってるんですかそれ!?……あ、いや。本気ですね、本気で言ってますねそれ?」
「ははは、板が云々言った後に、自分にも突き刺さることに気が付きましたので。罵倒は甘んじて受けます、はい」
「そ、そんな風に体を張る必要はあるのでしょうか……?」
まさか大奥の如く、ゆかりさんが床材に変化させられてしまったのでは?!*1
……みたいな戯れ言を述べていたところ、ちょうど私達の横のあたりに空間の裂け目が現れ、そこから大層憤慨したゆかりさんが現れたわけなのだが。
どうやらこの床板が関わっていた、ということは間違いなかったが、それは彼女が床板にされたということを意味するわけではなく。
床板について意識を向けると、彼女の出現フラグが立つ……みたいな感じだったらしい。
彼女が顔を出してきたところも、私達の横……すなわち紫の板に隣接した場所からだったし。
まぁ、本気でゆかりさんが板になっただなんて、最初っからこれっぽっちも思っていなかったんですけどね?
だってそこから元に戻すためのあれこれを、悠長に探している暇があるとも思えなかったし。
なのでノーメリハリボディ仲間としては、できれば穏便にことを済ませたいわけなのです、はい。
『……はっ!?その時BBちゃんに電流走る!せんぱいの後輩二人、どちらもナイスバディだということに!』
「ちょっ、BBさん!?話がややこしくなるのでそういうのはちょっと……!」
「ふははは
「よくってよキーアさん!」
なお、空気が緩んだタイミングを見計らって、BBちゃんが唐突に爆弾発言を放り込んできたため、あわや血で血を洗う大決戦の幕開けとなりかけたが……。
パイセンの「喧しい」の
「なにも殴らなくてもいいじゃないですか……」
「悪ノリの極みみたいなもんなんだから、これくらいでちょうどいいのよ。それより、アンタはなんだって今、このタイミングで出てきたわけ?」
狭い板の上で、隣同士正座で反省をする私とゆかりさん。
現在、主にパイセンの尋問を受けているのは、ゆかりさんのほうだが。……話が終わったらこっちの方にも矛先が向きそうだな、などと思いつつ逃走経路の確認をする私である。*3
いっそ「視覚範囲外の探索に行ってくる」とか言っておけば、いきなり飛び出しても許されるんじゃないかな……?*4
そんな内心はおくびにも出さず、二人の話を素直に聞いてみると。……なんというか、思いの外真面目な話をしていることに気付いたのだった。
こっちに来てから暫く、パイセンの株価がストップ高にも程があるのではないだろうか?*5
ともあれ、その話の内容は確かに気になる部分だった。
出てきたタイミングについては、確かに床板の違いに気付いたから、だと状況証拠から言えなくもないだろうが。
単に違いに気付いたというだけならば、さっきからちょくちょく板の色が違う……ということ自体には気付いていたため、今このタイミングで出てきた理由としては薄いように思えてくる。
……つまり、まな板ネタで無理やり引っ張り出されただけなのでは?という予想が立てられなくもないというわけで。
「
「滅茶苦茶図星の顔しとる!?」
「よっぽど気に障ったんだな……ある意味キーアのお手柄なんじゃないか?」
「なんも嬉しくないんですがそれは」
それは要するに、実際はもうちょっと複雑な仕掛けがあったにも関わらず、煽られたと思ったから短絡的な憤慨で飛び出してきた、ということになり。
そうなってくると、
……彼女が本当に悪の組織の一員だったとすれば、首どころか命まで危ないような失態、だったのかもしれない。
なに一つとして笑えない状況なのが、物悲しさを誘うところだが。
──いえ、それで怒るのは仕方ないので、こちらも殊更に罰したりはしません──
「なるほど。つまり向こうも
とまぁ、だいぶ気の抜けた会話をしていたところ、突如脳内に響いてくるのは、どこか機械めいた少女の声。
話す内容はちょっとアレだが、今回の黒幕──結末にたどり着くことを善しとしなかった方の神のおでましに、自然と皆の緊張感が高まっていく。
そんな中、私達の前に姿を見せたのは……。
──終わりを嘆くのであれば、たどり付かなければ良い。永遠に、永久に、優しい夢の中で微睡み続ければいい。何故、ただそれだけのことを許容できないのですか、貴方達は──
「……初音、ミク?」
──電子の歌姫。
そう呼ばれた少女の似姿が、その半透明な姿をこちらに見せていたのだった。
初音ミク。
それは、『VOCALOID』と呼ばれるボーカル音源ソフトの二番目として、電子の歌声をクリエイター達に選択肢として示した、偉大なる存在の一つである。*6
元祖というわけではないが『VOCALOID』と言えば初音ミク、と言われるほどの知名度を持つ彼女は、それゆえに人々の様々な祈りや想いを受け止めてきた。*7
ゆえに、神の似姿として選ばれるだけの格、というものを端から持ち合わせているのである。
「……まぁ、最初にナイムネ同盟に同調してた時点で、威厳もへったくれもないんだけど」
「ちょっ、パイセン?!」
──……──
まぁ、どことなく神聖な空気を醸し出していた彼女も、パイセンの言葉にはこめかみのあたりをひくひくさせていたのだが。
……ミクさんと言えばちっぱい、というのはお約束だから仕方ないね!
なお、そんな様子はすぐに消え、神らしい神々しさを再び発し始めたのだけれど。
「せやけど……なんで初音ミクなんや?」
「さぁね。
「……うん、歌の得意な女神様。猫の神様と一緒に書いてたから、よく覚えてるよ」
ただ、何故初音ミクの姿なのか?という疑問は残る。
BBちゃんとゆかりさんがこちらに呼ばれていた理由は、
だが、あくまでもそれは二人がここにいる理由。
彼女の根幹となる神が、初音ミクの姿を取った理由にはならない。
ゆえに、それは荷葉ちゃんの
──ええ。私も被造神であることに変わりはありません。彼……猫神と同じく、私も元はこの地の弱き神の一柱。それが、その少女の
そう、それは彼女が描いた夢──いつか帰りたいと願った場所の形。
その夢にこの地のマイナーな神格が結び付き、その願いを叶えたもの。それこそが、彼らの正体なのである。
優しく歌を歌ってくれる
当時幼稚園児だった彼女が、図書館で見た絵本を元に作り上げた、優しい
そんな少女の無垢な祈りが、この土地に起きたとある異変によって呼び起こされ、このあたり一帯をループの中に巻き込んだ、というわけなのだ。
思えば、あの山登り……もとい喫茶店も大概おかしかった。
メニューが読めないとか、名前が変化しているとか。そんな風に明らかにおかしい場所に、私以外の誰もが気付いていない。
要するに、あの時点で私達はこの異変に巻き込まれる前提条件を、知らず知らずの内に満たしていたのである。──そう、街の中に踏み込むという、前提条件を。
満たしていたがゆえに、異変に気付けなかったのである。
そういうものに対して耐性……というと語弊があるが、とにかくそれらをある程度緩和できる性質を持っている私だけが、細かな違和感に気付くことができた、というわけだ。
「そして、ループの成立条件は
「
閉ざされた猫箱、とはよく言ったもの。
中に居たのは猫ではなく、猫が守るもの。そして、その猫箱を壊すのもまた、猫であったと言うわけだ。
とはいえ、お互いに神と言えども、その力はマイナー神相応のもの。
本来であれば、ここまで大きなことは起こせなかったはず。
それがここまでの大事になったのは──。
「兆しに選ばれた少女が、その力を受け取ることが叶わなかったから。本来結実するはずの『逆憑依』は、周辺に漂う力としてその場に残った。──そう、ちょうどちょっと前に私達が遭遇していた
荷葉ちゃんが【逆憑依】にならなかったから。
だから兆しに惹かれて集まってきた気質が、この場に留まった。そうして、その周囲にあった祈りを叶えていった。
──そう。始まりは一つの夢物語。一人の少女が願ったそれを、ある種の童話として叶えたもの。その子を護ることが出来なかったから、せめてその願いだけは叶えようとしたもの。それこそが──
「……それが、うちなん。──『
そう、『
かつてとある