なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・その愛は声のように

「対象、ビーストⅡi!戦闘を開始します!」*1

「まさか過ぎるわね、こんなところで人類悪との戦いになるとか!」

 

 

 黒い翼を翻し、私達の前に降り立ったミクさん……もといビーストⅡi。

 この閉じられた世界の中でだけ成立するものだとはいえ、その威圧感はビーストを僭称するだけのことはあると言える。

 ──要するに、全うに戦っても勝ち目はない相手、ということだ!

 

 

「っていうか、向こうもナーサリーの性質を持っているって言うのなら、彼女(初音ミク)の歌を実現化する……みたいなわけのわかんないことをしてくる可能性もあるんじゃないの!?」

「それだけど、多分もうやられてる!」

「はぁ?」

「この階段!シチュエーションも含めて、どこかで見たことがあるとずっと思ってたんだ!──これ、ローリンガールだよ!Project DIVAの!」

「あ、なるほど演出か!」

 

 

 とりあえず体勢を整えるために、距離を取ろうと階段を駆け始めた私達だが、なんとなく無駄だろうなとも思っていた。

 何故かって?図書館……もとい()()()から伸びる、宙に浮いた階段を登っていく(駆け上がる)……というシチュエーションが、彼女(初音ミク)の歌のために用意された、とある映像と一致していたからだ。*2

 

 その歌こそが『ローリンガール』。届かない夢を見て、何度も転がり続ける少女の歌。

 ある意味、届かないモノに手を伸ばし続けている彼女達には、ぴったり過ぎて怖いくらいの歌だ。*3

 

 

「って、ちょっと待ちなさい、それだと」

「これから落ちます!」

「マジかー!!?」

 

 

 なので、その映像と同じシチュエーションである今のこの状況は、上を目指して走り続けることしか出来ないくせに、必ず底にまっ逆さまに落ちるもの、と言えるわけで。

 そこに言及した途端、階段は先ほどまでの様子が嘘のように、宙から剥がれるように崩壊していく。

 

 一応向こう側判定になっているBBちゃんとゆかりさんの二人は、なにかよくわからない力で宙に浮いているけれど、こっちはそういうのは無いので、重力に引かれて落っこちるしかない。なので、

 

 

「即席!ラスボスシューティング仕様!」

「うちとかようとキーアお姉ちゃんで、今日はトリプルライダーなん!」*4

「なんでライダー?っていうかお姉ちゃん飛べたんだね?」

 

 

 近くに居た幼女二人を引き寄せて、そのまま変身(トランス)*5

 背中から妖精の羽を生やして飛ぶことにより、自由落下から逃れることに成功する。字面的には虚+双、みたいな?*6

 

 そんな感じに私が対処したように、シャナはマシュを抱えて翼で飛び、タマモがユニバースパワーで空を駆け、オグリは『限界を超える……!』などと言い出したかと思ったら、『王の友』と『勝利の鼓動(スーパーサイヤ人)』の同時発動という、どこのスーパーサイヤ人ブルー界王拳だよと言いたくなるような強化形態を発動することにより、空を駆け始めることで対応していた。

 ……『王の馬』の恐怖再び?多分負担というか反動というかが凄いだろうから、あながちそうでもないと思います。

 あとまたしてもクリスがお姫様抱っこされてるんだけど、なんだろう『王の友(サー・ランスロット)』だから、女性に対して紳士的になる……みたいな隠された効果があるんだろうか?

 

 なお、パイセンは即座に爆発&再構成により子供形態に変化、その状態でビワの背に乗ることで対処している。

 ……ビワ?なんか飛んでますね、しっぽくるくるしながら。*7

 

 

「ビワはなんでとぶのんー?」

「たぬきですけどー」*8

「気が抜けるなぁ……」

「仕方ない。これが私達、というわけだ。……今回は勝利条件も見えているしな」

「あん?ビースト相手って、基本勝てるもんとちゃうんやないんか?」

 

 

 みんな飛べるのは良いと思うのだけれど、代わりに緊張感がどこかへ行ってしまったような?

 まぁ、徹頭徹尾シリアスできるような人種でもなし、そのあたりはよしとして進むけども。

 

 とにかく、崩れる足場から全員が脱出し、ここからが本格的な対ビースト戦闘となる。

 擬態に近いとはいえクラス・ビーストが相手、本来であればこちらに対抗手段などないはずなのだが……。

 彼女の現在の在り方、それがすなわち彼女の弱点となっているので、現状でも光明はある。

 

 

「あの子は、ナーサリー(うち)の中の力の方なん。だからうちが触れれば、それで終わるん」

「なるほど、CCCでのキアラさんと同じ、ということですね?」*9

「あっちは正確にはビーストじゃないけど……自己愛の中に紛れ込んだ他者愛によって、彼女の自己愛の完全性が崩れたように。こっちは狭まった他者愛を拡大できる自己があるから、それによって絶対性を打ち崩せる、と」

「まぁ、向こうもそんなことわかってるから、こうして足場を崩したりしてきたわけなんだけどね」

 

 

 そう、結局のところこの攻防は、一人の人間の脳内で理性と衝動がぶつかり合っているようなもの。

 外からの刺激でどちらかが優勢になることはあっても、最終的には本人が決断を下すものである。

 

 ゆえに、彼女のそれ()は他ならぬ自分自身である、れんげちゃんには通用しない。

 

 自己愛(キアラ)ではなく、たった一人に向けた他者愛の化身である彼女の天敵が、彼女(キアラ)の対となる(カーマ/マーラ)、その異名と同じ名を持つ、とある自己愛の化身(波旬)への特攻となりうる人物(坂上覇吐)に近い立ち位置に居る……ということにちょっと複雑な因果を感じざるを得ないが、まぁそれも抑止力なんでしょう、多分。*10

 

 

「雑!」

「だって、そういう検証は、全部終わったあとですればいいし。今必要なのは、れんげちゃんを相手に触れさせられれば勝ち、ってことだけなんだから」

「……それもそうね」

「そういうこと。んじゃま、戦闘開始!」

 

 

 あれこれと考えるのは後だ、と皆に告げ、全員が行動を開始。

 積極的に敵対するつもりはない、と言っていたBBちゃん達も、流石にこの状況では場の強制力に従うしかないのか、こちらに向けて散発的に攻撃を仕掛けてくる。

 ……BBちゃんも大概この状況では向こうの敗北フラグである、ということにビースト側が気付いていないということも無さそうなのだが、それを押してでも手数が欲しい、相手が攻撃を躊躇するような状態にしたい、みたいなことなのかもしれない。

 だが……。

 

 

「甘かったですねビーストⅡi!私とBBさんは、互いに殴っ血kill間柄ですので!ぼこぼこにすることになんの良心も咎めません!」

『あれ?ちょっとマシュさーん?おかしくないですか?貴方そんな風に血気盛んな子ではなかったはずですよー?もしもーし?』

「……正気に戻ってくださいBBさん!」

『正気に戻るべきなのはそっちだと思うんですけど!?……ってひぇっ!?本気で殴りに来てるんですけどこの人!?』

「避けないでください当たりません!」

『避けますよこんなの!?』

「……その、マシュ?ちょっと落ち着いた方が「シャナさんはそのままサポートをお願いします!」……是非もないわね……」

 

 

 うーん、敵対したBBちゃんには、真っ先にマシュが突っ込んで行き、その盾を振りかぶっていたため、躊躇うとかそんなことが起きそうな予感は一切しない。

 ……流石に手加減はしてると思いたいけれど、あの調子だとBBちゃんがこっちに邪魔をしに来ることはないだろう。

 なので反対側、チェーンソー片手に突っ込んできたゆかりさんに対処している、ビワ&パイセンの方に視線を移す。

 

 

「……許せねぇよなぁ……許せねぇよなぁ……お前あんなにナイスバディだったのに、そんなロリにもなれるだなんて……ふざけるなよなぁ!!なぁぁぁ!!許せねぇなぁぁ!!」

「えっ」

「ゆるされよ ゆるされよ 無自覚グラマーゆるさ「お前もなんだよなぁぁ!!?」ぴっ!?」

「知ってんだよなぁぁ、ビワハヤヒデ自体も結構おっきいってのはなぁぁ……?そんでケルヌンノスとしても、殻になってるのはおっきな女の子……羨ましいなぁぁ……妬ましいよなぁぁ……どぉして世界は平等じゃねぇんだろぉなぁぁぁぁ!!?」

「なにあれこわっ!?」

 

 

 ……何故か妓夫太郎みたいになってるゆかりさんが居たけれど、私はなにも見ませんでした。*11

 持たざるモノの悲哀を知る仲間として、ここは見なかった振りをするのが正解なのです、多分。

 どっちかというとこっち(ナイムネ)側のクリスもまた、ゆかりさんの醜態にはなにも口を出すことはなかった。……悲しい友情、というやつである。

 

 ところで、どいつもこいつも私情で戦いすぎじゃないですかね、仮にもラストバトルなのに……。

 

 

「気持ちの入ったよい攻撃だ。あれならそうそう負けることはないだろう」

「いや、頷いとる場合かいなオグリ。これ下手すると向こうの精神干渉かもしれんのやで?」

「なにっ、それは本当かタマ!」

「お、おう。……えっとやな、向こうって初音ミクなわけやろ?せやから、色んなネタ曲も網羅してるわけでな?」

「ふむふむ?」

 

 

 そんな中、私達に付いてきているタマモとオグリが、後ろでなにやら会話をしていた。

 内容は、周囲のちょっとおかしな状況が、ビーストⅡiの精神干渉によるものなのではないか、ということについて。

 

 確かに、歌を武器とする彼女であるのならば、そういったことも可能かもしれない。……が、彼女が言いたいのはそういうことではないらしく。

 

 

「……探せば貧乳の悲哀を歌うような曲もあるし、恋敵にあれこれしようみたいな歌もある。要するに、負のバサラみたいなもんなんとちゃうやろか、あれ」*12

「バサラ?……よくわからないが、みんな大変なんだな……」

 

 

 数多ある曲のレパートリーより、その場にあったモノを選ぶことで周囲に影響を与える。

 さながらネガ・シンガー……状況を歌うのではなく()()()()()()()、みたいなものだろうか。

 

 まぁ、あくまでもこの世界の中でしか使えない、あまりにも限定されたネガスキルではあるのだが、実際にこうして相対する身ともなれば、そんな呑気なことも言っていられない。

 れんげちゃんと……荷葉ちゃんには効かないだろうが、それ以外のメンバーには普通に効くはず。

 

 私はまぁ、どうにかなるとしても。

 下手すると後ろの二人も、周囲のように訳のわからない状態に放り込まれる可能性は多大にあるわけで。

 

 

「こりゃ、短期決戦がベストってやつかな……?」

 

 

 思っていた以上に厄介そうな状況に、思わずそう漏らしてしまう私なのであった。

 

 

*1
imaginary(イマジナリー)』とは、実在しないこと、架空であることを示す英単語。虚数の単位として使われる『i』は、ラテン語でほぼ同じ意味を持っている言葉『imaginarius』の頭文字から取られている

*2
ここでの映像は『初音ミク -Project DIVA- extend』での演出のこと。ピアノを弾くミクの姿から始まり、普段の彼女のイメージとは違った『反抗期になったミクさん』みたいな姿を見せてくれる。その中で、図書室に飛び込んだあと階段を登り出す、というシーンがある。坂を転がる歌で道を駆け上がる姿を見せるあたり、中々解釈のしがいのある映像だと言える

*3
現実逃避PことWowaka氏の楽曲。転がる話と作曲者が述べる通り、歌詞は基本的に転がり続ける少女のことを綴り続けている。転がり続ける、ということでループものにもどことなくマッチするため、負の未来を変えるために、何度も何度も繰り返す(転がり続ける)ようなキャラクター達に対して、彼らを使った動画が作成されたりしていた

*4
漫画『仮面ライダーSPIRITS』の第1話「摩天楼の疾風」で、本郷猛が滝和也に言った台詞『今夜はお前と俺でダブルライダーだからな』より。特別な力を持たない男が、その正義の心によって、お前もまたライダーだと認められた熱いシーン

*5
『BLACK CAT』のキャラクターの一人、イヴの使う力のこと。ナノマシンで構築された彼女は、それを使った変身・変形技能を持つ。翼を生やしたり人魚になったり、応用力は幅広い。なお、スターシステムである金色の闇(『Toloveる』)の方が知名度が高いため、そっちのイメージの方が強い人も多いかもしれない

*6
『星のカービィ64』ラストステージでの特殊コピーの呼び方の一つ。同作では下のライフバー部分をある程度カスタムできるのだが、その中に漢字を使うものがあり、それに変更すると能力名などが漢字で表示されるようになる。その状態でラスボス戦に突入する時に表示されるのが『妖+晶』(妖精+結晶、だと思われる)。こちらは『虚無+双子』、といったところだろうか?

*7
虞美人に関しては彼女のマテリアルより。爆発して再構築する時に、わりといい加減なので体型が変わることがあるそうな。ビワの方はションボリリドルフのモーションの一つから。『スーパーマリオブラザーズ3』のしっぽマリオの飛行モーションを元にしたもので、しっぽをくるくるさせながら両手を左右に伸ばして飛ぶ

*8
『あずまんが大王』より、大阪さん(春日歩)が見た夢の中で、彼女が美浜ちよと交わしたやりとりから。ちよちゃんは十歳ながら飛び級で高校に通うほどの天才少女だが、その飛び級、という部分に対して夢の中特有の不思議解釈が混ざり、彼女が空を飛ぶという事態に繋がり、それに対して大阪さんが『ちよちゃんはなんでとぶのんー』(どうしてちよちゃんは飛び級してきたの?)という形になったんじゃ……ないかなぁ?なお、夢の中なのでまともな答えは帰ってこなかった(『十歳ですけどー』と述べながら、ちよちゃんはツインテールをぱたぱたさせながら飛んでいった)

*9
『fate/Extra CCC』でのキアラさんの敗因。全ての人類に対しての特攻性能を得た彼女だが、その力を発揮するための根幹であるとあるアイテムには、主人公を思う一人の少女がいた為、愛は恋の前に無力となった。なお、その時の彼女はビーストではない

*10
fgoのカーマが持つもう一つの面、獣としての名である『マーラ』は、第六天魔王波旬と統一視される。また、『神咒神威神楽』における『第六天魔王(マーラ)』である波旬は、自身が唯一認められる他人、ある意味で自分自身でもある坂上覇吐に対してだけは、自身の絶対性を打ち崩される関係にある

*11
『鬼滅の刃』の遊郭編におけるボス、上弦の陸のこと。初見殺しの死亡条件もさることながら、そもそもに下弦の鬼達とは文字通り格が違う。その為、主人公達は大いに苦戦する羽目になったのだった。……なお、そんな彼がとある人物が嫁を三人も迎えていることを聞いた時、ここでのゆかりさんのように滅茶苦茶ぶちギレていたりもした

*12
『マクロス7』シリーズより、熱気バサラのこと。歌で世界を救った男だが、基本的には単なる歌バカ。歌で奇跡を起こすことでよく知られている


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